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側構は、鉄道車両の左右部分である。近代的なモノコック構造の車両では、台枠と一体となって強度を負担している<ref name="鉄道車両ハンドブック_190-192"/>。窓より下の外板を腰板、窓より上の外板を幕板という<ref name="鉄道車両ハンドブック_190-192"/>。かつては側構の窓部分の開口による強度不足を補うために、[[ウィンドウ・シル/ヘッダー]]という帯状の補強構造物が窓の上と下に取り付けられていた<ref name="車両研究_81"/>。ビードやコルゲートといった表面加工が見られる車両もある<ref name="車両研究_63-69"/>。 | 側構は、鉄道車両の左右部分である。近代的なモノコック構造の車両では、台枠と一体となって強度を負担している<ref name="鉄道車両ハンドブック_190-192"/>。窓より下の外板を腰板、窓より上の外板を幕板という<ref name="鉄道車両ハンドブック_190-192"/>。かつては側構の窓部分の開口による強度不足を補うために、[[ウィンドウ・シル/ヘッダー]]という帯状の補強構造物が窓の上と下に取り付けられていた<ref name="車両研究_81"/>。ビードやコルゲートといった表面加工が見られる車両もある<ref name="車両研究_63-69"/>。 | ||
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+ | ==== 妻構 ==== | ||
+ | 妻構は、鉄道車両の前後部分である。車体の端を垂直に切り落としたような構造の場合を切妻といい、そのうち両側を削った構造の場合を折妻といい、それ以外の場合曲面妻という。構体両端部を閉じる構造を形成して強度上重要な部分を受け持っている<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_101-102"/>。 | ||
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+ | 隣接車両と連結して旅客や乗務員の通り抜けが必要とされる場合には、中央部に貫通路が設けられる。また先頭車や機関車の場合は、窓を構成してフロントガラスをはめ込み運転台とする。貫通路と運転台を両立した貫通運転台構造もある<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_101-102"/>。 | ||
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+ | 特急用の車両の場合などは、先頭部分の形状は特に外観を重要視して設計することがあり、複雑な形状となる<ref name="知りつくす_124"/>。高い位置に運転台を設置する高運転台構造は、視認性をよくし、踏切事故などでの運転士への危険を防ぐなどの目的がある<ref name="知りつくす_124"/>。高速車両などでは[[流線形車両|流線形]]が採用されることもある<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_101-102"/>。 | ||
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+ | 運転台がある場合には、前灯、尾灯、ワイパーなどが設置される。貫通路がある場合は貫通幌などが設置される。また貫通路のある中間車の場合は貫通路の両側に妻窓が設けられることがある<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_101-102"/>。 | ||
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+ | ==== 屋根構 ==== | ||
+ | 屋根構は、車両の天井・屋根部分を構成している。前後方向に長桁が、左右方向には垂木が骨組みとして組み込まれている<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_102"/>。冷房付きの車両では、[[室外機]]を屋根の上に搭載することが一般的で、これは重量が大きいため設置位置をあらかじめ検討してその重量に耐えるだけの強度構造とする<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_102"/>。また、冷房は車内と車外を貫通して取り付けることが多いため、その場合は大きな開口部を設置することになり、この点でも強度上の配慮が必要となる<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_102"/>。この他、車内側の天井や冷房風道、照明の灯具、車両補修の作業者が屋根の上を歩くときに使うランボード、雨水が垂れることを防ぐ雨どいなどが設置される<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_102"/><ref name="車両研究_78-80"/>。 | ||
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+ | ==== 運転台 ==== | ||
+ | {{Main|操縦席}} | ||
+ | 機関車や電車・気動車の先頭車両などには、機関士・運転士が運転を行うための運転台(運転室)が設けられる<ref name="鉄道用語事典_運転台"/><ref name="鉄道車両ハンドブック_270-271"/><ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_175"/>。一般に妻面に設置されるが、機関車の中には機器の配置の都合でセンターキャブと呼ばれる車体中央付近に運転台を配置した構成も見られる<ref name="鉄道車両ハンドブック_136"/>。 | ||
+ | |||
+ | 運転台は、車両の全幅に渡って設置される場合と、半分ほどの幅になっている場合がある<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_175"/><ref name="車両研究_249-252"/>。運転室は運転士が乗務するだけでなく、車掌やその他の客室乗務員などが乗務するスペースともなる<ref name="鉄道車両ハンドブック_270-271"/>。貫通式の運転台と呼ばれるものは、運転台の位置が列車の先頭や末端ではなく他の車両と連結されて中間になった時に、旅客や乗務員が車両間を移動できるように中央部に貫通路を設けることができる構成になっているものである<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_175"/><ref name="車両研究_249-252"/>。貫通路を設置できない運転台は非貫通運転台という<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_175"/><ref name="車両研究_249-252"/>。 | ||
