惑星
惑星(わくせい、Planet)とは、恒星の周りを回る天体のうち、褐色矮星の理論的下限質量(木星質量の十数倍)程度よりも低質量のものである。ただし太陽の周りを回る天体については、これに加えて後述の定義を満たすものだけが惑星である。Planetの語源はギリシア語のプラネテス。
目次
惑星の定義
褐色矮星の理論的上限質量は木星質量の80倍程度である。このため、恒星の周りの惑星を観測的に検出しようとする場合には、褐色矮星の上限質量以下に見出される天体のうち、褐色矮星候補と惑星候補とを見分ける必要が生じる。そこで、両者を区別するために、進化の途上で重水素熱核融合を起こす可能性のある質量に達していない天体、すなわち「褐色矮星の理論的下限質量にその質量が達していない天体」を惑星と定義してはどうかという提案が2001年に国際天文学連合 (IAU) のワーキンググループから出された。この提案は恒星進化論に基づいた立場からのものといえ、現在に至るまで、暫定定義として便宜的に用いられる場合がしばしばある。
観測的には、300個を超える太陽系外惑星が発見されている。恒星を観測してみるまでは褐色矮星と惑星のいずれが存在するのか、あるいは存在しないのかは不明であるから、惑星が存在する恒星を選択的に観測することはできない。したがって、特に観測が偏ることなく、惑星とされる天体の他に、褐色矮星と推定される天体も発見されている。しかし、質量ごとの天体数を統計的に見ると、木星質量の20倍をやや超える程度から数十倍までの質量範囲にはごく少数の天体があるだけで、数の分布が2つのグループに分けられることが見出されている。これを惑星形成論の立場から見ると、褐色矮星が分子雲から直接形成されるのに対して、惑星が原始惑星系円盤で固体成分を核として形成されることを反映したものであるとする見方になる。このような惑星形成論的な立場からは、重水素熱核融合の可能性の有無ではなく、観測的な上限質量値(木星質量の20倍をやや超える程度)を惑星質量の上限とする見解が出ている。
21世紀初頭では褐色矮星の形成過程が理論的に見直されつつあり、質量あるいは質量分布のみから褐色矮星と惑星を定義するのではなく、他の要素をも考慮しようとする研究傾向が見られる。一例としては、サイズと組成も加味して区分すべきであるという見通しを示す研究グループがある。また、褐色矮星の理論的下限質量を超える質量の天体が恒星の周りを回っている場合でも、その恒星を巡る天体がさらに存在する場合には、連星系とするか惑星系とするかの定義がなく、褐色矮星と惑星の区分境界がぼやけてくる。
以上のように、低質量の褐色矮星と大質量の惑星との区分を意図した定義は、複数混在している状況にあり、今後新たな定義が合意される可能性もある。本項では、多少の曖昧さを残して「木星質量の十数倍程度よりも低質量」という定義を示したが、本項を含め、各種文献や議論に接する際には、どのような定義を前提としているかに注意する必要がある。
太陽系の惑星の定義
近代以前、惑星としては、肉眼で天球上を動く様が観察できる7つの天体、太陽、月、水星、金星、火星、木星、土星が数えられた。これは地球は惑星ではなく、宇宙の中心、または土台であると考えられていた為である。
近代に入り、地球も太陽を巡る惑星の一つであると認識され、太陽と月が惑星ではないと認識されるようになった。また天体力学の進展と観測技術の発達により、1781年に天王星、1846年に海王星が発見された。また、1801年に発見されたケレスや翌年に発見されたパラスなども当初は惑星として扱われていたが、火星と木星の間に同様の小天体が次々と発見され、1850年代には惑星の数が20個を越えたことから、それらをまとめて小惑星と呼び、惑星とは区別して扱うようになった。そして1930年には冥王星が発見され、第9番惑星とされた。
この間、慣習的に惑星と呼ぶべき天体は定められてきた。しかし1990年代以降、海王星以遠に冥王星・海王星間に見られるものと類似の共鳴関係をもつ軌道を巡る天体や、質量が冥王星と比較し得る天体(桁違いに質量が異なることがない天体)が相次いで発見され、これらも惑星と呼ぶべきか否かについて論争が巻き起こった。そして冥王星よりも大きな (136199) エリス(仮符号テンプレート:mp)の発見を契機として、惑星とは何かを定義する機運が高まった。
2006年IAU総会
2006年8月14日から25日までプラハで行われていた第26回国際天文学連合総会にて、Planet Definition Committee(惑星定義委員会)による惑星の定義案が公表された。
惑星の概念を拡張する案(いわゆる12惑星案)
最初に出された案では、惑星とは以下の2条件を同時に満たす天体とした。
