刺激惹起性多能性獲得細胞

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刺激惹起性多能性獲得細胞(しげきじゃっきせいたのうせいかくとくさいぼう)は、動物体細胞に外的刺激(ストレス)を与えて分化多能性を獲得させた細胞として、2014年1月末に論文2本がネイチャーに発表された。

小保方晴子理化学研究所)らが、チャールズ・バカンティハーバード・メディカルスクール)や若山照彦山梨大学)と共同で発見したとして、現象を刺激惹起性多能性獲得(英語名のStimulus-triggered acquisition of pluripotencyから STAP[1]、得られた細胞をSTAP細胞(スタップさいぼう、STAP cells)と名付けた。STAP細胞に増殖能を持たせたものをSTAP幹細胞、胎盤へ寄与できるものをFI幹細胞と呼ぶ[2]

従来、動物の体細胞が外的刺激をうけて万能細胞になることはありえないとされており、生命科学の常識を覆す大発見とされ、細胞初期化原理の解明や医療への応用が期待された。しかし、再現が取れないことや画像の改ざん、公開データや残された試料を遺伝子解析して明らかになった疑問、実験が本当に行われたか等、複数の疑義が指摘され、STAP細胞作製の事実が疑われている(#論文や研究等における様々な疑義)。

6月初めまでに著者が論文撤回を表明し、7月2日にネイチャーが2本の論文を撤回。STAP細胞はその科学的根拠を失った。なお、4月より理化学研究所が検証実験を行っており、研究過程の真実や特許出願の行方と合わせて注目されている。現在、STAP細胞はないと言い切って良い状態が続いており、研究過程全体が疑問視されている。

撤回された論文の意義

撤回論文の新規性

遺伝子の導入などによらず、外的刺激(ストレス)を与えることのみで体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化(リプログラミング)する原理を発見したとされたことが特徴である。

STAP細胞は胎盤を含むすべての細胞に分化できる。また、STAP細胞を胚盤胞に移植すると、キメラ個体を形成する。胎盤の形成は可能であるが胎仔を形成できない宿主の胚盤胞を用いた場合、注入されたSTAP細胞のみから胎仔全体が形成される。

iPS細胞との比較

2014年1月28日に報道発表した際にiPS細胞を牛に、STAP現象を魔法使いに例えた配布資料が配られる等、iPS細胞と比較してSTAP細胞の性質や優位性について論じられることが多かった。しかし、iPS細胞の発見者である山中伸弥により反論され、理化学研究所も「誤解を招く表現があった」として、3月18日には当初の配布資料を撤回している。

まず、生後1週のマウス脾臓リンパ球を使用した場合のSTAP細胞となる確率は7-9%2014年、論文発表当初)であり、これはiPS細胞の作製効率の1%未満(2006年、論文発表当初)よりも高い、と報道されていた。これに対し山中の発表によればiPS細胞の作成効率は2006年の論文発表時から大幅に上昇している。

また、STAP細胞の作製に要する期間は2-7日(2014年、論文発表当初)で、iPS細胞の2-3週間(2006年、論文発表当初)よりも大幅に短いと報じられたが、山中の指摘によれば、イスラエルのグループが7日で作成した記録があり、最新の研究同士を比べると大差はない。

遺伝子の導入に伴う発癌性のリスクがないため、STAP細胞はiPS細胞に比べてリスクが低いとする報道もあった。これについては、当初はiPS細胞の作成に際して因子の一つとして発癌に関連する遺伝子であるc-Mycをもちいていたが、後にこれを発癌性のない因子に置き換えたことから、iPS細胞の癌化のリスクは大幅に下がっている。一方で、山中は、半数以上の細胞が死滅するようなストレスが細胞にかかることから、STAP細胞の安全性について検証が必要だとしている。

撤回論文の意義と展望

当初はES細胞iPS細胞と比較され、STAP細胞の優位性が強調されていた。STAP細胞はiPS細胞とは異なり、体内での臓器再生等、別の可能性があることが期待されていた。また、小保方は細胞初期化を制御する原理が解明できれば、細胞の状態を自在に操作可能な技術につながると語り、山中も初期化のメカニズムに迫るにあたって有用だとしていた。

また、共著者の一人である東京女子医科大学教授大和雅之は、外的刺激による初期化は生物が生存のために環境に適応する進化的意味合いを持つとし、未知の生命現象が解決する可能性や生物学におけるインパクト、波及効果を指摘していた。

撤回論文や研究の概要

研究の着想は「植物のほか、動物の中でもイモリは傷つくなど外からの刺激をきっかけに、万能細胞化して再生する。ヒトを含めた哺乳類でも同様のことが考えられないか」という素朴な疑問にあるとされた。小保方が大学院時代に留学したハーバード大学医学大学院のブリガムアンドウィメンズ病院麻酔科教授のチャールズ・バカンティらは、成体内に小型の細胞が極少数存在し、これが休眠状態の多機能細胞ではないかとの仮説を唱えていた(胞子様細胞)。小保方はこの研究室で組織細胞をガラスの細管に通して小型細胞を選別する実験を行った。この実験で小型の幹細胞は取り出せるが、元の組織には幹細胞が観察されないこと、繰り返し細管に通すと少しずつ小型の幹細胞が出現することなどを知った。小保方は「小さい細胞を取り出す操作をすると幹細胞が現れるのに、操作しないと見られない。幹細胞を『取り出している』のではなく、操作によって、『できている』という考えに至った」と話している。

撤回された発表論文

2014年1月30日付でネイチャーに以下の2本が掲載された。

また、上記論文に記載された手技解説では不足で再現性が乏しいという指摘に対応して、3月5日に以下の手技解説がネイチャー・プロトコル・エクスチェンジ誌で公開、3月20日にはチャールズ・ヴァカンティらも別の手技解説をウェブ上で公開している(#公表されていた実験手技解説)。

