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2010年8月19日 (木) 06:53時点における最新版
ウイッカ (Wicca。「イ」は比較的はっきり発音するので「ウィッカ」より「ウイッカ」で統一しようとするのが日本のウイッカンの間での動きである) は、20世紀に興ったペイガニズム(キリスト教より古い多神教)の復興運動(ネオ・ペイガニズムと呼ばれるが、「ネオ・キリスト教」などの言い方がないのと同様、本来は不適切である)の一種で、欧州古代の多神教的信仰、特に女神崇拝を復活させたとされる。主に英語圏でみられるが、日本にも存在する。ウイッカを信仰する者をウイッカン Wiccan と呼ぶ。日本ではウイッカ=魔女宗と訳すことが多い。
歴史[編集]
Wiccaという名はジェラルド・ガードナー(en:Gerald Gardner)が1954年に発表した Witchcraft Today (『今日の魔女術』)から広まった。元はWicaと綴った。彼はその書物の中で、自分がイニシエイションを受けたウイッカは欧州のキリスト教以前の多神教が現代に生き延びたものだとしている。ウイッカはそれ以降さまざまな形で発展し、現在ではガードナーの系列のウイッカは「ガードナー派ウイッカ」Gardnerian Wicca と呼ばれている。伝統的なウイッカでは参入のためにイニシエイションが必要だが、「ソロのウイッカン」Solitary Wiccan としての立場を主張し、既存のウイッカンからのイニシエイションを必要としないとする立場の者も増えている。それらの「新興ウイッカ」と伝統的なウイッカは、形は似ているが、精神的な部分や思想の理解に違いが出ることが多い。
ウイッカのおこり[編集]
ウイッカの歴史に関しては論議が喧しい。ガードナーの主張では、ウイッカは欧州先史時代の多神教の生き残りである。彼は老ドロシー(Old Dorothy)ことドロシー・クラッターバック(Dorothy Clutterbuck)から魔女宗の参入を受けた。 一部の人々はガードナーが再構築した宗教だと考えている。その元になったのはマーガレット・マレー(Margaret Murray、本来は「マリー」と発音するのだが、日本ではマレーの名で著作が邦訳されている。ミューレイ、などの語表記もある)の説や チャールズ・ゴッドフリー・リーランド(Charles Godfrey Leland)の「アラディア、または魔女の福音(Aradia, or the Gospel of the Witches)、フリーメーソン、近代西洋儀式魔術といったものであったのだろう。
ガードナーは1939年にニューフォレストにあるクラッターバック運営のカヴンでイニシエイションを受けたことになっており、英国で魔女術に関する禁止法が解けるまでの数年をそこで過ごしたことになっている。教え(術)が消えてしまうのを恐れて(とガードナーは主張している)、Witchcraft Today (1954年) に着手した。次いで、The Meaning of Witchcraft (『魔女術の意味』)(1960年)を著わし、これらの書物がウイッカの表向きな知識を広めるきっかけとなった(本来のウイッカは本では紹介することが出来ない)。
ウイッカの儀式のスタイルがヴィクトリア時代後期のオカルティズムを受け継ぐことには疑いがない(ガードナー派ウイッカに大きな影響を与えたドリーン・ヴァリアンテ(Doreen Valiente) もアレイスター・クロウリーらの影響が見られることを認めている)。しかし、その精神的・宗教的な内容は古の多神教の信仰を受け継ぐものである。当時の多神教にたいする理解(昔はこうであったに違いないという考え)に基づき、それを復興しようとした点に古代の多神教との歴史的繋がりがある。
多神教に関する当時の研究[編集]
ガードナーの時代には、原始的な母系信仰については学者の間にも(例えば心理学者エリッヒ・ノイマンErich Neumann、マーガレット・マレー)アマチュアの間にも(ロバート・グレイヴス(en)など)よく知られていた。それは結局の所Johann Jakob Bachofenの研究に由来するものであった。アカデミックな研究はそれ以降も続いた。例えばカール・グスタフ・ユング、 考古学者マリア・ギンブタス(en)である。さらに後にはジョセフ・キャンベル(en)、Ashley Montaguらが古代欧州における母系制についてのギンブタスの説を支持するようになった。考古学的な記録を母系制的に解釈すること及びそれに対する批判は学術的な議題であり続けている。2003 World Congress on Matriarchal Studiesにみられるように、この領域での研究は継続しているが、批判的な立場にある人々は母系制社会が存在したことは一度もなく、ただマーガレット・マレーらが発明したものに過ぎないという。
