レプトスピラ症
テンプレート:medical レプトスピラ症(Leptospirosis)は病原性レプトスピラの感染による人獣共通感染症。
古来より秋疫(あきやみ)、用水病、七日熱等の名前で呼ばれたが、大まかには黄疸出血性レプトスピラ(ワイル病)、秋季レプトスピラ、イヌ型レプトスピラなどに分けられる。感染症法の四類感染症であり、家畜伝染病予防法の届出伝染病にも指定されている。
原因
スピロヘータ目レプトスピラ科レプトスピラ属に属するグラム陰性菌を病原とする。ネズミなどの野性動物を自然宿主として、ヒトだけでなくイヌ,ウシ,ブタなどほとんどの哺乳類に感染。腎臓尿細管などで増殖し、排泄物を経由して汚染された水や土壌から経口・経皮的に感染する。ヒトからヒトへの感染は起こらない。
疫学
中年米、東南アジアなどの熱帯、亜熱帯地域での流行があり、東南アジアの流行は7~10月に集中している。特に被害が深刻なのはタイであり、年間数千人規模の流行がみられる。日本では1970年代前半までは年間50名以上の死亡が報告されていたが、近年では患者数、死亡者数とも激減し、各地で散発的に認められる程度となっている。例えば、1999年に沖縄県八重山諸島で集団感染が発生した。下水道工事関係者や畜産関係者などの患者が多く職業病の一つである。近年の海外渡航者の増加に伴い、流行地からの輸入感染例が報告されている。また、海外からの家畜や伴侶動物などの輸入を介して国内にレプトスピラが持ち込まれる可能性が指摘されている。
症状
- ヒト
- 潜伏期間は3日から14日程度で、悪寒、発熱、頭痛、全身の倦怠感、眼球結膜の充血、筋肉痛、腰痛など急性熱性疾患の症状を示すとされる。軽症型の場合は風邪と似た症状でやがて回復するが、ワイル病の別名でも呼ばれる重症型では、5〜8日後から黄疸、出血、肝臓・腎臓障害などの症状が見られ、エボラ出血熱と同レベルの全身出血を伴ったり、播種性血管内凝固症候群を引き起こす場合もある。重症型の死亡率は5〜50%とされる。
- イヌ
- 急性の場合、出血、発熱、嘔吐、血便、口腔粘膜の潰瘍、黄疸、腎炎、出血傾向などの症状を示し、2〜4日で死亡する。
- ウシ・ウマ・ブタ・ヒツジ・ヤギ
キツネ、スカンク、オポッサムのほか,家鼠をはじめとする各種囓歯類では不顕性感染(症状が表れない)で保有体となって感染源になる。ただしハムスターは例外的に激しい症状を示して1〜2週間で死亡する。また、ブタやウシも感染源となっている可能性が示唆されている。
治療方法
主に抗生物質が使用される。軽症型にはβラクタム系やアミノグルコシド系、テトラサイクリン系、重症型ではストレプトマイシンやペニシリン系の抗生剤が使用される事が多い。ただし投与後に発熱・低血圧などのショック症状(ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応)を起こす場合がある。
予防
- ワイル病秋疫混合ワクチン
- 血清型が合致する菌に対しては6年程度免疫が有効とされるが、初回は一週間間隔で2回接種し、1年後にもう1回接種する必要がある。なお、確認されている血清型は250以上あるが、現在のワクチンではその中の5つの型にしか対応していない。
- 50℃10分の熱で死滅するほか、乾燥やpH6.8以下の酸に弱い為、次亜塩素酸ナトリウム、ヨード、逆性石鹸で消毒出来る。一方で低温には強い。
- 軽症型での治療にも使われるドキシサイクリンなどのテトラサイクリン系抗生剤は予防に効果があるが、長期間の服用は奨められないとされる。
- 流行地域では不用意に水に入らない事。特に洪水の後は感染の危険性が高まる。
関連項目
外部リンク
- 日本獣医師会雑誌 第55巻第5号
- 社団法人千葉県獣医師会