性的指向
性的指向(せいてきしこう)あるいは性指向(せいしこう、英:Sexual Orientation)は、いずれの性別を恋愛や性愛の対象とするかをいう、人間の根本的な性傾向のこと。無意識に形成されるとされる。
おおまかに「異性愛」、「同性愛」、「両性愛」に分類される。性的指向を持たない場合は「無性愛」となり、これを便宜的に性的指向の中に分類する場合もある。恒常的に他人への性的欲求を持たない状態を「非性愛」という。
性的な行動に関係する好みを表す性的嗜好も広い範疇の性的指向(性愛における性別の対象傾向のみに限定しない広い範疇をも性的指向と捉えたもの)とする考え方がある。
目次
用語
主な言葉をおおまかに定義する。
- 異性愛 - 自身の性別とは異なる性別の者へ恋愛や性愛の側面を含む愛情を向けること。
- 同性愛 - 自身の性別と同じ性別の者へ恋愛や性愛の側面を含む愛情を向けること。
- 両性愛 - 性別二元論に基づいた男女という2つの性別の両方へ恋愛や性愛の側面を含む愛情を向けること。
- 全性愛 - 性別に囚われず全ての性別の者へ恋愛や性愛の側面を含む愛情を向けること。
- 無性愛 - 他者に対して恒常的に恋愛感情と性的欲求の双方を抱かないこと。
- 非性愛 - 他者に対しての恋愛感情は有り得るが、恒常的に他者に対して性的欲求を抱かないこと。
同性愛を「性同一性障害」や「異性装」と混同する向きもあるが、これらはそれぞれ全く別個のものである。詳細については各々の記事も参照。
形成時期
先天・後天など諸説あるが、形成時期が違っても、いずれかの性的指向をもつか無性愛となる。
性的指向における異性愛者と同性愛者の認識のズレ
近年の研究によれば異性愛者は全世界の人口の約90パーセントを占めるとの説がある。
異性愛以外の性的指向は概念上マイノリティー(性的少数者)であり、いくつかの宗教・文化などでは、社会的に合致しない場合がある。マイノリティーは異性愛中心の社会規範に当て嵌まらないことに自ずと気づくことになり、その不自由さにより性的指向の存在を認識した。
異性愛も性的指向のひとつであるが、異性愛者においては、通常、性的指向は意識されない。男性が女性に、女性が男性に惹かれる傾向を備えていることが異性愛の性的指向であるが、それはマジョリティであるが故に、意識されるものでない。その通常、意識されないものが、同じく同性愛においてのそれにあたる。
(異性愛と同性愛が同質の性指向として定義される背景には、国際医学会やWHO(世界保健機関)及び日本精神神経医学会などの専門医の見解によるところが大きい。)
同性愛・両性愛における性的指向の認知困難について
マイノリティーの性指向における概念は、一般的には流れていない上に性的指向自体が無意識に形成されるため、傾向を持っていてもなかなか気づかないことがある。(→時間差認知)
また、気づいても性的な差別などが根強いことから、同性愛指向を抑圧し、異性愛を装うことがある。
性的指向の固定性
性的指向が流動的で選択的要素を含むと信じる人は、性的指向を「性的な好み」といった言い方で表現することもあるのに対し、性的指向は意志によって操作できないと信じる人は、この言い方に同意しない。
各性的指向間の壁は絶対的なものであると言い切ることはできない。(注:両性愛者における、時期による対象性別の変動、及び男女いずれかへの比重傾倒は両性愛の性指向自体が流動しているわけではない。)
しかしながら、現状を踏まえたときに、我々は実生活の中で、自分の性的指向が容易に変更できるものではないことを知っている。無意識のうちに既形成された性別対象傾向を強引に消し去って意識的に新たな性別対象傾向を築くという作業を成し遂げることは、おおよそ困難であることは想像に難くない。
流動が起こるとすれば、それは希望・意図されたためではなく、また、頻繁には起こらない。そのため流動性は極めて低いと考えるのが妥当であり、少なくとも高くないことは確かである。頻繁に流動するのは、性的指向自体ではなく、マイノリティーの性的指向に対する認知とその意識的な評価により働く理性や抑圧の度合いである。
