労働基準監督署

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労働基準監督署は、労働基準法その他の労働者保護法規に基づいて事業場に対する監督及び労災保険の給付等を行う厚生労働省出先機関である。略称は労基署労基監督署。労働基準監督署は都道府県労働局の指揮監督を受け、都道府県労働局は主に厚生労働省の内部部局である労働基準局の指揮監督を受ける。

概説

法律に基づく最低労働基準の遵守について事業者等を監督することを主たる業務とする機関である(労働者の待遇向上のためのものではない。)。労働基準監督署には監督主務課、労災保険主務課、安全衛生主務課が置かれており、職員は労働基準監督官(主に監督業務を担当)、厚生労働事務官(主に労災保険業務や庶務を担当)、厚生労働技官(安全衛生業務担当)等からなる。監督主務課は複数人の労働基準監督官を擁し、定期に、また労働者から法違反の申告(いわゆる「被害届」のようなもの。)があったときはそれに基づいて、労働者の労働条件の確保等を目的として事業場(会社、建設現場等)に立入って、賃金台帳その他の労務関係書類や安全衛生管理の状況を調べ、法違反等が認められた場合は行政指導を行う。その他、各種届出・申請の受付や、未払賃金の立替払事業に関する認定・確認などを行っている。労働基準監督官及び労働基準監督署長は司法警察員(ただし労働基準法等の8つの法律に限る)なので、労働基準法違反等の被疑事件について捜査を行うほか、刑事訴訟法の告訴・告発先でもある。労災保険主務課では、労働災害(業務に起因したもの死傷病)や通勤災害の認定・給付、労働保険労災保険及び雇用保険の総称)の適用および労働保険料等の徴収を行っている。安全衛生主務課では、安全衛生法違反等の是正指導のほか、法違反ではないが労働災害等を発生させる危険がある事業場に対して個別指導を行っている。なお、個別労働紛争解決制度の助言やあっせんは都道府県労働局の業務であるが、都道府県労働局の職員が労基署に場所を間借りして業務を行っている。

所管事務

  • 労働契約、賃金の支払、最低賃金、労働時間、休息、災害補償その他の労働条件に関すること。
  • 労働能率の増進に関すること。
  • 児童の使用の禁止に関すること。
  • 産業安全(鉱山における保安を除く。)に関すること。
  • 労働衛生に関すること(労働者についてのじん肺管理区分の決定に関することを含み、鉱山における通気及び災害時の救護に関することを除く。)。
  • 労働基準監督官が司法警察員として行う職務に関すること。
  • 政府が管掌する労働者災害補償保険事業に関すること。
  • 労働者の保護に関すること。
  • 家内労働者の福祉の増進に関すること。
  • 前各号に掲げるもののほか、法律(法律に基づく命令を含む。)に基づき労働基準監督署に属させられた事務に関すること。

組織

各労基署の職員数は相当の差があり、最大の労基署では職員数が100名以上、最少の労基署では職員数が6名である。

署長
労働基準監督署長は、労働基準法によって、労働基準監督官試験に合格した労働基準監督官が務めることになっている。例外として、国家公務員II・III種試験に合格して都道府県労働局に採用された、おおむね50歳以上の厚生労働事務官・厚生労働技官が労働基準監督官に任命されて(政令監督官という)、労基署長を務めることもある。
平成23年度から東京の一部において、労基署長には、警察署長や税務署長のようにキャリアが就任することになった。内部では、キャリアは「親方」と呼ばれている。
次長
全ての方面制署と一部の課制署に置かれる。労働基準監督官が就任する。また一部の大規模署には2人の次長が置かれ(「複数次長制署」という。)、監督・安全衛生担当には労働基準監督官(なお、厚生労働技官は次長にはなれない)が、労災補償・業務担当には厚生労働事務官が就任する(労働基準監督官、厚生労働技官の就任も可能)。

方面制署

方面制署は、中~大規模の労基署である。各方面は課に相当する。名称を「監督課」に変更する予定がある。

六つの方面制署があり、それぞれ「第○方面」(○は一から六の漢数字)と呼ばれる。

方面主任監督官
労基署の規模によって3~6人の方面主任監督官(課長級、全員労働基準監督官である)が置かれ、職名は第○方面主任監督官である。各方面主任監督官には、部下の副主任監督官・監督係長・役職をもたない労働基準監督官などが配置される。各労働基準監督官は、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法などの労働基準関係法令を、事業場が遵守しているかどうかを監督する。法令違反があり、是正勧告に応じない、告訴告発がある、または違反態様が重大・悪質な場合は、刑事訴訟法に基づき捜査を行う。
各方面主任監督官の格付けは対等ではあるものの、第一方面主任監督官は監督・取締部門である各方面の指導と総合調整を行い、署長、次長に次ぐ事実上ナンバー3(複数の次長がいる場合はナンバー4)の役職であるが、上司からの命令を受けることは少ないので、方面主任監督官のまとめ役程度でしかない。

