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『ニーベルングの指環』(または指輪、ニーベルングのゆびわ、独:Der Ring des Nibelungen)は、リヒャルト・ワーグナーの書いた楽劇で、「序夜と3日間のための舞台祝典劇」と題する。ワーグナー35歳の1848年から61歳の1874年にかけて作曲された。ラストから発表され、4部作完結まで26年。上演に約15時間を要する長大な作品であるので、少なくとも4日間をかけ、新演出を普通1曲しか出せない為、通して演奏することはあまりないが、ドイツのバイロイトにある祝祭劇場で毎年行われる音楽祭の際やヨーロッパのAクラスのオペラ・ハウスには赤字でも目玉としてよく上演される。
当初は北欧神話の英雄であるシグルズの物語をモチーフとした『ジークフリートの死』として着想したが、次第に構想がふくらみ現在の形となった。
4日間の内訳は以下の通り
- 序夜 『ラインの黄金』(Das Rheingold):2時間40分
- 第1夜 『ワルキューレ』(Die Walküre):3時間50分
- 第2夜 『ジークフリート』(Siegfried):4時間
- 第3夜 『神々の黄昏』(Götterdämmerung):4時間30分
初演[編集]
全曲世界初演[編集]
1876年8月13日、第1回バイロイト音楽祭にて。ルートヴィヒ2世、ドイツ皇帝ヴィルヘルム1世、ブラジル皇帝ペドロ2世、またフランツ・リスト、アントン・ブルックナー、ピョートル・チャイコフスキーらの音楽家などの観衆を集めて上演されたが、舞台評や収支の面で俗に言う「すべった作品」となってしまい、ワーグナー自身鬱になり、音楽祭自体もしばらく開かれなかった。
全曲日本初演[編集]
1984年から1987年にかけて1年1作ペースで行われた朝比奈隆指揮・新日本フィルハーモニー交響楽団などによるオール日本人キャストによる演奏会スタイルでの上演を初演と見なすか、1987年に来日公演を行ったヘスス・ロペス=コボス指揮・ベルリン・ドイツ・オペラによる上演を初演と見なすか、2通りの解釈がある。基本的には後者を日本初演扱いにすることが多いが、前者の上演のうち、『神々の黄昏』に関してはベルリン・ドイツ・オペラの公演よりも先に日本初演されている。
なお、日本で「指環」が上演される時はだいたい4年がかりで完結させることが多い。
部分世界初演[編集]
作曲にあまりにも時間がかかりすぎていたのでイライラしていたルートヴィヒ2世は、出来たものから上演するよう催促した。ワーグナーにしてみれば非常に不本意なことであったが、経済的な問題もあり、仕方なく『ラインの黄金』と『ワルキューレ』の先行上演を了承した。『ラインの黄金』は1869年9月22日に、『ワルキューレ』は1870年6月26日にいずれもミュンヘン宮廷歌劇場で初演された。『ジークフリート』と『神々の黄昏』は全曲初演の際に初演された。ミュンヘンで先に初演したせいであろうか、全曲初演の際「ミュンヘンでの舞台より見栄えが悪かった」という論評もあった(おそらく、『ラインの黄金』か『ワルキューレ』のどちらかを指すと思われる)。
部分日本初演[編集]
『ラインの黄金』が1969年に若杉弘指揮、二期会メンバーにより、『ワルキューレ』が1967年に大阪で開催されたバイロイト・ワーグナー・フェスティバルにてトーマス・シッパーズ指揮NHK交響楽団、ジェス・トーマス、アニア・シリアなどにより、『ジークフリート』が1983年に二期会メンバーにより、『神々の黄昏』は前述のように朝比奈隆指揮新日本フィルハーモニー交響楽団などによる。
内容[編集]
本作品は、並外れたスケールと領域の作品である。指揮者のペース配分にも依存するが、全体の演奏時間は約15時間ほどであり、4夜に渡って演奏される。最も短い『ラインの黄金』は約2時間半ほどであり、『ワルキューレ』が3時間40分ぐらい、次の『ジークフリート』は4時間、最も長い『神々の黄昏』は最長4時間半(休憩を除く)ほどかかる。
