耳
音波を受容し、それを神経に伝える構造をもつのが耳である。動物でこれをもつものの割合はそれほど多いわけではないが、脊椎動物 は全て耳をもっており、耳介や外耳道で音を拾い集め、振動する鼓膜の信号を神経パルスに変換して、蝸牛神経を通して大脳の聴覚中枢へと送る。ほとんどの動物(哺乳類のこと、ヒトを含む)においては、五感を司る器官の中でも、耳は生まれたときすでに成体に近いレベルまで発達している。これは、外界の危険を感じ取ったり、親とのコミュニケーション(ヒトの場合、特に言語)を維持・学習するために必要だからと考えられる。
註:ただし、ヒトの聴覚は発育とともに徐々に発達していくものであるので、乳児は成人と同じ聴覚をもってはいない。音を感じることは出来ても、それを周波数別に分別して音を理解する側頭葉の発育が不十分であるためである。検知はできるが、認知ができないのである。よって、生下時に十分な聴力がなく音が聞こえない状態で育った人間は、たとえその状態が成人になってから良くなっても、音声を理解することができない。脳で音声信号を処理することが出来ないのである。これは視覚についても同様のことが言える。
人間の耳
音は、外耳より空気の振動エネルギーとして体の中に進入し、鼓膜により固体の振動エネルギーへと変換され、中耳内の耳小骨を伝わり、蝸牛へと到達する。蝸牛に到達した振動エネルギーは、蝸牛にある有毛細胞を興奮させ、その興奮は後迷路を伝わり、大脳へ達し、音として人間に検知される。
外観として目立つ耳介を俗に耳と呼ぶ場合も少なくないが、聴覚機能の中心は中耳から内耳にあり、外耳から内耳までの全体が耳である。
爬虫類の耳
爬虫類の耳は外耳道が短く外側から見て浅いくぼみになっており、鼓膜が見える。 カメレオンなどいくつかの種類では鼓膜は皮膚に覆われている。
無脊椎動物の耳
陸上の脊椎動物ではほぼ標準装備の耳であるが、無脊椎動物では、専用の耳をもつ動物はそれほど多くない。耳と呼ぶべき構造をもつ動物は、以下の通り。
一見して分かるように、耳を持つのは、鳴き声を上げるものである。即ち、音によって個体間の情報伝達をするために、特に耳の発達が必要だったものと考えられる。また、ガについては、天敵であるコウモリが反響定位をするため、この音波を受信するための適応と考えられる。
また、いわゆる耳とは全く構造を異にしているが、音波受容器をもつものに、
などがある。いずれも体表面の毛などに空気の振動を受けやすい仕組みがある。カは羽音での情報伝達をおこなう。
耳にまつわる雑学
- 彫刻家の三木富雄は、耳の彫刻を生涯にわたって多数制作したことで知られる。
- 画家のゴッホは、自画像に描いた耳についての批判的な意見を気にしたあまり、自分の耳を切り取ったことがある。
- 耳の形はよく遺伝するので、DNAや血液型による鑑定が一般的になる前、親子鑑定に用いられていた。
- 耳の血流の変化は見てとりやすく、耳は(人によっては)心理的動揺が顕著に現れやすい部位でもある。俗に、興奮した際の比喩表現として「耳まで赤くなる」というが、大抵の場合は顔面が紅潮するときは耳の血色もよくなっている。
- 柔道、レスリング、相撲等の組技格闘技をする人の耳殻は、こすれて内出血を起こしやすい。この状態を繰り返すうちに耳全体が腫れ上がる現状が見られる。日本では耳が湧く、餃子耳と呼ばれ、英語ではカリフラワー・イヤーと表現される。この現象は個人差がある。耳が湧いているからといって必ずしも練習を積んでいる、強いというわけではない。
- 上記の様な特殊な例を除き、成人に達した人間の耳は変化しない。まれに人物判断の材料となることもある。
- 多くの動物は耳を動かせるが、人間は耳を自分の意志で動かすことはできない。しかし人間でもまれに自分の意志で耳を動かせる人が存在する。
派生義
- フクロウ科の羽角、物の外周部、先端部、突出部を耳介に喩えて、耳と呼ぶ場合がある。ミミズクの耳、食パンの耳、カステラの耳、ティーカップの耳(=取っ手)など。木工では、丸太を板に製材した後で、側面に残る樹皮をいう。
- 聴覚及び聴覚情報を使った認識を耳に喩える場合がある。地獄耳、早耳、英語の耳など。道教の神に、聴覚に優れた順風耳がいる。
- 中国では漢字のこざとへん(阜部。阝)、おおざと(邑部。阝)を耳に喩えている。
関連項目
このページはウィキペディア日本語版のコンテンツ・耳を利用して作成されています。変更履歴はこちらです。 |