安楽死

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安楽死とは、患者本人の自発的意思に基づく要求に応じて、患者の自殺を故意に幇助してにに至らせること(積極的安楽死)、および、患者本人の自発的意思に基づく要求に応じ、または、患者本人が意思表示不可能な場合は患者本人の親・子・配偶者などの自発的意思に基づく要求に応じ、治療を開始しない、または、治療を終了することにより、結果として死に至らせること(消極的安楽死)である。

積極的安楽死

「回復不可能な病気・障害」+「終末期」+「耐えがたい心身の苦痛」を伴う疾患の患者の自発的意思に基づく要求に応じて、法律が定める積極的安楽死の条件を満たした場合、医師が患者を死に至らせること。一般的に致死量の薬物を投与する方法が採用される、広い意味での尊厳死と同義語または類義語として使われる。

積極的安楽死の法的扱い

日本においては積極的安楽死は法的で明示的に認めておらず、刑法殺人罪の対象となる。

名古屋安楽死事件の判例

1962年(昭和37年)の名古屋高裁の判例では、以下の6つの条件(違法性阻却条件)を満たさない場合は違法行為となると認定している。

  1. 回復の見込みがない病気の終末期で死期の直前である。
  2. 患者の心身に著しい苦痛・耐えがたい苦痛がある。
  3. 患者の心身の苦痛からの解放が目的である。
  4. 患者の意識が明瞭・意思表示能力があり、自発的意思で安楽死を要求している。
  5. 医師が行う。
  6. 倫理的にも妥当な方法である。

東海大学病院安楽死事件の判例

1995年(平成7年)の横浜地裁の判例では、下記の4つの条件(違法性阻却条件)を満たさない場合は違法行為となると認定している。

  1. 患者が耐えがたい激しい肉体的苦痛に苦しんでいる。
  2. 患者の病気は回復の見込みがなく、死期の直前である。
  3. 患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために可能なあらゆる方法で取り組み、その他の代替手段がない。
  4. 患者が自発的意思表示により、寿命の短縮、今すぐの死を要求している。

積極的安楽死に関する議論

日本では、積極的安楽死を法律で容認するかについて議論されているが、法律で明示的に容認はしていない。

積極的安楽死を法律で容認賛成の主張

  1. 生に対する要求と死に対する要求、治療を受けるか受けないか、延命するかしないか、患者の自己決定権は最大限尊重されるべき。
  2. キリスト教文化圏の国では個人尾自己決定権を尊重して、積極的安楽死が法律や判例で容認されている国があり、日本も見習うべき。
  3. 生命の継続・延命を強要し、心身の耐え難い苦痛を継続させることは虐待拷問であり、死生観の強要である。
  4. あらゆる形態・手段による延命治療は有害無益な医療であり、医療費の公費負担は回復する見込みがある医療に限定して使うべきである。

積極的安楽死を法律で容認反対の主張

  1. 下記の主張をする集団からの圧力により、患者の自己決定権・生存権が侵害され、死を強要される可能性がある。
    1. 日本は過剰な社会保障費医療費を浪費しているので、社会保障費・医療費を削減すべき。
    2. 就業世代が高齢者のために、健常者が回復不可能な病人のために、過剰な医療費負担を強いられているので医療費を削減すべき。
    3. あらゆる形態・手段の延命治療は無価値で無駄な医療であり、延命治療に対して医療費を公費負担は一切すべきではない。

積極的安楽死を認めている国

ベルギー、安楽死の年齢制限を撤廃へ(2014年2月)

ベルギーは、安楽死に対する年齢制限をなくす。現在は18歳以上で患者の自発的な判断があったうえで「耐え難い苦痛」など特定の条件を満たせば医師の処置による安楽死が認められているが、今後は低年齢の子供も対象になる。同国内では支持する人が多い一方、一部の医師や宗教団体には反対論もあった。今後、国際的な議論を呼びそうだ。

ベルギー議会の下院が13日、安楽死に関する法改正案を賛成多数で可決した。子供も大人と同じく自分で生死を決める権利があるとの考えが支持を集めた。上院は既に昨年12月に可決しており、国王が署名すれば施行される。

オランダでは12歳以上の安楽死が認められているが、法律で年齢の制限をなくすのはベルギーが初めてという。安楽死を決断できるようになる時期は個人によって異なるため、年齢で区切るべきでないとの認識が背景にあるようだ。

今回の改正案では、子供が安楽死を選択する際には、これまでの条件に加え、親の承諾や本人の判断能力を確認することが求められる。一部には子供が本当に冷静な判断をできるのかといった議論もある。

ベルギーでは2002年に特定の条件下での安楽死が合法化され、現地報道によると2012年には年間1432件の安楽死が報告された。

消極的安楽死

患者本人の自発的意思に基づく要求に応じ、または、患者本人が意思表示不可能な場合は患者本人の親・子・配偶者などの自発的意思に基づく要求に応じ、医師が病気・障害を治すため、または、病気・障害の進行を遅らせるための治療を開始しない、または、治療を終了することにより、結果として死に至らせることである。日本の法律において消極的安楽死は、刑法199条の殺人罪、刑法202条の殺人幇助罪・承諾殺人罪にはならない。

日本でも世界の諸国でも、終末期の患者には延命可能性が全くないかまたは長くても月単位なので、終末期の患者に対する延命治療は、皇族王族大統領首相などの特別な社会的地位の人を例外として一般的ではなく、終末期の患者に対する消極的安楽死は広く普及している。

治療により回復の可能性がある患者、回復の可能性はなくても死に至るまで長い年月がかかる患者など、終末期ではない患者の場合は、大部分の人は一般的に病気からの回復や生命・健康の維持の欲求を持っているので、消極的安楽死が選択される事例よりも、治療による回復や延命が選択される事例が多数派である。

障害者に対する安楽死

障害者は安楽死させるべきと主張する者も存在する。ナチス・ドイツにおいては障害者を「恩寵の死」(Gnadentod) の名の下に殺害するT4作戦などで安楽死処分が行われた。ナチスの安楽死対象は障害者だけではなく「民族の血を汚す」とされたものが対象であり、「極度の近視」や「夜尿症」を含む障害者や、浮浪者などの反社会分子も含まれた。強制収容所などに置いても安楽死は行われ、ホロコーストの一環となった。

日本でも、太田典礼は安楽死を説く傍ら、「劣等遺伝による障害児の出生を防止することも怠ってはならない」「障害者も老人もいていいのかどうかは別として、こういう人がいることは事実です。しかし、できるだけ少なくするのが理想ではないでしょうか。」と主張したことから、障害者や老人の安楽死を促したと批判を受けた。

動物に対する安楽死

日本では年間数十万頭の犬猫などの動物に対して殺処分が行われている。殺処分そのものを無くしていくべきであるという世論や国の方針は出ているが、緊急の現実問題として、殺処分の方法を現在の炭酸ガスで苦しめて殺すより薬物等による安楽死を選択すべきだという意見が出てきている。数は少ないが、行政によっては既に安楽死処分を導入しているところもある。

安楽死を扱った作品

関連項目

外部リンク