原子炉
原子炉(げんしろ、Nuclear Reactor)は安全に原子核反応を持続させる装置である。多くは原子力発電所や、航空母艦や潜水艦の原子力機関として使用される。核種変換による核物質生産や研究などの中性子源などにも使用される。
目次
概要
原子炉は核反応の種類から、核分裂炉と核融合炉とに分けられるが、核融合炉は研究段階のみで実在していないため、一般には核分裂炉を指す。核分裂炉は、発電や移動動力のエネルギを得るために作られた動力炉と、プルトニウム生産を目的とした軍事用のプルトニウム生産炉に分けられる。これ以外にも核物理学研究に使われる研究炉もある。
以下、この項では核分裂炉について述べる。核融合炉については最後に記述する。
日本に初めて導入された原子炉は英国製のガス冷却炉である。 原子炉で発生する事故として最も深刻なものは、冷却材喪失事故であり、蒸気爆発や炉心溶融を引き起こす。
原子炉の基本構成
- 炉壁・容器
- 圧力容器
- 格納容器
原子炉の分類
減速材による分類
- 軽水炉:軽水
- 通常の水である軽水は中性子減速能が大きいが中性子吸収能も大きい。通常は減速材が冷却材を兼ねる。軽水は安価で大量に入手することができ、火力発電で使用されているため性状が良くわかっている。反面、吸収能が大きいため軽水冷却炉では濃縮されたウラン燃料を用いて発生する中性子の数を増やす必要がある。
- 重水炉:重水
- 水素の同位体である重水素からなる水である重水は軽水に次ぐ減速能を持ち吸収能が小さい。従って重水炉では天然ウランを始めとして多用な物質を核燃料として用いることができる。ただし、重水は高価である。
- 黒鉛炉:黒鉛
- 炭素からなる黒鉛は水に次ぐ減速能を持ち常温で固体である。黒鉛は減速能を持たない物質を冷却材として用いる設計の原子炉で使用されており、現在では主にガス炉の減速剤として使用されている。
- 高速中性子炉、高速増殖炉:無し
- 高速炉とも呼ばれるこの型の原子炉は、減速材を利用せず、核分裂に伴なって発生する高速中性子をそのまま利用する。これは燃料増殖に有利である。
冷却材の種類による分類
- 軽水冷却炉:軽水
- 軽水が減速材と冷却材を兼ねる炉と、軽水は燃料の冷却のみに用いられて減速材には黒鉛等を用いる炉がある。
- 重水冷却炉:重水
- 重水が減速材を兼ねていることが多い。
- ガス冷却炉:ガス(二酸化炭素、ヘリウム)
- 水蒸気と異なりガスは圧力を高めなくとも高温にすることができるため初期の原子炉では二酸化炭素が冷却材として用いられた。反面、密度が小さく熱運搬能力に乏しいためガス炉による商用発電は経済性に劣り商用発電炉の主流は軽水炉に替わった。ヘリウムは現在研究・開発が進められている1,000度を越える高温を原子炉から得る高温ガス炉の冷却材として用いることが研究されている。
- 溶融金属冷却炉:溶融金属(ナトリウム、鉛・ビスマス合金)
- 溶融金属は常圧で高温を得られる熱運搬能力に優れた流体であるため、配管を耐圧とする必要が無く原子炉全体を小型軽量化できる。このため艦船の動力として採用されていたが、金属を流体の状態に保つための高温の維持に苦労が多く採用はごく少数に留まった。ナトリウムは初期の原子力潜水艦の原子力炉冷却材として採用されていたが、水と激しく反応するために旧ソ連のアルファ級などではスプリンクラーなどに使用されている低融点の鉛・ビスマス合金を冷却材とする原子炉が採用された。ナトリウムは中性子減速能を持たないため高速増殖炉の冷却材として使用されている。
冷却材の状態による分類
- 加圧水型原子炉
- 炉心内の液体冷却材が沸騰しておらず液体状態な原子炉。(ただし、加圧されているため液体のまま300℃以上の温度となっている)
- 沸騰水型原子炉
- 炉心内の液体冷却材が沸騰していて蒸気と液体の混合状態な原子炉。
中性子の性状による分類
- 熱中性子炉
- 熱中性子を利用する原子炉。熱中性子はウラン235を良く核分裂させることができる。
- 高速中性子炉
