司法試験 (日本)
司法試験(しほうしけん)は、日本における法曹資格付与のための試験の1つであり、平成14年法律第138号(司法試験法及び裁判所法の一部を改正する法律)による改正後の司法試験法に基づいて行われる資格試験。2011年(平成23年)までの試験制度移行期間中は、旧司法試験と区別するために「新司法試験」と呼ばれていた。新旧司法試験の併行実施が終了したことに伴い、2012年(平成24年)から「新司法試験」ではなく「司法試験」となった。
目次
弁護士業界、苦しい台所事情「司法改革で三重苦」
成年後見人制度を悪用して現金をだまし取ったとして詐欺容疑で逮捕された弁護士、島内正人容疑者(66)=北九州市小倉北区=は、九州弁護士会連合会理事長を務めた経験もあるベテラン弁護士だった。島内容疑者は逮捕前、福岡県弁護士会の調査に「理事長の業務や病気で収入が減り、事務所経営に行き詰まった」と話したが、同業者たちからは弁護士増員を柱とした司法制度改革に伴う業界の変化が背景にあるとの指摘も出ている。
「仕事を依頼しているが返金されるのか」。福岡県弁護士会には島内容疑者に仕事を依頼していた顧客からの相談が相次ぎ、総額は約1億円になるという。弁護士会はこのうち、返金の見通しがない案件がどれほどになるのか、実態を調査している。
「実績がある人」「今回のような事件から最も遠いイメージのある人物」。島内容疑者逮捕について、北九州市の弁護士は一様に驚く。「収入が減った」とする島内容疑者の説明について、市内の50代の弁護士は「彼の本音だと思う。弁護士は自営業者。役職に就けば会議などに追われるし、病気で仕事ができなければ収入はなくなる」と話す。
1999年にスタートし、法曹人口の充実などを柱とした司法制度改革で、弁護士が増加したことも要因の一つに挙げる弁護士も多い。日本弁護士連合会によると、全国の弁護士は3万2088人(2012年3月末現在)と、10年前の1.7倍に増えた。
一方、2006年ごろから消費者金融に払い過ぎた利息を取り戻す「過払い金返還請求訴訟」が全国的に相次いだが、今ではこうした案件も収束。弁護士への相談案件が減少しているという。
2003年には依頼者に代わって簡易裁判所に訴訟手続きをする権限が弁護士だけでなく司法書士にも認められ、競争に拍車がかかった。弁護士からは「仕事の取り合いが現実」との声も漏れる。
日弁連によると、全国の弁護士の年間平均所得(2010年)は約1400万円で、2000年の約1700万円から約18%減った。北九州市のある弁護士は「年収はピーク時の8割。昔は経営なんて考えなくても『仕事をしてれば事務所は回る』という感覚だったが、そうもいかない」とため息をつく。「一時的に収入が落ち込んだ時、顧客から預かった金を一時的に流用し、後で穴埋めをする。島内さんはそういうつもりだったが、気づくと返せない額になっていたのでは」と話した。
別の弁護士は「弁護士の増加と仕事の減少、司法書士の参入で三重苦だ」と語った。
被害相談1億円
福岡県警によると、島内容疑者の逮捕容疑は10月31日、北九州市内の女性(65)の成年後見人を務める弟(61)に「裁判所の指示でNPOにお金をすべて預け替えることになった」などとうそを言い、弟が管理する女性の現金約1800万円をだまし取ったとしている。福岡県弁護士会は、島内容疑者がこの女性から総額4400万円をだまし取った可能性があるとして調査している。
依頼人から小切手6000万円分詐取の弁護士逮捕(2012年11月)
債務整理を委任した依頼人から額面6000万円分の小切手をだまし取ったとして、大阪府警天満署は11月15日、大阪弁護士会所属の弁護士、田中英一(64)=大阪市西区江戸堀1=を詐欺容疑で逮捕した。同署によると「(小切手を)預かったのは間違いないが、だましていない」と容疑を否認している。
逮捕容疑は2005年12月~06年2月上旬、会社役員の男性(65)から債務整理の依頼を受け、男性が自宅売却で得た6000万円の小切手を「(弁済相手の)整理回収機構との間で話がついた。返済しておく」と嘘を言って受け取り、実際は返済に充てずに詐取した疑い。
同署によると小切手は田中の借金返済に流用されていた疑いがあり、使途などを調べる。整理回収機構が男性の自宅が売却されているのに気付き、売買契約無効の民事訴訟を起こしたことから発覚。その後3000万円は男性に返済されたが、男性が2012年9月、刑事告訴していた。
