国土地理院
国土地理院(こくどちりいん)は、国土交通省設置法及び測量法に基づいて測量行政を行う、国土交通省に置かれる特別の機関。
概要
日本国内における「すべての測量の基礎となる測量」(基本測量)を自ら行うほか、国土地理院以外の国の行政機関や公共団体が実施する公共測量の指導・助言を行う。また、地理空間情報の国際標準化や国際連合地名標準化会議などの国際会合への参画、宇宙測地や重力測定の国際的事業への参画など、国家地図作成機関としての国際協力も担っている。
一般に国の基本図である「地形図」の発行元として知られ、これを基に測定・公表される「全国都道府県市区町村別面積調」[1]は、地方交付税法に規定する、地方行政に要する経費の測定単位に関する数値の算定基礎として用いられている。また、災害対策基本法第2条第3号及び武力攻撃事態法第2条第4号に規定する指定行政機関として、地震・火山噴火等の災害時や武力攻撃事態等において、地形図や空中写真をはじめとする地理空間情報の提供やGNSS測量などによる災害観測も行う。
英称
1949年の地理調査所の時代からGeographical Survey Institute(略称GSI)を使用していたが、2010年4月1日よりGeospatial Information Authority of Japan(略称は同じくGSI)を使用している[1]。
構成等
以下の拠点を有する。
- 本院 茨城県つくば市
- 北海道地方測量部(管轄:北海道) 北海道札幌市
- 東北地方測量部(管轄:青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島) 宮城県仙台市
- 関東地方測量部(管轄:茨城、栃木、群馬、千葉、埼玉、東京、神奈川、長野、山梨) 東京都千代田区
- 北陸地方測量部(管轄:新潟、富山、石川、福井) 富山県富山市
- 中部地方測量部(管轄:岐阜、静岡、愛知、三重) 愛知県名古屋市
- 近畿地方測量部(管轄:滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山) 大阪府大阪市
- 中国地方測量部(管轄:鳥取、島根、岡山、広島、山口) 広島県広島市
- 四国地方測量部(管轄:徳島、香川、愛媛、高知) 香川県高松市
- 九州地方測量部(管轄:福岡、佐賀、長崎、大分、熊本、宮崎、鹿児島) 福岡県福岡市
- 沖縄支所(管轄:沖縄) 沖縄県那覇市
- 鹿野山測地観測所 千葉県君津市(鹿野山の山頂付近)
- 東京出張所(国土交通省本省が入居する合同庁舎内)
以下は、無人の拠点である。
- 水沢測地観測所 岩手県奥州市
- 忍路験潮場 北海道小樽市忍路町
- 奥尻験潮場 北海道奥尻郡奥尻町
- 浅虫験潮場 青森県青森市浅虫
- 男鹿験潮場 秋田県男鹿市戸賀塩浜
- 鼠ケ関験潮場 山形県鶴岡市鼠ヶ関
- 飛島験潮場 山形県酒田市飛島
- 相馬験潮場 福島県相馬市原釜
- 勝浦験潮場 千葉県勝浦市興津
- 油壺験潮場 神奈川県三浦市三崎町
- 小木験潮場 新潟県佐渡市
- 柏崎験潮場 新潟県柏崎市鯨波
- 三国験潮場 福井県坂井市三国町
- 輪島験潮場 石川県輪島市輪島崎町
- 伊東験潮場 静岡県伊東市富戸
- 田子験潮場 静岡県賀茂郡西伊豆町
- 焼津験潮場 新潟県焼津市中港
- 鬼崎験潮場 愛知県常滑市港町
- 海南験潮場 和歌山県海南市冷水
- 田後験潮場 鳥取県岩美郡岩美町
- 須佐験潮場 山口県萩市
- 久礼験潮場 高知県高岡郡中土佐町
- 仮屋験潮場 佐賀県東松浦郡玄海町
- 細島験潮場 宮崎県日向市細島町
- 阿久根験潮場 鹿児島県阿久根市波留
- 沖縄験潮場 沖縄県南城市
- 新十津川VLBI観測施設
- つくば局VLBI観測施設(本院内)
- 父島VLBI観測施設
- 姶良VLBI観測施設
沿革
明治から戦前、戦中まで
明治2年5月(1869年6月)に民部官庶務司戸籍地図掛として設立[2]されたのが行政組織としての起源であるが、近代政府としての測量・地図に関する制度的な嚆矢としては、明治元年12月24日に行政官から府県・諸侯に対し発せされた、管轄地図を凡例等について詳細に指示した上で調製させる旨の沙汰[3]にまで遡ることができる。戸籍地図掛は翌1870年(明治3年)には民部省地理司へと拡充、1871年(明治4年)に民部省が廃止されて一時期大蔵省租税寮へ管轄が移った後、内務省が設置された1873年(明治6年)の翌年1月には、太政官達「大蔵省中戸籍、土木、駅逓ノ三寮及租税寮中地理、勧農ノ事務ヲ内務省ニ交割セシム」[4]により、同省に地理寮が発足した。その後、同年8月に発せられた太政官達「内務省中測量司ヲ廃シ地理寮ヘ量地課ヲ置キ内史所管地誌課ヲ地理寮ニ併ス」[5]により、内務省発足に伴い工部省から引き継いだ測量司(明治4年8月14日設置)及び太政官正院内史地誌課(明治4年6月8日に設置された太政官政表課を源とする)の業務等を移管統合しつつ、1877年(明治10年)に太政官達第3号「各省中諸寮ヲ廃シ局ヲ設ケシム」[6]により内務省地理局と改称され、全国大三角測量と地籍調査の実施を主要業務とした。