- 高速中性子を利用する原子炉。高速中性子はウラン238に吸収されやすく、中性子を吸収したウラン238はプルトニウム239となるため燃料の増殖が容易である。反面、高速中性子はウラン235とは反応しにくく、また、ウラン238に吸収されてしまう分だけ核分裂に利用できる中性子の数が少なくなるため、中性子を効率よく利用できる原子炉とする必要が生ずる。なお、高速中性子は核燃料から発生する超ウラン物質を核分裂させる能力にも優れ、このため、高速炉を高レベル放射性廃棄物の消滅処理に利用することが検討されている。
使用目的による分類
- 研究炉
- 原子炉の核特性の研究、教育目的、放射線や中性子線の照射実験などに用いられる原子炉。日本では日本原子力研究開発機構の研究用原子炉(JRR1~4)の他、国立大学では東京大学の弥生(熱出力2kW)、京都大学のKUR(熱出力5,000kW)の2基と、私立大学では立教大学のRUR(TRIGA MkII、熱出力100kW)、武蔵工業大学のMITRR (TRIGA MkII、熱出力100kW) 、近畿大学のUTR-KINKI(熱出力1W)の3基が運用されたが、このうちMITRRとRURは廃炉となっている。また企業の研究用原子炉としては、東芝がTTR-1(神奈川県川崎市川崎区浮島町)、日立製作所がHTR(川崎市麻生区王禅寺)を運用していたが、現在はいずれも運転を停止している。HTRは炉心が解体済で現在は廃棄物の保管のみを行っている。TTRは2001年に国へ解体が申請されている。
- 発電炉(動力炉)
- 発電用原子炉。商業用発電炉を略して商用炉とも呼ばれる。
- 原子力機関
- 艦船等の推進機関として利用される原子炉。加圧式重水炉が多い。
- プルトニウム生産炉
- 天然ウランから核兵器用プルトニウムを生産するための原子炉。
- 地域熱供給炉
- 暖房用の蒸気を供給する原子炉。発電と共用の場合もある。原子炉は一旦燃料を装荷すれば長期間に渡って熱を発生するためボイラー燃料などを頻繁に供給することが難しい旧ソ連の内陸部で実用化された他、アメリカのアラスカ州などで設置が検討されている。
- 宇宙炉
- 原子力電池とほぼ同じ用途であるが、より大電力を必要とする場合に利用される。旧ソ連の偵察衛星が一時期これを搭載していたことがある。
開発段階による分類
- 実験炉
- 理論の基礎的研究段階の原子炉。研究炉とも呼ばれる。
- 原型炉
- 技術上の問題点洗い出し、経済性試算段階の原子炉。
- 実証炉
- 大型プラントの検証段階の原子炉。
- 実用炉
- 実用段階の原子炉。この段階でその設計が完成したと見なされて、多数のプラントが建設される。
5重の壁
5重の壁は、以下の物からなる。
オクロの天然原子炉
人工の原子炉に似た特定の条件下では天然の核分裂炉ができることがある。知られている唯一の天然原子炉はガボン共和国のオートオゴウェ州オクロ(現在でもウラン鉱床として稼動)に20億年前に形成された。 (外部リンク) ただ、このような炉はもはや地球上には形成されることは無い。非常に長い時間の原子核崩壊により、ウラン中のウラン235の割合が減って連鎖反応を維持するために必要な量を下回っているためである。
天然原子炉は、ウランに富んだ鉱脈が、減速材の役割をする地下水に囲まれたときに形成され、強烈な連鎖反応が起こった。反応が増えると水の減速材は沸騰し、反応を抑制するので、メルトダウンを防いでいた。核分裂反応は数十万年間続いていた。
こうした天然原子炉は放射性廃棄物の地層処分を研究する科学者によって徹底的に調査されている。地殻中で放射性同位体がどのように移行するかについてケーススタディーをもたらした。これは処分場から移行した同位体が給水系統に達するとか環境中に移行するのではないかという懸念をもつ地層処分反対論のような議論の的になっている。
核融合炉
核融合炉は実用規模のエネルギーを生産可能なものはいまだ存在しないが、現在計画中のITER(国際熱核融合実験炉)では最大で50~70万kWの出力(熱出力)が期待されている。
関連項目
外部リンク
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