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+ | 実際に運転士が座る席は、車体中央に設置される場合と、左右どちらかに偏って設置されている場合がある<ref name="鉄道車両ハンドブック_270-271"/><ref name="車両研究_249-252"/>。自動車ではそれぞれの国の道路の進行方向に応じて、左側通行の国では右側に運転手席を配置するのが一般的であるが、鉄道の場合は進行区分との関係は必ずしもなく、左側通行が原則の日本では[[鉄道信号機|信号機]]が左側に立てられていることが多いことから、信号機を見やすい左側に席を配置することが多い<ref name="鉄道車両ハンドブック_270-271"/><ref name="車両研究_249-252"/>。[[閉塞 (鉄道)#タブレット閉塞式|タブレット閉塞]]の区間ではタブレットの取り扱いに便利な側に設置したり、[[ワンマン運転]]を前提に[[プラットホーム]]のある側に配置したりする例がある<ref name="車両研究_249-252"/>。 | ||
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+ | 自動車のアクセルに相当するのは主幹制御器([[マスター・コントローラー]]、マスコン、[[路面電車]]など直接制御の車両の場合は直接制御器(ダイレクトコントローラー)<ref name="鉄道車両ハンドブック_46-47"/>)である<ref name="鉄道車両ハンドブック_271-272"/><ref name="車両研究_248"/>。自動車と違い手で操作する<ref name="車両研究_248"/>。縦方向の軸を中心に水平に回転させて操作するものと、横方向の軸を中心に垂直に回転させて操作するものがある<ref name="車両研究_248"/>。また、ブレーキハンドルと一体化したワンハンドルマスコンもある<ref name="車両研究_248"/>。ワンハンドルマスコンにおいては、押して走らせるものと引いて走らせるものとの両方がある<ref name="電車のはなし_129-131"/>。マスコンを左手で操作するか右手で操作するかは同じ鉄道事業者の中でも統一されておらず、車種によって様々である<ref name="鉄道車両ハンドブック_271-272"/>。 | ||
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+ | ブレーキを操作するのはブレーキハンドルであり、これも手で操作する。機関車では、機関車のみに作用する単弁(単独ブレーキ弁)と列車全体に作用する自弁(自動ブレーキ弁)が別々に存在する<ref name="鉄道車両ハンドブック_271-272"/>。 | ||
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+ | このほかに、[[警笛]]を鳴らすペダル、[[自動列車停止装置|ATS]]に代表される[[自動列車保安装置]]の取り扱い装置、前灯やワイパーのスイッチ、速度計、圧力計、電圧計、各種の状態表示ランプ、[[列車無線]]の送受話器、時刻表差し、車内放送のマイク、[[車掌スイッチ]]などが設置されている<ref name="しくみ_108-112"/><ref name="車両研究_247"/><ref name="鉄道車両ハンドブック_272-277"/>。最近の車両では、モニタを運転台に設置して車両の状態を表示し、また[[タッチパネル]]式の[[入力機器|入力装置]]により簡単な点検作業や車内の空調温度設定など様々な作業が運転台からできるようにされている<ref name="車両研究_242-246"/>。 | ||
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+ | 運転台は前面衝突の際に最初に巻き込まれる場所であるので、運転士の保護に配慮した設計がなされる。主に想定される衝突事故は[[踏切]]における障害物との衝突であり、前頭部はその衝突に耐えられるように強化されている。また運転士の座る位置を高くすることで、車体下部に障害物を巻き込んだ際の影響を抑えている<ref name="鉄道車両ハンドブック_193-194"/>。クラッシャブルゾーンを設けて衝撃を吸収する構造になっているものもある<ref name="E231系"/>。 | ||
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+ | 運転台はすべての車両に設置されているわけではない。機関車のほとんどには両端に運転台が設置されているが、センターキャブの機関車では両側へ進行するときに兼用される運転台が中央に1つ設置されている。また、主に北アメリカでは[[Bユニット]](あるいはブースター)と呼ばれる運転台を持たない機関車が用いられており、これは運転台を備えている[[Aユニット]]と連結してそこから制御されることを前提にしている<ref name="鉄道車両ハンドブック_136"/>。 | ||
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+ | 電車は、その形式が長編成を組むことを前提にしている場合には、中間車として設計された車両には運転台が設けられない<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_108-111"/>。これは気動車も同様であるが、長編成を組むような路線では電車が用いられることが多く、気動車が投入される路線では編成が短いこともあり、中間車として運転台を持たずに設計・製造される気動車の数は電車に比べて少ない<ref name="鉄道車両ハンドブック_150-151"/>。運転台を設けた車両を制御車、設けていない車両を中間車という<ref name="鉄道用語事典_制御車_中間電動車"/>。 | ||
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+ | 客車は動力がないため運転台も設置されないのが普通であるが、機関車を末端に連結して列車全体を後押しする形で運転する時に、先頭部の客車に設けた運転台から運転する形態があり、その場合には運転台が設置される。そうした客車を制御客車という<ref name="鉄道の地理学_69-70"/>。 | ||