しかし同年7月2日付ネイチャーにおいて、以下のように撤回された。

なお、撤回理由として以下の5項目があげられた。

  1. 「遺伝子背景と遺伝子挿入部位に説明のつかない齟齬がある」
  2. アーティクル論文において「二倍体キメラ」とされたものが、別の図で使われた「四倍体キメラ」のものと同一
  3. レター論文で、STAP細胞とES細胞の比較で使われた「ES細胞」の写真は、「STAP細胞」とされた写真と同一
  4. 「長時間露光」が明度強化のデジタル処理の結果
  5. 図表の説明が入れ替わっている

また、同日に上記2論文の主な撤回理由について理化学研究所の仮訳が発表され、小保方、若山、笹井、丹羽のコメントも発表されている。

撤回された論文の要旨

小保方らは、まず未分化細胞で特異的に発現するOct4遺伝子の挙動を観察した。Oct4プロモーターの下流にGFP遺伝子配列を繋いだコンストラクトをマウスに導入し、Oct4の挙動を可視化した。このOct4::GFPマウスのリンパ球を使用し、細胞外環境を変えることによる細胞の初期化の状況を解析した。細いガラス管に通すという物理刺激を与えたり、毒素(細胞毒素ストレプトリジンO)で細胞膜に穴をあけたり、飢餓状態にしたり、熱刺激を与えたりなどさまざまな方法を試した結果、酸性溶液による細胞刺激が最も有効であることを発見した。小保方らの試行では、生後1週のマウス脾臓リンパ球pH 5.7、37℃の酸性溶液に25分浸して刺激を与え、B27と多能性細胞の維持・増殖に必要な増殖因子である白血病阻止因子(LIF)を含むDMEM/F12培地に移して培養する方法が、最も効率的にSTAP細胞を作製できた。

次に、小保方らは、生きた細胞を長時間培養しながら顕微鏡で観察するライブイメージング法で7日間にわたって解析を行った。その結果、得られる未分化の細胞は、分化したリンパ球が初期化されたものであり、試料に含まれていた未分化の細胞が酸処理を経て選択されたものではないことを示唆した。遺伝子解析を実施してOct4陽性細胞を検証した結果、Oct4陽性細胞のT細胞受容体遺伝子に、リンパ球T細胞が分化した時に生じる特徴的な遺伝子再構成であるTCR再構成が検出された。このことから、Oct4陽性細胞は、T細胞に一度分化したリンパ球由来の細胞を酸性溶液処理で初期化して得られたものであり、Muse細胞のような既存の多能性幹細胞が酸性溶液処理によって選択されたものではないことを検証した。また、このOct4陽性細胞は、Oct4以外にも多能性細胞に特有のSox2SSEA1Nanogといった遺伝子マーカーを発現していた。さらにOct4陽性細胞は3胚葉組織への分化能を持っていた。その後、小保方らは、皮膚骨格筋脂肪組織骨髄肝臓心筋などの組織の細胞についても同様に処理し、いずれの組織の細胞からもSTAP細胞が産生されることを確認した。

また、LIFと副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を含む培地を用いることにより、多能性と自己複製能を併せ持つ細胞株を得る方法が確立された。これがSTAP幹細胞と呼ばれるものである。STAP幹細胞は胎盤組織への分化能を持たないが、STAP細胞の培養条件を変え、栄養膜幹細胞の作製法と同様にFgf4を含む培地で長期間の接着培養することにより得られた幹細胞(FI幹細胞またはFGF4誘導幹細胞またはFGF4誘導幹細胞は、撤回済みネイチャー・プロトコルではFI stem cells、レター論文ではFgf4-induced stem cellsと記述されている。)からは胎盤を誘導することができた。

公表されていた実験手技解説

撤回済みアーティクル論文に記載の実験手技要旨に加え、理化学研究所2014年3月5日に、より詳細な実験手技解説(Technical Tipsを公開した。なお、アーティクル論文とレター論文の取り下げに伴い、この実験手技解説も7月2日付けで取り下げられている。

この撤回済みネイチャー・プロトコルには、「単純に見えるが、細胞の処理と培養条件、さらに細胞個体群の選択に、とりわけ慎重さを要する」という「注意書」があり、カリフォルニア大学デービス校准教授のポール・ノフラーは、これは「STAP細胞は作るのがきわめて難しい」と同義だ、とし、「(共著者の)ハーバード大学のバカンティ博士は、なぜこのプロトコル・ペーパー(作成方法論文)に加わらないのか」という疑問を表明した。また、ウォール・ストリート・ジャーナル紙も、撤回済みネイチャー・プロトコルが、元の論文と矛盾するとした。

更に同年3月20日には、細いガラス管に通した後で弱酸性液に浸す改善版実験手技を、チャールズ・バカンティらが公表した。

これについて、ノフラーは「作製効率や検証方法が書かれておらず、筆者が誰かの明示がない。実際に作製できるかは疑問」と指摘した。同年4月9日には、米国の幹細胞学者でマサチューセッツ工科大学教授であるルドルフ・イエーニッシュが、STAP細胞の作製法について「論文にする必要はない。今すぐ公開すべきだ」と述べ、「論文掲載の作製法に加え、理研と米ハーバード大が別々の作製法を発表しており、すでに4種類の作製法があるのは異常。論文著者の間できちんと話しあってほしい」と苦言を呈した(バカンティ・プロトコルの再現性については#実験全体の再現性の欠如を参照)。

特許出願と内容

STAPの特許は2度の米国仮特許出願を経て、2012年4月24日を優先日として国際特許出願されており、2013年10月31日に以下のように公開された。

出願人はブリガムアンドウィメンズ病院、理化学研究所東京女子医科大学の3機関であり、発明者はチャールズ・バカンティ、マーティン・バカンティ、小島宏司小保方晴子(仮出願時の住所はアメリカ、国際出願時の住所は日本)、若山照彦笹井芳樹(国際出願から追加)、大和雅之となっており、代理人はマサチューセッツ州ボストンの事務所所属である。

