「自衛権」の版間の差分
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− | '''自衛権'''(じえいけん)とは、急迫不正の侵害を排除するために、[[武力]]をもって必要な[[行為]]を行う[[国際法]]上の[[権利]]<ref name="現代国際法講義456">[[#現代国際法講義|『現代国際法講義』]]、456頁。</ref>であり、自己保存の本能を基礎に置く合理的な権利である<ref>筒井若水、[[#自衛権|『自衛権』]]、98頁。</ref>。[[国内法]]上の[[正当防衛|正当防衛権]]に対比されることもあるが<ref name="国際法732">[[#国際法|『国際法 【新版】』]]、732頁。</ref>、社会的条件の違いから国内法上の正当防衛権と自衛権が完全に対応しているわけでもない<ref name="国際法辞典167">[[#国際法辞典|『国際法辞典』]]、167頁。</ref>。 | + | <nowiki>'''自衛権'''(じえいけん)とは、急迫不正の侵害を排除するために、[[武力]]をもって必要な[[行為]]を行う[[国際法]]上の[[権利]]<ref name="現代国際法講義456">[[#現代国際法講義|『現代国際法講義』]]、456頁。</ref>であり、自己保存の本能を基礎に置く合理的な権利である<ref>筒井若水、[[#自衛権|『自衛権』]]、98頁。</ref>。[[国内法]]上の[[正当防衛|正当防衛権]]に対比されることもあるが<ref name="国際法732">[[#国際法|『国際法 【新版】』]]、732頁。</ref>、社会的条件の違いから国内法上の正当防衛権と自衛権が完全に対応しているわけでもない<ref name="国際法辞典167">[[#国際法辞典|『国際法辞典』]]、167頁。</ref>。 |
自国を含む他国に対する侵害を排除するための行為を行う権利を'''[[集団的自衛権]]'''といい、自国に対する侵害を排除するための行為を行う権利である'''個別的自衛権'''と区別する<ref name="現代国際法講義456-460">[[#現代国際法講義|『現代国際法講義』]]、456-460頁。</ref><ref name="国際法736">[[#国際法|『国際法 【新版】』]]、736頁。</ref>。 | 自国を含む他国に対する侵害を排除するための行為を行う権利を'''[[集団的自衛権]]'''といい、自国に対する侵害を排除するための行為を行う権利である'''個別的自衛権'''と区別する<ref name="現代国際法講義456-460">[[#現代国際法講義|『現代国際法講義』]]、456-460頁。</ref><ref name="国際法736">[[#国際法|『国際法 【新版】』]]、736頁。</ref>。 |
2018年2月15日 (木) 01:16時点における版
'''自衛権'''(じえいけん)とは、急迫不正の侵害を排除するために、[[武力]]をもって必要な[[行為]]を行う[[国際法]]上の[[権利]]<ref name="現代国際法講義456">[[#現代国際法講義|『現代国際法講義』]]、456頁。</ref>であり、自己保存の本能を基礎に置く合理的な権利である<ref>筒井若水、[[#自衛権|『自衛権』]]、98頁。</ref>。[[国内法]]上の[[正当防衛|正当防衛権]]に対比されることもあるが<ref name="国際法732">[[#国際法|『国際法 【新版】』]]、732頁。</ref>、社会的条件の違いから国内法上の正当防衛権と自衛権が完全に対応しているわけでもない<ref name="国際法辞典167">[[#国際法辞典|『国際法辞典』]]、167頁。</ref>。 自国を含む他国に対する侵害を排除するための行為を行う権利を'''[[集団的自衛権]]'''といい、自国に対する侵害を排除するための行為を行う権利である'''個別的自衛権'''と区別する<ref name="現代国際法講義456-460">[[#現代国際法講義|『現代国際法講義』]]、456-460頁。</ref><ref name="国際法736">[[#国際法|『国際法 【新版】』]]、736頁。</ref>。 == 概説 == === 沿革 === 歴史上、自衛権の概念は、[[1837年]]の[[カロライン号事件]]の処理において、[[イギリス]]が主張した抗弁の中で最初に援用された<ref name="国際法辞典55">[[#国際法辞典|『国際法辞典』]]、55頁。</ref><ref name="国際法辞典167"/>。カロライン号事件とは、イギリス領[[カナダ]]で起きた反乱に際して、反乱軍が[[アメリカ合衆国]]船籍のカロライン号を用いて人員物資の運搬を行ったため、[[イギリス海軍]]がアメリカ領内でこの船を破壊した事件である<ref name="国際法辞典55"/>。アメリカ側からの抗議に対し、イギリス側は、自衛権の行使である旨、抗弁の一つとして主張した<ref name="現代国際法講義456"/><ref name="国際法辞典55"/>。アメリカ側は、[[アメリカ合衆国国務長官|国務長官]][[ダニエル・ウェブスター]]が、自衛権の行使を正当化するためには「即座に、圧倒的で、手段選択の余地がない」ことが必要であると主張し、本件についてこれらの要件が満たされていることについての証明を求めた<ref name="国際法辞典55"/><ref name="現代国際法講義456"/>。この自衛権行使に関する要件は「ウェブスター見解」と呼ばれる<ref name="国際法辞典55"/>。 まず、[[第一次世界大戦]]後、自衛権の行使は、[[1928年]]([[昭和]]3年)に締結された[[不戦条約]](戰爭抛棄に關する條約、パリ不戦条約)の中で、禁止されるべき「[[戦争]]」から留保されると解された<ref name="現代国際法講義456"/>。そして、[[第二次世界大戦]]後の[[1945年]](昭和20年)10月に発効した[[国際連合憲章]](国連憲章)では、第51条に「個別的又は集団的自衛の固有の権利」が明記された<ref name="国際法辞典167"/>。 === 国連憲章における自衛権 === 国際連合憲章51条は次のように定める。 : 第五十一条 この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。 このように、自衛権は[[国家]]の「固有の権利」と規定される。