就職できない! 食えない! 会計士、税理士、弁護士・・・「士業」総崩れ
かつては試験は難関だが、合格すれば高額な報酬を得られると人気だった公認会計士や税理士、弁護士といった「士業」が「総崩れ」している。
たとえば、公認会計士試験は2006年に社会人など多様な人材の受験を促すため、大幅に簡素化したものの、資格を得るために必要な、肝心の就職先が見つからない。「旗振り役」だった政府もさすがに掲げた合格者目標などを見直さざるを得なくなっている。
日本弁護士連合会によると、弁護士の人数は現在3万2088人(2012年3月末)。公認会計士は3万2985人(13年3月末、、日本公認会計士協会調べ)。税理士は7万3725人(同、日本税理士会連合会調べ)となっている。
ちなみに、司法書士は2万0670人(12年4月1日時点)。行政書士は4万2177人(同)いる。行政書士を除き、どの「士業」もこの10年は増加傾向にある。
そうしたなか、景気低迷の影響もあって、就職できない「サムライ」が増えていて、問題視されている。たとえば、公認会計士が最終的に資格を手にするためには2年以上の実務経験が必要。
ところが、一般企業で会計士試験の合格者を採用する割合はきわめて低い。試験に合格したからといって就職に有利に働くこともなく、監査法人にも就職できない合格者は就職先が見つからず、そのために資格も得られないという人が増加。事態は深刻化している。
「週刊エコノミスト」(2013年4月16日号)は、「食えない税理士・会計士」を特集。そこでは、「税理士によって得意分野がある」ことが指摘されていて、取材を受けた税理士が相続申告などでのミスが少なからずある、と証言している。
企業会計では、公認会計士は大手企業の法定監査と税務申告が主たる業務。それ以外の登記法務や行政法務、税務などは税理士や司法書士、行政書士が業務を行える。大手企業の法定監査以外の会計税務の多くは税理士が請け負っているので、そう考えるとそもそも公認会計士を増やしても仕事が増えるわけではなかった。
もちろん、公認会計士が税理士の仕事(登録が必要)をできないわけではない。つまり、「士業」同士で仕事の奪い合いが起こっていて、どの「サムライ」も仕事を確保するのに躍起になっているようなのだ。
弁護士も例外ではない。日本弁護士連合会によると、2012年12月に司法研修所を卒業した2080人のうち、裁判官や検察官になる人を除いて、約540人がこれまでに弁護士会に登録しなかった。全体の4人に1人にのぼり、これまでに最多だったという。
弁護士事務所に就職したり独立して事務所を開いたりできず、入会金や会費を払えないために弁護士会への登録をあきらめた人が多いのではないか、と日弁連はみている。
日弁連はこれまでも「司法試験の合格者数が多すぎる」と訴えてきたが、政府も司法試験の合格者数を「年3000人程度」とした目標の撤廃や法科大学院の統廃合など、是正に向けて検討に入っている。
ただ、「士業」を取り巻く厳しい環境は「就職難」だけではない。今後ますます「食えなくなる」背景には環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)がある。
日本税理士会連合会は、「日本経済の発展に資するものであるなら異論はない」との立場だが、一方でTPPの協議で税理士制度の自由化が対象になることを懸念している。
会計士や税理士、弁護士の「自由化」は、TPP加盟国同士が自国の国家資格の保有者が互いに活動することを認め合う。言語の壁などがあるものの、米国の弁護士が日本で訴訟活動ができるようになるかもしれない。会計士や税理士も同様だ。
もちろん、逆に日本の公認会計士が海外で活躍できる可能性もあるわけだが…
概要
司法制度改革の一環で、法曹人口の増加と一層の専門性化を図るべく、法曹養成制度の改革が行われ、専門職大学院である法科大学院の設置および司法修習の制度変更とともに、司法試験の試験内容・方式も変更された。
司法試験(新司法試験)は、平成18年度から開始され、平成18年から平成23年までの制度移行期(移行期間)においては、新司法試験と従来の制度による司法試験(旧司法試験)とが併存していた。司法試験の移行期間においては、原則として新司法試験か旧司法試験のどちらか一方を選択して受けなければならなかった。
司法試験に合格した者は、司法修習を行い(最高裁判所により司法修習生に採用されることが必要)、さらに司法修習の最後にある司法修習生考試(いわゆる二回試験)を通過することで法曹(裁判官(判事補)、検察官(検事)、弁護士)になることができる。