ここで、共通重心が他の天体の内部にないものは、これを衛星とは見なさず、多重惑星としてその双方を惑星と認めるとの注記も添えられていた。
この定義に基づけば、上記の冥王星を含む9つの惑星以外に、少なくともケレス、カロン(冥王星との二重惑星)、テンプレート:mp(エリスと命名されたのは総会の翌月である)の3つが惑星となる。およそ直径800 km以上であれば質量の条件を満たすことができると考えられる。このうち、水星から海王星までの8個は Classic Planet としてそれ以後に発見された惑星とは区別し、ケレスを含むそれ以外の Planet は Dwarf Planet、冥王星を含む Trans-Neptunian Objects で惑星の条件を満たすものは Plutons と称する。
上記以外にも、今後の観測によって惑星の条件を満たす可能性のある小惑星が多数あるとされており、以下の12個が挙げられていた。
- Dwarf Planet としてメインベルト小惑星のパラス、ベスタ、ヒギエア
- Plutons としてヴァルナ、イクシオン、クワオアー、[[(55565) 2002 AW197|テンプレート:mp]]、[[(55636) 2002 TX300|テンプレート:mp]]、セドナ、オルクス、テンプレート:mp(後のハウメア)、テンプレート:mp(後のマケマケ)
しかしこの定義案には反対意見も多かった。今後発見される可能性のある大型の小惑星や海王星以遠天体も惑星に分類すると、惑星が際限なく増える可能性があるという指摘がなされた。また、冥王星を敢えて惑星とするための基準であり、政治的な意図が含まれているとの批判もあったが、委員会はこれを公式に否定している。
惑星の概念を狭く限定する案(いわゆる8惑星案)
批判を受けて複数の修正案が示された。結果、第3の条件として以下が加えられた。
- その軌道周辺で他の天体を一掃してしまっているもの
さらに、第2の条件も「恒星の周囲」が「太陽の周囲」と変更され、ここで定義するものは太陽系天体に限定することが明示された。
討議の結果、上記の3つの条件を満たすものを惑星とする決議案が2006年8月24日13:30 (UT) に賛成多数で採択され、その定義の下で、当初の案で Classic Planet と定義されていた8個が惑星とされた。なお、惑星が8個であるのは、定義をこの時点で理解されていた太陽系の描像に当てはめた結果に過ぎず、8個のみを惑星と定義しているわけではないことには注意すべきである。また、この決議案は太陽系に限定されており、太陽系外の天体の種別については、それを惑星と呼ぶことを制限するものではない。
なお、学術用語について学会などが「定義」を明言することは極めて異例で、 通常は関連研究者内部で随時提唱されたものが自然淘汰的に決まるものである。一般言語での名詞の決まり方を考えれば、どこかの「権威」が定義を明示的に示す方が異例であることは容易に理解できよう(使われる単語の意味を解説することと、それを単語の定義とすることは全く別の概念である)。
また国際天文学連合の公式用語には、それを各国でどのように使用しどのように訳すかについて、強制力はない。
太陽系の惑星
太陽系の惑星は、「太陽系の惑星の定義」に基づき、水星・金星・地球・火星・木星・土星・天王星・海王星の8天体とされる。
惑星の条件のうち、採択された決議案に追加された、他天体との関係に関する第3項目を満たさない天体は dwarf planet(準惑星。日本語表記についての詳細は後述)と呼ぶ。
なお、準惑星、小惑星は呼称に「惑星」が入っているが、惑星ではない。
内惑星と外惑星
太陽系の惑星のうち、地球よりも内側にある水星・金星を内惑星、地球よりも外側にある火星・木星・土星・天王星・海王星を外惑星と呼ぶ。
惑星が地球を挟んで太陽の反対方向にある状態を衝、太陽と同じ方向にある状態を合と言う。内惑星には衝はなく、また合の位置も、太陽の手前にある内合と太陽の向こう側にある外合の二つの場合がある。
惑星は通常、天球を西から東に移動するように見える。この状態を順行と呼ぶ。逆に東から西へ移動するように見える状態を逆行と呼ぶ。外惑星の場合、地球から見て衝の位置にある時に地球がその惑星を追い越すため、衝の時期に逆行する。内惑星の場合には内合の位置にある時に地球がその惑星に追い越されるため、内合の時期に逆行する。惑星が順行から逆行、または逆行から順行に変わる時にはしばらくの間天球上で動かなくなるように見える。この状態を留と言う。
地球型惑星と木星型惑星
水星・金星・地球・火星は比較的小さく、岩石と金属を主成分としているという共通点があるため、地球型惑星と呼ばれる。