方面制署の課

  • 安全衛生課
    労働災害、職業性疾病の防止、クレーン・ボイラーなどの検査を行う。課長には、厚生労働技官または労働基準監督官が就任する。中規模署では安全衛生課が置かれないこともあり、その場合は次席の方面主任監督官が安全衛生課長の業務を行う。課長以外に産業安全専門官・労働衛生専門官・放射線管理専門官・係長・主任・係員などが配置される。
  • 業務課
    庶務、庁舎管理、賃金構造基本統計調査、会計、労働者災害補償保険の保険金支払を行う。課長は厚生労働事務官が就任する。係長・主任・係員が配置される。
  • 労災課
    労働者災害補償保険の給付事務、労働保険料の徴収を行う。課長には、厚生労働事務官が就任する。課長以外に、労災保険給付調査官・労働保険適用指導官・係長・主任・係員などが配置される。また、常勤職員以外にも多数の非常勤職員・臨時職員が配置され、労基署の方面制署の各課の中では最も人数が多い。

各方面・各課の業務は分かれているが、各方面と安全衛生課は密に連携をとりながら業務を行う。

課制署

課制署は、小~中規模の労基署であり、二つまたは三つの課が置かれている。

三課制署

三つの課が置かれている労基署の課は、次のとおりである。

  • 監督課(旧:第一課)
    方面制署の各方面、業務課の所掌事務を行う。課長には、労働基準監督官が就任する。ほとんどの3課制署には次長が置かれていず、第一課長は、署長に次ぐナンバー2の役職である。
  • 安全衛生課(旧:第二課)
    方面制署の安全衛生課の所掌事務を行う。課長には、厚生労働技官または労働基準監督官が就任する。
  • 労災課(旧:第三課)
    方面制署の労災課の所掌事務を行う。課長には、厚生労働事務官が就任する。

二課制署

二つの課が置かれている労基署の課は、次のとおりである。

  • 監督課(旧:第一課)
    方面制署の各方面、安全衛生課、業務課の所掌事務を行う。課長には、労働基準監督官が就任する。2課制署には次長が置かれていず、監督課長は、署長に次ぐナンバー2の役職である。
  • 労災・安全課(旧:第二課)
    方面制署の労災課の所掌事務を行う。課長には、厚生労働事務官または厚生労働技官が就任する。
    ※ 各都道府県労働局によっては、労災・安全課が方面制署の安全衛生課の所掌事務を行う労基署もある。

三官制度

労基署には、労働基準監督官、厚生労働事務官、厚生労働技官の三つの官名の職員が混在して配置され、これを三官制度(新人事制度では厚生労働技官が廃止され、二官制度となる。)と称していた。労働基準監督官は、労働基準監督官のまま厚生労働事務官及び厚生労働技官の職務を行うことが可能であるが、厚生労働事務官または厚生労働技官が転官せずに労働基準監督官の職務を行うことはできない。

年々、厚生労働事務官・厚生労働技官は減員され、労働基準監督官のみ増員されているのが現状である(新人事制度では、労働基準監督官が監督・安全衛生・労災補償を、厚生労働事務官が労働保険適用徴収・業務(庶務会計)に当たることとされて、現在、厚生労働技官の採用はなくなっている。)。