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+ | 1両の車両の両端に運転台が設けられている場合を両運転台、片方にだけ設けられている場合を片運転台という<ref name="鉄道車両ハンドブック_150-151"/>。 | ||
== 狭義の「鉄道車両」 == | == 狭義の「鉄道車両」 == |
2022年12月24日 (土) 01:49時点における版
鉄道車両(てつどうしゃりょう)は、線路またはそれに準ずる軌道の上を走行する車両である。
目次
定義
鉄道車両は、線路またはそれに準ずる軌道の上を走行し、鉄道の列車を運行するために用いられる車両である[1]。国によって鉄道に関連する法規は異なっているため、鉄道車両の厳密な定義は不可能である。また、法規による規定と一般的、技術的な概念とが異なる場合もある。日本の法規上は、本線上を列車として走行するための車両で、所定の手続きに則った車籍を有する車両である。よって、モーターカーや貨車移動機といった作業用の車両などは、法規上の正式な鉄道車両に分類されていないことも多く、本線上を走行する場合は線路閉鎖の手続きを行う必要がある。[2]。
本項目では、一般に公開されて旅客や貨物の輸送を行う鉄道で用いられている鉄道車両について説明する。
特徴
鉄道車両は、線路に沿ってのみ運行することができるという点が、自動車など他の交通機関と異なっている点である[1]。航空機や自動車などと異なり、多くの車両を連結して同時に走らせて大量輸送をすることができる。これは線路の上を走ることから各車両での舵取りが不要であるという特性からきている[1][3]。
さらに他の交通機関と異なる大きな特徴として、蒸気機関車や単端式気動車の後退時やプッシュプル方式以外の機関車牽引列車の推進運転など一部の例外を除いて、双方向に同じように走ることができるという点が挙げられる。通常の航空機は飛行中に後退することができない。また多くの船や自動車では後退時の性能は前進時に比べて制限されており、基本的には向きを変えて常に前進で使用されることが前提である。これに対して鉄道車両は、どちらの向きにも同様に走ることができ、最高速度を出すことができる。双方向に同様に性能を発揮しなければならないという条件は設計上の強い制約となっており、鉄道車両の前後対称に近い形にも影響している[4][5][6][7][8]。
車種による分類
鉄道車両は、動力の有無、搭載するのが旅客か貨物か、動力の配置の仕方などで様々に分類される[9]。まず大きく分けると旅客車、機関車、貨車の3つに分類することができる[10]。日本標準商品分類でも車両(軌条上を走行するもの)は機関車(分類番号461)、旅客車(分類番号462)、貨物車(分類番号463)に分類される(このほか分類番号468以下に車両部品がある)[11]。また、これ以外に事業用車を分類することもある[12]。
なお、車種以外に用途や設備により分類することができるが[10]、これについてはそれぞれ旅客車・機関車・貨車・事業用車を参照。
旅客車
旅客車は、鉄道車両のうち主に乗客を乗せるための車両である[13]。動力を有している車両と有していない車両がある[13]。どちらの車両でも、接客のための設備はおおむね共通した構造を有している[13]。動力集中方式に分類される旅客車として客車が、動力分散方式に分類される旅客車として電車と気動車が存在する[13]。近年では、ハイブリッド車やEDC方式の登場により、電車と気動車双方に分類される車両も増えている。
郵便物を輸送する郵便車や、乗客の手荷物を輸送する鉄道手荷物輸送(チッキ)において荷物を搭載するための荷物車も、一般に旅客車として分類されている[13]。
電車
電車は、動力分散方式の旅客車のうち、電力によってモーターを回して走行する車両である[13]。モーターによって走行する動力車(電動車)と、自力では走行できずに電動車に牽引・推進されることで走行する付随車が存在する[13]。搭載している電池の電力によって走行する方式も電車であるが、架線や第三軌条など線路に設置された給電設備から電力の供給を受けて走行することが一般的である[14]。一方、搭載している熱機関によって発電してその電力でモーターを駆動する方式は、気動車に分類されていた[13]が、ハイブリッド車両などの登場により電車としても気動車としても分類されるようになっている[15]。
効率の良い発電所において電気エネルギーを発生させて、それを外部から受け取って走行することのできる電車は、走行エネルギーのもととなる燃料や重く効率の低い原動機を搭載しなければならないその他の方式の車両に比べて重量当たりの性能が高く効率が良い。一方で、線路に沿って電力を送るための変電所や架線・送電線を整備しなければならず、これに費用がかかる。こうしたことから、輸送量が多く列車本数が多い線において電気運転方式が有利となる[16]。また電車列車は動力のある車輪(動輪)の割合が高いため加速度を大きくでき、機関車のように特に重量の集中する車両がないことから線路への負担が軽く、折り返しや列車の分割・併合の利便性が高いなどの利点がある。一方で、各車両に動力があることから騒音や振動など乗り心地面で不利で、動力装置の数が増えることから費用的にも不利といった欠点がある[17]。
もともと電車は乗り心地の難点から長距離運転には向かないとされてきたが、技術革新の結果長距離列車においても用いられるようになってきている。都市交通では世界的に電車の普及が著しく、特に路面電車や地下鉄で用いられる車両はほとんどが電車である。一方、長距離でも広く電車が普及しているのが日本の鉄道の特徴であるとされている[17][18]。また、モノレール、案内軌条式鉄道(新交通システム)、トロリーバス、索道(ロープウェイ)、鋼索鉄道(ケーブルカー)、磁気浮上式鉄道なども多くは電車の範疇に含まれる[19]。
日本では殆どの人口密集地で電車が普及している事から、気動車や客車を含めた鉄道車両のすべてを「電車」と呼ぶ風潮がある[20]。
気動車
気動車とは、旅客車・貨車・事業用車に熱機関を搭載してその動力により走行する車両である[21]。外燃機関である蒸気機関を動力とする車両は蒸気動車と呼ばれ、それ以外の内燃機関で走行する気動車を区別する時は内燃動車と称する[22]。内燃動車において用いられる機関としてはディーゼルエンジン、ガソリンエンジン、ガスタービンエンジンなどがある[23]。現代では一般的には、大出力を容易に得られ燃費のよいディーゼルエンジンが気動車の原動機として用いられている[24]。ディーゼルエンジンを用いた気動車のことをしばしばディーゼル動車あるいはディーゼルカーと呼ぶ[25][26]。
内燃機関を動力とする場合は通常、エンジンで直接車輪を駆動することはできず、何らかの方法で変速する必要がある。機械的な変速機を使う場合を機械式、トルクコンバータを使う場合を液体式、一旦発電して電力でモーターを駆動する場合を電気式という[27]。ただしガスタービン動車の場合、低速でも充分なトルクがあることから変速機を介しない場合がある[28]。