それに対して木星・土星・天王星・海王星は、比較的大きく、地球質量を超える大気を持つという共通点がある。このうち、木星と土星はその組成が太陽系形成時の星雲ガスに近く、木星型惑星と呼ばれる。巨大ガス惑星と呼ばれることもある。天王星・海王星は、水の氷のマントルを持っており、天王星型惑星と呼ばれる。その組成と物質の存在形態から巨大氷惑星と呼ぶ場合もしばしばある。
なお、かつて太陽系惑星の1つとされていた冥王星は、水やメタンの氷が主成分で、どちらにも分類されていなかった。
惑星以外の天体
冥王星は2006年までは惑星とされていたが、20世紀末以降の研究の進捗の結果、その性質や成因が他の惑星とは異なるとの認識が深まったため、これとは異なる種類の天体である dwarf planet として再分類されることとなった。
海王星以遠には他にも直径1,000 kmを超えるような大型の天体が発見されており、何度も「第10番惑星発見か?」と報道された。太陽からの距離が冥王星の2倍から20倍という長楕円軌道を公転するセドナ(直径1,700 km)を始め、オルクス(直径1,600km)、クワオアー(直径1,200 km)、エリス(直径2,700 - 3,000 km)などはすべて冥王星なみまたはそれ以上に太陽から離れた軌道を持つが、2006年8月に示された国際天文学連合第26回総会決議5Aによって、これらのうち最大のテンプレート:mp(エリス)についても惑星ではないとする公式見解が示された。これらの軌道長半径が30 AU以上、公転周期が166年以上に及ぶ天体は、trans-Neptunian object (TNOs) と総称される。
trans-Neptunian object かつ dwarf planet である天体については、2008年6月11日のIAU執行委員会において plutoid と称することが決定された。
これらに加え、火星軌道と木星軌道の間の小惑星帯などで発見された多数の小惑星 (asteroid)、ガスや塵からなるコマを持つ彗星などがある。惑星と dwarf planet 以外の太陽の周りを回る小さな天体は small solar system bodies (SSSBs) と総称される。現在は、彗星以外の asteroid と TNOs などを minor planet(訳語は同じく小惑星)と分類しているが、変更が示唆されている。なお、惑星などの周りを回るものは衛星と呼ばれる。
日本学術会議の対外報告
日本学術会議は、2006年の国際天文学連合総会で決議された惑星やその他の天体の定義などについて、近年明らかになった太陽系の新しい姿や惑星形成に関する理論に基いて「太陽系天体の名称等に関する検討小委員会」で審議し、2007年3月21日までに取りまとめられた最終案を元に、同年4月9日の第35回幹事会で新しい概念の日本語訳やその取り扱いに関する対外報告(第一報告)を、同年6月21日の第39回幹事会で新しい太陽系の全体像や学校教育におけるそれらの扱い方に関する対外報告(第二報告)を了承した。太陽系天体の分類についての国際天文学連合への要望に関する第三報告も作成されたが、前2者とは性格が異なるものであるため対外報告扱いとはなっていない[1]。
第一報告では以下の提言がなされた。
- dwarf planetについて
- dwarf planetはその概念にあいまいな部分があり、また別々のプロセスによって形成されたと思われる天体(小惑星帯のケレスとTNOの冥王星やエリス)を同じカテゴリーに含めることは、それらを理解する上で混乱を招く可能性があると指摘されている。
- よって国際天文学連合に更なる検討を求めると共に、学校教育や一般社会では積極的な使用を推奨しない。
- dwarf planetの基準に、直接観測によって比較的容易に判定可能な直径を加える案を検討している(例えば直径1,000km以上とするなど)。
- その上で、dwarf planetの日本語名称が社会的に要請される場合は「準惑星」の使用を推奨する。仮の訳として一時用いられた「矮惑星」は推奨しない。
- TNOについて
- 海王星の外側には無数の小天体が巡っており、冥王星はその一つであったという発見は大きな進歩であり、適切な名称によってそれを明確にする必要がある。
- これらの天体は、従来「エッジワース・カイパーベルト天体」「カイパーベルト天体」「TNO」などと呼ばれ、統一した呼称はなかった。
- そこで、これらの天体及び天体群の名称に「太陽系外縁天体」を推奨する。なお場合によっては「太陽系」を省略してもよい。
- オールト雲は未発見のため、明確に太陽系外縁天体に含まれるわけではない。しかし観測が進むにつれて「外縁天体」の領域は広がると予測されるため、概念としては「外縁天体」の延長と見なされるようになるだろう。
