黙字のe

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黙字のe(もくじのイー、silent e)は英語において原則として発音しないが、直前の母音を訓読(長音)で発音させる働きを持つe。古英語、また英語と同じく西ゲルマン語に属するドイツ語ではこのeは発音する。

黙字のeを含む語の例

Without silent e With silent e IPA transcription
slat slate /slæt/ → /sleɪt/
met mete /mɛt/ → /miːt/
grip gripe /ɡrɪp/ → /ɡraɪp/
cod code /kɒd/ → /koʊd/
run rune /rʌn/ → /ruːn/
(訓読(長音)の場合、語尾ではay[1],ee[2],ie,oe[3],ue[4]となる);

a+黙字のe

直前の母音は/eI/と発音される[5]。語尾ではayと綴り、黙字のeは要らない。

e+黙字のe

直前の母音は/iː/と発音される[6]。語尾ではee[7]とeを重ねる。

i+黙字のe

直前の母音は/aI/と発音される[8]。語尾ではieと綴る[9]

o+黙字のe

直前の母音は/əʊ/と発音される[10]。語尾ではoeと綴る[11]

u+黙字のe

直前の母音は/uː/と発音される[12]。語尾ではueと綴る[13]

歴史

英語の歴史は、高低アクセント言語から強勢アクセント言語への移行の歴史でもあった。そうした変化が進むにつれ、たとえば語根に2音節をもつ語の場合、第一音節に強勢が置かれるとともに第二音節は次第に弱化し、/ə/ のようなあいまい母音を経て、最終的には完全に無音化されるに至っている[14]

以下に典型的な一例を挙げる。なお、音声表記は厳密なものではない。

例 「時間」 : 古英語 tima /*ti:ma/ > 中期英語 tyme /*ti:mə/ > 現代英語 time /taIm/

このように語末の e は当初 /ə/ を表す音標であったが、現在では黙字となっている。

また、上記の例のごとく、こうしたケースでは直前の音節が長母音(現在では二重母音[15])に発音される例が多かったことから、語末の e は「直前の母音を長母音(現在の二重母音)として発音する目印」としても認識されるようになり、やがて、元来母音のなかった場所にもその用途のために添えられるようになった。

以下に古い語彙からの例を示す。

例 「ワイン」 : 古英語 win /*wi:n/ > 中期英語 wyn /*wi:n/ > 現代英語 wine /waIn/

こうした「発音しない語末の e」は、現在では、古英語由来の語彙に限らず、さまざまな出自の語彙に非常に頻繁に見られるものとなっている。

その他

前後の母音字などの発音方法を示唆するような役割を担っていない黙字のeが登場することもある。例として、come,lettuce,haveなどである。これらの場合、直前の母音は訓読(長音)とならない。

脚注

  1. aeとはならない
  2. eを重ねる
  3. eを用いないowの方が頻度が高い
  4. eを発音するewと綴ることもある
  5. かつては/ɑː/と発音していた
  6. かつては/eː/と発音していた
  7. 語中でも登場する
  8. かつては/iː/と発音していた。現在でも/iː/と発音する場合がある。 例: siege /siːdʒ/ 包囲する
  9. 語中でも登場し、その場合/iː/と発音する
  10. かつては/ɔː/と発音していた。現在でも/ɔː/と発音する場合があり、主にreの直前である
  11. 稀にしか登場しない。黙字のeを用いないowの方が一般的
  12. かつては/ʊː/と発音していた
  13. 時折、発音するeを用いたewになることもある
  14. ドイツ語なども類似の変化を経験している。
  15. 長母音から二重母音への変化は、大母音推移による。

関連項目