ナシ

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{{Otheruses3|果物のナシ(梨)及びバラ科ナシ属の植物|その他の梨、なし、ナシ}} {{生物分類表 | 色 = lightgreen | 画像 = [[Image:Pear-tree,katori-city,japan.JPG|250px|ナシの木(豊水)]] | 画像キャプション = ナシの木(豊水) | 名称 = ナシ<br/>''{{lang|la|Pyrus pyrifolia}}'' | 界 = [[植物界]] {{lang|la|[[:en:Plantae|Plantae]]}} | 門 = [[被子植物門]] {{lang|la|[[:en:Magnoliophyta|Magnoliophyta]]}} | 綱 = [[双子葉植物綱]] {{lang|la|[[:en:Magnoliopsida|Magnoliopsida]]}} | 目 = [[バラ目]] {{lang|la|[[:en:Rosares|Rosares]]}} | 科 = [[バラ科]] {{lang|la|[[:en:Rosaceae|Rosaceae]]}} | 亜科 = [[ナシ亜科]] {{lang|la|[[:en:Maloideae|Maloideae]]}} | 属 = '''[[ナシ属]]''' ''{{lang|la|[[:en:Pyrus|Pyrus]]}}'' | 種 = '''ナシ''' ''{{lang|la|[[:en:P. pyrifolia|P. pyrifolia]]}}'' | 学名 = ''Pyrus pyrifolia'' <small>(Burman f. 1768)</small><br />''Pyrus serotina'' <small>Rehder 1915</small> | 和名 = 梨(和梨、日本梨) | 英名 = Nashi Pear, Sand Pear等 }} '''ナシ'''('''梨''')は、[[バラ科]][[ナシ属]]の[[植物]]、もしくはその[[果実]]のこと。 主なものとして、'''和なし'''('''日本なし'''、{{lang|la|''Pyrus pyrifolia'' var. ''culta''}} )、'''[[チュウゴクナシ|中国なし]]''' (<!--''P. ussuriensis'' 和名ミチノクナシだが別名チュウゴクナシ。-->''{{lang|la|P. bretschneideri}}'') 、'''[[セイヨウナシ|洋なし]]'''('''西洋なし'''、''{{lang|la|P. communis}}'' )の3つがあり、食用として世界中で栽培される。日本語で単に「梨」と言うと通常はこのうちの'''和なし'''を指し、本項でもこれについて説明する。他のナシ属はそれぞれの項目を参照のこと。 == 概要 == '''ナシ'''('''和なし'''、'''日本なし''')は、[[中華人民共和国|中国]]を原産とし中国や[[朝鮮半島]]、[[日本]]の[[中部地方]]以南に自生する野生種'''ヤマナシ'''(ニホンヤマナシ、{{lang|la|''P. pyrifolia'' var. ''pyrifolia''}} )を基本種とする[[栽培品種]]群のことである。 高さ15メートルほどの[[落葉樹林|落葉高木]]。葉は長さ12cmほどの卵形で、縁に芒状の鋸歯がある。花期は4月頃で、葉の展開とともに5枚の白い[[花弁]]からなる[[花]]を付ける。8月下旬から11月頃にかけて、黄褐色または黄緑色で[[リンゴ]]に似た直径10~18センチメートル程度の球形の果実がなり、食用とされる。果肉は白色で、甘く果汁が多い。リンゴや[[カキノキ|カキ]]と同様、尻の方が甘みが強く、一方で芯の部分は酸味が強いためあまり美味しくない。しゃりしゃりとした独特の食感がナシの特徴だが、これは[[石細胞]]と呼ばれるものによる。[[石細胞]]とは、ペントザンや[[リグニン]]という物質が果肉に蓄積することで[[細胞壁]]が厚くなったものである。