貨物自動車
貨物自動車(かもつじどうしゃ)とは、主に貨物を運搬する自動車である。一般にはトラック(truck)と呼ばれるほか[1]、フランス語やイタリア語に由来するカミオン(camion)という呼称もある。
本項では特に記載のない限り日本国内の事項について記載する。比較的小型で、運転席と荷室が一体となった車体を持つ車種については、「ライトバン」を参照。
目次
概要
主に物資を運ぶ陸上輸送用途で広く使用されている。車体の大きさや重さ、積載可能な重量、装備の状態等により様々に分類される。専門的には「自動貨車」とも呼ばれる。
車体各部の名称
トラックでは、車体各部の名称は一部、独特なものが用いられる。 エンジンやタイヤとそれらを支える(一般的な)シャシーなどの走行を行い支えるための装置類全体が「シャシー」や「車台」と呼ばれる。 運転席など人間が乗る部分は「キャブ」または「キャブボディ」と呼ばれ、シャシーの上に乗りキャブ以外の荷台や荷室といった荷役用の部分が「ボディ」と呼ばれる[2]。
架装と特装車
トラックのほぼ標準的なキャブやシャシーに対して、使用目的に合わせて必要な装備類を取り付けることは「架装」、装備類は「架装物」と呼ばれ、多様な架装を備えたトラックが作られている。多くの場合、架装物はボディだけを指すが、ボディ以外にもエンジン周辺や(一般的な)シャシーなどに行われる大規模な改造まで含む架装物もある。 ボディは「架装物」であり、標準的に作られる荷台など以外の特殊な架装物を備えた自動車は「特装車」と呼ばれる。特装車の多くが貨物運搬用以外の特殊用途[3]に用いられるため「貨物自動車」ではないが、架装物以外はキャブやシャシー等を共用しているものが多く、(狭義の)特装車であり貨物自動車でもある車輌の存在など、明確な切り分けは難しい。
製造と販売
ほとんどの小型トラックや多くの普通トラックでは、トラックメーカーが出荷時に標準的な荷台を取り付けて販売しているが、大型や中型のものや一部の普通サイズなどの輸送用トラックは、トラックメーカーではシャシーとキャブだけが付いた「キャブ付き完成シャシー」や「汎用シャシー」と呼ばれる自動車を製造・出荷している。ボディメーカーや特装メーカーと呼ばれる架装物専業のメーカーがこれらを購入し、自社の定番ラインナップを見込み生産したり、客の受注に応じて製造したりするなどして、架装物であるボディを取り付けている。このような架装済の完成車の多くが、ボディ専業メーカーからトラックメーカーへと逆に販売され、客はボディ専業メーカーの存在をあまり意識せずにトラックメーカーから購入している。また、大量のトラックを購入する大きな運送業者などでは、トラックメーカーから自社でキャブ付き完成シャシーを購入し、ボディメーカーへボディの製造と取り付けを発注して、大量の完成車を入手する例もある。 ボディメーカーの中には、架装物としての部品だけを製造するところや、逆に製造は行わず、組立てや取り付けだけを請け負うところなど、多様な形態の会社が存在する。
日本における分類
- トラックは一般に以下の種別で分類される。
- 使用用途(登録)
- サイズ(大きさ、重さ、積載量)
- 架装
日本における分類を以下に示す。
サイズ(積載量など)による分類
- 運転免許による区分(参考: 道路交通法施行規則、第二条)
- 大型車(大型自動車)
- 運転には大型免許が必要。車両総重量が11トン以上、又は最大積載量が6.5トン、又は乗車定員が30人以上の自動車であって、特殊自動車・自動二輪車のいずれでもないもの。速度超過による事故等の防止のため、最高速度90km/hの速度抑制装置(リミッタ)の装備が義務付けられている。(輸入車には標準では装備されていない。また、助手席側ドア下部のガラス窓は、法規制ではなく、国内4社の自主基準である)。かつては、屋根に緑色の速度表示灯(20km/h以下・40km/h・60km/hで点灯)の装備が義務付けられていた。
- 中型車(中型自動車)
- 運転には大型免許または中型免許のいずれかが必要。車両総重量が5トン以上、又は最大積載量が3トン、又は乗車定員が11人以上の自動車であって、特殊自動車・自動二輪車・大型自動車のいずれでもないもの。(法令改正以前の普通免許取得者=中型8トン限定免許所持者は、限定を解除しないと上記規格を満たす車両は運転できない。一方で限定解除をすると、大型運転の適性を通らなくなった場合には中型車も運転出来なくなるというデメリットが生じる)
- 普通車(普通自動車)
- 普通免許で運転できる。特殊自動車・自動二輪車・大型自動車・中型自動車のいずれにも該当しない自動車。
