シニフィアンとシニフィエ
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シニフィアン(signifiant)とシニフィエ(signifié)はフェルディナン・ド・ソシュールによってはじめて定義された言語学用語。「シニフィアン」はフランス語の動詞signifier「意味する」の現在分詞で「意味しているもの」「表しているもの」を指し、「シニフィエ」は同じ動詞の過去分詞で「意味されているもの」「表されているもの」を指す。日本語ではシニフィアンを「記号表現」「能記」など、シニフィエを「記号内容」「所記」などと訳すこともある。「能記」「所記」は『一般言語学講義』の小林英夫による訳業以降ひろく用いられたが、漢語的な表記であるため、最近では用いられることは少ない。
日本語 | フランス語 | 英語 | 例 |
シニフィアン (記号表現、能記) |
signifiant | signifier | 「海」という文字や、「うみ」という音声 |
シニフィエ (記号内容、所記) |
signifié | signified | 海のイメージや、海という概念、ないしその意味内容 |
シニフィアンとは、語のもつ感覚的側面のことで、例えば海という言葉の「海」という文字や「うみ」という音声のことを言う。他方シニフィエとは、このシニフィアンによって意味されたり表される海のイメージや海という概念ないし意味内容のことである。また、表裏一体となったシニフィアンとシニフィエとの対のことを、「シーニュ」(signe)すなわち「記号」と呼ぶ。
200pxシーニュ 200px日本語の場合 200px英語の場合
シニフィアンとシニフィエの関係(シニフィカシオン(signification)または記号表意作用)は、
- その関係に必然性はない。(記号の恣意性)
- 例で言えば、「海」そのものを「海」と書き、「う・み」と発音する必然性はどこにもない。もしそれがあったとしたら、あらゆる言語で海は「う・み」と発音されているはずである。
- 必然性がないにもかかわらず、それが了解される体系のなかでは必然化されている。
- 日本語を解する人が「海」という字を見、「う・み」という音を聞くとき、そこでイメージされるものの根底は基本的に同じである。また、「海」はどうして「う・み」というのか、という質問に答えることは非常に難しい。
ととらえることができる。
なお、ゴットロープ・フレーゲの指摘にもあるように、シニフィエにあたる「意味」ないし「概念」という概念は「指示対象」の概念とは必ずしも一致しない。この意味において、「指示対象」は「レフェラン」(référent)と呼ばれ、シニフィエとは区別される。
参考文献
- 『言語學原論』フェルディナン・ド・ソシュール、小林英夫訳、岡書院、1928年。
- 本書では「ソッスュール」と表記。改版新訳の初版(1940年刊)以降は岩波書店より刊行。
- 『一般言語学講義』フェルディナン・ド・ソシュール、小林英夫訳、岩波書店、1972年。
- 『言語學原論』を改題した新訳改版。
- 丸山圭三郎『ソシュールの思想』、岩波書店、1981年。
- わが国のソシュール解説として代表的なもの