ヴィクトリア時代、エドワード時代の文学においては、偉大なる母なる神という発想は一般的だった。角のある神、ことにパンまたはファウヌスに関係した神々は母なる神ほどには一般的でなかったが、それでも尚重要であった(Hutton, pp. 33-51)。母なる神と角のある神という二つの考えは当時、アカデミックな文献でも一般の印刷物でも広く受け入れられていた(Hutton, pp. 151-170)。ガードナーはこれらのコンセプトを用いてウイッカの基盤となるドクトリンを形成し、発展させたのであると考えることも出来るが、ガードナーの弟子だったヴァリアンテや、多くのガードナー派魔女たち(彼らの中にはアカデミックな立場で活動する者もいる)は、ガードナー派の実践の中には既存の出版物などには見られない独自の要素が含まれていると主張する。つまりガードナーは少なくとも部分的にはクラッターバックから何かの伝統を受け継いだと考える。どちらにせよ、ルーツを完全に解き明かすのは難しい。そしてルーツに関係なく、ウイッカは多くの人々にアピールを続けている。
ウイッカと魔女[編集]
古英語では wicca は「魔術師」の意味であった。現代英語の witch (魔女 - 本来は男女どちらにも使った)がこの言葉をひいている。また古英語 wic には「曲がる」「ウィット」「賢さ」という意味がある。
Witchcraft ウイッチクラフト は、宗教としてのものもあれば、宗教と関係のない単なる魔術的な技術の意味で使われることもある。前者の場合はウイッカと同類であるが、後者の場合、ウイッカとは多少異なる。前者は宗教、後者は宗教と関係のない呪術的技術の意味である。事実、宗教に関係なく実践出来る。ウイッカは、ウイッチクラフト(魔術技術という意味で)を含む宗教である。
同様にウイッカはペイガニズムの一形態ではあるが、ペイガニズムがウイッカや魔女術と一緒だという意味ではない。
ウイッカンは女神を主神として崇拝する。また、ほとんどの場合、女神の子どもであり配偶者になる男神も崇拝の対象となる。ウイッカンは年に8回開かれるウイッカンのサバト (Sabbat) とエスバット Esbat (通常は満月の集会)によって神々を讃えられる。ウイッカンには戒律(倫理規定)があり、その点で単なる実践としての意味での魔女術とは区別される。魔女術はネガティブな印象を持たされてしまった語であるが、呪文、ハーブ、魔術の使用といった実践的な技術なのであって、目的の善悪とは直接関係するものではない。ウイッカンは魔女術の利用を建設的で善なるものと心得ており、いわゆる黒魔術(ウイッカンはこの用語を認めないが)はウイッカンの信条及び倫理に悖ると見ている。
信条と実践[編集]
ウイッカ信仰はさまざまで、信条を一般化するのは難しい。多くの場合、二柱の神(女神と男神 - 時には角の生えた神)を崇拝する。フェミニスト流派であるDianic Wicca (ディアナ派のウイッカ)では女神を主に信仰する。この場合男神の役割は皆無かあっても少ない。二柱の女神を主神に崇拝するとはいえ、実際は世界中の多くの神々の存在を認め、それらを崇拝することも多い。特に、イギリスのペイガニズムのルーツであるケルト神話、ゲルマン神話に言及されることが多い。
(訳註: ケルトでは、春分、夏至、秋分、冬至の quarter day (=四季の分け目になる)の中間に クロスクォータデイ cross-quarter day (=季節の盛りになる)をおき、春分と夏至の中間をBeltane、それ以降同様にLammas、Samhain、Imbolcと呼ぶ)
典型的なウイッカンは、満月(場合によっては新月)を Esbat と名付けて、魔法の作業を行う際に重要視する。また、サバトと呼ぶ年8回の祭日を祝う。その内重要な方の4つ(大サバト)は、クロスクォータデイにあたり、古代ケルトの火祭に相応したものである。ハロウィーン の原型であるサーウェンまたはサーウィン、ソーウィン Samhain)、五月祭(May Eve。ベルテインまたはベルテン Beltane)、収穫祭(Lammas。ルーナサー Lughnasad)、聖燭節Candlemasの原型であるイモルグ(Imbolc, Imborg, Oimelc)。残りの4つ(小サバト)は夏至(時にはLithaと呼ばれるが、近年の造語である)、冬至(ユール Yule)、春分(時にはOstara、Eostar、Eostre)と秋分(時にはMabon)である。
ウイッカンはカヴン coven と呼ばれる実践グループで儀式を行い、先輩からの指導を受ける。カヴンに属さず単独で行動するウィッカンもいて、ソロのウイッカン solitary Wiccan と呼ばれる。ソロのウイッカンというのは実践グループに入っていないだけで、親睦のための集会や、既存のグループの儀式集会に不定期に参加したりすることもある。
伝統的に13人のカヴンが理想とされるが、実際はもっと少ない。これを超えてカヴンが育った場合は、複数のカヴンに分離(hive off、巣をわけること)する。
ウイッカの倫理[編集]
ウイッカンの倫理は、通常 The Wiccan Rede (ウイッカのアドバイス)と題されている。その中の最大公約数的部分は「他者を傷つけぬ限り、汝が意志することを行え」につきる。
多くのウイッカンは「三倍返しの法」を信じている。自分の行うことは、魔法であれ現実的行為であれ、巡りめぐって3倍になって戻ってくるという信念である(実際に3倍が計れるわけではない。3はあくまでも比喩である)。
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