気動車においても動力車と付随車が存在する。高出力の機関を少数の車両に配置して残りの車両を付随車にする方式(「集中式」および「分散集中式」)と、低出力の機関をすべての車両に分散配置する方式(「完全分散式」)とがある。一般に、高出力機関を少数車両に配置する方式が、車両の重量や新製・保守費用などの点で優れている。しかし、短い編成で運転する場合や列車の分割・併合を行う場合の都合や、機関を搭載していない車両における冷暖房の問題などから、世界的に各車両に分散する方式が主流となっている[29]。
気動車は、電車と比較した場合、変速機やエンジンの機構が複雑で経費が嵩む。また、電車が動力の変換装置を持っているだけなのに対して、燃料自体を搭載してその動力への変換を行うことから、重量が大きくなり重量あたりの性能で劣っている。一方で地上側に電力を供給する膨大な設備を設置する必要がないというメリットがあるため、地方の閑散路線などでの運行には、電車より気動車の方がコスト面で適している[30]。
客車
客車という言葉は、広い意味では旅客車を表すこともあるが[31]、狭い意味では動力集中方式における旅客車を指す[32]。この意味では、客車は自身に動力装置を持たず、他の車両に牽引・推進してもらって走行する、主に旅客を乗せるための車両である[33]。動力装置は搭載していないが、ブレーキについては鉄道の草創期の旧式な車両を除けば装備している[34]。機関車により推進して運転する時に用いるための運転台を備えている車両もある[35]。また、車内の照明や空調に用いるための電力を供給する発電機を搭載していることもあり、安全に走行して旅客に快適な旅を提供するために、必要な様々な機械類が搭載されている[33]。
客車は、動力装置を搭載していないため製造・保守の経費が安く、また車内に対する騒音・振動などの面で電車や気動車に比べて有利である。一方で、動力集中方式となるため加減速度や機動性の点では不利となる。このため長距離を走行し停車駅が少なく、車内環境を重視するような、長距離優等列車や特に夜行列車などにおいて用いられる[36]。
機関車
機関車は、動力集中方式の客車や貨車を推進・牽引して走行するための動力車である。機関車自体には動力装置とそれを運転するための運転台のみがあるのが普通で、旅客や貨物を搭載するための設備は備えていない[37]。また動力装置以外に、客車に対する暖房用の蒸気発生装置を搭載していたり、客車の照明・空調用の電源装置を搭載していたりする[33]。
機関車は、その動力方式でさらに蒸気機関車、電気機関車、内燃機関車の3つに大別できる[37]。それ以外にも1970年代にはアメリカ(M-497)、ソビエト(高速走行実験鉄道車両 )のようなジェットエンジンによる推力を利用するターボジェット・トレインも試作されたことがあった。ガスタービンで鉄輪を駆動するガスタービン機関車とは違い、排気推力を使うため、車輪は直接駆動しない[38]。
蒸気機関車
蒸気機関車は、蒸気機関を原動力として走行する機関車である。近代的な交通機関として鉄道が実用化された当初から用いられてきた機関車である。燃料を燃やし、その熱によって蒸気を発生させて、蒸気機関を駆動する。現実に存在したほとんどの蒸気機関車はレシプロ式で、ピストンの往復運動をクランクで車輪の回転運動に変換して走行していた[39]。このほかに蒸気タービン式や、発電してモーターで走行するものなどがあった[40]。
一般には燃料として石炭を用いるが、外燃機関であるため燃えるものであればほとんど何でも燃料として使用でき、コークス、木材、重油、泥炭などが用いられることもある。またサトウキビの生産が盛んな地方では、その絞りかすのバガスを燃料にしたり、変わったものとしてスイスにはかつて、架線から電気を集電し、その電力で電熱器により蒸気を作って走る電気式蒸気機関車が存在していた[41]。原子炉で蒸気を発生させて走行する機関車も設計されたが、実用化された例はない[42]。
無火機関車は、鉱山や火薬工場などの火気を嫌う場所で用いられる特殊な蒸気機関車で、外部に設置したボイラーからの蒸気の供給を受けて搭載している蒸気タンクに蓄積し、タンクに蒸気が残っている間だけ自走できるものである[41]。
蒸気機関車は、製作費が安く線路側の設備もあまり必要としないという長所がある。しかし、操作や保守が難しく、熱効率が低く乗務員の労働環境が悪い、煤煙が環境汚染を引き起こすといった様々な短所があり、第二次世界大戦後各国で次第に他の機関車に置き換えられていった[43][44]。主に発展途上国を中心に運行を続けている蒸気機関車があるが、先進国においては保存鉄道で運行されている程度である[39][45]。
電気機関車
電気機関車は、電気でモーターを回して走行する機関車である[46]。電力は架線や第三軌条から集電して取り入れるのが一般的であるが、蓄電池を搭載してその電力で走行する機関車も電気機関車に含まれる。電車と同様の理由で、蓄電池式の電気機関車は少数である[14]。搭載している内燃機関により発電してその電力でモーターを回して走行する機関車は、一般に内燃機関車に分類されている[47]。また電化区間では集電して電気機関車として走行し、非電化区間では搭載している内燃機関を起動してその発電した電力によって走行するという機関車も存在しており、電気・内燃ハイブリッド機関車といえる[48]。
電気機関車は、蒸気機関車に比べて効率がよく運転もしやすい。また高速化・大出力化が容易である。一方で電車と同じように膨大な地上設備を必要としている。このため運転頻度が高い路線を中心に用いられている。日本やヨーロッパ、ロシア、中華人民共和国では幹線網の電化が進んでいるので、電気機関車が広く用いられている。一方、北アメリカやオーストラリアなどでは鉄道網があまり電化されておらず、ディーゼル機関車が主力となっている[49]。
内燃機関車
内燃機関車は、内燃機関を動力源とする機関車の総称である。実際には搭載されているエンジンの種類により、ディーゼル機関車、ガソリン機関車、ガスタービン機関車などがあり、低燃費で大出力を発揮しやすいディーゼル機関車が、現代の鉄道において内燃機関車の主流となっている。気動車と同様に、機械式、液体式、電気式などの各種の変速方式がある[50]。
ディーゼル機関車は電気機関車と同様、蒸気機関車と比較して効率がよく運転しやすい。また地上の電化設備を必要としていないが、電気機関車に比べて製作と保守に費用と手間が掛かる。こうしたことから、あまり運行頻度が高くない路線を中心に用いられている。電化されていない路線では、必然的に内燃機関車が用いられることになる[51]。
貨車
貨車は、貨物を搭載して輸送するための鉄道車両である[52]。大半の貨車は機関車によって牽引・推進されて移動する動力集中方式の車両であるが、JR貨物M250系電車のように動力分散方式の貨車も開発されてきている[53]。