請求項は74項に及ぶが、ロシアの調査機関でなされた国際調査報告では類似技術が見当たらないとされたのは32項目である。また、第1項の基本となる請求項はミューズ細胞の特許に抵触すると指摘されている。なお、特許における疑義や問題については、#研究不正のある特許の行く末を参照のこと。

論文や研究等における様々な疑義

2月に、論文に掲載された画像に疑問が抱かれたのをきっかけに様々な疑義が指摘されたことを受けて、5月28日、多能性をキメラマウス実験で検証したレター論文について、理化学研究所の小保方晴子ら主要著者の3人が撤回に同意し、ネイチャーに対して手続きに入るよう要請が行われた。6月3日、小保方晴子やチャールズ・バカンティらが、アーティクル論文についても撤回に同意した。7月2日ネイチャーが論文撤回を発表し、STAP研究は白紙に戻った。

2枚の画像に関する問題

2月、論文中に「不自然な画像が使われている」との指摘がインターネット上でなされ、関係機関が調査を始めた。STAP細胞のTCR再構成を示す電気泳動などの画像の不自然さが指摘されると、STAP細胞の真贋に疑念が持ち上がった。

当初「研究成果そのものは揺るがない」としていた理化学研究所も、3月14日には調査中間報告においてSTAP細胞のTCR再構成を示す電気泳動の画像に切り貼りがあることと、STAP細胞が3胚葉組織への分化能を持つことを示す画像が小保方の博士論文に使用された画像と一致していたことを認め、センター長がSTAP細胞の存在自体に疑念を表明する事態となった。また、調査中間報告の質疑応答を受け、論文の主著者の一部が論文の撤回意図を表明したと報じられた。この時点ではバカンティ、小保方は論文の撤回に反対しており、全著者の見解が一致しないことから、撤回に至るかどうかは不透明な情勢であった。理化学研究所は調査最終報告で画像に関する2項目が捏造改竄故意による研究不正に該当すると認定した(#調査最終報告)。

それ以外の画像を巡る疑惑

5月21日、調査委員会が不正とした画像以外について、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの検証チームが

  • 同じ細胞を使って作り出された2匹のマウスの写真で、胎盤が光って写っている方を「STAP細胞」、光っていない方を「ES細胞」として使用していた(ネイチャー論文撤回理由)。
  • 細胞の増殖率を比較するグラフが不自然なうえ、人工多能性幹細胞(iPS細胞)の開発を発表した山中らの論文(2006年)中のグラフと酷似していた。
  • 解像度が異なる二つの画像を一つの画像のように1枚に合わせて提示していた。
  • 実際には長時間露光で撮影していない画像を長時間露光として注釈をつけていた(ネイチャー論文撤回理由)。

などの疑義を指摘していたが、理化学研究所本部は公表も調査も行っていなかったことが明らかになった。日本分子生物学会副理事長の中山敬一は「ここまでミスが重なるのは、明らかに不自然だ。STAP細胞が存在するならば、こうしたことが起こることは考えにくく、そもそもSTAP細胞は無かったのではないかと強く疑わざるを得ない」とした。

5月26日、理化学研究所は、一部の著者からすでに論文を取り下げる意向が示されていることを理由に、これらの疑義について調査は行わないとした。この対応について上昌広は「まだ表に出ていない不正の構造が隠れている可能性もあり、再発を防ぐためにも調査する必要がある」とした。

STAP幹細胞にはTCR遺伝子再構成が認められなかった問題

2014年1月30日発表のアーティクル論文では分取できたリンパ球系のSTAP細胞にTCR遺伝子再構成が認められ、培養条件を変えることによりそのSTAP細胞からSTAP幹細胞を樹立できたと報告し、STAP幹細胞が分化した体細胞に由来したと主張する証拠が無いことが判明した。

若山照彦はこのことについて、「STAP細胞が出来た重要な証拠の1つである特定の遺伝子の変化について、論文発表前、研究チーム内では『変化がある』と報告され、信じていたが、先週、理化学研究所が発表した文書の中では、変化はなかったと変わっていた」とし「STAP細胞の存在に確信がなくなった」と述べた。3月10日、若山はこの矛盾を始めとして、STAP細胞が3胚葉組織への分化能を持つことを示す画像が博士論文と酷似していた事実を受けて、論文の撤回を呼び掛けた。

2014年6月10日、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの自己点検検証委員会(CDB 自己点検検証委員会)は、小保方晴子丹羽仁史笹井芳樹が、2014年1月30日のアーティクル論文発表の1年前の2013年1月時点でSTAP幹細胞にTCR遺伝子再構成がないという結果を共有していたが、STAP幹細胞にTCR遺伝子再構成がないことを記載せずネイチャーに発表していたことを報告した。

作成されたSTAP細胞や試料を巡る疑義

2月27日、若山は、国外でOCT4発現を確認した事例があることに触れ、また、STAP細胞の実態がES細胞ではないかとする指摘に対しては、当該系統のES細胞を保有しておらず混入は考えられない点、mRNAの発現データが異なる点、STAP幹細胞の樹立がES細胞に較べて容易である点を挙げて、STAP細胞の実在と他者による再現への期待を述べていた

インタビュー記事で、「日本国外の友人からOCT4陽性まで成功しているとEメールが来ており、1年以内にはだれかがSTAP細胞を作製すると確信している」、「我々はSTAP幹細胞を129B6GFPマウスから樹立したが、当時我々はこの血統のES細胞を持っていなかった。自分でSTAP幹細胞を何度か樹立させており、それはOct4-GFPのES細胞胚盤胞から作製するよりもはるかに易しい。mRNAの発現データもSTAP幹細胞がES細胞ではないことを示唆している」と述べていた。

しかし3月17日になると、若山は小保方から提供されたSTAP細胞の解析を第三者機関に依頼し日経BPは細胞がES細胞だったのではないかという疑念に踏み込んで報じた。その後、以下の様な疑義が明らかになった。