- small solar system bodiesについて
- dwarf planetの概念にあいまいさが残っているため、small solar system bodiesの概念にも曖昧な点がある。また現在使われている「小惑星」「彗星」などの用語との関係についても将来整理されることを前提に、当面使用する和名が必要である。
- それらを念頭においた上で、small solar system bodiesの日本語名称に「太陽系小天体」を推奨する。
- 冥王星が代表するTNO(=太陽系外縁天体)内の新しいサブグループの名称・取り扱いについて
- IAU第26回総会の決議6Aで設定された新しいサブグループの名称として、決議6Bで提案されたplutonian objectsが否決されたため、国際天文学連合では更に検討を続け、2007年6月に新たな名称について決定する方針である。
- 現在までに1,000個以上の太陽系外縁天体が発見され、また直径1,000km以上の天体も多数含まれていることは、太陽系について理解するために大きな意義を持つ。
- 上記の視点に鑑みて、新しいサブグループの日本語名称に「冥王星型天体」を推奨し、また適切な英語名を国際天文学連合に提案する。
太陽系外惑星
1990年代以降、観測技術の発達により、太陽系以外の天体でも惑星を有している恒星が発見されつつある。これらを太陽系外惑星、あるいは系外惑星と呼ぶ。発見されている系外惑星はすでに300を超えているが、それらはほとんど全て間接的な証拠によるもので、系外惑星の姿を画像で捉えることには成功した例は2008年5月現在一例のみである(系外惑星の表面の模様が描かれている画像については、全て想像図である)。
系外惑星には木星よりずっと重いものも見つかっているので、伴星との区別が問題になる。国際天文学連合系外惑星ワーキンググループは、次の条件を満たす天体を惑星と定義している。
- 重水素熱核融合を起こす質量に達していない。
- 星または星の残骸の周りを回る。
上限の質量は組成などによって変わるが、太陽と同じ組成を仮定すると木星の13倍となるので、この数字が一律に使われることが多い(なお、熱核融合は永続しないので、現在熱核融合を起こしていないからといって惑星とは限らない)。
熱核融合を起こす質量に達している、つまり、熱核融合が起きているか過去に起こった天体は褐色矮星と呼ぶ。星または星の残骸の周りを回っていない天体は、従来は浮遊惑星などと呼ぶこともあったが、sub-brown dwarf(準褐色矮星、亜褐色矮星などと訳す)と呼ぶよう、ワーキンググループは定めている。
なお、惑星科学者の多くは、惑星と褐色矮星の違いはその形成過程にあり、惑星は原始星を取り巻く原始惑星系円盤内で形成され、褐色矮星は分子雲そのものから直接形成されたと考えている。惑星形成時には固体の核(木星質量を超える惑星ができる場合には、核の質量は地球質量の10倍程度)がまず作られ、これに周囲のガスが(大気ではなく)惑星の材料として付加されると考えられており、原始惑星系円盤内での天体形成に寄与する上限質量も考慮すると、このような過程で形成された天体が重水素の熱核融合を起こすことはあり得ないことになる。したがって、木星質量の数十倍以下の褐色矮星が恒星の周りを回っていて惑星と区別できないような状況は希ではあるが、それでも一定の割合で発見されるので、そのときはワーキンググループの定義が援用される。
惑星・遊星という呼称の由来
漢字の「惑星」という呼称は、長崎のオランダ通詞・本木良永が1792年(寛政4年)、コペルニクスの地動説を翻訳する際に初めて用いた造語である。天球上の一点に留まらずうろうろと位置を変えるようすを「惑う星」と表現したことから来たと言われている。天文学が発達する以前は、天動説の見地から太陽や月も惑星の中に分類されており、七曜、週の曜日名や占星術にその考えかたの名残がある。
なお、現在の天文学上の定義では、太陽は恒星、月は衛星に分類される。
惑星は、古くは遊星(ゆうせい)とも言った。「遊星」と「惑星」はともに江戸時代にまでさかのぼる言葉であり(ただし古い例では「游星」となっている)、他に「行星」の表記も使われた(参考:惑星と遊星)。
明治期、学術用語として東京大学閥が「惑星」、京都大学閥が「遊星」を主張し、結局東大閥が勝ち、「遊星」の表記は、すっかり「惑星」にとってかわられた。しかし遊星歯車など異分野の用語には残留している例がある。また、「遊星」のほうが聞き慣れず幻想的であるためか、特にファンタジーやSFで使われる傾向がある(例:『遊星からの物体X』、『遊星仮面』、遊星爆弾(『宇宙戦艦ヤマト』)、移動遊星(『21エモン』)など)。
関連項目