これは洋なしにも含まれるのだが、和なしよりもその量が少ないために、和なしと洋なしとで食感に大きな差が生じる。 野生のもの(ヤマナシ)は直径が3~8センチメートル程度と小さく、果肉が硬く味も酸っぱいため、あまり食用には向かない。ヤマナシは人里付近にしか自生しておらず、後述のように本来日本になかった種が、栽培されていたものが広まったと考えられている。なお、日本に原生するナシ属にはヤマナシの他にも[[イワテヤマナシ]] ({{lang|la|''Pyrus ussuriensis'' var. ''aromatica''}}) 、[[アオナシ]]({{lang|la|''Pyrus ussuriensis'' var. ''hondoensis''}}、和なしのうち二十世紀など果皮が黄緑色のものを総称する'''青梨'''とは異なることに注意) 、[[マメナシ]] (''{{lang|la|Pyrus calleryana}}'') がある。 == 名前 == ナシの語源には諸説があるが、江戸時代の学者[[新井白石]]は中心部ほど酸味が強いことから「中酸(なす)」が転じたものと述べている。他には以下のような説がある。 * 果肉が白いことから「中白(なかしろ)」あるいは「色なし」 * 風があると実らないため「風なし」 * 「甘し(あまし)」 * 「性白実(ねしろみ)」 また、ナシという名前は「無し」に通じることからこれを忌んで、家の庭に植えることを避けたり、「ありのみ(有りの実)」という反対の意味を持たせた呼称が用いられることがある([[忌み言葉]])。しかし、逆に「無し」という意味を用いて、盗難に遭わぬよう家の建材にナシを用いて「何も無し」、[[鬼門]]の方角にナシを植えることで「鬼門無し」などと、縁起の良い利用法も存在する。 手紙を出しても返事のないことを「梨の礫(つぶて)」という。「梨」に「無し」を掛けた言葉である。したがって、「無しの礫」は意味の上では合っているのだが、誤用である。 英語圏では多くの呼び名がある。 * 産地から、Asian pear, Chinese pear, Korean pear, Japanese pear * リンゴのような形から Apple pear * 砂のようなシャリシャリした食感から Sand pear * 日本語の「ナシ」から Nashi pear == 歴史 == 日本でナシが食べられ始めたのは[[弥生時代]]頃とされ、[[登呂遺跡]]などから多数食用にされたとされる根拠の[[種子]]などが見つかっている。ただし、それ以前の遺跡などからは見つかっていないこと、野生のナシ(山梨)の自生地が人里周辺のみであることなどから、大陸から人の手によって持ち込まれたと考えられている。文献に初めて登場するのは『[[日本書紀]]』であり、[[持統天皇]]の[[693年]]の[[詔]]において[[五穀]]とともに「[[クワ|桑]]、[[カラムシ|苧]]、'''梨'''、[[クリ|栗]]、[[カブ|蕪菁]]」の栽培を奨励する記述<ref>卷第卅 七年(中略)丙午勅詔令天下勸殖桑苧梨栗蕪菁等草木以助五穀</ref>がある。 [[江戸時代]]には栽培技術が発達し、100を越す[[栽培品種|品種]]が果樹園で栽培されていた。[[松平定信]]が記した[[狗日記]]によれば、「船橋のあたりいく。梨の木を、多く植えて、枝を繁く打曲て作りなせるなり。かく苦しくなしては花も咲かじと思ふが、枝のびやかなければ、花も実も少しとぞ。」とあり、現在の[[市川]]から[[船橋]]にかけての江戸近郊では[[江戸時代]]後期頃には、既に梨の栽培が盛んだった事がわかっている。 [[明治時代]]には、現在の[[千葉県]][[松戸市]]において'''二十世紀'''が、現在の[[神奈川県]][[川崎市]]で'''長十郎'''がそれぞれ発見され、その後、長らくナシの代表格として盛んに生産されるようになる。一時期は全国の栽培面積の8割を長十郎で占めるほどであった。また、それまでは晩生種ばかりだったのだが、多くの早生種を含む優良品種が多数発見され、盛んに[[品種改良]]が行われた。 [[20世紀]]前半は二十世紀と長十郎が生産量の大半を占めていたが、[[戦後]]になると[[1959年]]に'''幸水'''、[[1965年]]に新水、[[1972年]]に'''豊水'''が登場し普及した。そのため、現在では長十郎の生産はかなり少なくなっている。この3品種を「三水」と呼ぶことがある。 == 栽培 == === 栽培 === ナシは[[種子植物]]であり、果実内には1~十数個の[[種子]]が形成される。天然では[[鳥]]などにより種子が[[種子#種子の散布|散布]]されるが、改良品種で種子繁殖が行われる事は稀であり、通常は[[接ぎ木]]によって増やされる。台木には和なしの他、[[マンシュウマメナシ]]や[[チュウゴクナシ]]も用いられる。また、本来ナシは高さ10m程になる高木だが、栽培の際には[[台風]]などの風害を避けるため、十分な日照を確保するためなどの理由により棚仕立て(平棚に枝を誘導し、枝を横に広げる栽培方法)が用いられる。 ナシの種子は乾燥に弱く、播種の際には注意を要する。発芽後は鉢へ移して個別に栽培し、十分に生育してから圃場へ移す。定植された苗は長さ数cmにもなる[[棘]]を付けるが、これはバラ科としての形態形質の一端である。ちなみに、この棘はナシの幼若期に特有のものであり、花芽形成が始まる頃に伸びる枝には棘がない。 ナシの花弁は通常白色、5枚の[[離弁花類|離弁]]が基本であるが、色や花弁数には変異がある。また、[[雄蕊|おしべ]]は約20本、花柱は5本である。ナシは本来[[虫媒]]花であるが、[[自家不和合性]](同じ品種間では結実しない性質)が強く、栽培される場合には経済的な理由から他品種の花粉によって人工[[受粉]]が行われる。[[雌蕊|めしべ]]の柱頭に付着した花粉は[[花粉#花粉の発芽|発芽]]し、[[花粉管]]を伸長して[[胚珠]]に到達、[[重複受精]]を行う。果実の育成は[[植物ホルモン]]の影響を受ける為、人工的にこれを添加する事も行われる。また、結実数が多すぎる(着果過多)場合には、商品となる果実の大きさを維持する為に摘果が行われる。 === S因子による不親和性 === {| class="wikitable bordered" style="font-size: small; float:right; clear:right;" |+ ナシの品種のS因子型 |- ! 因子型 || 品種 |- | S<sub>1</sub>S<sub>2</sub> || 赤穂、独逸、早玉 |- | S<sub>1</sub>S<sub>4</sub> || 八雲、翠星 |- | S<sub>1</sub>S<sub>5</sub> || 明月、市原早生 |- | S<sub>1</sub>S<sub>6</sub> || 今村秋 |- | S<sub>2</sub>S<sub>3</sub> || 長十郎、青長十郎、青竜、武蔵 |- | S<sub>2</sub>S<sub>4</sub> || 二十世紀、六月、早生長十郎、菊水、祇園、早生二十世紀 |- | S<sub>2</sub>S<sub>5</sub> || 須磨、駒沢、愛宕 |- | S<sub>3</sub>S<sub>4</sub> || 筑水 |- | S<sub>3</sub>S<sub>5</sub> || 丹沢、豊水 |- | S<sub>4</sub>S<sub>5</sub> || 早生赤、太白、幸水、新水、旭、多摩 |- | S<sub>5</sub>S<sub>7</sub> || 晩三吉 |- |} ナシは同じ品種間で結実しない(自家不和合性)だけでなく、違う品種間でも結実しない(交配不親和性)組み合わせが多いが、これらはS因子という[[遺伝子]]による。これには、S<sub>1</sub>~S<sub>9</sub>の9種類が存在し、通常の細胞には2つのS因子があり、[[花粉]]や[[卵細胞]]はそのいずれか一方を持つ。受粉時にめしべのS因子の一方と花粉のS因子とが一致した場合には、花粉管が伸長せずに受精に至らず、結実しないのである。 ; S因子型が完全に一致する場合 :* 二十世紀の花(S<sub>2</sub>S<sub>4</sub>)に、祇園の花粉(S<sub>2</sub>またはS<sub>4</sub>) - 交配不能 :* 祇園の花(S<sub>2</sub>S<sub>4</sub>)に、二十世紀の花粉(S<sub>2</sub>またはS<sub>4</sub>) - 交配不能 ; S因子の片方が一致する場合 :* 二十世紀の花(S<sub>2</sub>S<sub>4</sub>)に、幸水の花粉(S<sub>4</sub>またはS<sub>5</sub>) - 交配可能 :* 幸水の花(S<sub>4</sub>S<sub>5</sub>)に、二十世紀の花粉(S<sub>2</sub>またはS<sub>4</sub>) - 交配可能 ; S因子の両方が異なる場合 :* 二十世紀の花(S<sub>2</sub>S<sub>4</sub>)に、豊水の花粉(S<sub>3</sub>またはS<sub>5</sub>) - 交配可能 :* 豊水の花(S<sub>3</sub>S<sub>5</sub>)に、二十世紀の花粉(S<sub>2</sub>またはS<sub>4</sub>) - 交配可能 == 品種 == ナシの栽培は古くからあったが、品種名が文献に現れるのは江戸幕府が行った特産品調査([[1735年]])である。当時既に150もの品種が記録されている。品種改良は20世紀初め頃から行われるようになった。現在では幸水、豊水、二十世紀、新高の4品種だけで、収穫量の約9割を占めているが、いずれも19世紀後半~20世紀前半に発見あるいは交配された品種である。 ナシの品種は、果皮の色から黄褐色の'''赤梨系'''と、淡黄緑色の'''青梨系'''に分けられるが、多くの品種は赤梨系で、青梨系の品種は二十世紀、八雲、菊水、新世紀、瑞秋(二十一世紀梨)など少数である。この色の違いは、果皮のコルク層によるもので、青梨系の果皮はクチクラ層に覆われており黄緑色となるが、赤梨系の品種では初夏にコルク層が発達し褐色となる。 === 幸水 === 幸水(こうすい)は赤梨系の早生種で、和なし生産の34%を占める最も生産量の多い品種である。なし農林3号。 園芸試験場(現、[[果樹研究所]])が[[1941年]]に菊水に早生幸蔵を掛け合わせて作り、[[1959年]]に命名・発表された。早生種の中でも特に収穫時期が早く、8月中旬から下旬である。ただし、収穫時期が短い。赤梨系だが中間色(中間赤梨)と言い、若干黄緑色の地色が出る。酸味は少なく糖度が高い。果肉は柔らかく果汁も多い。早生種としては平均的な方だが、日持ちが短い。 === 豊水 === 豊水(ほうすい)は赤梨系の中生種で、和なし生産の30%を占める生産量第2位の品種である。なし農林8号。 果樹試験場(現、[[果樹研究所]])によって[[1954年]]に作られ、[[1972年]]に命名された。糖度が高いが、ほどよく酸味もある濃厚な味が特徴。幸水よりやや大きめで、果汁が多い。また、日持ちも幸水よりは長い。長らくリ-14号と八雲の交配種とされていたが、[[2003年]]に[[果樹研究所]]の[[DNA型鑑定]]によって幸水とイ-33の交配種であると発表された。 === 二十世紀 === 二十世紀(にじっせいき)は青梨系の中生種で、和なし生産の13%を占める生産量第3位の品種である。また、鳥取県産なしの8割を占める。 青梨系の代表品種で、一般的な唯一の青梨。[[1888年]]に現在の[[松戸市]]で、当時13歳の[[松戸覚之助]]が、親類宅のゴミ捨て場に生えていたものを発見した。松戸は「新太白」と名付けたが、[[1898年]]に渡瀬寅次郎によって、来たる新世紀(二十世紀)における代表的品種になるであろうとの観測と願望を込めて新たに命名された。なお、当時は[[西暦]]の概念さえまだ一般的ではない時代であったため、非常に先進的な命名と言える。その後、[[1904年]]に[[鳥取県]]に導入され、鳥取県の特産品となった。花は鳥取県の県花に指定されている。発祥の松戸市を含む関東地方では現在あまり栽培されなくなっている。 