- 高速道路通行料金での区分(カッコ内は高速道路会社の区分番号)
- 車両登録上の区分
- 普通自動車(普通トラック)
- 小型でないもの。1ナンバー
- 小型自動車(小型トラック)
- 全長4.7m、全幅1.7m、全高2.0mまでの自動車。4ナンバー
※冷凍車やタンクローリーなどの特殊構造の場合、8ナンバーになるものもある。
キャブ関連の呼称
- 標準キャブ
- 4ナンバーキャブ車の使いやすさを追求し小型車専用に開発された標準キャブ車。2tトラックでは4ナンバー小型車となるが4tトラックでは1ナンバー普通車扱いとなる。
- ハイキャブ
- 標準キャブに対してヘッドクリアランスが約80~200mm高く、全車1ナンバーサイズとなる標準キャブ車(ハイルーフ)。
- ワイドキャブ(標準ルーフ)
- 1ナンバー普通車として積載効率を重視する幅広タイプのワイドキャブ(標準ルーフ)。
- ワイドキャブ(ハイルーフ)
- 1ナンバー普通車として大量輸送を効率よくこなせる、ワンランク上の幅広タイプのワイドキャブ(ハイルーフ)。
架装による分類
▲:特種用途自動車(いわゆる8ナンバー)に当たるもの。
- 平ボディ車
- 荷台の側方と後方に、アオリがあるだけの車で、無蓋で開放状態となっている。無蓋になっているため、主に雨に濡れても問題の無い品物や、クレーン等を使わないと積み下ろしが困難な重量物を運ぶ場合に使用される場合が多い。積載物の種類によってはトラックシートやトラックロープを用いて上部を覆う。アオリは、後方だけが開くものが「一方開」側方も開くものが「三方開」側方が前後に分かれて開くものが「五方開」と呼ばれる。アオリは鉄製のものもあるが、最近は軽量化のため、アルミ製のものも多い。トラックのボディの中で最も価格が安いことや、軽量なため、積載量がどのボディよりも取りやすいメリットがある。
- ▲冷凍車
- 冷凍された物品を輸送するため、冷凍機を搭載し断熱構造の荷台を持つものである。
- ▲冷蔵車
- 冷蔵の必要な物品を輸送するため、冷蔵設備を搭載し断熱構造の荷台を持つものである。
- 保冷車
- 冷蔵の必要な物品を輸送するため、断熱構造の荷台を持つものである。
- 通風車
- 温度上昇に弱い物品を輸送するため、通風構造の荷台を持つものである。
- 有蓋車
- 水濡れや荷痛み防止のための密閉構造の荷台を持つものである。アルミ製の「箱」形状のものを持つことから「ハコ」と呼称されることもある。後面が開閉したり、側面が開閉したりして荷物の積み下ろしを行う。側面が開閉するものは、羽根のように開放されるものがあり、通称「ウイング車」と呼ばれる。
- 幌付き車
- 平ボディ車と有蓋車との中間的な車で、水濡れや荷痛み防止のために平ボディ車のボディの上に金属製の骨組みを組み、その上から布製・ビニール製などのシートを被せてリングベルトで固定した車である。水濡れ対策の完璧さでは有蓋車に負けるが、有蓋車よりも価格が安く、そして、軽量なために積載量が取れるというメリットがある。また、骨組みが脱着できる幌は車体の寸法に含まれないため、ベース車が小型車ならそのまま小型車扱いになり、保険料や通行料金の点で有蓋車より有利になる。
- キャブバッククレーン車(ユニック車)
- 荷扱いのための小型クレーンを持つものであり、開放型の荷台のものが多いが、箱車となっているものもある。なお、ユニックとは古河ユニック株式会社の商品名であるが、一般名称として浸透している(正式なユニックはクレーンにUNICと書いてある)。これに対して、例えばタダノでは「カーゴクレーン」、加藤製作所では「積載型クレーン」と呼ぶ。クレーンとしては積載型トラッククレーンとなる。クレーン使用時の転倒を防止するため必ずアウトリガーを持っている。多くは荷台の前にクレーンを持ち通常の平車と同様の積み降ろしが可能だが、後ろにクレーンを持つものもあり、この場合は後ろから積み降ろしができないため荷台が側方二方開もしくは四方開となる。前方にクレーンを持つ場合はダンプのように荷台がせり上がったり、後方へスライドしたりできるものも存在する。荷台を持たないものについては、トラッククレーンを参照。
- 車載車
- 小型の自動車を積載するため、荷台がせりあがり乗せる車が自走して積み下ろし出来るようになっている。事故車や動かない車を載せることが出来るように、ウインチがついていることが多い(このタイプは主に自動車整備業者や自動車ディーラーが持っている)。多段式になり複数の車を載せることが出来るものもある(これは主に、新車や中古車のディーラーへの輸送用に、専門輸送会社が持っている)。規制緩和により、高さ4.1mまで積載できる場合があるので、ワンボックス車などを2段に載せて走ることが可能な車載車もある。通称で呼ばれることが多く、「セーフティーローダー」あるいは単に「ローダー」とよばれることがある。多段式の大型のものは「キャリアカー」とも呼ばれる。