搭載される貨物に応じて、様々な形態の貨車が開発されてきた。かつては、貨車に直接貨物を積み込み・積み卸ろす輸送が行われていた。しかし、鉄道以外の交通手段との間で手作業による積み替えが発生することや、貨車の列車間での繋ぎ替え、入換作業に手間が掛かるといった問題があった[52][54]。
これに対して、フォークリフトのような荷役機械が開発され、第二次世界大戦後から各国でコンテナ化の動きが始まった[55]。このためにコンテナを搭載する貨車としてコンテナ車が運用されるようになり、その上に載せるコンテナを搭載する貨物に応じて開発するようになっている[52]。
鉱山において鉱石を輸送する列車や、石油のように大量に消費される物資を輸送する列車については、その目的に専用の石炭車・ホッパ車・タンク車などの貨車が開発されて使用されている[52]。
事業用車
事業用車は、鉄道事業者が所有する車両のうち、直接営業目的に用いられない鉄道車両である。保線作業や工事に用いたり、事業者内部の業務に必要とされる物品を輸送したり、試験や試作の目的で造られたりといった車両がある[56]。日本に於いては、機関車、電車、気動車、客車、貨車のいずれかに分類される。
動力集中方式と動力分散方式
鉄道車両を推進する動力の配置の仕方としては、動力集中方式と動力分散方式がある。動力集中方式は、編成中の動力はすべて機関車に集中しており、それ以外の客車・貨車は機関車に牽かれて走るのみの方式である。これに対して動力分散方式では、特定の車両に動力を集中させるのではなく、編成中の各車両に分散して動力を搭載する[36]。
図に概念を示す。図中赤く塗られてMと書かれているのが車両が動力車で、白抜きにTと書かれているのが動力のない付随車である。動力分散方式において、動力車と付随車の割合は形式によって様々である。この割合のことをMT比といい、図の例では4M2Tと表現される[36]。
動力集中方式と動力分散方式の得失は以下のとおりである。
- 車両製造費用
- 動力集中方式の動力車である機関車は、すべての動力機能を集中して備えているため高価である。これに対して動力分散方式の車両は、動力車と付随車で異なるが、機関車よりは安価である。動力集中方式の付随車はこれよりも安い。したがって、製造費用は動力集中方式の動力車 > 動力分散方式の車両 > 動力集中方式の付随車という式が成り立つ。同じ程度の輸送力を発揮できる編成で比較すると、12両編成の場合、動力分散方式の車両がすべて動力車 (12M) ならば動力分散方式の方が高く、6M6Tの場合で同等、4M8Tの場合は動力分散方式の方が安いという試算がなされている。ただしこの例では、動力集中方式の列車について折り返し駅での機回しを省略するために両端に機関車を繋いだ構成を考えているため、機回しを行うことを前提にすれば機関車を1両削減できて、動力集中方式により有利となる[57][36]。
- 車両保守費用
- 動力を搭載している車両は搭載していない車両に比べて保守に手間がかかるため、動力集中方式の方が動力分散方式より有利であると以前は考えられてきた。しかし、動力集中方式の列車では多くの車両で回生ブレーキを使用できず機械ブレーキを使用することになるため、摩耗する部品の保守量が増加するという問題がある。その後、保守作業量の多い直流電動機から保守作業量を少なくできる交流電動機に移行するにつれて、機械ブレーキの保守量の問題の方が大きくなってきた。ドイツ鉄道のICE1(2M12T、623席)と東日本旅客鉄道(JR東日本)の200系(12M、885席、この電車はまだ直流電動機である)の比較では、どちらも1年間ののべ保守時間が17500時間であるとする比較がある[36]。
- エネルギー消費
- エネルギー消費については、編成全体の合計質量が小さくなる動力集中方式の方が少なく有利であるとされる。ただし、減速時にモーターで発電して架線に電力を返す回生ブレーキが普及しており、これは動力集中方式の列車では動力車以外で使用できず、機械式ブレーキの負担率が大きくなるという問題がある[58]。
- 乗り心地
- 動力分散方式の車両では床下に動力機器を搭載しているため、騒音や振動が車内に伝わりやすく、乗り心地の面では動力集中方式に比べて不利である。ただし動力分散方式でも技術の進歩により乗り心地の改善が進んでいる[58][59]。
- 線路への影響
- 動力集中方式の列車は、動力の集中した機関車が特に重くなり、走行することによる線路への悪影響が大きくなる。線路の許容できる軸重が限られている区間では、重量の大きな機関車の入線が制限されるが、動力分散方式ではそのような制限が影響することはあまりない。また、線路の建設費および保守費に関しても、軸重が小さい方が有利である。これに加えて、動力集中方式では旅客が乗車できない機関車の分まで待避線の長さを余分に用意しなければならないという問題がある[58]。
- 機動性
- 動力分散方式の列車は、各車両に動力が分散しているため加速度・減速度がともに高く、停車駅が多くても運転時間を短縮できる。また両端に運転台があり、運転士が移動するだけで折り返すことができるので機動性に富んでいる[36][59]。ただしこれについては動力集中方式でも、プッシュプル方式を用いることで解決できる[58]。また動力分散方式は列車の分割・併合を容易に行える[59]。
- 信頼性
- 動力分散方式の列車では、一部の動力装置が故障したとしても残りの動力装置で走行が可能なので、故障時の処置が容易で、信頼性が高い[58]。
- 周辺環境への影響
- 動力集中方式の高速列車では、粘着性能を維持するために踏面ブレーキを使用しており、このために車輪の踏面が傷みやすく、車輪の転動音が大きくなって騒音が問題になっている。動力分散方式では粘着性能にこだわる必要性が薄いのでディスクブレーキを使用しており、こうした問題はない。また振動の面でも、重量の大きな動力集中方式の方が大きな影響が出る[58]。
- 列車の直通運転
- 動力集中方式の列車は、電源方式・信号方式が異なる区間に入る駅(国境の駅など)で機関車を付け替えるだけで列車を直通させることができるが、動力分散方式の列車はすべての電源方式・信号方式に対応した設備を搭載していなければ直通運転をすることができない[36]。
1970年代の日本国有鉄道(国鉄)において、こうした点の検討が詳しくなされ、1本の列車編成が長くなるほど動力集中方式が有利で、短くなると動力分散方式が有利であるとされた。具体的には直流電化区間では列車長11両から12両、交流電化区間では列車長9両から10両、非電化区間では列車長4両から5両のところに費用の分岐点があり、それより長い列車では動力集中方式が有利であるとした[60]。つまり短い編成を頻繁に運行するような路線では動力分散方式が、長い編成を時々運行するような路線では動力集中方式が有利となる。
その後技術の発展で、可変電圧可変周波数制御(インバータ制御)が実用化されて保守の手間が少ない交流電動機が電車に用いられるようになり、また回生ブレーキが一般的になったため、より動力分散方式が有利になる傾向にある[58]。