素材となったマウスと作成されたSTAP細胞の差異
3月25日、若山から渡されたマウスを素材にして小保方が作成したSTAP細胞につき、素材のマウスとは異なる遺伝子が検出されたことがわかった。小保方はいずれの株についても「129」と呼ばれる系統のマウス由来の細胞であると説明したが、それらの遺伝子を調べたところ、「B6」系統のマウスと、B6と129との間の子どものマウスに由来する細胞であった。
樹立したSTAP幹細胞の性別の差異
4月11日、論文にはメスのマウスのSTAP幹細胞に関するデータが載っているが、幹細胞を作った研究者は「オスしかつくっていない」と話していることがわかった。これに対し小保方は10株のSTAP幹細胞のうち8株はオスだが2株はメスであり、このメスの細胞のデータを使用したと反論した。
STAP幹細胞の素性を巡る疑義
6月3日、素材のマウスと異なる不自然な特徴が確認されたことが公表された。
6月16日、小保方が論文記述の際に使用した8株を含む14株の「STAP幹細胞」および5株のES細胞試料を解析した結果が明らかにされた。素材となったマウスは若山から小保方に渡されたものでGFP遺伝子が18番染色体にホモに導入されているが、論文で触れた8株すべてでGFPは15番染色体に導入されている一方で、18番染色体のあるべきところにはGFPが挿入されていない野生型マウスの配列があり、当該「STAP幹細胞」は若山から渡されたマウスに由来しない事が明らかとなった。なお、15番染色体にGFP遺伝子を導入したES細胞は広く使われている。
同じく6月16日、小保方の研究室にある冷凍庫から「ES」のラベルの貼られた容器が見つかっていたことと、その中にあったマウスの細胞の遺伝子を解析した結果が明らかになった。この細胞ではGFP遺伝子が15番染色体に導入されており、若山が保管する「STAP幹細胞」とされる細胞と同じ特徴を持つ。一方で、小保方がSTAP細胞作成に用いたマウスとは異なるものであると分かった。

公開遺伝子データから発覚した疑義

論文の発表に付随してWEB上で公開されていた遺伝子データを解析したところ、以下の様な疑義が指摘された。

FI幹細胞に関する疑義
6月3日、FI幹細胞(FGF4誘導幹細胞)のものとされる遺伝子データに、ES細胞と、胎盤になる能力のある幹細胞「TS細胞」が混ざった特徴があることが分かった。解析は理化学研究所の遠藤高帆上級研究員や幾つかの大学で行われた。作ったマウスもF1ではなく、B6やCD1という別の系統だったという。
この幹細胞はES細胞9割、TS細胞1割と見られているが[2]理学博士である竹内薫はES細胞とTS細胞を混ぜ合わせると「別々の塊になるはず」と指摘しつつ、細胞培養に慣れた人ならまとめられるとして、その様な人が協力した可能性を指摘している。
STAP細胞に関する疑義
6月11日、STAP細胞のmRNAの発現量をSMARTerを使用して解析したデータにおいて、これを分析した結果、ほぼすべての細胞に8番目の染色体が通常の2本より1本多くなる「トリソミー」と呼ばれる異常のあることが明らかにされた。この異常を起こしたマウスは、通常は胎児の段階で死亡することから産仔を得られず、STAP細胞の元になる体細胞を採取したとされるマウスは、存在しなかった可能性が指摘されており、小保方らが生後1週間ほどのマウスからリンパ球を採取してSTAP細胞を作ったとするこれまでの主張と合致しない。
なお、8番染色体のトリソミーは、すでに研究で広く使われているマウスのES細胞を長期間培養するとしばしば起きる異常としても知られている。
これらの事情から、STAP細胞と呼ばれるものの実態は、生きた個体から採取した分化した細胞を素材にしたものではなく、シャーレ上で培養したES細胞ではないかという指摘がなされ、更にはES細胞をどこかから持ってきて意図的に混入させたものではないかという指摘もなされた。
多能性の欠如
STAP細胞のmRNAの発現量をTruSeqを使用して解析したデータにおいて、多能性を示す指標遺伝子がまったく発現していなかった。従前よりSTAP細胞作成の根拠の一つとされる蛍光が、指標遺伝子の発現によるものではなく、死にかけた細胞がよく発する自家蛍光ではないかと指摘されていたが、それを補強する結果である。また、SMARTerで解析した結果と一致せず、STAP細胞とされるものが2種類存在したことになる[2]

実験についての疑義や論文との矛盾

入手困難な実験機器に関する記述
2月26日アーティクル論文の記述中に、他研究者の論文からの盗用が発覚したが、その部分に現在では入手困難な古い実験機器を用いた実験についての記述が含まれていたことから、当該部分をコピペしただけで実際には実験を行っていないのではないかという疑惑も浮上した。

ライカ社の「DM RXA RF8」という機種の落射蛍光顕微鏡に、フォトメトリクス社の「Sensys」(センシス)と呼ばれる型のCCDカメラを接続して実験したと記されている。

今では入手困難。Guo Jianliらの原論文では「DM RXA RF8 epifluorescence microscope (Leica Mikrosysteme GmbH, B ensheim, Germany) equipped with a Sensys CCD camera (Photometrics, Tucson, AZ). 」 と書いてあったのを、小保方らの論文ではわざわざメーカーの所在地や国名を削除して書き換えている。

実験用マウスが存在しなかった疑義
5月19日毎日新聞が理化学研究所の会見システムの資料や動物実験記録を調査し、テラトーマ実験に使用したマウスが適正な予算で適切な時期に購入されていないことを明らかにした。実験が本当に実施されていない疑惑がある。
実験に関する文献毎の記述の差異
6月2日、論文と、理研が許可した動物実験計画書、小保方の実験ノートの間で記載内容が著しく異なることが判明した。実験の成功を報告した論文の基本的な部分に裏付けがない事態が露見した。
実験規模に関する疑念
6月16日、若山は記者会見で、小保方が200回以上STAP細胞の作製に成功したとする発言に触れ、それだけの実験を行うには1000匹以上のマウスが必要であるが、相応の数のマウスはおらず、実験回数の根拠が乏しいとした。