司法試験の受験資格
司法試験を受験するためには、法科大学院課程を修了、または、司法試験予備試験の合格のいずれかが必須条件である。
法科大学院を修了した者は、その修了日後の5年度内に3回の範囲内で司法試験を受験することができる。
試験制度移行期間中は法科大学院を修了していなくても受験できる旧司法試験が併存していたが、現在は旧司法試験が廃止されたため、法科大学院を修了していない者は、予備試験に合格して司法試験の受験資格を得ることになる。この予備試験は、法科大学院の課程を修了した者と同等の学識及びその応用能力並びに法律に関する実務の基礎的素養を有するかどうかを判定することを目的とする試験である。予備試験合格日後の5年度内に3回の範囲内で司法試験を受験することができる。 受験資格が消滅した場合、法科大学院を再び修了するか、予備試験に合格すると再び受験することができる。
3回の受験制限規定においては、法科大学院修了前2年間の旧司法試験の受験についてもカウント対象となる。
司法試験の制度の概要
司法試験は、短答式による筆記試験(短答式試験)及び論文式による筆記試験(論文式試験)から構成される。旧司法試験とは異なり口述試験はない。
短答式試験
短答式試験は、法曹となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうかを判定するために行われる試験であり、予備試験の実施に伴い、平成23年度以降は5月下旬の試験の最終日に行われている。
旧司法試験とは異なり、絶対的評価(各科目とも満点の40%以上が必要で、総合で満点の約65.7%以上が必要(2008年))により短答式試験の合否が決定される。
司法試験の受験者は全員論文式試験を受験できるが、短答式試験に不合格の者については論文式試験の答案は採点されない。
マークシートを用いて行われる試験である点、試験中の参照物は認められない点は旧司法試験と同様である。
- 科目 合計350点
- 公法系科目(憲法及び行政法)1時間30分 100点 40問程度
- 民事系科目(民法、商法及び民事訴訟法)2時間30分 150点 75問程度
- 刑事系科目(刑法及び刑事訴訟法)1時間30分 100点 40問ないし50問程度
論文式試験
論文式試験は、法曹となろうとする者に必要な専門的学識並びに法的な分析、構成及び論述の能力を有するかどうかを判定するために行われる試験である。日程は、5月下旬の3日間。
- 公法系科目 1問2時間 問題数2問 問題1問につき100点配点の計200点満点
- 民事系科目 1問2時間 問題数3問 問題1問につき100点配点の計300点満点
- 刑事系科目 1問2時間 問題数2問 問題1問につき100点配点の計200点満点
- 選択科目 問題数2問3時間 計100点満点
以上の問題数及び点数で、文章で解答する形式で行われる。
選択科目は、
の8科目から1科目を選択する。
法律上の論点を含む比較的長めの事例(何ページかにわたる資料が付いている場合もある。)が与えられ、それに対する法的判断を問われるものが中心である。
参照物として、「司法試験用法文」とよばれる最小限の条文のみが記載された小型六法が貸与される。
論文式試験においても最低必要点が設定されており、1科目でも満点の25%に満たない場合には不合格となる。
合格判定
短答式試験の合格者の中から論文式試験のみで不合格となった者を除外した上で、短答式試験の成績と論文式試験の成績を総合評価して合格者を決定する。
短答式試験と論文式試験の比重は1:8(2009年の試験から実施。2006年から2008年は1:4)とし、判定に当たっては論文式の点を調整し1.75倍したものに短答式の素点の2分の1を加算して判定する。
合格発表以降
合格発表は、ここ最近は9月第2木曜日になされる。合格者は、司法修習生に採用された後、11月下旬より約10か月間の実務修習を受ける(平成18年度(新60期)のみ、1か月程度の導入研修(実務修習前集合修習)が行われた)。このうち8か月間は、民事裁判修習、刑事裁判修習、検察修習、弁護修習にあてられる。残りの2か月間は、選択型実務修習として、司法修習生各人の希望を踏まえ、総合的な法曹実務を修習することとなる。その後、2か月間、最高裁判所付属の司法研修所(埼玉県和光市)で集合研修を受ける(修習生によっては選択修習と集合修習の順序が逆になる)。そして、裁判所法67条1項の国家試験(司法修習生考試)を受け、これに合格すれば法曹となる資格を得る。
