電波天文学
電波天文学(でんぱてんもんがく)とは、電波を天体の観測手段として用い、天体に関する研究を行う天文学の一分野。
観測
天体からの電波は微弱であるため、観測は電波望遠鏡によって行われる。電波は波長が長いために星間物質による散乱を受けにくく、可視光では観測できない暗黒星雲の背後などを観測することが可能である。
しかし、短波より波長が長い(40m以上)電波は電離層で反射されるために地上に届かない。また波長の短い(3cm以下)電波は大気中の水分子や酸素分子によって吸収されるため、やはり地上に届きにくい。そのため、その間の波長の電波が観測に使用されている。1980年代以降では、観測装置の立地を考慮に入れつつ、電波望遠鏡の感度を向上させるなどの工夫によって、ミリメートル領域からサブミリメートル領域の観測も行われている。
天体の電波機構
天体が放射する電波にはいくつかの機構がある。いくつかの波長で観測を行うことでどのような機構で放射された電波かを知ることできる。それによって天体の性状を知ることができる。
- シンクロトロン放射:光速に近い電子が磁場中でローレンツ力を受けて円運動する際に放射される。強度の波長依存性が強い連続スペクトルを持つ偏光を放射する。
- 熱制動放射:高温のプラズマ中の電子が原子核からの引力を受けて進路を曲げられる際に放射される。強度の波長依存性が小さい連続スペクトルを持つ光を放射する。
- 電離原子の再結合:電離した原子と電子が再結合する際に放射される。線スペクトルを持つ。
- 水素原子の21cm線:水素原子中の電子のスピンが反転する際に放射される。
- 分子の回転遷移:暗黒星雲(分子雲)中の分子の回転が変化する際に放射される。線スペクトルを持つ。
- 宇宙背景放射:ビッグバンの時に宇宙に満ちていた光の名残。
第二次世界大戦後に戦争中に発達したレーダーの技術が応用され、より詳細な観測が行われるようになった。しかし、電波での観測は光学観測に比べて分解能が非常に劣るのがネックであった。干渉計の応用によりこの点が大幅に改善された。その結果、多くの天体が電波では可視光とは違った姿をしていることが明らかとなった。こうして電波観測が天体観測の一手段として確立した。
歴史
1931年、ベル研究所の無線技術者カール・ジャンスキーは空電現象の観測中にはじめて天体の電波を捕らえた。こうして電波を放射している天体があることがはじめて知られた。ジャンスキーが観測したのは銀河系の中心核からの波長14.6mの電波であった。
1940年、グロート・レーバーは直径9mのパラボラアンテナを自作した。これが初めての電波望遠鏡である。レーバーは波長1.85mの電波で天の川の観測を行い、電波地図を作成した。
1942年にイギリスのジェームス・ヘイはレーダーに混信する正体不明の電波を捕らえた。これは同年アメリカのジョージ・サウスウォースによって太陽フレアによる電波であることが確認された。
1944年にオランダのファン・デ・フルストは電離していない水素原子が波長21cmの電波を放射する可能性を示した。これは1951年にアメリカのハロルド・ユーエンとエドワード・パーセルによって確認された。
1965年にアーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンは通信機器のノイズの測定中に宇宙から等方的にやってくる電波を発見した。これがビッグバン理論で予測されていた宇宙背景放射であると考えられている。
また同じ1965年にアントニー・ヒューイッシュとジョスリン・ベル・バーネルは非常に正確な周期でやってくる電波を放射する天体を発見した。これはパルサーと名づけられ、その正体は高速で自転する中性子星であると予測されている。
電波星
グロート・リーバーははくちょう座やカシオペヤ座付近から強い電波が放射されていることを発見していた。
1946年にジェームス・ヘイらはこれらの電波が天の川とは別の天体から出ている電波であることを確認した。当時の電波望遠鏡の分解能ではこれらの電波源の光学的な対応天体を知ることはできなかったので、これらは電波星と呼ばれ、天体の属する星座とその星座内での電波強度の順にアルファベット順の符号を付けて呼称された。