実験全体の再現性の欠如

ポール・ノフラーはウェブサイトにて世界の研究者たちに呼びかけてSTAP細胞作製の追試のデータを集め、2014年2月14日から2月19日に間に様々な細胞で試行された10件の報告が寄せられた。マウス胎児線維芽細胞で追試を試み、多くの自家蛍光が見られたと報告した関西学院大学の関由行は、「いくら詳細な手順が示されているといっても、論文のデータの信頼性が失われた中では再現に取り組みようがない」と述べた。この他に、半ダースほどの一流の研究所が非公式にうまくいかなかったことを伝えてきたという。

4月1日香港中文大学教授の李嘉豪は、バカンティ発表の実験手技に基づく追試において、対照実験として研和のみを与えた細胞で予期しなかった多能性マーカー(Oct4Nanog)の発現を確認したが、多くの細胞が死んだことや、多能性マーカーの発現量が多能性細胞に比べて10分の1以下だったことから、細胞死に伴う無秩序な遺伝子発現による副産物であろうと論じ、STAP細胞の一部の過程の再現との解釈に否定的な見解を示した。李は「研和のみの操作は難しくないので他の研究室でも試せないだろうか」「個人的にはSTAP細胞は実在しないと考える。労力財力の無駄なので、これ以上の追試はしない」と述べ、同グループは追試の結果を論文にまとめてオンライン誌で発表した。

このように世界中の独立した研究室が再現実験を試みたにもかかわらず、 STAP細胞作製の追試に第三者が成功したという報告が無い。その上共著者の若山でさえ、2013年3月に山梨大に移ってからSTAP細胞の再現実験に数十回取り組みながら、一度も成功していなかった。3月14日の調査中間報告で、小保方自身のSTAP細胞の再現実験について、竹市雅俊が「光り出すというところまでということで、全体的には再現できていない」と答えた。

現在、小保方を基本的に除外した形で理化学研究所によるSTAP現象の検証が進行しているが、既に小保方は5月下旬から様々な形で小保方の助言をしており、STAP細胞の真偽をはっきりさせるための小保方自身による実験が議論になっている。(#理化学研究所の対応中の「理化学研究所によるSTAP現象の検証」、「理研CDBの調査や小保方の動向」を参照)

ハーバードグループの疑義

チャールズ・バカンティ小島宏司ハーバード大学の研究チームも、理化学研究所とは独自の研究を行っていた。2014年1月末の時点でサルの治療実験が行い脊髄損傷で下半身が不自由となったサルが足や尾を動かせるようになるなどの報道がなされた。また、ヒツジの気道の一部を人為的に損傷させたうえで再生させる実験を始めているとも報道された。論文発表当初にはヒトの細胞で作成可能かどうかは実証されていなかったが、同年2月5日、バカンティ教授のチームがヒトのSTAP細胞であるとみられる細胞の写真を公表した。ハーバード大学では、アメリカ国内で、ヒトへの臨床試験の申請に向けた準備を進めることにしていた。

しかしこのような取組は論文発表がなされず、バカンティらが提示した独自のプロトコル(#公表されていた実験手技解説参照)についても、香港中文大学の教授やマサチューセッツ工科大学の教授も再現に失敗。同じハーバード大学教授による追試も、バカンティの直接的な指導を仰ぎながらも失敗に終わっている。ネイチャー論文撤回後もバカンティは刺激による初期化を主張するものの、研究の信頼性と不正疑惑への対応について厳しい声があがっている。

その他

万能性を示す疑義

2014年7月21日、STAP細胞論文に掲載された万能性を示すグラフが、著者らが過去に投稿したほぼ同じ内容の論文のグラフの一部データを除いた形になっていたことが分かった。過去の論文のグラフから消えていたのは、万能性が落ちたように見えるデータ。著者たちが不都合なデータを意図的に削除した可能性もある。

ポール・ノフラー4月25日、Nature誌では画像・文書の「盗用防止スクリーニング」が行われていないという欠陥があったと指摘した。また、名前だけ連ねて何もしない共著者の存在についても問題とした。

STAPのネイチャー論文が掲載された後に、論文共著者が関係するバイオ系ベンチャー企業である株式会社セルシードの株価が上昇した。これに対し、インサイダー取引疑惑があるとして証券取引委員会が調査しているとの報道がなされた。

小保方個人の私用ノートパソコンにデータが入っていたことについて、6月12日公表の外部有識者による改革委員会の提言書で、研究成果有体物取扱規程(平成18年規定第10号)第3条の観点から問題が指摘された。

理化学研究所の対応

理化学研究所はネイチャー掲載論文における研究不正の有無について調査を行い、2014年3月14日に中間報告、4月1日に最終報告を公表した。また、改革本部の元に改革委員会を4月4日に、検証チームを4月7日に設置した。なお、調査委員会は5月8日で、改革委員会は6月12日で任務を終了し、解散している。

調査委員会中間報告

3月14日、理化学研究所は研究論文の疑義に関する調査中間報告を公表し、記者会見を行った。

結論が得られた項目
  1. アーティクル論文 の Figure 1f(酸処理後数日で細胞の初期化を示すものとして掲載された緑色に光る細胞の画像)には改竄の範疇にある不正行為はなかった。
  2. レター論文 の Figure 1b (緑色に光るマウス胎盤の画像)は同一であり「改竄」に当たるが、図を削除し忘れたという説明に矛盾等は認められず、研究不正であるとは認められない。
調査継続中の項目