試験結果
年度 | 受験者 | 合格者 | 合格率 | 修習期 |
---|---|---|---|---|
平成18年度 | 2,091 | 1,009 | 48.25% | 新60期 |
平成19年度 | 4,607 | 1,851 | 40.18% | 新61期 |
平成20年度 | 6,261 | 2,065 | 32.98% | 新62期 |
平成21年度 | 7,392 | 2,043 | 27.64% | 新63期 |
平成22年度 | 8,163 | 2,074 | 25.41% | 新64期 |
平成23年度 | 8,765 | 2,063 | 23.54% | 新65期 |
平成24年度 | 8,387 | 2,102 | 25.06% | 66期 |
平成18年新司法試験受験回数調(平成18年9月26日付け法務省大臣官房人事課作成)によれば、平成18年司法試験(新司法試験)においての受験回数別内訳(旧司法試験受験を含む)は、1回目が1669名、2回目が402名、3回目が20名で合格者は1回目が748名、2回目が247名、3回目が14名。少なくとも6名の者が受験回数制限により司法試験本試験の受験資格を喪失したことが推定される。
2007年(平成19年)の司法試験(新司法試験)の既修・未修の別は、出願者既修2885名、未修2516名に対し合格者は既修1216名、未修635名であった。受験回数別内訳(旧司法試験受験を含む)は、1回目が4061名、2回目が1197名、3回目が143名であり、合格者は1回目が1250名、2回目が525名、3回目が76名であった。
2007年6月22日に司法試験委員会は合格者数の目安として、2008年は2100~2500人、2009年は2500~2900人、2010年は2900~3000人とすることを発表した。しかし、2009年の合格者数はこの目安を大きく下回った。
合格者の内訳をみると、新卒の既修者についてはおおむね5割前後の合格率を各年とも維持しているが、新卒未修者の合格者は2割強、既卒者の合格率は2割弱となっており、回が進むに連れて相対的に合格率の低い既卒者の受験者全体に占める割合が増加していることが全体の合格率の低迷の一因にもなっている。
合格者平均年齢はおおむね28歳後半となっており、男女比はおおむね3:1で推移している。
司法試験予備試験
- 詳しくは、「司法試験予備試験」を参照のこと。
司法試験予備試験は、旧司法試験の廃止に伴って、2011年以降に実施されている試験。法科大学院を修了せず司法試験を受験するには予備試験の受験が必要。受験制限は無く、旧司法試験と同じく短答・論文・口述の3種を受験する。合格すると司法試験の受験資格を得られる。予備試験に合格して得た司法試験の受験資格についても、法科大学院修了者と同じく、司法試験3回の不合格もしくは司法試験受験資格取得後5年間経過で失われる。
科目は短答式が憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法、一般教育科目の8科目、論文式が憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法、一般教育科目、法律実務基礎科目の9科目、口述が法律実務基礎科目。
司法試験におけるトラブル
本試験類似論点出題問題
- 2007年度新司法試験漏洩問題を参照。
試験運営上のトラブル
- 2009年5月に実施した新司法試験の広島会場(広島国際大学国際教育センター)で、試験が定刻より1分早く終了するトラブルがあった。受験生が、試験監督官に詰め寄る事態となった。監督官がストップウォッチを見誤ったことが原因と見られ、司法試験委員会は、受験者69人について、3点を加算する救済措置を取り、うち1人が追加合格になった。
- 2011年5月に実施した短答式試験刑事系科目で、東京都試験地サンシャインシティ・コンベンションセンターTOKYOの試験室(受験者301名)において、監督員が試験終了時刻の1分前に試験の終了を告げたことにより、適正な試験時間の確保がされなかった。同年6月1日に開催された司法試験委員会において、これに関する措置として、上記試験室で受験した受験者全員につき、短答式試験刑事系科目の得点として3点を加算することが決定された。