オール電化住宅
オール電化住宅(-でんかじゅうたく)は、調理、給湯、空調(冷暖房)などのシステムを全て電気によってまかなう住宅のこと。
概要
オール電化住宅は、家庭内で用いる全てのエネルギーを電気に統一した住宅である。対義語にはウィズガス住宅がある。
利用される電気機器は主に以下のとおりである。この他電力消費を抑える目的で発電用に太陽電池を設置する場合もある。
- 給湯:エコキュートまたは電気温水器
- 調理:IH調理器(またはラジエントヒーター)
- 冷暖房:エアコン、蓄熱式電気暖房器または床暖房システム(電熱式、PTC式、蓄熱式、またはヒートポンプ温水式)などを組み合わせる。これらの機器は100ボルトの電気では能力不足であることから、一般に200ボルトを使用する。
1980年代後半からモデルハウスの展示が行われるようになる[1]。1990年には時間帯別電灯料金制度が導入された。また、IHクッキングヒーターやエコキュートが登場した。
排気を出さない点から、住宅の高気密化が進む昨今においては、ガス・石油を室内で使用しないことが「安全」「クリーン」であるとして、オール電化設備やオール電化住宅の販売が行われている。火災リスクが少ないメリットから住宅ローンの金利優遇を行う金融機関や、火災保険の特別割引を行う保険会社がある[2]。 また、リフォームの際に一部分のみを電化機器に置き換えるポイント電化[3]を行うケースもある。
火災を嫌う賃貸住宅等に多く採用されている。
ガス業界は、"住まいの原点は「洞窟と火」"、"火を使わないと火の怖さ、火傷することすら分からない子供が出てくるとしたらそれも怖い。"などと、安全性を逆手に取ったPR戦略をとっている[4]。
戸建住宅においては、2007年度より、優秀と認められたオール電化住宅を表彰する「ハウス・オブ・ザ・イヤー・イン・エレクトリック」という表彰制度が創設され、オール電化住宅の普及促進に拍車をかけている(第1回大賞は一条工務店とスウェーデンハウス)。
メリットとデメリット
メリット
- ガスの基本料金が無くなり、基本料金を電気に一本化できる。
- 深夜電力を用いる場合に給湯にかかる光熱費がガスや灯油に比べて抑えられる。
- 災害時や停電時にエコキュートや電気温水器の貯湯タンク内のお湯が使える。(飲料目的には適さない。)
- 新築時にガス配管工事が不要なため、建設コストが抑えられる。
- 裸火を使わないため、炎による火災の危険性が低い。
- 電気調理器具は加熱時に空気を汚さないため換気を必要とせず、高気密高断熱住宅に適している。
- 厨房の場所の制約が少ないため、部屋の中ほどに配置して食卓と一体化させるといった間取りの自由度を高められる。
- IHクッキングヒーターは、掃除が簡単で、油煙による換気扇の汚れも少ない。
- IHクッキングヒーターは、お湯を沸かすのが非常に早く、とろ火でも立ち消えの心配がない。また、鍋そのものを加熱するため、揚げ物をしていても調理人は暑くなりにくい。
- IHクッキングヒーターは、炎が出ていないため上昇気流が発生せず、飛び散る油の量が少ない。また、揚げ物の際にキッチンペーパーで鍋の上にフタをすれば油の飛び散りを抑えられる。
- 火災保険の特別割引やローン金利の優遇制度がある。ただし、油過熱防止装置(Siセンサー)の付いたコンロは一部の火災保険割引対象である。
デメリット
- 行動や時間の自由度が奪われやすい(時間帯別電灯契約、季節別電灯契約)。単価の高い時間帯に冷暖房を節約して健康を害したり、安い電力を使うために夜更かしして家事をするなど行動や時間帯が制約を受ける場合が少なからずある。
- 生活スタイルに合わない電気契約や使い方をすると電気とガスを併用するよりも光熱費が上がる場合がある。
- 機器代が通信販売、訪問販売といった販売方法によって大きく異なる(通信販売と量販店では2~3倍前後)。