理化学研究所は研究不正の定義である、捏造改竄盗用についてどの程度の悪質性があるのかを継続調査するとした。

  1. アーティクル論文 の Figure 1i(TCR再構成を示すDNAゲル電気泳動の画像)に認められた切り貼り。
  2. アーティクル論文 の Methodの核型解析に関する記載部分の他論文からの盗用
  3. アーティクル論文 の Methodの核型解析に関する実験内容と異なる記述。
  4. アーティクル論文 の Figure 2d, 2e(STAP細胞が3胚葉組織への分化能をもつことを示すものとして掲載された組織の蛍光顕微鏡画像)と小保方の博士論文に使用された画像との間に認められた一致。
その他の会見要旨

その他の会見要旨は以下の通り。

  • 理事長野依良治は、小保方について「1人の未熟な研究者が膨大なデータを集積し、極めてずさんな取り扱いをして、責任感に乏しかった」と指摘。
  • 小保方は、論文の見栄えを良くするため画像を加工したことを認め「やってはいけないという認識がなかった」と主張。
  • 調査委員長の石井俊輔は、「研究倫理を学ぶ機会がなかったのか」と小保方の姿勢を疑問視。
  • センター長竹市雅俊は、STAP細胞の万能性を示す画像が小保方の博士論文の画像と同一だった点について「論文の体をなしていない」と評価し、小保方を採用したことに関して「過去の(研究ぶりの)調査が不十分だったと深く反省している」と陳謝。
  • 論文を指導した笹井芳樹は、小保方と共同での論文作成に大きな役割を果たしており、これについて野依理事長は「責任は非常に重い」と批判。
  • 小保方は「(記者会見の場で)自分の気持ちを申し上げたい」と述べているが、心身の状態はよくない。
  • 小保方の研究チームは、現在もSTAP細胞を作成できたと判断している。

調査委員会最終報告

4月1日、理化学研究所は研究論文の疑義に関する調査最終報告を公表し、記者会見を行った。文部科学大臣下村博文に、4月中旬までに最終報告書をまとめるよう要請された状況下での報告である。理化学研究所は中間報告で判断を保留していた4項目についての判断を示し、うち2項目については不正だとした。既にネイチャーに対して訂正論文を提出したことについても触れた上で、理化学研究所による調査報告の結論は曲解であり「到底容認できない」とした。理化学研究所による結論は以下。

捏造改竄故意による研究不正に該当するとされた項目
  1. アーティクル論文 の Figure 1i(TCR再構成を示すDNAゲル電気泳動の画像)に認められた切り貼り。
  2. アーティクル論文 の Figure 2d, 2e(STAP細胞が3胚葉組織への分化能をもつことを示すものとして掲載された組織の蛍光顕微鏡画像)と小保方の博士論文に使用された画像との間に認められた一致。
過失であり不正と判断できない項目
  1. アーティクル論文 の Methodの核型解析に関する記載部分の他論文からの盗用
  2. アーティクル論文 の Methodの核型解析に関する実験内容と異なる記述。

画像の切り貼りについては「きれいに見せる図を作製したい」という目的をもって行われた「改竄」、小保方の博士論文の実験で得られた画像とSTAP細胞の論文の画像が酷似していた件については「捏造」と認定した。その一方で、実験自体は行われており、論文の「盗用」は無い、とした。

若山、笹井の責任
「小保方氏以外の調査対象者について、研究不正は認められなかったが、若山、笹井両氏については、シニアの研究者でありながら、上述したとおり、データの正当性と正確性等について自ら確認することなく論文投稿に至っており、そのため、過失とは言え、研究不正という結果を招いたものであって、その立場や経験などからしても、責任は重大であると考える」と理化学研究所は述べた。
その他
実験ノートは冊数が極端に少なく、実験日の記載がなかった。また、実験データは私物のパソコンに保存されていた。日本分子生物学会副理事長の中山敬一によれば、実験ノートの杜撰さ、生データの追跡困難は全ての捏造家に共通したものである。

不服申し立てと再調査の検討

4月8日、小保方は、STAP細胞の論文について研究不正があったと認定した理化学研究所の調査結果に対し、理化学研究所の規定では不正行為に当たらないとして不服申し立てを行った。そして、翌9日、小保方はSTAP細胞の論文をめぐる問題について大阪市内のホテルで記者会見を実施した。これに対して、理化学研究所が追加資料を要求したため、20日、小保方は不服申立書を補充する文書を提出し、2週間の猶予を求めた。

5月7日、小保方の代理人弁護士が、理化学研究所に追加資料を提出した。主な主張は、複数枚の写真を1枚に組み合わせても「捏造改竄には当たらない」とした金属材料科学分野での判例があること、理化学研究所によるSTAP細胞の検証実験の結果を待って研究不正かどうかの判断をすべきであることである。同日、小保方の弁護団は、実験ノートの一部を公表したが、日本分子生物学会副理事長の中山敬一教授が「実験ノートではなくメモ、落書きのレベルだ」とするなど、否定的な評価しか得られなかった。

理化学研究所の調査委員会は5月7日、小保方側から再調査に値する資料の提出がなかったとして、「再調査の必要はない」と理化学研究所理事会で説明した。そのうえで、8日、「不服申立てに関する審査の結果の報告」を公表し、再調査は不要だとの判断を示した[3]。調査委員会はこの文書において「「悪意」とは、客観的、外形的に研究不正とされる捏造、改ざん又は盗用の類型に該当する事実に対する認識をいう」として、悪意という言葉の語義を法律用語として解釈し直した[3]。その上で調査委員会は、2012年に小保方がネイチャーに投稿した論文が掲載を拒否されたあとで、同様な論文をサイエンス誌に投稿、審査担当者は画像の加工を察知して「異なる実験の結果をまとめて表示するときは白線を入れて区別する必要がある」と指摘し掲載を拒否していたことを報告した。すなわち、小保方はその時点で査読者からそのような画像加工は不正であると警告を受けていたのであるから、今回の問題となっているその次のネイチャーの論文を投稿する時点では、もはや小保方は、意図的な改ざんの不当性を承知のうえで投稿していると言わざるを得ないと、悪意の成立を指摘した。一方で小保方側は、自身はサイエンスからそのような指摘を受け取っていないとして「認識がない」「STAP細胞論文とは異なる論文だ」と主張。

