天文台
天文台(てんもんだい)は、天体や天文現象の観測を行なったり、観測結果を解析して天文学の研究を行なうための施設。現代では学術研究目的以外に、宇宙の観察や学習といった天文教育・普及活動の拠点としての性格を持つ天文台もある。
目次
天文台の歴史
古代以来の天文学の重要な役割に、天体観測によって正確な時刻を確定し正確な暦を作るという目的がある。このためには天体の会合や出没・南中時刻などを地球上の同一の地点から継続的に観測する必要がある。また、17世紀に望遠鏡が発明され、より微弱な天体の光を捉えるために望遠鏡が大型化していくと、固定した建物の中に望遠鏡を据え付けて観測するというスタイルが一般的になった。このような理由で造られた観測施設が天文台の始まりであると考えられる。
現代の天文台には、保時・編暦や天文学の研究を担うために各国の公的機関や大学、高等学校の付属施設として設立された天文台と、個人や私企業、財団等によって作られた私設の天文台がある。また、日本においては地方公共団体などが持つ公開天文台も多数存在する。
天文台の施設・装置
天文台の立地条件としては、天体からの微かな光を観測するために、市街地から離れた光害のない暗い場所を選ぶことが絶対条件である。また、晴天率が高いこと、気流が安定していること、広い視界を確保できる地形であることも求められる。そのため、近年の大型望遠鏡を擁する天文台はハワイのマウナケア山頂やチリのアンデス山脈、カナリア諸島などの高山に造られることが多い。電波望遠鏡の場合にも、観測を妨げる電波が少ない山間部や砂漠などが選ばれることが多い。
天文台には観測のための望遠鏡が一つまたは複数設置されている。近年では望遠鏡を格納する部屋の温度環境を一定にするため、望遠鏡の設置場所とは別の観測室から遠隔操作で観測を行なう天文台も多い。また、天体観測は複数夜にわたって行なわれることも多いため、観測者用の宿泊施設などが付随する場合もある。
天文台の主な観測装置は以下の通りである。
天体望遠鏡
宇宙の観測は天体からやってくる電磁波、特に可視光線を受けて分析するという手段にほぼ限られるため、天文台には必ずと言って良いほど望遠鏡が設置されている。望遠鏡には光を捉え分析するための観測装置として冷却CCDカメラや分光器、光電測光器、赤外観測装置などが備えられている。
詳しくは天体望遠鏡を参照のこと。
子午儀・子午環
歴史の古い天文台には子午儀や子午環が設置されている所がある。子午儀は子午線上(南北方向)にのみ向きを移動できるように作られた天体望遠鏡の一種である。子午儀で恒星の子午線通過時刻を計測することで、その恒星の赤経や子午儀の設置地点の経度を正確に求めることができる。また子午儀に目標天体の高度を測定する機能を付加した子午環を用いると天体の赤緯や観測地の緯度も測定できる。かつては標準時や暦の編纂のために子午儀・子午環は不可欠な装置であった。現代でも GPS や原子時計を用いて決められた測地系や時刻系の較正のために使われている。
天文台の利用形態
研究機関の天文台では望遠鏡は共同利用の形式を取り、観測計画を公募して観測時間を複数のグループに細かく割り振る場合が多い。このような利用形式は、長期間の監視観測や多くのサンプルを集めなければならない観測(サーベイ観測)、超新星爆発などの突発的な現象の観測には不利になる場合がある。この点を補完する存在として、私設天文台や公開天文台の望遠鏡による観測も重要な役割を担っている。
国際的に著名な天文台の例
- グリニッジ天文台 - 世界時や経度の基準となったイギリスの天文台。
- パロマー山天文台 - かつて世界最大の口径であった5mヘール望遠鏡を持つ。
- アメリカ海軍天文台(USNO) - 代表的な天体暦である The Astronomical Almanac を発行している。
- スミソニアン天体物理観測所 - 太陽系内天体の観測データを下に予報を行うセンター等が設置されている。
- ヨーロッパ南天天文台 - 南半球最大の観測装置を運用する天文台。