- 停電すると家庭内の全ての熱源機器が機能しない。蓄熱暖房器等の蓄熱分は利用できるが使いきりとなる。*電気給湯機の貯湯タンク設置スペースや熱源機が必要。
- エコキュートが瞬間的な湯沸しに適しておらず、深夜電力で沸かした以上のお湯を使用して昼間の沸き増しが追いつかない場合には湯切れを起こす。
- IHクッキングヒーターは電気契約によってはガスより光熱費がかかる。夜間の電気代は割安だが、昼間に電気代はやや高い(時間帯別電灯契約)。よってIHクッキングヒーター使用時間は割高時間であることにも注意。
- IHクッキングヒーターで使える鍋は、鉄、ステンレス、鉄ホウロウ製で、底面形状が平らなものに限られる。銅鍋やアルミ鍋はオールメタルタイプと呼ばれるものであれば加熱が可能であるが、火力は落ちてしまう。また、鍋の底面が接触していないと加熱できないため、鍋振りができない(一部、機種では光温度センサーを搭載し鍋振りできるタイプもある)。
- IHクッキングヒーターに載っているものが加熱中であるかどうかを確認しづらい。火を使わないことに油断し加熱直後の調理台に触れやけどをするケースが発生している。
- IHクッキングヒーターは火による上昇気流が発生しないため、調理に伴い発生する匂いが室内に滞留しやすい。
- IHクッキングヒーターは電源周波数で2.5マイクロテスラ、加熱周波数で0.9マイクロテスラ程度の電磁波を発生させる。この数値は、ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)のガイドライン値(電源周波数で100マイクロテスラ、加熱周波数で6.25マイクロテスラ)を下回っているが、長期間の利用による健康への悪影響を懸念する声もある。
料金体系
オール電化住宅に用いられる電力契約は主に3種類である。深夜時間帯の安い電力を用いる点で共通する。
- 深夜電力:深夜から早朝にかけてのあらかじめ決められた数時間だけ電力を供給する電気契約。電力単価が1kwあたり8~9円程度と安く、契約時間帯が過ぎると回路が遮断され電気が使えなくなるのが特徴。一般家庭で広く利用される従量電灯に加えて利用する場合が多い。主に電気温水器に用いられるが、エコキュート(ヒートポンプ式給湯器)での利用も可能である。(個別の契約内容は各電力会社サイトを参照)
- 時間帯別電灯:時間帯によって電力単価が変わる電気契約。2~3段階の単価が設けられる場合が多い。3段階の場合は深夜時間帯が8~9円前後と最も安く、早朝~10時前後と夕方~真夜中前後が従量電灯並みの23円前後、正午前から午後3時前後までが最も高い30円前後となる場合が多い。一般的なオール電化用の電気契約である。(個別の契約内容は各電力会社サイトを参照)
- 季節別電灯:季節ごとに電力単価が変わる電気契約。時間帯別電灯と組み合わされている場合が多い。夏季数ヶ月間の正午付近の数時間の単価が32円前後と特に高くなるのが特徴。一般的なオール電化用の電気契約である。(個別の契約内容は各電力会社サイトを参照)
主にガス基本料金が無くなることと、季節別時間帯別電灯や時間帯別電灯といったオール電化住宅向け料金プランを活用した特約料金(例として「全電化住宅割引」等)により、光熱費はガスとの併用よりも電気に一本化した方が安くなると電力会社の説明に記されている[5]。
オール電化住宅向け料金プランでは夜間時間帯の料金単価は割安に設定されているが、昼間時間帯の料金単価はやや高めに設定されている。そのため、生活スタイルや家族構成、必要とするお湯の量に合わせたタンク容量の選択や、夜間時間帯にあわせたタイマーの設定など電気使用の意識掛けを必要とする。初期設定のまま利用すると不適切な使い方になる場合が少なくない。