第三者改革委員会の提言

理化学研究所が設置した外部有識者による改革委員会は2014年6月12日、研究不正に至った経緯と背景を分析し、再発防止策を盛り込んだ提言をまとめ、公表した[4]

STAP問題がなぜ起きたのかについて
  • 通常の手順を省略して小保方を採用
  • 笹井は秘密保持を優先し、外部の批判や評価を遮断
  • 小保方の研究データの記録、管理がきわめてずさん
  • CDBにも不正を誘発する構造的な問題
  • 理化学研究所本体も研究不正防止への認識が不足
疑惑発覚後の理研の対応
  • STAP細胞の作製が可能かどうか確認せずに詳細な手順を公表した
  • 笹井が謝罪記者会見でなど責任逃れと受け取られても仕方がない発言をした
  • 自己点検委の報告が遅れた。

と指摘した。

6月12日の会見では研究不正の原因究明に時間をかけることなく幕引きを急いでいる感があると理化学研究所の姿勢を厳しく批判した。また、小保方の採用方法が異例だったこと、笹井の過剰な秘密主義が一連の研究不正を生んだことが指摘され、論文執筆で上司の笹井芳樹が小保方を「囲い込み状態」で指導し、多くの誤りを見逃したとした。

会見の中で委員の塩見美喜子は、理研統合生命医科学研究センターの遠藤高帆・上級研究員らがSTAP細胞として公表されている遺伝子データを解析し8番目の染色体が3本ある「トリソミー」という異常を指摘したことについて「この結果は信憑性が高い。STAP細胞は、マウスからとってつくったのではなく、どこからか(ES細胞を)持ってきたのではないか」と表明。また、時事通信の記者からの「改革委員会のみなさんとしてはSTAP細胞は無いという見方で一致しているのか」という質問に対して「STAPというのは、じきになくなるのではないか」と述べた。

信州大学特任教授の市川家国は、STAP論文問題では様々な不正が同時に行われている点を挙げ、2002年アメリカで起こった「超電導研究不正(シェーン事件)」や、2005年韓国で起った「ES細胞捏造(ファン・ウソク事件)」と並び、三大不正事件の一つであると断言した。

なお、会見に先立つ6月11日から、改革委員会が小保方が所属する発生・再生科学総合研究センターの解体や竹市雅俊笹井芳樹の事実上の退任を求めていることが報道されていた。6月13日理化学研究所の野依良治理事長は下村博文文部科学相と面会し、外部識者による改革委員会の提言を踏まえ、研究不正防止の行動計画を策定する方針を伝えた。

改革委員会は補足的な論文の再調査と、外部委員による論文全体の検証を強く求めた。重大な疑義が新たに浮上し、再発防止のためにも不正の全容解明が不可欠と判断したためで、調査に消極的な理化学研究所の姿勢を「及び腰」と痛烈に批判した。「責任の所在が明らかになることを恐れているのでは」「問題を矮小化しようとしているのでは」と厳しく批判。

丹羽仁史らによるSTAP現象検証実験

2014年4月7日理化学研究所はSTAP現象の検証作業を野依理事長主導で実施することを発表した。

計画概要
刺激による分化細胞の多能性誘導現象が存在するか否かを科学的に厳密性の高い方法で検証する。そのために、論文で報告されたリンパ球からの多能性誘導の再現性の有無を検討するのみならず、他の分化細胞からの多能性細胞の誘導の可否についても厳密な細胞系譜追跡法を用いて検証する。
マウスを用いた実験においては、多能性の検証のために厳密性が高いと評価されている、胚盤胞注入によるキメラ胚への寄与能を調べることで、多能性の有無の確認を行う。
具体的な検証方法
  • リンパ球からの多能性細胞の誘導の再現性の有無の検証(細胞実験)
  • 分化細胞からの多能性細胞の誘導の可否についての厳密な検証(マウス実験)
体制
  • 実験総括責任者:理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター特別顧問(相澤研究ユニット 研究ユニットリーダー兼務) 相澤慎一
  • 研究実施責任者 : 理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター・多能性幹細胞研究プロジェクト・プロジェクトリーダー・丹羽仁史
細胞培養に関わる実験は丹羽以下計4名が、マウスに関わる実験は相澤以下計2名が担当する。小保方に関しては相沢慎一は「協力を得たいが、情報を求めることはあっても検証チームに加えることはない」としている。
スケジュール
検証計画の期間は2014年4月1日より概ね1年。検証完了までの間、実験総括責任者は、適宜、理事会に検証実験の状況報告を行う。理事会は、報告を踏まえ、都度、検証実験を継続的に進めるか、否かを判断する。
情報の公開
実証計画開始 4か月(2014年8月1日)を目途に中間報告、検証計画の終了をもって最終報告を行う方針を立てた。6月12日には、7月にも中間報告を公表し、来年3月までに結論を出す予定であること、細胞の存否はまだ謎との見解を表明した。6月23日には丹羽仁史はあきらめ顔で「もう限界だ」と述べたとされる。8月4日の週に中間報告を行う予定であったが、8月5日に起こった笹井芳樹の自殺により、二週間程延期されることになった。
8月26日、理化学研究所によるSTAP細胞の検証実験で、これまで一度も同細胞を作製できなかったことが分かった。万能性を示す十分なデータも得られておらず、実験は最初の段階で難航している。STAP細胞が存在する可能性は極めて低くなった。
8月27日、丹羽仁史は中間報告記者会見で、論文に記載されているプロトコールに従って検討を行ったが、論文に報告されたような STAP細胞様細胞塊の出現を認めることはできなかった。事を公表。「何が何でも存在を証明したいというスタンスではない」とした。論文通りでは溶液のpHを再現できない事がわかった。小保方が「200回作製に成功した」と言ったのは自家蛍光とみられ、STAP細胞はできていなかった可能性が高まった。