日本では第二次世界大戦後から、幹線の長距離列車においても動力分散方式を推進してきた。これは地盤が弱く軸重を強化しづらい上、地形が急峻かつ複雑なため勾配・曲線が必然的に多くなるという国土において高速化を図るために選択されたものである。これに対してヨーロッパなどでは長らく動力集中方式が使われてきた。しかし近年になって動力分散方式が有利になりつつあることから、ヨーロッパにおいても動力分散方式の車両が普及する傾向にある[58]。
動力集中方式の車両においても、編成の両端に機関車を連結して、通常時は固定された編成で運用されるものがあり、この場合は運用形態の面ではかなり動力分散方式に近くなっている[58]。
寸法と重量
鉄道車両では、基本的な寸法と重量に規制が設けられている[61][62]。
幅・高さ
鉄道車両の幅と高さは、車両限界によって規定されている。車両限界は、車両の最大幅と最大高さを含めて、プラットホームとの関係などで複雑な形が定められている。これに対して、周辺の電柱や建物などの構造物を設置できる限界として、走行時の車両の動揺などを考慮した余裕を車両限界に加えた建築限界が定められている。国や鉄道会社により車両限界・建築限界は異なっている。車両が曲線を走行する際には、車体の中央部または端部(オーバーハング)が曲線の内側・外側にはみ出す(偏倚 へんい)ため、これを考慮して建築限界を広げるようになっている[63][64]。
長さ
鉄道車両の長さは、主に曲線を走行するときに、隣の車両や建築限界に抵触しないかという観点で決定される。車両を長くすればするほど曲線での偏倚が大きくなって、あらかじめ車両限界と建築限界の間に加えてある余裕を超えて障害物に抵触してしまうため、鉄道車両を長くするのには限度がある。車体幅を細くしたり裾を絞ったりすることで、通常よりさらに車両を長くすることができ、新幹線の先頭車両が中間車両より長いのはこのためである。車両の長さとしては車体そのものの長さである車体長と、隣の車両の連結器と接触する面の間の距離である連結面間距離がある[61][64]。
また、車両を支えている輪軸の間隔である軸距(ホイールベース)にも制約がある。隣接する輪軸の間があまりに狭いと走行安定性に問題があることから、軸距の下限が定められている。一方輪軸を備えて車体に対して回転する台車に関しても、その中心間の距離である台車中心間距離があまり長すぎると、曲線での車体の偏倚が大きくなるため問題がある。また信号回路の動作にも影響があるため、軸距または台車中心間距離の上限も定められている[64][65]。
重量
鉄道車両の重量は、その車両が走行する路線の設計荷重と関係する。鉄道車両の重量をその車軸の数で割った値を軸重と呼び、この値が走行することのできる路線を決定する。線路を設計する時点で、そこを通行する鉄道車両の軸重を活荷重という形で想定して建設される。線路には線路等級が定められており、重要な路線ほど重い車両を通行させることができるように建設されている。このため、通行することを想定している路線が許容する軸重に収まるように車両を設計する必要がある[62][66][67]。
機関車では、牽引性能を発揮するためにある程度の軸重を必要としている。幹線用に造られた軸重の大きな機関車を支線用に転用する際に、重量を負担する車軸を追加して軸重を下げる改造を行うことがある。また、国鉄DD51形ディーゼル機関車は動力のない中間台車に空気ばねを装備しており、この圧力を変化させることで負担する重量を変え、動軸の軸重を上げたり下げたりすることができるようになっている[62]。
構造
鉄道車両の構造を上回り(車体)と下回り(走り装置)、動力機構に分けて説明する。
車体
たいていの鉄道車両では、車体はほぼ箱状の構造をしている[68]。なおそのうち構体は、台枠・骨組・外板などで構成され車体の強度を担う部分であり、座席などの室内設備、照明、制御機器などは含まない[69]。床面は台枠、進行方向前後は妻構、左右は側構、上面は屋根構という[70]。
車体は古くはすべて木造であったが、腐蝕の問題などから順次鋼製部品への移行が進められた[71]。この時代は、車体の荷重のすべてを台枠で負担するため、トラス棒を設けたり魚腹形の側梁を用いたりした頑丈な構造の台枠を採用していた[72]。事故発生時の木造車体の粉砕が犠牲者を多くすることが問題とされ、やがて車体全体が鋼製のものへと発展していった[73]。鋼製車体の中でも、半鋼製ともいうべき側構や妻構のみが鋼製で屋根は木造のものから、全鋼製のものへと移り変わっている[72]。この際に車体の基本構造は変えなかったので、台枠は相変わらず非常に頑丈な構造で設計され、車体の他の部分が金属になったことに伴う重量増加は大きな問題となった[72]。また、溶接技術が未発達な頃の鋼製車はリベット接合であった[72]。やがて車体全体で強度を分担して受け持つモノコック構造(張殻構造)が用いられるようになり、車体は大幅に軽量化された[71]。
鋼製の車体は腐食の問題があり、錆が発生しないステンレス鋼を材料として使用することが検討された[72]。まず、車体の骨組みは鋼製として外板をステンレスにしたセミステンレス車両が開発された[72]。続いて車体すべてをステンレスで製造したオールステンレス車両が開発された[72]。ステンレスの溶接には当初はスポット溶接、後にはレーザー溶接が用いられている[72]。また腰板や幕板部の歪みを目立たなくするためにコルゲートのついた外板を使用するのが一般的であったが、技術の進歩によりビード加工で済ませるようになり、さらに新しいものは平滑な外板を使用するようになっている[74]。ステンレスの外板を使用した車体は、錆を防ぐための塗装を省略することができるようになり[74]、今日見られるような銀色の車両となった。ステンレス鋼は、鋼製車体に用いられる炭素鋼と比較して約1.5倍の引っ張り強さがあり[75]、これに加えて鋼製車体のように腐食の進行を想定して「腐蝕しろ」(さびしろ)と呼ばれる余分の強度を持たせる必要がなくなったことから軽量化が図られた[76][74]。さらに高張力ステンレス鋼の採用や構造解析による設計技術の進歩があって軽量化が進行している[76][74][77][72][78]。
錆が発生しない材料としてはアルミニウム合金もあり、アルミニウム合金製の鉄道車両も開発された[72]。当初は骨組に外板を貼り付ける工法であったが、やがて大形押出成形材を利用したシングルスキン構造やダブルスキン構造が開発され、ミグ溶接、摩擦攪拌接合、レーザーミグハイブリッド溶接などにより接合されている[72][77]。500系新幹線ではハニカム構造により軽量化が図られている[79]。アルミニウム製の車両はステンレス車両と同様に塗装を省略できるほか、アルミニウム自体が軽量な素材であるため、必要な強度を保つために外板を厚くしたとしても車体の軽量化を実現できる[80][75]。また、アルミニウム車体はリサイクルしやすく、車体を解体して出たアルミニウムを再び鉄道車両に使用する試みが行われている[72]。