果皮は黄緑色で美しく、甘みと酸味のバランスが良いすっきりした味わいで果汁が多い。収穫時期が比較的遅く、(水分の多い)梨の需要が見込まれる夏・初秋に収穫できないのが欠点でもある。自家受粉が出来ない(これは二十世紀に限らず)、黒斑病に非常に弱いといった欠点を改良した品種もある(後述)。 梨もぎとり園や路上販売では'''廿世紀'''との表記も見受けられる。 === 新高 === 新高(にいたか)は赤梨系の晩生種で、和なし生産の11%を占める生産量第4位の品種である。 菊地秋雄が[[東京都立園芸高等学校|東京府立園芸学校]]の玉川果樹園で天の川と今村秋を交配させて作った品種で、[[1927年]]に命名された。名前の由来は両品種の原産地である[[新潟県]]と[[高知県]]から。収穫時期は、10月中旬~11月中旬。500グラム~1キログラム程度の大型の品種で、果汁が多く、歯ごたえのある食感で、味は酸味が薄く甘い。洋なしほどではないが芳香もある。日持ちが良い。 === 新興 === 新興(しんこう)は赤梨系の晩生種で、生産量は新高に次ぐ5位。 [[1941年]]、新潟県農事試験場で二十世紀と今村秋を掛け合わせて作られた。収穫時期は10月上旬から下旬。やや大きめの品種で、日持ちが良く、味も良い。 === その他の品種(赤梨系) === ; 南水(なんすい) : 新水と越後を掛け合わせて作られた、赤梨系の中生種。甘みが強い。長野県での生産が9割ほどを占める。 ; 長十郎(ちょうじゅうろう) : [[1893年]]に川崎市で当麻辰次郎(当麻長十郎)が発見した。赤梨系の中生種。かつては和なしを代表する主要品種であったが、現在はあまり生産されていない。本来は十分に甘いが、収量を上げるために糖度を下げていることが多い。肉質は硬く、やや劣る。受粉用の花粉採取のためによく使われている。 ; 愛宕(あたご) : 赤梨系の晩生種。[[岡山県]]を中心に大分県、愛知県、鳥取県など西日本で生産が盛ん。1~1.5キログラムと非常に大きく、日持ちが良い。 ; 多摩(たま) : 祇園と豊水を掛け合わせて作られた、赤梨系の早生種。名前通り、「多摩川梨」の代表的な品種として[[神奈川県]]で生産が盛んであり、生産量の8割以上を神奈川県産で占める。 ; 新水(しんすい) : 君塚早生に菊水を掛け合わせた、赤梨系の早生種。農林4号。8月上旬から収穫される。 ; あきづき : 162-29(新高と豊水の交配種)に幸水を掛け合わせた、赤梨系の中生種。農林19号。500グラム以上の大型の品種で、非常に甘い。千葉県、茨城県、熊本県などで生産されている。 ; 雲井(くもい) : [[1939年]]に石井早生と八雲の交配により作出され、[[1955年]]に「なし農林1号」として登録された。花粉はほとんどない。果皮は中間色(緑色の地に薄く茶色がかったような色)。東京周辺では8月中旬に熟し、果実は300グラム程度と平均的な大きさである。肉質はよいものの糖度が低く、幸水と競合することなどから現在ではほとんど栽培されていない。 ; 彩玉(さいぎょく) : 埼玉県で開発された新高と豊水をかけあわせた大きく甘い品種。 ; 稲城(いなぎ) : 早生ではあるが大玉で果汁が多く、さわやかな甘みがある品種。東京都[[稲城市]]のナシ生産農家が努力を重ねて育成した品種で、稲城市、[[日野市]]、[[府中市 (東京都)|府中市]]、[[国立市]]などで栽培されている。地元の直売で非常に人気が高く、市場には出回っていない。 === その他の品種(青梨系) === ; ゴールド二十世紀 : 二十世紀に[[ガンマ線]]を照射して作られた改良品種で、黒斑病に強い。青梨系の中生種。[[1991年]]に作られ、「金のように価値がある」という意味で命名。 ; おさ二十世紀 : 突然変異によって自家受粉が可能となった二十世紀。青梨系の中生種。鳥取県泊村の梨園で発見され、園主の名前から命名。 ; おさゴールド : おさ二十世紀の「自家受粉ができる」、ゴールド二十世紀の「黒斑病に強い」という2つの長所を持ち合わせた品種。青梨系の中生種。農林水産省と鳥取県の共同研究によりおさ二十世紀にガンマ線を照射して開発された。 ; 菊水(きくすい) : 二十世紀に太白を掛け合わせた青梨系の中生種。かつては代表的な青梨系の品種であったが、現在は少なくなった。三水(幸水、新水、豊水)などの優良品種を数多く生み出した。やや酸味はあるが糖度は高い。 == 産地 == === 主な産地 === [[画像:Nashi growing area.png|thumb|250px|ナシの都道府県ごとの栽培面積<br/>(特産果樹生産動態等調査、2004年)]] ナシは[[沖縄県]]を除く日本各地、[[北海道]]南部から[[鹿児島県]]まで広く栽培されている。そのため、主産県でも収穫量におけるシェアはそれほど高くなく、上位10県合計でも全体の7割弱である。 * [[千葉県]] ** 和なし収穫量第1位。 ** 幸水収穫量第1位、豊水収穫量第2位。 ** 主産地は[[松戸市]]([[紙敷]]など)、[[市川市]]、[[鎌ケ谷市]]、[[白井市]]、[[柏市]](旧[[沼南町]])、[[船橋市]]、[[八千代市]]、[[市原市]]、[[木更津市]]、[[四街道市]]、[[香取市]]、[[いすみ市]]、[[一宮町]]など。 * [[茨城県]] ** 和なし収穫量第2位。 ** 幸水収穫量第2位、豊水収穫量第1位。 ** 主産地は[[筑西市]]、[[下妻市]]など。 * [[鳥取県]] ** 和なし収穫量第3位。平成13年まではながらく第1位であった。今日では豊水や幸水などの赤梨の方が市場人気があるのと二十世紀梨は栽培が比較的難しいため、生産農家が減少したためである。 ** 二十世紀収穫量第1位。二十世紀の全国シェアは48%、県内の和なし収穫量のうち79%が二十世紀。 * [[福島県]] ** 和なし収穫量第4位。[[福島盆地]]で盛ん。 * [[長野県]] ** 和なし収穫量第5位。 ** 主産地は[[飯伊地域]] * [[栃木県]] ** 和なし収穫量第6位。ここまでの上位6県で、全国の収穫量の過半数に達する。 * [[宮城県]]:[[蔵王町]]、[[利府町]]など。 * [[秋田県]]:[[男鹿市]]など。 * [[山形県]]:[[セイヨウナシ|洋なし]]で知られるが、[[庄内平野]]では和なし作りも盛ん([[酒田市]]の刈屋梨など)。 * [[群馬県]]:[[前橋市]]天川大島町など。 * [[埼玉県]]:[[久喜市]]、[[蓮田市]]、[[宮代町]]、[[菖蒲町]]、[[白岡町]]、[[春日部市]]、[[東松山市]]など。 * [[東京都]]:多摩川梨として[[稲城市]]、[[日野市]]、[[府中市 (東京都)|府中市]]、[[国立市]]、[[昭島市]]などで生産。多摩湖梨として、[[東大和市]]、[[武蔵村山市]]、[[東村山市]]などで生産。 * [[神奈川県]]:[[川崎市]]麻生区、多摩区(多摩川梨)など。 * [[山梨県]]:[[南アルプス市]]、[[甲府市]](旧[[中道町]])など。[[増穂町]]では洋なしを生産。 * [[新潟県]]:[[新潟市]]など。和なしでは新高や新興が主で、新潟市[[南区 (新潟市)|南区]]では洋なし(ル・レクチェ)なども生産。 * [[富山県]]:[[富山市]](呉羽梨)、[[魚津市]]など。 * [[福井県]]:[[あわら市]]、[[坂井市]]など。 * [[香川県]]:[[観音寺市]]など。 * [[徳島県]]:[[鳴門市]]、[[松茂町]]など。 * [[福岡県]]:[[朝倉市]]・[[うきは市]]など。 * [[熊本県]]:[[荒尾市]](新高で知られる) * [[鹿児島県]]:[[霧島市]]、[[湧水町]]など。 === 収穫量 === 和なし収穫量上位10県における、和なし合計と主要品種の収穫量・シェアを以下に示す。(出典:[[農林水産省]]統計情報、[[2006年]]) {| class="wikitable" |- ! rowspan="2" | ! colspan="2" | 和なし合計 ! colspan="2" | 幸水 ! colspan="2" | 豊水 ! colspan="2" | 二十世紀 ! colspan="2" | 新高 |- align="center" !