物語のスケールと領域は叙事詩である。それは、全世界の支配を可能とする魔法の指輪をめぐる、神、英雄、神話上のいくつかの生物の戦いの物語である。神代の終わりの、最終的な大洪水まで、ドラマと陰謀は3世代にわたって続く。
本作品の音楽は、重厚で裕福な感触があり、サイクルが進むに連れて複雑になっていく。
- 序夜 『ラインの黄金』(Das Rheingold)
- 第1場 - ライン川の水底。3人のラインの乙女が泳いでいると、そこにアルベリヒが現れる。ラインの黄金が世界を支配する力を持つと聞いた彼は、それを強奪する。
- 第2場 - ヴォータンはフライアを報酬にして、巨人族に居城ヴァルハラを建設させる。城は完成したものの、フライアは巨人族に身を捧げることを拒否する。ローゲはラインの黄金を身代とすることを提案し、ヴォータンとともに地下のニーベルング族の国へ向かう。
- 第3場 - アルベリヒがラインの黄金で作られた指輪の力でニーベルング族を支配している。ローゲは策略と弁舌でアルベリヒを捕縛する。
- 第4場 - 地上に引き立てられたアルベリヒから、ヴォータンは自由の代償としてラインの黄金を奪取する。アルベリヒは指輪に死の呪いをかける。エルダが現れ警告を発するが、ヴォータンは聞き入れない。指輪を手に入れた巨人たちは、財宝を巡って争いを起こしファーフナーがファゾルトを殺してしまう。神々は呪いに恐れおののくが、一転して虹の橋を渡りヴァルハラに入場する。剣の動機が高らかに奏され英雄の登場を暗示する一方、ラインからは黄金を奪われた乙女の嘆きが聞こえる。
- 第1夜 『ワルキューレ』(Die Walküre)
- 第1幕 - 嵐の夜、フンディングの館にジークムントがあらわれる。彼とフンディングの妻ジークリンデはお互いに惹かれあう。やがてフンディングが帰宅し、フンディングが一族の敵であること、ジークリンデが生き別れの妹であることを知る。
- 第2幕 - 荒涼たる岩山。ワルキューレの長姉ブリュンヒルデとヴォータンがいる。そこへ結婚を守護する女神でヴォータンの妻フリッカが現れる。フリッカは、妻を奪われたフンディングの復讐と婚姻の神聖を守るためとして、ヴォータンにジークムントの死を求め、ヴォータンはやむなく承諾する。ブリュンヒルデはヴォータンからジークムントがフンディングによって殺害されること、そしてそれを見殺しにすべきことを告げられる。ブリュンヒルデは兄妹を守ろうとするが、ジークムントはフンディングの槍に貫かれてしまう。
- 第3幕 - ヴォータンの怒りを逃れ、ブリュンヒルデはヴァルハラに駆け込み、妹たちに助けを求める。ブリュンヒルデはジークリンデが身ごもっていることを告げ、胎内の子をジークフリートと名付ける。そこへヴォータンが現れ、ブリュンヒルデの神性を奪うことを宣告する。荒涼たる岩山にヴォータンはブリュンヒルデを連れて行き、ブリュンヒルデがそこで眠りにつき、誰であれ彼女の眠りを最初に覚ました男のものとなることを宣告する。ブリュンヒルデは己の運命におびえ、許しを請うがヴォータンは聞き入れない。ただし恐れを知らない英雄だけが超えられる炎でブリュンヒルデの周りを覆うことを約束する。親子は抱きしめあい、永遠の別れを告げる。ブリュンヒルデは岩山の頂に眠り、ローゲの炎がその周りに燃え上がる。
- 第2夜 『ジークフリート』(Siegfried)
- 第1幕 - ミーメはジークフリートによって指輪を手に入れようとたくらむ。ミーメによって育てられたジークフリートは、自らの出生の秘密を知り、折れたる剣ノートゥングを鍛えなおす。
- 第2幕 - 恐れを知らぬジークフリートは、竜に化身したファーフナーを倒し、その返り血により小鳥の言葉が分かるようになる。小鳥の教えにより、指輪を手に入れ、陰謀をめぐらしていたミーメを倒し、さらには岩山に花嫁ブリュンヒルデが眠っていることを知る。
