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2007年6月26日 (火) 00:29時点における版

グレシャムの法則(グレシャムのほうそく)は、経済学の法則のひとつ。一般には内容の要約「悪貨は良貨を駆逐する」で知られる。

貨幣の額面価値と実質価値に乖離が生じた場合、より実質価値の高い貨幣が流通過程から駆逐され、より実質価値の低い貨幣が流通するという法則の事である。従って、主に金貨銀貨など、それ自体に価値のある貨幣に当てはまる法則で、貨幣自体に大して価値のない信用貨幣の場合は殆ど当てはまらない。

例えば、の含有量の多い金貨と少ない金貨の二種類が、同じ額面で同時に流通したとする。この二種類には、通貨としての価値は同じでも貴金属としての価値は違うという、二重の価値が生じる。仮に、貴金属としての価値の高い方を良貨、低い方を悪貨と呼ぶ。

すると、人々は良貨を手元に置いておき、日々の支払いには悪貨を用いる傾向が生じる。貨幣を用いるとはその貨幣を手放すという事であり、貴金属としての価値の高い良貨は手放したくなくなり、日々の支払いには貴金属としての価値の低い悪貨で間に合わせておこうと考えるからである。

『グレシャムの法則』という名称は、16世紀のイギリス国王財政顧問トーマス・グレシャムが、1560年エリザベス1世に対し「イギリスの良貨が外国に流出する原因は貨幣改悪のためである」と進言した故事に由来する。これを19世紀イギリスの経済学者ヘンリー・マクロードが自著『政治経済学の諸要素』(1858年)で紹介し『グレシャムの法則』と命名、以後この名称で呼ばれるようになった。

なお、悪貨が良貨を駆逐するという現象自体は、古くから各地で知られていた。古代ギリシアの劇作家アリストパネスは、自作の登場人物に「この国では、良貨が流通から姿を消して悪貨がでまわるように、良い人より悪い人が選ばれる」という台詞を与え、当時のアテナイで行われていた陶片追放を批判している。

また、天文学者として知られるニコラウス・コペルニクスも、グレシャムの進言に先駆けて同様の説を唱えていたらしい。

時代はグレシャムより下るが、日本の江戸時代中期の思想家三浦梅園も、自著『価原』(1773年)の中で「悪幣盛んに世に行わるれば、精金皆隠る」という説を独立して唱えている。

また、「悪貨が良貨を駆逐する」という言葉は、悪人がはびこるような治安の悪い状態や、軽佻浮薄な文化が流行するような場合を指すときにもよく引き合いに出される。前述のアリストパネスの例のように、これはもともと転義的用法だが、主流や流行を非難する際に便利な言葉なので、本来の意義を離れてよく用いられる。