ガマの油売り
ガマの油(ガマのあぶら)とは、江戸時代に傷薬として売られていた軟膏剤。蝋などを基剤にし、ヒキガエルやムカデなどを煮詰めてつくられたという説などがあるが、主な成分は馬の脂肪から抽出した油である。止血・やけどなどに効果があるとされたが、民間療法であり、薬理効果は認められていない。
ガマの油売り
江戸中期になると、縁日や祭りで香具師たちが、伊吹山や筑波山などで作られたとするガマの油を巧みな口上と演技で売るようになった。その売り方は、行者風の凝った衣装を纏い、綱渡りなどの大道芸で客寄せをした後、ガマガエルから油をとる方法やガマの霊力を語る。そして、切っ先だけがよく切れる刀の切れ味を見せ、切れない部分を使って腕を切るふりをする。本当は赤い線が入っただけの切り傷を、さも切ったように客に見せ、がまの油を切り傷につけ、切り傷を消してみせる。
交通機関が未発達で徒歩による旅行が主だった時代には、霊山に参拝することが民衆の娯楽であり、願いの一つであった。先述の伊吹山や筑波山は信仰の拠り所として神の住む霊山の一つとして位置付けられており、遠くに見ることはできても実際に現地に赴くには遠い存在であった。そのような霊山の麓で育った生き物の中でガマガエルは得体の知れぬ生き物の一つとして崇められた。中でも四六のガマと呼ばれるガマガエルは特異とされ、周囲に鏡を張った箱にを入れた後、自らの姿を見たガマガエルが脂汗を出し始め、その脂汗を収集して一定期日のあいだ煮つめて膏薬油をとる方法やガマの霊力を口上で語った。
刀の切れ味を示す口上では、半紙大の和紙を二つ折りに切っていき、「一枚が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚、八枚が十六枚…」と口上し、和紙を半折りして徐々に小さく切っていく。この時、据え物斬りに相当する枚数に至る紙を切ることで刀の切れ味を客に示し、小さくなった紙片を紙吹雪のように吹き飛ばして、切れ味ととも華やかさを示す。紙を切ることで周囲に群がった客に対して切れ味を実演した後、自らの二の腕に刃を当てて傷を付けて血が出ることを見せる。その切り口にガマの油を塗ることで止血作用が明らかなことを示す。この口上に前後して、ガマの油を塗った二の腕は刃物で切ろうとしても切れず効能があることを示す。
古典落語の『高田の馬場』はガマの油売りの口上から始まり膏薬が古傷に効くと聞いて古傷を見せた武士と膏薬売りとの仇討ちが題材となっており、噺家による口上が見所の一つである。 『ガマの油』というその物の落語もある。こちらは酒によったガマの油売りが少し深く切りすぎて、血が止まらなくなる話である。