収穫量 !シェア !収穫量 !シェア !収穫量 !シェア !収穫量 !シェア !収穫量 !シェア |- align="right" ! align="center" |全国合計 | 290,900 t || | 98,300 t || | 87,300 t || | 39,000 t || | 32,300 t || |- align="right" ! align="center" |[[千葉県]] | 34,900 t || 12% | 14,500 t || 15% | 12,300 t || 14% | 217 t || 1% | 6,000 t || 19% |- align="right" ! align="center" |[[茨城県]] | 29,200 t || 10% | 12,600 t || 13% | 12,600 t || 14% | 15 t || 0% | 3,000 t || 9% |- align="right" ! align="center" |[[鳥取県]] | 23,400 t || 8% | 778 t || 1% | 1,480 t || 2% | 18,400 t || 47% | 360 t || 1% |- align="right" ! align="center" |[[福島県]] | 22,300 t || 8% | 9,000 t || 9% | 8,390 t || 10% | 2,620 t || 7% | 1,220 t || 4% |- align="right" ! align="center" |[[長野県]] | 19,400 t || 7% | 5,410 t || 6% | 4,500 t || 5% | 4,970 t || 13% | 201 t || 1% |- align="right" ! align="center" |[[栃木県]] | 19,200 t || 7% | 7,270 t || 7% | 8,710 t || 10% | 2 t || 0% | 1,380 t || 4% |- align="right" ! align="center" |[[新潟県]] | 15,500 t || 5% | 3,370 t || 3% | 2,480 t || 3% | 2,290 t || 6% | 3,130 t || 10% |- align="right" ! align="center" |[[埼玉県]] | 11,900 t || 4% | 6,600 t || 7% | 3,620 t || 4% | 2 t || 0% | 1,180 t || 4% |- align="right" ! align="center" |[[熊本県]] | 11,200 t || 4% | 2,600 t || 3% | 3,380 t || 4% | 227 t || 1% | 3,840 t || 12% |- align="right" ! align="center" |[[福岡県]] | 10,300 t || 4% | 4,970 t || 5% | 3,570 t || 4% | 303 t || 1% | 818 t || 3% |- |} == 食品としての利用 == === 食用 === ナシの主な利用法は生食である。一般的なナシの剥き方は[[リンゴ]]と同様で、縦に8等分などしてから皮を剥き中心部をくりぬく方法である。また、[[シロップ]]漬けの[[缶詰]]にも利用されるが、ナシの缶詰だけで売られていたり、それを食することは稀であり、他の果物と混ぜてミックスフルーツとして販売・食用とされることが多い。 加工品としては[[清涼飲料水]]や、[[ゼリー]]、[[タルト (洋菓子)|タルト]]などの洋菓子に利用されているが、[[セイヨウナシ|洋なし]]と比べるとそれらを見かける機会は少ない。料理に用いられることは[[冷麺]]の具として用いる以外、基本的にはないが、産地などでは梨カレー[http://www.jan-agri.com/toretate/jacook/nasi.html]などといった[[レシピ]]も開発されている。 