車体の素材としては他に繊維強化プラスチック (FRP) を一部の複雑な形状の部分に用いている例がある[74][72]。
台枠
台枠は、車体の一番基本となる構造である。車体全体の強度を受け持ち、台車や車軸に重量を伝える役割をしている。また連結運転の際には、隣の車両との間での力の伝達も行う[81]。
車両の前後の端に横方向に設けられている梁のことを端梁という[82]。連結器はこの端梁に取り付けられるため、大きな荷重に耐える強度が必要とされる[82]。車両の左右に車体全長に渡って設けられている梁は側梁と呼ばれる[82]。両側の側梁の間に横方向に渡されている梁は横梁で、これがいくつも並んで台枠全体としては上から見るとはしご状の構造になっている[81]。台車や車軸の真上に当たる部分には、枕梁が置かれている[82]。また端梁中央から車体中央方向へ枕梁の位置まで中梁が延びている[82]。この端梁から枕梁までの範囲を端台枠と呼び、この部分だけはステンレス車両であっても鋼製の連続溶接で組み立てるのが普通である[83]。
かつては台枠と側構でほとんどの強度を受け持ち、車体の他の部分はその部分で必要とされるだけの強度で作る方式であった。しかし軽量化のために、車体全体で必要とされる強度を分担して受け持つモノコック構造(応力外皮構造)が後に主流となった[82]。
蒸気機関車では、台枠は板台枠と棒台枠の2種類に大きく分けられ、これが車輪により支えられまたボイラーなどの上部構造を載せる仕組みとなっている[84]。
貨車でも有蓋車や無蓋車などたいていの車両では台枠があり、重量を受け持っている。コンテナ車の場合、コンテナの重量のほとんどは側梁にかかるため、側梁が強度を主に負担しており、このために魚腹形の側梁となっている。タンク車では台枠のないフレームレス構造のものがあり、この場合タンク体全体で強度を受け持っている[85]。
台枠の上面は床を構成し、座席やその他の車内設備を設置するとともに、旅客や貨物の荷重を負担する[81]。床面は、単に鋼材に敷物を貼っただけの鋼板床のほか、優等車などでは遮音性に優れた、波形鋼板(キーストンプレート)の上にポリウレタンフォームやユニテックスを充填して敷物を貼りつけた構造などが使われる[86][82]。また下面には、横梁に床下機器が吊り下げられる[87]。軸受あるいは台車の心皿などの重量を支える構造は枕梁に力を伝達するようになっている[87]。
側構
側構は、鉄道車両の左右部分である。近代的なモノコック構造の車両では、台枠と一体となって強度を負担している[82]。窓より下の外板を腰板、窓より上の外板を幕板という[82]。かつては側構の窓部分の開口による強度不足を補うために、ウィンドウ・シル/ヘッダーという帯状の補強構造物が窓の上と下に取り付けられていた[88]。ビードやコルゲートといった表面加工が見られる車両もある[74]。
妻構
妻構は、鉄道車両の前後部分である。車体の端を垂直に切り落としたような構造の場合を切妻といい、そのうち両側を削った構造の場合を折妻といい、それ以外の場合曲面妻という。構体両端部を閉じる構造を形成して強度上重要な部分を受け持っている[89]。
隣接車両と連結して旅客や乗務員の通り抜けが必要とされる場合には、中央部に貫通路が設けられる。また先頭車や機関車の場合は、窓を構成してフロントガラスをはめ込み運転台とする。貫通路と運転台を両立した貫通運転台構造もある[89]。
特急用の車両の場合などは、先頭部分の形状は特に外観を重要視して設計することがあり、複雑な形状となる[90]。高い位置に運転台を設置する高運転台構造は、視認性をよくし、踏切事故などでの運転士への危険を防ぐなどの目的がある[90]。高速車両などでは流線形が採用されることもある[89]。
運転台がある場合には、前灯、尾灯、ワイパーなどが設置される。貫通路がある場合は貫通幌などが設置される。また貫通路のある中間車の場合は貫通路の両側に妻窓が設けられることがある[89]。
屋根構
屋根構は、車両の天井・屋根部分を構成している。前後方向に長桁が、左右方向には垂木が骨組みとして組み込まれている[91]。冷房付きの車両では、室外機を屋根の上に搭載することが一般的で、これは重量が大きいため設置位置をあらかじめ検討してその重量に耐えるだけの強度構造とする[91]。また、冷房は車内と車外を貫通して取り付けることが多いため、その場合は大きな開口部を設置することになり、この点でも強度上の配慮が必要となる[91]。この他、車内側の天井や冷房風道、照明の灯具、車両補修の作業者が屋根の上を歩くときに使うランボード、雨水が垂れることを防ぐ雨どいなどが設置される[91][92]。
運転台
機関車や電車・気動車の先頭車両などには、機関士・運転士が運転を行うための運転台(運転室)が設けられる[93][94][95]。一般に妻面に設置されるが、機関車の中には機器の配置の都合でセンターキャブと呼ばれる車体中央付近に運転台を配置した構成も見られる[96]。
運転台は、車両の全幅に渡って設置される場合と、半分ほどの幅になっている場合がある[95][97]。運転室は運転士が乗務するだけでなく、車掌やその他の客室乗務員などが乗務するスペースともなる[94]。貫通式の運転台と呼ばれるものは、運転台の位置が列車の先頭や末端ではなく他の車両と連結されて中間になった時に、旅客や乗務員が車両間を移動できるように中央部に貫通路を設けることができる構成になっているものである[95][97]。貫通路を設置できない運転台は非貫通運転台という[95][97]。
実際に運転士が座る席は、車体中央に設置される場合と、左右どちらかに偏って設置されている場合がある[94][97]。自動車ではそれぞれの国の道路の進行方向に応じて、左側通行の国では右側に運転手席を配置するのが一般的であるが、鉄道の場合は進行区分との関係は必ずしもなく、左側通行が原則の日本では信号機が左側に立てられていることが多いことから、信号機を見やすい左側に席を配置することが多い[94][97]。タブレット閉塞の区間ではタブレットの取り扱いに便利な側に設置したり、ワンマン運転を前提にプラットホームのある側に配置したりする例がある[97]。
自動車のアクセルに相当するのは主幹制御器(マスター・コントローラー、マスコン、路面電車など直接制御の車両の場合は直接制御器(ダイレクトコントローラー)[98])である[99][100]。自動車と違い手で操作する[100]。縦方向の軸を中心に水平に回転させて操作するものと、横方向の軸を中心に垂直に回転させて操作するものがある[100]。また、ブレーキハンドルと一体化したワンハンドルマスコンもある[100]。ワンハンドルマスコンにおいては、押して走らせるものと引いて走らせるものとの両方がある[101]。マスコンを左手で操作するか右手で操作するかは同じ鉄道事業者の中でも統一されておらず、車種によって様々である[99]。