科学的な疑義に対する調査の継続

CDBの自己点検検証委員会
理化学研究所の発生・再生科学総合研究センター(CDB)の自己点検検証委員会が2014年4月8日に設置されており、様々な調査を行った。6月10日に報告書をまとめ、6月12日には改革委員会とともに会見を実施。調査委員会が指摘していなかった多くの疑義と真相について公表した[5]
なお、CDBの調査を理研本部が十分に取り合わなかったこと、CDBセンター長の竹市雅俊が信頼性が薄いと自身が判断した情報を報告していなかったことが報道されている。
科学的な疑義に対する予備調査
数々の疑惑発覚により、6月30日に理化学研究所は科学的な疑義に対する予備調査を開始することを発表。7月4日には日本分子生物学会が、Nature撤回論文作成において生じた研究不正の実態解明を希望するとの理事長声明を発表する。7月25日には日本学術会議が、再現実験の帰趨にかかわらず理研は保存されている関係試料を速やかに調査し、取り下げられた2つの論文にどれだけの不正が含まれていたかを明らかにするべき、との声明を発表した。理化学研究所全職員の42%が「論文の疑義の調査を優先すべきだ」と考えている。
8月4日には「STAP細胞事案に関する理化学研究所の対応について」という声明の中で、予備調査の結果が明らかになり次第、検証実験の帰趨とは関係なく処分の審査を再開すること、保全されているSTAP細胞株の科学的解析を行うこと等を明らかにした[6]。また、8月5日笹井が自殺したことで、全容解明が困難になることが懸念されている。
8月27日には理化学研究所の川合真紀理事は会見で、新たな疑義について近く予備調査から本調査に移行することを明らかにした。
科学的な疑義に対する本調査
9月3日に理科学研究所は研究論文(STAP細胞)の疑義に関する予備調査の結果を受けて、本調査を実施することとし、外部有識者のみにより構成される調査委員会を設置した。

小保方晴子による検証実験(再現実験)

小保方検証実験の決定
小保方は2014年5月下旬より発生・再生科学総合研究センターに出勤しており、実験には立ち会わないものの、検証実験へ助言を行っていた。検証実験は難航しているものの、小保方が実験しないとSTAP細胞の真偽がはっきりしないのではないか?という意見があり、小保方の処分と実験参加の動向が注目された。6月30日、理化学研究所は、検証実験へ小保方を参加させることを正式に発表、期限は7月1日11月30日とした。合わせて小保方のCDB通勤時の取材自粛を求めた。これに伴い、小保方らの懲戒処分の審査をいったん停止する。実験総括責任者のCDB特別顧問の相澤慎一は7月2日に記者会見を行い、小保方が行う実験の計画や条件、第三者の立会い、カメラによる監視、入退室のカードキー管理、細胞の培養機器に鍵をかける事について発表した。
検証実験に対する反応
7月4日日本分子生物学会が発表した理事長声明では、撤回されたSTAP細胞論文にからむ研究不正の実態解明が済むまで、STAP細胞の検証実験の凍結することを希望した。更に同会理事の町田泰則は、再現するべき事実が存在しないので再現実験は意味を持たない、との見解を示した。同じく理事の篠原彰も、不正という理由で論文撤回して白紙になった科学的仮説について、再実験することは大きな疑問とした。
7月25日には日本学術会議が論文不正の追及と全容解明を求め、再現実験はそれらの進展を阻害するものだとする幹事会声明を発表。東京大学教授佐倉統も「成功しても第三者が成功しない限り状況は変わらない。失敗しても科学的に『ない』と断言することはできない。余計な混乱を招くだけだ」との見解を示し、池上彰も「悪魔の証明」「ブラックスワン捜し」と問題視した。
6月下旬の段階で理化学研究所にはSTAP細胞をあると考える研究者はもういないと報道されていたが、改革委員会で委員長を務めた岸輝雄東京大学名誉教授7月30日に「(実験をやらせてみて)本人がギブアップするしかない」と述べ、更なる調査でSTAP細胞の存在をさらに疑うような証拠が出ても小保方は存在を否定しないだろうとの認識を示した。また、検証実験のゴールとして「期日を切って、理研として『STAP細胞は存在しない』とならないといけない」との見解を示した。
9月2日、岸輝雄東京大学名誉教授が、論文の著者の小保方晴子氏が進めるSTAP細胞の再現実験が大きな区切りになると強調。11月末に終える実験の結果をもとに、STAP細胞の有無について理研が表明を出すべきだと主張。

研究不正のある特許の行く末

国際特許出願では優先日から30か月以内に、各国の特許機関へ「翻訳版」を提出する「国内移行手続き」経て実体審査に移る必要があり、STAP特許の場合2014年の10月24日までとなる。

論文の疑義に加えて、米国仮特許出願(US 61/637,631)にも疑義が見つかっている。検証委員会は1年かけて調査を行うことになっており、出願人の1人である理化学研究所が検証をできないままに翻訳版を用意するとは考えにくく、特許はそのまま期限を迎えて無効になる可能性が高いと見られている。また、日本では詐欺行為で特許を取得すると刑事罰に問われるが、出願だけでは刑法に問われないとみられている。

6月4日から5日にかけて論文取り下げの報道がなされたが、世界知的所有権機関からは、論文撤回が直ちに出願取り消しに繋がる訳ではなく、取り扱いの判断は各国の特許機関に委ねられるとの見解が示された。

理化学研究所は検証実験の状況を見て今後の対応を検討する方針だが、この特許出願が邪魔な存在になり科学の発展が阻害される懸念が指摘され、外部有識者でつくる理化学研究所の改革委員会も、細胞作製に関する国際特許の出願取り下げを求めている。

脚注

注釈

出典

関連項目