- アメリカ国立電波天文台 - 世界最大規模の地上VLBIを運用する天文台。
- ヤーキース天文台 - シカゴ大学附属の天文台。世界最大の屈折式望遠鏡(天体望遠鏡を参照)を運用している。
- 国立天文台(NAOJ) - 日本の代表的な天文学の研究機関。理科年表の編纂等を行う。
- 海上保安庁 - 日本の代表的な天体観測データ天体観測表を発行している。
日本における公開天文台
日本の場合、教育機関(高等学校・大学)附属の天文台や国立天文台以外に、地方公共団体や企業によって運営されている一般公開を前提とした天文台が存在し、公開天文台と呼ばれている。[1] 多くの場合、公開天文台は光学望遠鏡を備え、天体観望や天文関連情報の広報、画像等の天文資料の展示解説、講演会、学習会、イベント開催などを行うのが一般的である。日本の公開天文台数は100を優に超えており、世界に例を見ない天文台大国となっている。
日本における最初の公共天文台は、1926年(大正15年)11月に創立された倉敷天文台で、当時としては日本国内最大級の口径32cm反射望遠鏡(ガルバー鏡)を設置していた。これは、山本一清京大教授の天文普及の理念の感化を受けた原澄治倉敷紡績専務が私財を投じた全国初の民間天文台だった。当時の天文台はすべて官立で一般の天文愛好家は利用できなかったので、天文学普及のため誰でも観望できるようにと無料公開された施設だった。1941年(昭和16年)以来、同天文台主事として本田実氏が活躍し、氏は新彗星12個、新星11個を発見した。
公開天文台の中には、国民の豊かな自然観を育むことを目的とする生涯学習施設として位置づけられるものもあれば、観光資源の一つとして集客による経済効果を期待されるものもある。望遠鏡の維持や施設管理には設置時の数%程度の経費を毎年要するため、後者のうち特に1990年代にふるさと創生資金を活用して設置されたものの中には自治体の財政難から閉鎖されるものも出始めている。
公開天文台の望遠鏡を用いた観測は前述のように、研究機関が保有する望遠鏡による観測を補完するものとして、比較的自由度の大きな観測を行なえる利点を持つ。ただし、現状の日本の公開天文台の望遠鏡は口径50cm~1mクラスのものが多く、世界の研究用天文台で3~4mクラスの望遠鏡が珍しくないことを考えると研究用途としてはやや不利である。兵庫県立西はりま天文台には世界最大口径の公開望遠鏡があり活用されているが、日本の空は気候的・地理的に気流が良くないことが多く、可視光観測では撮像よりも分光観測に向く空であるとされている。一方赤外線では様相が異なり、日本の空でも十分な星像を得られることが多い。したがって、公開天文台における研究観測では、メリットを生かせる観測対象の選択や、望遠鏡と空に見合った観測装置の整備が求められている。[2]
公開天文台では観測者が様々な天文現象を観測することを目的に活動をしており、太陽観測や惑星観測、測光観測、分光観測等において多くの成果が得られている。
関連項目
観測設備
天文学・宇宙物理学
外部リンク
- 国立天文台
- 公開天文台ホームページ
- 倉敷天文台(原澄治・本田實記念館)
- PAONAVI(アストロアーツ)
脚注
- ↑ 公共性の高い施設であるため、公共天文台と呼ばれることもある。英語の"public observatory"の"public"を「公共」と訳すか「公開」と訳すかの問題である
- ↑ 天文台は都市部では設置が難しいため、大型観測施設は圧倒的に地方山間部が多い。夜間の地球を撮影した画像等からもお分かりいただけるように、わが国は夜の照明が多い。安心・安全を重視すればこのようになるので、これはいかしかたの無いことでもある。しかしながら、以前に比べればよい観測施設が増えたことも確かである。今後は、より小さく・より高度な観測機器(具体的には、感度や精度が高い機器類のこと)の開発が公開天文台からの要望であるように思われる。
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