ブレーキを操作するのはブレーキハンドルであり、これも手で操作する。機関車では、機関車のみに作用する単弁(単独ブレーキ弁)と列車全体に作用する自弁(自動ブレーキ弁)が別々に存在する[99]。
このほかに、警笛を鳴らすペダル、ATSに代表される自動列車保安装置の取り扱い装置、前灯やワイパーのスイッチ、速度計、圧力計、電圧計、各種の状態表示ランプ、列車無線の送受話器、時刻表差し、車内放送のマイク、車掌スイッチなどが設置されている[102][103][104]。最近の車両では、モニタを運転台に設置して車両の状態を表示し、またタッチパネル式の入力装置により簡単な点検作業や車内の空調温度設定など様々な作業が運転台からできるようにされている[105]。
運転台は前面衝突の際に最初に巻き込まれる場所であるので、運転士の保護に配慮した設計がなされる。主に想定される衝突事故は踏切における障害物との衝突であり、前頭部はその衝突に耐えられるように強化されている。また運転士の座る位置を高くすることで、車体下部に障害物を巻き込んだ際の影響を抑えている[106]。クラッシャブルゾーンを設けて衝撃を吸収する構造になっているものもある[107]。
運転台はすべての車両に設置されているわけではない。機関車のほとんどには両端に運転台が設置されているが、センターキャブの機関車では両側へ進行するときに兼用される運転台が中央に1つ設置されている。また、主に北アメリカではBユニット(あるいはブースター)と呼ばれる運転台を持たない機関車が用いられており、これは運転台を備えているAユニットと連結してそこから制御されることを前提にしている[96]。
電車は、その形式が長編成を組むことを前提にしている場合には、中間車として設計された車両には運転台が設けられない[108]。これは気動車も同様であるが、長編成を組むような路線では電車が用いられることが多く、気動車が投入される路線では編成が短いこともあり、中間車として運転台を持たずに設計・製造される気動車の数は電車に比べて少ない[109]。運転台を設けた車両を制御車、設けていない車両を中間車という[110]。
客車は動力がないため運転台も設置されないのが普通であるが、機関車を末端に連結して列車全体を後押しする形で運転する時に、先頭部の客車に設けた運転台から運転する形態があり、その場合には運転台が設置される。そうした客車を制御客車という[35]。
1両の車両の両端に運転台が設けられている場合を両運転台、片方にだけ設けられている場合を片運転台という[109]。
狭義の「鉄道車両」
日本の法律においては、本線の線路上を走行するためには鉄道車両としての登録がされている(車籍を有する)ことが必要(甲種輸送等の例外もあり)であり、狭義にはこの車籍を有する車両のことをいう。そのため、鉄道の線路の上を走行する車両であっても、車籍を有しない保線用の機械や除雪用のモーターカー、構内入換用の小型機関車などは、正確には鉄道車両ではないことになる。また、日本の法律では路面電車等の軽軌道は本格的な鉄道とは区別されており、したがってこれらの区間のみで用いられる車両も鉄道車両ではないことになるが、中には京福電鉄のように軌道線と鉄道線を直通している例もあり、煩雑である。なお地下鉄は世界的には軽軌道に分類される事が多いが、日本では名古屋市営地下鉄の開業以降、鉄道線に準ずる存在と位置づけられている。→詳細は、日本の地下鉄を参照されたい。
鉄道車両としての登録から削除する(車籍を抜く)ことを用途廃止といい、一般的には廃車という。
鉄道車両の種類
鉄道会社別の車両は、各鉄道会社のページ参照。
鉄道車両の構成
駆動装置系は電車等のページで個別に
- 車体
- 台枠
- ウィンドウ・シル/ヘッダー
- 車体材料による分類
- 木
- 鋼(普通鋼)
- 半鋼製 - 車体の一部分(内装材やドア、屋根など)が木製
- 全鋼製 - 車体全体が鋼製
- ステンレス鋼
- セミステンレス車両(スキンステンレス車両) - 外板のみステンレス製、構体・台枠は普通鋼製
- オールステンレス車両 - 外板・構体・台枠ともステンレス製
- アルミニウム合金
- 座席
- 車輪
- 台車
- 連結器
- ブレーキ
- 貫通扉
- 警音器
鉄道車両の形式・車号呼称
各車両には形式名を含む車号(番号)が付与、表示される。また、編成単位に編成番号を表示している会社もある。鉄道の車両番号も参照。
なお、車両呼称とは別に特急用車両や特別席を有した一部の車両には「車両愛称」として愛称を与える場合もあり、案内などで使用される場合もある。たとえば、京成電鉄の「スカイライナー」のように当初は使用車両であるAE形電車の愛称であったものが、列車愛称に流用される場合もある。
合造車
なお、ある種の需要が偏っており、1両の定員では定員の半数程度しか見込めないなどで捌くことが難しいがサービスのために旅客車を中心に用途が異なる(例えば荷物室と旅客席を設ける)や等級制を採っている場合には一等席と二等席など2種類以上の等級、座席と寝台などを同一の車両の中で設ける場合がある。こういった車両のことを合造車(ごうぞうしゃ)と称する。主に2つの用途を複合させた車両が多いが、古くは現在の普通席に相当する三等席と郵便室と荷物室、さらには二等席も加わった、3〜4つの用途を複合させた車両も存在した。
編成
列車として使用する際に単独ないしは2両以上組み合わせて使用される。その際の使用車両の概要を編成という。そのため、1両のみで運行される場合、「1両編成」という場合もある。現在では、地方のローカル線のように、とりわけ極端に輸送人員が少ない場合や、ほとんどの路面電車をのぞき、2両以上が原則となるものが多い。
また、車両の中には必ず2両以上を連結して運行される必要があるものをユニット(編成単位)と言い、101系電車以降の「新性能電車」における電動車ユニットが最低でも必要となる。
その内、輸送力が最小時の必要両数で組成された部分を基本編成と称する。又、輸送力増強のための増結編成を付属編成と言い、列車全体を単位として電源やサービス設備を設計する手法を固定編成と言う。
これらを運転中に編成落とし(列車の増結、解結)をしたり、分離運転(多層建て列車)したりする。
寿命と廃車
鉄道車両の寿命は車種によってまちまちであるが、事故や災害などで使用不能になるケースを除くと、おおむね在来線車両で10~30年程度、高速運転を行う新幹線車両は十数年程度である。寿命が来る前に環境の変化や組み替えなどで廃車になるケースも存在する。詳しくは廃車 (鉄道)を参照されたい。
関連項目
de:Eisenbahnwageneo:Vagono fr:Voiture de chemin de fer nl:Rollendmaterieelfabrikant pl:Wagon ru:Вагон sl:Železniški vagon
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