例えば、電気給湯機のタンク容量が小さいと、深夜電力で沸かしたお湯だけでは足りず、割高な深夜以外の電力で沸き増しを行うことになり光熱費が高くなってしまう。また貯湯式であるため、お湯を全く使用しなかったとしても放熱ロスが生じる。※日々変化する給湯需要とのズレは電気式に限らず、貯湯式の給湯器全てが抱える問題である。
環境負荷
- 東京電力は、エコキュートやエアコンといった省エネ性能の高いヒートポンプ機器を給湯や冷暖房に利用すれば、CO2排出量が燃焼機器を使用する場合に比べて十分下回ると説明している。
- エコキュートのカタログ記載COP値の取扱いにおいて、機器単体で能力を計算するのか、配管及び蓄熱ユニットも含めたシステムとして計算するのかによって数値が大きく異なるため、より使用状態に近い省エネルギー性の評価方法として、2008年より「年間給湯効率(APF)」[6]。の表示が行われている。
- これに対して東京ガスはオール電化住宅では住宅でのCO2は発生しないが発電所での排出が増えると主張している[7]。
- 環境NGO気候ネットワークやLPガス協会は、オール電化は火力発電を前提とした場合、ガス併用に比べ二酸化炭素排出が増加し、LOHASや地球温暖化防止に水を差すといった主張を示している[8]。この主張には、LPガス業界と関連の深い政治家にも賛同者が見られる。
- 2008年6月、特定非営利法人「地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)」は「環境面から見たオール電化に関する提言」を発表した。この中でオール電化に用いられる深夜電力に火力発電が多用されているのではないかという疑問を呈している。[9]
社会問題
オール電化の訪問販売トラブルについて、国民生活センターの発表によると、問題点として、1.「光熱費が安くなる」「キャンペーン中でお得」「ガス代がかからない」など経済的メリットばかりを強調し、消費者の冷静な判断を妨げる。2.補助金制度の応募のために契約を急がせる。3.機能についての説明が不足していたり、不適切な機器を勧めている。4.販売業者と連絡がとれなくなる、または業者が倒産するなど、モニター商法のトラブル を挙げた。これらは、一部の悪質業者による訪問販売によるものである。
太陽光発電設備の販売企業により、昼間の電気単価が高い時間帯別電灯の特徴を利用してとの抱合せ販売が多く見られた。固定価格買取制度開始後には電気契約による電気単価に関わらず一定価格(固定価格)で余剰分を売電できるようになったが、開始後にも制度を十分に理解しないまま導入し不適切な電気契約にした結果光熱費が下がらないという問題が少なからず起きている。要出典
公正取引委員会は2008年10月、九州電力の広告について不当表示と認定、同社に排除命令を出した。これは、機器の購入費や設置工事費を考慮するとオール電化料金「電化deナイト」の訴求として表現した「ガス併用住宅と比べて年間約10万円お得」「オール電化住宅ローンを使えば30年間で約350万円も節約」は適切ではないという内容である。[10]
脚注
- ↑ 例えば、三洋ホームズ株式会社のホームページによれば、1988年に関西初のモデルハウスを出店した。
- ↑ キレイライフ(九州電力))
- ↑ 一部屋、あるいは調理器など一つのシステムだけを電化すること。北海道電力ホームページより
- ↑ 2008年7月2日ガスエネルギー新聞[1]
- ↑ 東京電力ホームページより
- ↑ 社団法人日本冷凍空調工業会ホームページより
- ↑ ガス併用とオール電化(東京ガス)
- ↑ 神奈川県LPガス協会
- ↑ http://www.bnet.ne.jp/casa/teigen/paper/080619all_denka_saisyuu.pdf
- ↑ 九州電力株式会社に対する排除命令について 公正取引委員会 2008年10月15日
関連項目
外部リンク
このページはウィキペディア日本語版のコンテンツ・オール電化住宅を利用して作成されています。変更履歴はこちらです。 |