松本顧言

松本 顧言（まつもと こげん、1817年頃 - 1881年12月4日）は、幕末から明治初期の医師、俳諧師。名は順亭、字：子圭。江戸の人。医業を生業とし、父・樨柯坊空然から俳諧を学んで東杵庵3世を嗣ぎ、結社・忍川巣連を率いて俳人を指導した。また春亀斎亀丸門下で淘宮術の師範となり、南々斎桃谿と号した。

経歴

推定1817年（文化14）生まれ。

父・樨柯坊空然から俳諧を学び、7歳の春には「桜より 莟（つぼみ）のほうが 面白し」という句を作ったと伝わる。

儒学を井上頤堂に、医学を鈴木暢谷に学び、医業を生業とした。下谷御徒町で町医者を営んだ。

弘化3年（1846）、29歳のとき、淘宮術の元祖・春亀斎亀丸（横山丸三）の門下に入った。その後も研鑽を積んで師範となり、南々斎桃谿と号した。

安政元年（1854）7月に横山が病に倒れ危篤となったとき、他の門弟の医師たちとともに横山を看病した。

明治維新のときには、住居が上野から近かったため、戦火を避けて湯島中坂下へ転居した。その際の句

居心や けふは朝から 小春凪

父の死後、東杵庵3世を嗣ぎ、忍川巣連という結社を率いた。

門人のうち、東杵庵を嗣いだ鈴木月彦と可磨斎3世となった（姓不詳）一柯の2人に立机（宗匠になること）を許した。

翌檜居主人 (1964 )によると、医者としての名声が高まるに連れて、俳諧の方は疎ましくなったといい、明治4年（1871）に鈴木月彦を東杵庵4世に推薦し、忍川巣連を託して引退した。

引退後は忍川の隠士 空羅と称して俗俳から遠ざかったが、その俳風を慕って訪れる人には評をしていたという。

1881年（明治14）12月4日に病没。享年64。東本願寺中願竜寺に葬られた。

死去の前日に詠んだ辞世の句

ひらきけり 床に一輪 寒椿

著書

• 東杵庵顧言（著）可磨斎一柯（編）『俳諧茶話』1854・嘉永7、NDLJP 2541480

人物

• 翌檜居主人 (1964 )は、松本は医業によって生計が成り立っていたため、一般的な俳諧の宗匠のように門人に阿ねる必要がなく、そのため門人に対して非常に厳格で、容易に立机を許さず、普段の選句も非常に厳しかった、と伝えている。
• 下谷御徒町で町医者をしていた頃、神田の旗本・皆川某の屋敷に出入りし扶持を受けていたところ、その皆川家の当主が遊蕩が甚だしいとして百日の閉門を命じられることになった。顧言は義理堅い性格だったため、扶持を受けている以上、自分も謹慎すると言って百日間門戸を閉ざし、他の患者も断わった。このため俳諧の弟子達も公に出入りができず、隣家（将棋の宗家・大橋宗桂方）の垣根の破れた箇所から出入りしていたことがあったという。

付録

参考文献

• 大井 (1868) 大井正元三始氏「淘宮元祖先聖伝記并略年譜」天源淘宮術研究会『天源淘宮術秘訣』松成堂、1909・明治42（原著：慶応4・1868）、pp.4-44、NDLJP 2209062/10
• 翌檜居主人 (1964) 翌檜居主人「俳人逸話 三 松本顧言」全国市区選挙管理委員会連合会『選挙』vol.13 no.4、1964年4月、p.42、NDLJP 2756251/23