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'''多元環'''（たげんかん、<em lang="en">algebra</em>）とは[[可換法則|可換]][[環論|環]]上の[[加群]]としての構造を持ち、その構造と両立しているような[[二項演算|積]]を持つ[[代数的構造]]のことである。<span lang="en">algebra</span> を直訳して'''代数'''（だいすう）と呼ぶことも多い。また、[[ニコラ・ブルバキ|ブルバキ]]では（結合的なものを）'''線型環'''（せんけいかん）と呼んでいる。

== 定義 ==
''A'' が可換環 ''R'' 上の'''分配多元環'''（あるいは分配的多元環）もしくは ''R'' '''代数'''であるとは
# ''A'' には 3 つの演算：和 +, 積 &times;, ''R'' の元のスカラー積 &middot; が定義される。
# 和の交換法則：''x'' + ''y'' = ''y'' + ''x'' が、任意の ''x'', ''y'' &isin; ''A'' に対して成り立つ。
# 和の結合法則： ''x'' + (''y'' + ''z'') = (''x'' + ''y'') + ''z'' が、任意の ''x'', ''y'', ''z'' &isin; ''A'' に対して成り立つ。
# 零元の存在： ''x'' + 0<sub>''A''</sub> = ''x'' が任意の ''x'' &isin; ''A'' に対して成り立つような 0<sub>''A''</sub> が ''A'' に存在する。
# マイナス元の存在： 任意の ''x'' &isin; ''A'' に対し、''x'' + (-''x'') = 0<sub>''A''</sub> を満たすような ''A'' の元 -''x'' が存在する。
# 分配法則： (''x'' + ''y'')&times; ''z'' = (''x'' &times; ''z'') + (''y'' &times; ''z''), ''x'' &times;(''y'' + ''z'') = (''x'' &times; ''y'') + (''x'' &times; ''z'') が、任意の ''x'', ''y'', ''z'' &isin; ''A'' に対して成り立つ。
# &alpha;(''x'' + ''y'') = &alpha;''x'' + &alpha;''y'' が、任意の &alpha; &isin; ''R'', ''x'', ''y'' &isin; ''A'' に対して成り立つ。
# (&alpha; + &beta;)''x'' = &alpha;''x'' + &beta;''x'' が、任意の &alpha;, &beta; &isin; ''R'', ''x'' &isin; ''A'' に対して成り立つ。
# (&alpha;&beta;)''x'' = &alpha;(&beta;''x'') が、任意の &alpha;, &beta; &isin; ''R'', ''x'' &isin; ''A'' に対して成り立つ。
# &alpha;(''a'' &times; ''b'') = (&alpha;''a'')&times; ''b'' = ''a'' &times;(&alpha;''b'') が任意の &alpha; &isin; ''R'' と ''a'', ''b'' &isin; ''A'' に対して成り立つ。

さらに、積 &times; が[[結合法則]]を満たすなら ''A'' は'''結合多元環'''（あるいは結合的多元環）であるという。ただし、文脈により紛れのないと思われる場合においては、分配多元環あるいは結合多元環を単に多元環とよぶことがある。

積が[[結合法則|結合的]]ではない多元環で重要なものに[[リー環]]や[[ジョルダン環]]がある。
=== 諸定義 ===
上記の条件に加えて
* 単位元の存在: ''x'' &times; 1<sub>''A''</sub> = 1<sub>''A''</sub> &times; ''x'' = ''x'' が任意の ''x'' &isin; ''A'' に対して成り立つような 1<sub>''A''</sub> が ''A'' に存在する。
* 逆元の存在：0<sub>''A''</sub> でない任意の ''x'' &isin; ''A'' に対し、''x'' &times; ''x''<sup>-1</sup> = ''x''<sup>-1</sup> &times; ''x'' = 1<sub>''A''</sub> を満たすような ''A'' の元 ''x''<sup>-1</sup> が存在する。
を満たすならば、''A'' は ''R'' 上の'''斜体''' (division algebra) であるという。

また、''R'' が単位元 1<sub>''R''</sub> を持つならば、
* 1<sub>''R'' </sub>''x'' = ''x'' が任意の ''x'' &isin; ''A'' に対して成り立つ。
も仮定に加えることが多い。

さらに ''R'' が[[体 (数学)|体]]で ''A'' が積 &times; に関する単位元 1<sub>''A''</sub> をもつならば、写像
: ''R'' &rarr; ''A''; &alpha; &rarr; &alpha;1<sub>''A''</sub>
は多元環の埋め込み、すなわち単射な多元環の[[準同型]]（''R''-線型かつ環の準同型）になるので、''R'' とその像を同一視することができる。この同一視を行うとき、''R'' のスカラー倍は ''A'' の元としての積と一致する。同時に ''R'' は ''A'' の中心 ''C''(''A'') に含まれる。''R'' = ''C''(''A'') となるなら ''A'' は ''R'' 上'''中心的''' (central) であるという。

''R''-加群の列 {''A''<sub>''n''</sub>}<sub>''n''&isin;'''N'''</sub> の[[直和]] ''A'' に対し、積 &times; が定義されて ''A'' が多元環となり、さらに任意の ''r'', ''s'' &isin; '''N''' に対し、''A''<sub>''r''</sub> &times; ''A''<sub>''s''</sub> &sub; ''A''<sub>''r''+''s''</sub> をみたすならば、''A'' は'''次数つき多元環''' (graded algebra) であるという。

== 例 ==
* 任意のベクトル空間 ''V'' に積を、任意の ''a'', ''b'' &isin; ''V'' に対し ''ab'' = 0 と定めると多元環になる。（これはリー環にもなっている。）
* 体 ''K'' の任意の拡大体 ''L'' は ''K'' 上の多元環。
* 環 ''R'' 上の ''n'' 次全[[行列]]環 ''M<sub>n</sub>''(''R'') は ''R'' 上の多元環。体 ''F'' 上の中心的単純環は、ある ''F'' 上の斜体 ''D'' 上の全行列環 ''M<sub>r</sub>''(''D'') に同型である（Wedderburn の定理）。
* 可換環 ''R'' 上の[[多項式]]環 ''R''[''x''] は、高々 ''n'' 次の多項式の全体を ''A''<sub>''n''</sub> とおくことにより、次数つき多元環になる。

==関連項目==
* [[群論]]
* [[環論]]
* [[体論]]
* [[ベクトル空間]]
* [[加群]]

* [[群環]]
* [[リー環]]
* [[ジョルダン環]]
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[[Category:多元環論|たけんかん]]
[[Category:代数的構造|たけんかん]]
[[Category:数学に関する記事|たけんかん]]

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