また、「機会的同性愛」もあるが、これも根本の性的指向が消えたり変わるものでない。
現在の医学では、カウンセリング等で人の性指向は変えられない、変えようとすべきにあたらないとするのが主流となっている。一部のアメリカ映画や正確な知識のないメディアなどにおいては、性指向が容易く流動可能であるかのような情報があるが、著しく信憑性に欠けるものである。
同性愛など人間の性的な傾向は、自律神経をつかさどる脳の機能に規定されている可能性が有力であり、さかんに研究がなされている。特に有名なものとしてはスウェーデンの研究がある[1][2]。
時間差認知は基本的には流動ではないが、これを性的指向が変化したと捉える人もいる。(一般に流れる異性愛の固定観念から知識上、一元異性愛しかなかった者が、もともと同性愛傾向を備えていたことに気づく場合、また、同性愛傾向に気づきながらもそれを抑圧していたケースにおいて、抑圧していた自我を受け入れられない場合などに流動を主張することがある。)
性的指向が抱える幅
異性愛や同性愛などの定義は簡単なようで難しく、場面や論者によって様々である。なぜならば、「異性・同性とは何か?」という問題が生じるからである。
少なくとも、精神的にも肉体的にも戸籍上でも同一の性別どうしでの恋愛・性愛的な側面を含む愛情は同性愛である。精神的にも肉体的にも戸籍上でも異なる性別どうしのそれは異性愛である。 では「精神的にも肉体的にも戸籍上でも」という条件が満たされない場合はどうか。
例えば、身体的には男性である性同一性障害者 (MtF-GID) は、典型的には男性を恋愛対象とするので、それは同性愛のように見える。しかし、その人の性自認はあくまでも女性であるので、その人の主観においては「女性として」男性を恋愛対象としているのである。行動主義的に、恋愛における種々の心理の動きや言動を観察しても、その人の恋愛は異性愛者の女性に酷似している。
社会科学的領域や精神医学の一部では、このような性同一性障害者を「異性愛者」と見なす。逆に、このような男性の性同一性障害者が女性を恋愛対象とするならば、その人は「MtFレズビアン」と呼ばれる。同様にして「FtMゲイ」なども定義される。
実際、精神的活動・社会的活動・経済的活動について観察する上では、このような例に対して身体を基準に定義するよりも上記の定義の方が実情にあっており、現象を統一的にうまく説明できるので都合がよい。
ただし、生物学、特に発生生物学的な領域に着目する場合は、遺伝子上の性別を重視して、上のような例の異性愛/同性愛を逆に定義することもある。 遺伝子的に男性として生まれた者である性同一性障害者は、その人が男性を恋愛対象とするならば、たとえ心理的に女性であったとしても、同性愛者と定義される。
また半陰陽者のように、身体的・あるいは遺伝子的に異常が生じ、医学的に男性に属すとも、あるいは女性に属すとも決定できない人もいる。彼らに対して異性愛/同性愛を定義するためには、性自認か行動様式か、その場合の議論の目的によって何らかの基準を定めて便宜上の定義を与えるほかなく、そもそも「異性愛」「同性愛」というカテゴライズ自体の有意性さえ疑問が生じてくる。
脚注
関連項目
外部リンク
- 47NEWS「オバマ氏、同性愛差別根絶に賛同 ブッシュ前政権の方針転換」
- NHKオンライン-虹色 「国連総会で人権と性的指向・性自認に関する声明が提出」
- 法務省-人権擁護局「人権週間・強調事項」
- 東京都-総務局「さまざまな人権問題」
- 長崎県人権啓発活動ネットワーク協議会「主な人権問題~性的指向」
- 宮崎県都城市「性的少数者についての基礎知識」
- 大阪人権博物館リバティおおさか「性的少数者【多様な性】」
- LGBTに「Fair」な企業:“性的指向による差別”に関する企業理念調査
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