ネグレクト
ネグレクトとは、本来英語で「無視すること」を意味するが、日本では主に保護者などが子供や高齢者・病人などに対して、必要な世話や配慮およびその義務を怠ることを指す。児童虐待、高齢者虐待のひとつ。子どもに対するそれは育児放棄(いくじほうき)ともいう。
概要
自らの実子、特に自立性や自救能力が低く、幼児や低年齢児童の養育を著しく怠ることを指す場合が多い。具体的には食事や衣服の供与、排泄物や廃棄物の除去を適切に行わない、長時間の保護放棄などがあり、しばしば虐待を伴う。その結果、子供は心身の正常な発達を妨げられ、最悪の場合死に至ることもある。また生存し、その後成人しても殺人や強盗などの凶悪犯に走るケースも少なくない。
積極的に実子を殺す間引きなどの子殺しとは区別される。チンパンジー、ニホンザル、ゾウ、トラ、ネズミ、ペンギン、ペリカン、フクロウなど他の哺乳類や鳥類にも広く認められている。環境悪化などによるハチ・アリ類の育児放棄や甲殻類の抱卵の途中放棄、植物の落果現象なども含めるとするならば、生物界全体に広く認められる現象である。
現代社会においてネグレクト(育児放棄)と言われる現象は積極的ネグレクトと消極的ネグレクトの2つに分けられる。前者の「積極的ネグレクト」は、親に養育の知識や経済力の不足など、子供を育てられない明確な理由がないのに育児を放棄することであり、後者の「消極的ネグレクト」は、親の経済力が不足していたり、精神的疾患を抱えている、知的な障害があるなどの理由で育児ができないことを指す。
日本では刑法第217条の遺棄・第218条の保護責任者遺棄等・第219条の遺棄等致死傷の上で扱われ、放置された側がそれで負傷ないし死亡した場合に、その放置を行った側が処罰される対象となる。
例えば、過去の事例では以下のようなケースが典型的である。
- 幼稚園、保育園、保育所、学校に通わせない
- 病気になっても病院に受診させない
- 暑い日差しの中、駐車場の車内への放置
- 日本でも3~4月の天候下で熱中症による死亡事例も発生している。
- 防寒に充分な着衣を着けさせず、寒冷な外気に晒す
- 過去には冬季に濡れた下着だけでアパートのベランダに放置された児童が低体温症で死亡した事例がある。
- 充分な食事を与えない
- 下着など不潔なまま放置する
また日本では義務教育制度があるが、就学年齢に達した児童を学校にも通わせず、自宅軟禁とみなされかねないよう放置することも、広義では育児放棄とされる。その際に、該当する被保護者が保護者以外に頼れる相手が社会にいない場合は、他に行く当てがないために、その状況から逃げ出すこともできないので、実質的な監禁状態であるともみなされる。
治安と放置
欧米では特に誘拐などの犯罪も起きやすい事情もあって、児童を遅くまで戸外で遊ばせていたり、子供を車に残したままコンビニで買物をしていても問題視され、場合によっては警察官に注意を受けたり逮捕される可能性がある。実際アメリカでは、11歳以下の子供を保護者の監督のない状態(留守番や日本の「カギっ子」状態)に置くこと自体が違法とされている。買い物に来た日本人夫婦が駐車場に停めた車の中に子供を待たせてスーパーマーケットに入ったところ、それを目撃した別の買い物客に通報された例や、ホテルの部屋に子供を残し外出したところをハウスキーピング係に通報され、逮捕・起訴・有罪となった例まである。日本では小学生以下の子供単独でおつかいをさせ、あるいは買い物をさせることも普通にあるが、これもアメリカでは違法行為である。
従来の日本では治安が行き届いているとみられていたために、かつては児童等が一人で児童公園などで遊んでいてもあまり問題視されなかったが、1980年代後半頃から現在に至るまで、児童を付け狙う変質者の起こす事件の存在がマスメディアやユビキタス社会の発展などにより体感的に顕在化した事情もあって、近年では保護者が子供を遅くまで戸外で遊ばせて顧みない行為を問題視する風潮もある。
関連する作品
2004年カンヌ映画祭で柳楽優弥が主演男優賞を取った映画「誰も知らない」の中の母親のような行為もネグレクトに当たる。なお同映画に関しては、これの題材と成った巣鴨子供置き去り事件の項も参照のこと。
参考書籍
- 『ネグレクト 育児放棄―真奈ちゃんはなぜ死んだか』杉山春 小学館 ISBN 4093895848
関連項目
- 大阪2児餓死事件
- 西淀川区女児虐待死事件
- 児童虐待の防止等に関する法律
- 高齢者の虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律
- 永山則夫 - 連続殺人事件の犯人。子供時代ネグレクトの被害者で、事件を起こした時点でほとんど読み書きができなかったが、後に独学で学問を身につけて作家となり、新日本文学賞を受賞。その後死刑となった。
- 機能不全家族
- 食育 - 孤食
- 子どもの権利条約
- 精神科医
- 小児科医
- 臨床心理士
- 養護教諭
- スクールカウンセラー
- 実践倫理宏正会