労働基準監督官
労働基準監督官は、国家公務員II・III種試験より上位に位置づけられている労働基準監督官試験に合格した者から採用され、採用時から特別司法警察職員の身分が与えられる。原則として採用から7年間は全国への異動があり、以降は希望の勤務地に沿うとされている。よほどの問題がない限り(場合によっては、問題があっても人員の問題から)、地方の労働局では署長に就任することが約束されている。昇進・昇任も厚生労働事務官・厚生労働技官に比べて相当早く、最短では29歳で労基署主任監督官・課長に就任することができる。局総務課の総務・人事係長、局企画室の企画係長、局監督課の監督係長の経験者は、将来を嘱望されている労働基準監督官のエース的存在であり、その後、局監察監督官や労基署長などのポストを務め、最終的には筆頭署長に昇進していくが、その例外もあり、単なる閑職に過ぎないこともある。
労基署内で厚生労働事務官・厚生労働技官と同一業務に就くことがしばしばあるが、検察官と検察事務官のような主従関係にあるわけではなく、上意下達の職場風土はない。内々では「一人親方」とも称されている。捜査を含めて業務は基本的に単独で行い、特に問題がない限り、上司からの指示を受けることは少ない(場合によっては細かい指示を出す上司もいるが、このような上司は概して内部での評判が悪くなる。)。
厚生労働事務官
厚生労働事務官は、国家公務員II・III種試験に合格して都道府県労働局をまとめたブロック単位で採用され、同一のブロック内の都道府県労働局で勤務していく。優秀な者は局総務課に若年時から配置され、優秀でない者は局総務課勤務経験がない傾向にある。特に局総務課の予算事務担当に配置される者は将来を嘱望されていて、将来的には総務・人事・会計係長または局企画室の企画係長の経験を経て昇進していく、事務官のエース的存在である。これらの者は、その後労基署課長を経て、局企画室長補佐、局総務課長補佐、局人事計画官といったキーポストを務め、局課・室長に昇進していく。しかし、その例外も数多い。中には労働基準監督官(通常、労働基準監督官試験の合格が必要である。)や厚生労働技官に転官し、労働基準監督署長、安全衛生課長等を務める者もいる。
厚生労働事務官は、庶務などの管理部門・労災補償部門・保険関係成立の適用部門・徴収部門を相互に異動し、場合によっては労働基準の相談・調査部門に配置されて労働基準監督官の業務補助の一部をこなすこともある。労災補償調査時には、請求者との面接等によって確認して、診療費の支給や休業補償の支給可否、障害の等級を定めるので、医学的知識の習得が不可欠である。
労働保険(労災・雇用)の保険料の徴収に関する事務を扱う厚生労働事務官は、所管の労働保険の保険料の徴収等に関する法律により(国税徴収法の準用規定がある。)、国税徴収法上の徴収職員として都道府県労働局長から任命され、滞納処分の一環として捜索・差押えを令状なしで執行する権限をもつ。差押えは頻繁に執行する一方で、捜索まで実施するケースは限定されている。これは、他の税金や年金保険料と異なって、金額が少額であることから債権差押えで完結となるケースが多いからでもあるが、捜索をする能力のある職員がほとんどいないことが主要な要因である。徴収職員である厚生労働事務官は、各人が独立した権限をもち、(都道府県によって異なる場合もあるが)おおむね労働局総務部(労働保険徴収部)労働保険徴収課(室)と所轄の労働基準監督署に配置されて、滞納処分と滞納整理に関する事務を行っている。補償部門も徴収部門も、専門的な知識が必要である。
ほとんどの都道府県労働局では、国家公務員II種試験合格者とIII種試験合格者の昇進・昇任は全く変わらないので、まず経験年数が優先され、高校や専門学校卒業後直ぐに就職した厚生労働事務官と大学や転職組の厚生労働事務官では扱いが異なり、学歴ではなく勤続年数によって先輩後輩の序列ができる。
厚生労働技官
厚生労働技官は、国家公務員II・III種試験に合格して都道府県労働局に採用され、都道府県をまたいだ異動がなく、同一の都道府県労働局内で勤務している(現在採用は行われていない。)。局健康安全課(大規模な労働局では安全課と健康課とに分かれる。)と署安全衛生課だけに勤務することが多く、専門性は高いが、つぶしがきかない(安全衛生以外の業務経験がないので、他の業務ができない)という問題もある。とりわけ局課長補佐級以降は、就任させるポストがないという事態になりがちである。そのような事態を防ぐために、近年では若年時から厚生労働事務官の業務である庶務会計・労災補償に積極的に配置するようにしているようであるが、逆に厚生労働技官の専門性が向上しない、厚生労働事務官に比べると慣れない業務への異動が多いといった不満も出ていて、三官の中では「冷や飯食い」の立場にある。
近年は、クレーンやボイラーの検査といった主力業務が激減していて、内部からも技官不要論が出ている。近年では、定員を確保するため、必ずしも世間で求められているとはいえない安全衛生指導を主力業務に据えている。この厚生労働技官の行う安全衛生指導を内部では「個別指導」と呼んでいるが、これは労働基準監督官が行う「臨検監督」とは異なり、法的根拠がない単なる行政指導であるので、企業がこれを拒否しても処罰の対象となることはない。企業の安全担当者から見れば「個別指導」は、内情を知らない素人の公務員による指導であるため、メリットはあまりなく、個別指導の必要性は厚生労働技官の食いぶちのためではないかという疑念が持たれている。また、安全衛生コンサルタントの民業を圧迫するという問題もある。厚生労働技官独自の職務領域が減少しているので、新人事制度では厚生労働技官の採用を中止して、労働基準監督官を安全衛生業務に充てることとし、厚生労働技官の採用は廃止された(このことは、安全衛生業務の専門性が失われるという意見もある。)。局課長補佐級までの昇進・昇任の速さは厚生労働事務官と基本的に同じである。中には厚生労働事務官に転官する者もいるが、労働基準監督官に転官(通常、労働基準監督官試験の合格が必要である)し、厚生労働技官から労働基準監督署長を務める者は最近ではいない。

その他

関連項目

外部リンク