- ▲タンクローリー
- 液体・気体を輸送するためのタンクを備え付けたものである。輸送する物質によっては相応の運転免許の他に危険物取扱者等の資格が必要な場合がある。
- ▲バルク車
- 粉粒体を輸送するためのタンクを備え付けたものである。
- ダンプカー(ダンプトラック)
- 土砂・砕石を荷降ろしするための傾斜機構付き荷台のものである。
- コンテナ車
- 輸送用の専用固定金具を装備したものである。
- ▲トラックミキサ
- 生コンクリートを撹拌しながら運ぶ。別名「アジテータートラック」「トラックアジテーター」など。一般にミキサー車と呼ばれる。
- トレーラ
- 原動機を持たず、専ら牽引されるための車。牽引されるための装置を持ち、牽引するための装置を持つ自動車(トラクタという)に接続して走行する。追加の荷台として使用する小さなものから戦車が運搬できる大きなものまでさまざまな大きさがある。数としては圧倒的にセミトレーラが多い。
- ピックアップトラック
- 乗用車の後部座席より後ろの部分をそのまま荷台に置き換えたボディ形状のトラック。
- ライトバン
- 貨客兼用車である。乗用車であるステーションワゴンと異なり、貨物車扱いとなる。
陸上自衛隊用車両
現代の陸軍において最も多く保有されている自動車は、戦闘車両ではなく貨物自動車である。大規模な戦闘部隊が陸上の戦域で活動を継続するには大量の物資を必要とするためである。
なお、日本の軍事で初めて貨物運搬用の自動車を運用したのは陸軍輜重兵(しちょうへい)である。明治32年、日本陸軍はフランスからガソリンエンジンによって駆動する自動車を1台購入、軍用自動車の始まりとなった。明治44年5月、大阪工廠では輸送用自動車2種2両を製作し、1種は後方輸送用、もう1種は前線における糧食・弾薬輸送用であった。こののち、大正3年8月の青島戦役において自動貨車4両が参加、陸海軍重砲部隊に弾薬を輸送した。指揮は中尉クラスの輜重兵士官、操縦は輜重下士官兵による。当時の日本陸軍において自動車の操縦ができるものはごくわずかだった。当時の機械力を現すデータとして、明治42年末の時点で警視庁に登録された民間の自動車台数は62台であった[4]。
- 以下に日本の自衛隊の輸送用車輌を示す。
上記以外にも、民生用のトラックをオリーブドラブ色(OD色)に塗装して使用しており[6]、民間のナンバープレートとは異なる自衛隊専用のものが付いている。
脚注
- ↑ GP(2000年)、1及び11頁
- ↑ GP(2000年)、11-19頁
- ↑ いわゆる8ナンバー車
- ↑ 佐山『機甲入門』369-377頁
- ↑ 73式小型トラックはトラックとされているものの、民間ではトラックとは呼べない車種がベースになっている。ベース車は以前は三菱・ジープ、後に三菱・パジェロが採用されている。
- ↑ 有事の際には民間の車両・運送会社を活用することが想定されている。
参考文献
- GP企画センター著、『特装車とトラック架装』、グランプリ出版、2000年3月13日初版発行、ISBN 4876872090
- 佐山二郎『機甲入門』光人社(光人社NF文庫)、2002年。ISBN 4-7698-2362-2
関連項目
- 車両の種類
- 運送
- 団体
- 外国商用車メーカー
- DAF Trucks(オランダ)
- Dodge(アメリカ)
- Ford(アメリカ)
- Freightliner(アメリカ)
- Iveco(イタリア)
- KAMAZ(ロシア)
- Kenworth(アメリカ)
- MAN(ドイツ)
- Mercedes Benz(ドイツ)
- Paccar(アメリカ)
- Peterbilt(アメリカ)
- Renault Trucks(フランス)
- Scania(スェーデン)
- Tata Motors(インド)
- Tatra(チェコ)
- Volvo(スェーデン)
- Volkswagen(ドイツ)
- 第一汽車(中国)
- 東風日産ディーゼル(中国)
- 慶鈴汽車(中国)
- ヒュンダイ(韓国)
- キア(韓国)
- シス・オート(フィンランド)
- アショック・レイランド(インド)
- フォース・モーターズ(インド)
- その他