ただ、国際連合加盟国による集団安全保障体制の下では、その権利の行使は、[[国際連合安全保障理事会]](国連安保理)の措置がとられるまでの時限的な権利とされている<ref name="現代国際法講義456"/><ref name="現代国際法講義458">[[#現代国際法講義|『現代国際法講義』]]、458頁。</ref><ref name="国際法735">[[#国際法|『国際法 【新版】』]]、735頁。</ref>(なお[[s:国際連合憲章#a7|憲章第7章]]参照)。 国連憲章第51条の「自衛権」の解釈については、多くの問題が生じているのも事実である。国家が武力行使をする際に最も頻繁にその適用が主張され、しかも、これらの主張に対して、例えば国連の安全保障理事会が必ずしも、明確な回答を与えていないという事情が存在するからである<ref>小林宏晨、[[#自衛の論理|『自衛の論理』]]、148頁~149頁。</ref>。さらに憲章51条等の解釈を巡っても、先制的自衛を容認しているか、自衛行為における釣合いの原則(比例適合性)の有効性について、あるいは武力攻撃の内容や守られるべき法益についても議論がなされている<ref>[[#自衛権再考|『自衛権再考』]]214頁~225頁。</ref>。 === 自衛権行使の要件と効果 === 自衛権の行使に当たっては、「ウェブスター見解」において表明された自衛権正当化の要件である「即座に、圧倒的で、手段選択の余地がない」ことを基礎に、その発動と限界に関する要件が次の3つにまとめられている。 # 急迫不正の侵害があること(急迫性、違法性) # 他にこれを排除して、国を防衛する手段がないこと(必要性) # 必要な限度にとどめること(相当性、均衡性) この要件に基づいて発動された自衛権の行使により、他国の[[法益]]を侵害したとしても、その[[違法性]]は阻却され、[[損害賠償]]等の[[責任]]は発生しない<ref name="国際法辞典167"/>。 また、19世紀以来の[[国際慣習法]]の下、この三要件が満たされるならば、機先を制して武力を行使する「[[先制的自衛権]]」の行使も正当化されると解された<ref name="国際法734">[[#国際法|『国際法 【新版】』]]、734頁。</ref>。しかし、国連憲章では「武力攻撃が発生した場合」と規定されることから、この要件を厳格に解して、認められないとする見解も有力である<ref name="現代国際法講義457">[[#現代国際法講義|『現代国際法講義』]]、457頁。</ref>。 === 個別的自衛権と集団的自衛権 === {{See also|集団的自衛権}} 個別的自衛権とは、他国からの[[武力]]攻撃に対し、実力をもってこれを阻止・排除する権利である<ref name="国際法辞典167"/>。これに対し集団的自衛権は、国連憲章において初めて明記された概念で<ref name="現代国際法講義459"/>、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもつて阻止する権利」と定義されることもある<ref>衆議院議員稲葉誠一君提出「憲法、国際法と集団的自衛権」に関する質問に対する答弁書(昭和56年5月29日提出)。[http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2006/2006/html/is080000.html 平成16年版「防衛白書」より]</ref>。すなわち、他国に対して武力攻撃があった場合に、自国が直接に攻撃されていなくても、実力を以って阻止・排除する権利である<ref name="国際法736"/><ref name="現代国際法講義459">[[#現代国際法講義|『現代国際法講義』]]、459頁。</ref>。 集団的自衛権の本質は、自衛権を行使している他国を援助して、これと共同で武力攻撃に対処するというところにあるが、自衛権の概念については、様々な見解も存在する<ref>[[#自衛権再考|『自衛権再考』]]、225頁~231頁。</ref>。 == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} {{reflist|2}} == 参考文献 == *[[小林宏晨]] 『自衛の論理』 [[泰流社]]、1990年。ISBN 978-4884707217。 *杉原高嶺、水上千之、臼杵知史、吉井淳、加藤信行、高田映 『現代国際法講義』 有斐閣、2008年。ISBN 978-4-641-04640-5。 *筒井若水 『自衛権』 有斐閣、1983年。ISBN 978-4641023529。 *筒井若水 『国際法辞典』 有斐閣、2002年。ISBN 4-641-00012-3。 *安田寛、宮沢浩一、大場昭、西岡朗、井田良、小林宏晨 『自衛権再考』 知識社、1987年。ISBN 978-4795293052。 *山本草二 『国際法 【新版】』 有斐閣、2003年。ISBN 4-641-04593-3。 == 関連項目 == * [[日本国憲法第9条]] * [[自衛戦争]] * [[自衛隊]] * [[防衛]] * [[安全保障]] * [[集団安全保障]] * [[集団防衛]] * [[ブッシュ・ドクトリン]] ==外部リンク== *[http://www.mod.go.jp/j/library/wp/index.html 防衛白書] - 防衛省 *[http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ampobouei2/index.html 安全保障と防衛力に関する懇談会] - 首相官邸 *[http://www.kantei.go.jp/jp/singi/anzenhosyou/index.html 安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会] - 首相官邸 *[http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/refer/200901_696/069604.pdf 松葉真美「集団的自衛権の法的性質とその発達―国際法上の議論―」] - 国立国会図書館調査及び立法考査局外交防衛課 {{Wikipedia/Ja}} {{DEFAULTSORT:しえいけん}} [[Category:自衛権|*]] [[Category:平和]] [[Category:憲法]] [[Category:安全保障]]