県
目次
概要
県の歴史
県の制度が始まったのは春秋時代に遡る。当時の県は辺境の地に設けられていた。秦・晋・魏などの大国は新たに併合した地方に県を設けた。春秋後期になると県制度は内地にまで及ぶこととなり、代わって辺境へは郡が設けられるようになった。郡の面積は県よりも広く、人口は希薄で、地位は県よりも低かった。戦国時代になると郡が発展していくと同時にその下へ県を設けるようになった。こうして始皇帝による統一で郡県制が確立し、全国36郡の下に県を設けた。隋唐以後は県は府、州(郡)、あるいは郡、監、庁に隷属が変わっていった。
- 秦朝時、郡が県を管轄。
- 漢朝時、郡、国が県を管轄。
- 漢朝以後、それぞれの時期、それぞれの地方あるいは同一の管轄域で行政区画制度が異なり、郡・府・州あるいは軍・監・庁が管轄。
- 国民政府時、初めは道の所轄、その後道制を廃止して省(特別行政区)の直轄。その後行政督察区、直轄市あるいは特別行政区の管轄。
- 1949年以後、行政督察区の名称の変更に伴い、専区(行政督察専区)、地区あるいは地級行政区の管轄。
県の役割
一般に領域国家は、領土を地方に分割して経済的軍事的な効率を得る必要がある。しかし軍事面では、大きすぎる分割は叛乱などの温床ともなり得るので、中央政府の支配力を越えない範囲に限定しようとする。最も簡単な区分は国と県の二階層である。軍事的な要素を重視した場合は、五人または五世帯まで幾層にも細分化される。封建国家では、与えられた領地を分割することで行政区画が深化した。
歴史的には、古代の中央集権国家において、中央政府から派遣される地方官の事務所として、県を設置した。管轄する範囲は互いに排他的であったと考えられる。
古代の中央集権国家が破綻すると、地方の小領域が国家として割拠する時代が到来したが、各々の小国家内で県を設置することがあった。
近代社会の成立過程で、再び中央集権化されると小国家内の県を対等な基礎的行政区画とし、小国家をそのままか統合分割などで新たに県として設置することがあった。[1]
植民地の独立後や東西冷戦の解消後、中央集権体制だった国家は、規模の原理よりも市場の原理により地方分権の機運が高まった。これらの国家では補完性の原理により県を包括する大領域の行政区画を設置したり、[2]県の役割を基礎的行政区画の補完をする広域連合として位置付けることも行われている。[3]
日本の県
日本では中国の制度や明治維新後は米仏普にも影響を受け、
- 面的な名称には、国・州・藩・郡・町・村・坊・郷・里・荘または庄・区。
- 線的な名称には、道・街・条・里・線。
- 点的な名称には、京・都・府・庁・県・市・駅または宿。
- 人的な名称には、使。
が用いられてきた。江戸時代に能登国を能州と書くなど、雅称として漢風の名称が広まっていたため、[4]「州>郡>県」の順に小さくなると受け入れられていた。[5]明治維新後の廃藩置県と県の統廃合分置により、面的な名称としても受け入れられ、「州>県>郡」と理解されるに至った。一方で「郡>村」の伝統的な関係と合わせ、「州>県>郡>村」の順に小さくなるような行政区分を基本的と考えている。このため県は第2層の行政区画として扱われる。[6]
日本語訳としての「県」
漢字使用圏以外の国の行政区画の日本語訳としての利用でも、日本での順序に準じて用いられる。[7]ただし、県の意味に「『中央政府』から派遣される地方官の治める範囲」とあるため、相当する区画がない場合は用いられない。[8]また「国≒州」という理解から統治の権限が小さい場合、州を用いず県を用いる。[9][10]
漢字使用圏の日本以外の国の行政区画については、行政区分や権能に着目して訳さずに字体を日本に合わせてそのまま用いる。[11]
中華人民共和国の県
2003年12月31日現在、中国大陸には全部で1470県と少数民族の117自治県がある。県級行政区は省の下、地級行政区に属するのが基本であるが、海南省全域など省に直属する場合もある。2002年12月31日現在県級行政区は2860個あり、平均人口は63.13万人。
台湾の県
中華民国国民政府が国共内戦に負け、台湾へ退去後、福建省の統治区域には金門県と連江県馬祖列島が残り、台湾省に16県を有する。
その他の国の県
現在の県と県に訳される行政区画
国 | 現地名 | 総数 |
---|---|---|
アルバニアの県 | rrethe(アルバニア語) | 36 |
イタリアの県 | provincia(イタリア語) | 103 |
カメルーンの県 | Department(英語)・Département(フランス語) | 58 |
ギニアの県 | Département(フランス語) | 34 |
ギリシャの県 | νομός(ギリシャ語) | 51 |
スペインの県 | provincia(スペイン語) | 50 |
タイ王国の県 | จังหวัด(タイ語) | 76 |
中華人民共和国の県 | 县(中国語(簡体字)) | 1587 |
台湾の県 | 縣(中国語(繁体字)) | 18 |
ドイツの県 | Regierungsbezirk(ドイツ語)[12] | 22 |
ニジェールの県 | Département(フランス語) | 36 |
日本の県 | 県(日本語(当用漢字)) | 43 |
ノルウェーの県 | fylke(ノルウェー語) | 19 |
ハンガリーの県 | Megye(ハンガリー語) | 19 |
フィンランドの県 | maakunta(フィンランド語) | 20 |
フランスの県 | Département(フランス語) | 100 |
ブルンジの県 | Province(英語) | 17 |
ベトナムの県 | Huyện(縣)(ベトナム語) | 663 |
ベナンの県 | Département(フランス語) | 12 |