- 第3幕 - 荒涼たる岩山の麓。ジークフリートは道をさえぎる「さすらい人」(ヴォータン)の槍を砕き、炎を乗り越え、ついにブリュンヒルデを接吻により目覚めさせる。2人は永遠の愛を誓い合う。
- 第3夜 『神々の黄昏』(Götterdämmerung)
- 陰謀で記憶をうしなったジークフリートは、ブリュンヒルデと愛を誓ったことを忘れる。ブリュンヒルデは復讐を誓い、ジークフリートを死に至らしめる。指輪を手にいれたブリュンヒルデは、ラインの娘たちに指輪を返し、ヴァルハラは崩壊する。
主要登場人物[編集]
(R:ラインの黄金、 W:ワルキューレ、S:ジークフリート、 G:神々の黄昏)
- ヴェルグンデ、ヴォークリンデ、フロスヒルデ (R, G) : ラインの娘たち。ラインの黄金を守る三姉妹。
- アルベリヒ (R, S, G) : ニーベルング族の長。ラインの黄金を盗み出す。
- ヴォータン (R, W, S) : 神々の長。
- フリッカ (R, W) : ヴォータンの正妻。「結婚」の守護神。
- フライア (R) : 女神。フリッカの妹。不老不死の黄金の林檎を栽培している。
- ファーゾルト (R) : 巨人。ワルハラを建てた代償にフライアを連れ去る。
- ファーフナー (R, S) : 巨人。ファーゾルトの弟。龍に変化する。
- ローゲ (R) : 狡猾な半神。火を司る。
- エルダ (R, S) : 知恵の女神、地母神。
- ジークムント (W) : ヴォータンが人間女性との間に儲けた男子。ヴェルズング族。ジークフリートの父。
- ジークリンデ (W) : ジークムントの双子の妹。ジークフリートの母。
- フンディング (W) : ヴェルズング族と敵対する一族の男。ジークリンデの夫。
- ブリュンヒルデ (W, S, G) : ヴォータンとエルダの娘で英雄をワルハラに導くワルキューレの一人で、ヴォータンが最愛とする。ジークフリートの妻になる。
- ヴァルトラウテ、ゲルヒルデ、オルトリンデ、シュヴェルトライテ、ヘルムヴィーゲ、ジークルーネ、グリムゲルデ、ロスヴァイセ(W, ヴァルトラウテのみ W, G): ワルキューレ。ブリュンヒルデの妹たち
- ミーメ (R, S) : アルベリヒの弟。ジークフリートを育てる。
- ジークフリート (S, G) : 人間の英雄。竜(ファーフナー)の血を浴び、不死身となる。
- ノルン (G) : 運命を司る三人の女神。エルダの娘。
- グンター (G) : ギービッヒ家の当主
- グートルーネ (G) : グンターの妹。ジークフリートと偽りの結婚をする。
- ハーゲン (G) : アルベリヒの子。グンターの異父兄弟。
楽器編成[編集]
全4部を通じて共通で史上初の完全な4管編成といわれ、別名「指輪管弦楽団」ともいう。
フルート3、ピッコロ、オーボエ3、イングリッシュホルン、クラリネット3、バス・クラリネット、ファゴット4(ところによって出ない音域にコントラファゴットを使用)、ホルン8(うち4はワーグナーチューバに持ち替え)、トランペット3、バストランペット、トロンボーン3、コントラバストロンボーン、コントラバスチューバ、ティンパニ2人、打楽器奏者3人(シンバル、中太鼓、鉄琴、トライアングル、ハンマーなど)、ハープ6、弦5部(16型で第1ヴァイオリン16、第2ヴァイオリン16、ヴィオラ12、チェロ12、コントラバス8)、総計108名。更に鉄床12などのバンダなどが加わる。
関連作品[編集]
外部リンク[編集]
- Richard Wagner - Operas - Der Ring des Nibelungen リブレット、ライトモティーフなど
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