一方で、1871年(明治4年)7月、兵部省に「機務密謀ニ参畫シ地圖政誌ヲ編輯シ並ニ間諜通報等ノ事ヲ掌ル」[7]ことを目的に陸軍参謀局が設けられ、「平時ニ在リ是ヲ諸地方ニ分遣シ地理ヲ測量セシメ地圖ヲ製スルノ用ニ供スル事」[8]として間諜隊が置かれた。翌年の2月に兵部省が陸軍、海軍両省に分割された際には陸軍省参謀局として存置されたが、1873年(明治6年)4月、「陸軍文庫・測量地圖・繪圖彫刻・兵史並兵家政誌蒐輯」[9]を掌る陸軍省第六局(翌年再び参謀局と改称[10])となった。さらに、1878年(明治11年)12月、陸軍省参謀局が廃止され参謀本部が設置されたのを機に、同部の地図課・測量課として拡充・改称された。
このように、一時期日本における測地測量は内務省地理局と参謀本部測量課により二元的に実施されてきたが、1884年(明治17年)6月26日、一連の太政官達「内務省所属大三角測量事務ヲ参謀本部ニ引渡」及び「内務省所属大三角測量事務ヲ参謀本部ニ請取」[11], [12]によって大三角測量業務は参謀本部の管轄に移管され、内務省地理局は以後地誌編纂を主な業務とすることとなった。これに伴い、同年9月に参謀本部の地図課・測量課が測量局へと拡充された後さらに、1888年(明治21年)5月、陸地測量部條例(明治21年5月勅令第25号)の制定をもって、参謀本部の一局であった測量局は分離して本部長直属の独立官庁である陸地測量部となり、以後1945年(昭和20年)の終戦時まで全国規模の陸地部における測量を統括するという原則が継続された。
終戦後
終戦直後、陸軍参謀本部第二部参謀・渡邊正少佐の「戦後の復興にも地図作成機関が必要」として文民組織への逸早い切り替えの努力により[2][3]、「内務省官制中改正ノ件」(昭和20年勅令第502号)の施行をもって、陸地測量部令(昭和16年勅令第505号。明治21年5月勅令第25号の全部改正)の廃止とともに陸地測量部は消滅、終戦2週間後の1945年(昭和20年)9月1日付けで文民組織である内務省地理調査所が新たに発足。貴重な資料・機器は、多くが戦後の混乱による散逸から免れた。翌年には、疎開先の長野県松本市郊外から千葉県千葉市稲毛(旧千葉陸軍戦車学校跡地)に移る(その後、昭和33年には東京・目黒に移転)。1948年(昭和23年)1月1日に建設院地理調査所[4]、続けて同年7月10日に建設省地理調査所となり[5]、1960年(昭和35年)7月1日に現在の国土地理院と改称された[6]。その後、1984年(昭和59年)7月1日、国家行政組織法の改正により建設省の特別の機関に位置づけられ、更に中央省庁再編に伴い国土交通省の特別の機関となり現在に至っている。
本院は筑波研究学園都市内の茨城県つくば市北郷1番にある。1979年(昭和54年)に東京・目黒から現在地(当時は筑波郡谷田部町)に移転した。1996年(平成8年)6月1日に、地図や測量について親しめるような施設「地図と測量の科学館」を開館させた[7][8]。
地形等の正式名
島名や海峡名などについて、国土地理院と海上保安庁とが協議して名称を固定している。日本ではこの名称を「正式名」と呼ぶことになっている。場合によっては、住民も自治体も用いない名称がこの正式名として定められる場合がある(例:周防大島(正式名では、屋代島))。
山名などについてはこのような制度はない。
関連項目
- 電子国土
- 地形図
- 日本経緯度原点
- 日本水準原点
- 三角点 - 電子基準点
- 水準点
- 点の記
- 測地系
- 超長基線電波干渉法
- 測量の日
- UC-90測量機 くにかぜII
- 地震予知連絡会
- 劒岳 点の記
- 地球地図
- くにかぜII
脚注
- ↑ 国土地理院広報・国土地理院のシンボルマークと英語名について
- ↑ http://www.gsi.go.jp/WNEW/koohou/450-5.htm
- ↑ 地図の読み方事典 東京堂出版 P.164-P.165
- ↑ 1947年(昭和22年)12月26日法律第237号「建設院設置法」
- ↑ 1948年(昭和23年)7月8日法律第113号「建設省設置法」
- ↑ 1960年(昭和35年)7月1日法律第115号「建設省設置法の一部を改正する法律」
- ↑ 長岡(1997):42ページ
- ↑ 日本測量協会(1996):34 - 35ページ
参考文献
- 長岡正利(1997)"国土地理院に「地図と測量の科学館」―平成8年6月1日開館―"びぶろす(国立国会図書館協力部).48(2):42-45.
- 日本測量協会(1996)"地図と測量の科学館が6月にオープン!"測量(日本測量協会).46(5):34-37.
外部リンク
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