モンゴルの県 | аймаг(モンゴル語)[13] | 21 |
ルーマニアの県 | Judeţ(ルーマニア語) | 41 |
レソトの県 | District(英語) | 10 |
- イングランドの県(カウンティカウンシル、county council)については『イングランドの行政区画』、『イングランドの都市および非都市カウンティ』を、イギリスについてはイギリスのカウンティをそれぞれ参照。
過去の県と県と訳される行政区画
- イングランドのかつての県については『イングランドの行政カウンティ』ならびに『イングランドのカウンテイ』を参照。
- ハンガリーの地方行政区画。Komitat、Comitatus。
- 旧・ドイツ民主共和国の地方行政区画。Bezirk。
- 統一新羅、高麗、李氏朝鮮の地方行政区画。県、현。
- ニジェールのかつての県(département)。2006年に州(région)に格上げされ、かつての郡が県に格上げされた。
脚注
- ↑ 中央集権化が限定的な場合は連邦制と呼ばれ独立していないが「国家」の地位を保つことがある。
- ↑ 英仏伊の地域・西の自治共同体。
- ↑ 伊仏西の県。
- ↑ 史実として、遅くとも古事記・日本書紀の編纂の頃から「国」と「州」の混用は行われていた。
- ↑ 2007年まで神奈川県に存在した津久井郡は、江戸時代には全国で唯一、地域区分単位として津久井県を称していた。これは従来「津久井領」と呼ばれていたこの地域を支配した幕府代官の命によるものであるが、敢えて「県」を称したのは山間僻遠であるこの地域が単独の「郡」を称するには不足であると考えられたからだと言われている (『藤野町史・通史編』) 。「津久井県」は1870年に「津久井郡」と改称された。
- ↑ とはいえ歴史地理学が新しい為、現在の県の内、旧・令制国を全て含んでいる県を念頭に「県 (>州) >郡」と考える者もいる。そのためか字義の軽視や従来訳との齟齬をきたしている(例:#その他の国の県のイギリスや、第1層の行政区画を常に県とする等)。
- ↑ 連邦制の国家の場合、「国>州」となることもある。
- ↑ イタリアのように郡が用いられないこともある。一方多くの場合、区を意味する語に県が当てはまり郡との選択になることがある。
- ↑ 次の点も考慮されている。(1)周代の「州」から春秋時代の「県」へ。(2)前漢の「国」から「州」へ。
- ↑ 各国の行政区画の単位の内、狭い範囲の広域行政区画を「県」と訳す事がある。以下に英語での例を示す。
- prefecture(日本)
- 日本の「県」は英語では「prefecture」と訳すが、この英語の原義はラテン語かフランス語の「préfecture」に由来し、「中央集権国家の地方長官の官邸」である。
- province(イタリア)
- イタリア語の「provincia」に当たる。この語は、「中央集権国家の地方長官」と、「大き過ぎないが、一定の広さを持った地方」の、両方の意味を持つ。日本の令制国の「国」の訳語でもある。原義はラテン語の「provincia」で、「pro」(親○、利益)と「vincere」(統制する)を合わせて、「ローマ帝国の統治に与する所」を意味していた(日本では「属州」と訳される)。特に、歴史地理学での「県」の訳語には、「province」が充てられる事が多い。
- department(フランス)
- フランス語の「département」に当たる。フランスの州に当たる「province」が廃止され、より狭い「département」ができた時に県に当たる区画となった。
- county(中国)
- 中国語の「县」に当たるが英語では「county」と訳す。古代の県は「prefecture」とも訳されるが、「province>prefecture>county」の区分に当てはめて第3層になることから、この語が選択される(公侯伯の序列が影響しているかもしれない)。原義はラテン語で「軍事上や行政上の功績者の領地」である。
- district(東ドイツ)
- ドイツ語の「Bezirk」に当たる。東ドイツでは州に当たる「Land」が第二次世界大戦後に廃され、「Bezirk」が第1層の行政区画となり県と訳された。英語版Wikipediaにあるように、日本の「郡」の訳語であるが、行政機関などの「丁目」「区」の訳語と衝突することがある。
- ↑ ベトナムは現在ラテン文字を使うが語源が漢字に由来するような「tỉnh」は省とするなど漢字使用圏とみなす。
- ↑ 「Regierung」は「政府、統治」を意味する。「Bezirk」は区画を意味する。
- ↑ 中国で「盟」と当てられたので、それを常とする。
関連項目
- 中華人民共和国の行政区分(英語版Wikipedia①、英語版Wikipedia②)
- 中華民国の行政区分
- 大韓民国の地方行政区画(英語版Wikipedia)
- フランスの地方行政区分(英語版Wikipedia、中国語版Wikipedia、フランス語版Wikipedia)
- フランスの州(フランス革命以前)
- 二十三府制
- Administrative divisions of Japan#Local government(英語版Wikipedia)
- Province(英語版Wikipedia) - Prefecture(英語版Wikipedia) - County(英語版Wikipedia) - district(英語版Wikipedia) - department(英語版Wikipedia)
- Nomenclature of Territorial Units for Statistics(英語版Wikipedia)
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