ナシはタンパク質分解[[酵素]]を持っているため、生の状態ですり下ろしたものを[[焼肉]]や[[プルコギ]]などの漬け込みだれとして利用するレシピがある。 === 成分・栄養価 === 糖度は11~14%程度で、糖分としては[[スクロース|ショ糖]]、[[フルクトース|果糖]]、[[ソルビトール]]、[[グルコース|ブドウ糖]](多い順)を含む。[[酸度]]は0.1%程度で、[[リンゴ酸]]や[[クエン酸]]などである。 和なし・洋なしともに[[果物]]としては[[ビタミン]]をほとんど含まず、栄養学的な価値はあまり高くない。 ; [[水|水分]] : 果物の多くがそうであるように、ナシのほとんどは水分である。可食部100gあたり88g。 ; [[食物繊維]] : 可食部100gあたり0.9g。 ; [[カリウム]] : 血液中のナトリウムイオンの増加を防ぎ、高血圧などに良い。可食部100gあたり140mg。 ; [[ソルビトール]] : 甘く冷涼感のある[[糖アルコール]]。のどの消炎に効果がある。洋なしではこれによって[[追熟]]が起きる。 ; [[アスパラギン酸]] : [[アミノ酸]]の一種。疲労回復効果がある。 ; [[プロテアーゼ]]([[タンパク質]]分解[[酵素]]) : 消化を助けたり、肉料理において肉を柔らかくしたりする効果がある。 == ことばでのナシ == * 梨尻柿頭 - ナシは尻の部分が甘く、カキは頭の部分が甘いということ。 * 梨の礫(つぶて) - 便りを出しても、先方からさっぱり音沙汰のないこと。 * 梨花一枝、春雨(はるあめ)を帯ぶ - 美人が涙ぐむさま。 == 関連項目 == *[[二十世紀梨記念館]] == その他 == * 「梨の花」は春の、「梨」は秋の[[季語]]とされる。 * [[花言葉]]は「和やかな愛情」「博愛」。 * [[新潟県]][[新潟市]][[南区 (新潟市)|南区]]月潟には[[樹齢]]200年の「類産梨」がある。国指定の[[天然記念物]]。「類産」は品種名で、現存する唯一の類産の木である。 == ギャラリー == <gallery> 画像:W nasi2061.jpg|和梨 画像:pear_flower.jpg|梨の花、拡大 画像:Pear_FlowerB.jpg|花の付き方 画像:Pyrus pyrifolia var culta4.jpg|落花後の果実 画像:Futago_Tamagawanashi_06z0968s.jpg|<small>木についた状態。この後は日焼け防止の袋を被せられる。</small> 画像:Pear_shinko_niitaka_lafrance.jpg|<small>左2つは新興、右手前は新高、右奥はラ・フランス。</small> </gallery> == 脚注 == <references/> == 参考文献 == * 『果樹園芸大百科 4 ナシ』 編・出版:農山漁村文化協会、2000年 * 『植物の世界 5』 朝日新聞社、1997年 * 『図説 花と樹の事典』 監修:木村陽次郎、柏書房、2005年 * 『たべもの起源事典』 岡田哲、東京堂出版、2003年 * 『世界有用植物事典』 堀田満 他、平凡社、1989年 == 外部リンク == * [http://www.pref.tottori.jp/nashikinenkan/ 鳥取二十世紀梨記念館] * [http://www.love-fruits.com/nashipage2.htm 岡山果物市場 岡山の梨] * [http://www.f-kudamono.com/ 福島県くだもの消費拡大委員会] * [http://www.agr.niigata-u.ac.jp/~naser/kiyokiyo/grad/nasi/nasiind.html 新潟県 梨 品種画像データベース ] [[Category:果物]] [[Category:木]] [[Category:バラ科]] {{DEFAULTSORT:なし}} {{Wikipedia/Ja}}