朝倉泉

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朝倉泉(あさくら・いずみ、1962年7月19日1979年1月14日)は、「(世田谷)祖母殺し高校生自殺事件」の犯人。祖父はフランス文学者・フランス語学者の朝倉季雄で、母親は息子の名前をペンネームとした脚本作家の朝倉和泉

実父も都内の有名大学で教鞭を執る有能な仏語教師であり、祖父の愛弟子であった。泉の実父は泉の母親を見初めたが、母親は未来の夫に対して愛情を覚えず、婚約をためらっていたところ、泉の実父が自殺未遂を起こしたために已む無く結婚を選んだという。泉の両親は、母・和泉の実家のある世田谷区で生活を続けたが、一家で発言力を握っていたのは、泉少年の祖母にあたる季雄夫人であり、三島由紀夫の祖母さながらに、初孫の泉を溺愛してやまなかったという。

こうした複雑な家庭事情に加えて、両親の離婚と、いよいよ「教育ママ」ぶりを発揮していく祖母の過干渉(泉の趣味や友人関係、読書傾向にまで口出ししたと言われる)、泉自身の思春期などが引き金となり、昭和54年の正月明けに、口論の末に祖母を殺害。これは後の検証から、計画性のある故意の殺人でなく、偶発的なものだったことが分かっている。しかし、おそらく事件後の心理的な動揺がもとで、事件現場である自宅を飛び出し、近隣の小田急沿線をさまよった後、経堂駅近くのビルから衝動的に自殺をとげた。

祖母殺し高校生自殺事件」(または「世田谷お婆ちゃん殺し事件」)は、少年犯罪の中でも、「開成高校生絞殺事件」と並んで、反抗期を迎えた青少年が加害者もしくは被害者となった事件として一般的に有名になっている。これは、孫による尊属殺人という異常なイメージもさることながら、朝倉少年が、あたかも殺人を計画し、予行演習を重ねていたかのように印象付ける、「殺人シナリオ」や、『遺書』と題された露悪的なエッセイ、家庭の不和を洩らしたテープの発見などにより、事件の猟奇性が煽動的に報道されたためもある。

確かに、「開成高校生絞殺事件」の被害者青年と朝倉少年は、反抗期思春期を迎えた時期に、熾烈な受験戦争からとりこぼされたという背景や、どちらの事件の主人公も名門校に籍を置き、そのため肉親から将来に過大な期待を寄せられ思い悩んでいたこと、どちらの事件も殺人というよりは無理心中に近い様相を呈していることなど、いくつかの共通点が認められる。また、朝倉少年自身が、同事件の被害者青年に同情的な発言を書き残したことも、それと同種の事件というイメージを強めたものと思われる。

しかしながら、「開成高校生絞殺事件」において被害者の青年が、不登校引きこもりの末に凄惨な家庭内暴力を繰り返し、将来を悲観した父親によって殺められたのに対して、朝倉泉少年は、自身が事件の加害者であったという点のほか、ふだんは社交的・外向的な性格であり、事件後も同級生からの印象が悪くなかったこと、暴力を起こすよりは、書いたり喋ったりすることによって小出しに鬱憤晴らしを行なっていたことなど、「開成高校生殺人事件」被害者とさまざまな相違点を示している。

事件後に発見された数々の資料については、当初はセンセーショナリズムに乗って報道されたが、現在では、閉塞状況に追い込まれた朝倉少年のストレス発散といった側面と、真情の吐露(祖母や母親に対する、愛憎いりまじったアンビバレンツ)という側面の二つが指摘されている。衆愚や偽善への侮蔑、殺人願望というモチーフにもかかわらず、書き続けられているのは、学歴社会から落ちこぼれることへの恐怖心であり、祖母の価値観に対する執着(依存心と表裏一体のルサンチマンや告発)である。

朝倉少年はもともと作文や詩を書くのが好きだったことが知られており、『遺書』などを書いていた時期には、タモリの芸や小林よしのりの漫画「東大一直線」、筒井康隆の数々の小説に傾倒し、その影響を受けていたことが、かつての友人たちから証言されている。したがって、朝倉少年の『遺書』や「殺人シナリオ」は、虚実いり混じったものとして理解することが必要である。

朝倉少年のおこした事件の意味とその背景を丹念に掘り返したのは、本多勝一朝日ジャーナルのスタッフであり、詳細は本多の著作集『子供たちの復讐』の下巻にまとめられている(ただし現行版では、本多と朝倉家の人々との葛藤から、もともと収録されていた朝倉少年の遺稿集は省かれている)。同書に明らかなように、本多勝一は朝倉少年について、社会の歪みの象徴にして犠牲者であるとの認識から、少年とその事件に同情的な立場を貫いている。

1980年代以降において、本多勝一のエッセー集『貧困なる精神』の口調が、きわめて刺激的・煽情的なアジに近づいたことは、支持者の間でもつとに知られたところであるが、「祖母殺し高校生自殺事件」取材の結果、本多が朝倉少年の遺稿から直接的・間接的に影響された可能性もなくはない。

参考資料・関連サイト

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