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2012年6月23日 (土) 17:00時点における版
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統合失調症(とうごうしっちょうしょう、de:Schizophrenie、en:schizophrenia)とは、妄想や幻覚などの多彩な症状を示す、精神疾患の一つ。WHO国際疾病分類第10版(ICD-10)ではF20。2002年までは精神分裂病(せいしんぶんれつびょう)と呼ばれていた。 発病率は全人口の1%程といわれ、決して特殊な病気ではない。
統合失調症のデータ | |
ICD-10 | F20 |
統計 | 出典:[1] |
世界の患者数 | 約24,000,000人 |
日本の患者数 | 約734,000人 |
学会 | |
日本 | 日本精神神経学会 |
世界 | 世界精神医学会 |
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目次
概要
古代ギリシャからこの病の存在は知られていたが、病因は2008年現在においても不明。病因については、神経伝達物質の一つであるドーパミンの過剰によるという仮説をはじめ、様々な仮説が提唱されている。治療では、1950年代にフランスでクロルプロマジンという薬物が一部の患者に効果があることが発見され、これを契機に抗精神病薬による薬物治療が広く行われるようになった。1990年代後半からの非定型抗精神病薬の使用や、効果的な急性期治療、社会復帰のため福祉制度の整備などにより、初発患者の入院期間は短縮され、以前よりも軽症化しつつあると言われている。しかし一方で、薬物療法が部分的にしか効果を示さず慢性化する患者も少数であるが存在することも事実である。
名称
元々ドイツ語のSchizophrenieに対する訳語として、日本では明治時代に精神分裂病と訳された。
本来、精神分裂病の「精神(phrenie)」は心理学的意味合いで用いられた単語であり、「知性」や「理性」を現す、一般的な意味での精神とは意味が異なる。ところが、「精神分裂病」という名称が日本では「精神が分裂する病気」→「理性が崩壊する病気」と誤って解釈されてしまうケースが見られた。患者・家族団体等から病名に対する偏見が著しく強いという苦情が多かった。そこで、2002年に日本精神神経学会総会によって英語のschizophreniaに対する訳語を「統合失調症」にするという変更がなされた。
しかし、schizophrenie、あるいは「統合失調症」にしても、この疾患が均一で単一の疾患として存在しているかどうかについてはさらなる研究の余地があり、多様な疾患群を指している可能性がある。
欧米でも、schizophreniaというコンセプトに対して強い偏見が見られる。そこで、この概念は学問的にも不適切として、病名変更の運動が見られる。CNNニュース及びBBCニュースによれば、2006年10月6日、英セントラル・イングランド大学のマリウス・ローム客員教授や、マンチェスター大学のリチャード・ベントールらは、schizophreniaが、脳の疾患による様々な症状を、同じ名前の元にひとくくりしてしまい、医学的に不適切で、社会的な問題を引き起こす可能性があると指摘しているという。代わる病名として「ドーパミン異常調節症」が挙げられているという。
歴史
- 1852年、フランスの精神科医モレル(Bénédict Morel)によって統合失調症は初めて公式に記述され、仏Démence précoce(「早発性痴呆」)と呼ばれた。
- 1871年、ドイツのヘッカー (Hecker) が「破瓜病」(Hebephrenie) を著す。
- 1874年、ドイツのカールバウム (Kahlbaum) が「緊張病」(Katatonie) を著す。
- 1899年、ドイツのエミール・クレペリン (Emil Kraepelin)が独Dementia Praecox(「早発性痴呆」)を著し、破瓜病、緊張病に妄想病を加えてまとめる。
- 1911年、スイスの精神医学者オイゲン・ブロイラー(Eugen Bleuler)は、必ずしも若年時に発症するとは限らず、又、必ずしも痴呆に到るとは限らず、この病気の本性は観念連合の弛緩にあるとして、独Dementia Praecox(「早発性痴呆」)を独Schizophrenie(旧称「精神分裂病」)と改名し疾患概念をかえた。 (Schizophrenieはギリシャ語のschizo+phren (分裂+横隔膜) から。これはギリシャ時代の医者が魂は横隔膜にあると考えていたことに由来する。)
- 1935年以降、日本では公式には1975年まで多くの人がロボトミーを受ける。
- 1937年、日本精神神経学会の精神病学用語統一委員会が、Schizophrenieの日本語訳を「(精神)分裂病」とする試案を提出した。それ以前は、日本国内では、「精神内界失調疾患」「精神解離症」「精神分離症」「精神分裂症」など、様々な訳語が使用されていた。
- 1952年、フランスの精神科医ジャン・ドレー(Jean Delay)がクロルプロマジンの統合失調症に対する治療効果を初めて正しく評価し、精神病に対する精神科薬物療法の時代が幕を開けた。
- 1957年、ベルギーの薬理学者パウル・ヤンセン(Paul Janssen)がクロルプロマジンより優れた抗精神病薬ハロペリドールを開発。
- 2002年8月、「精神分裂病」という名称が、精神そのものが分裂しているというイメージを与え、患者の人格の否定や誤解、差別を生み出してきた経緯があることから、日本精神神経学会の決議により統合失調症と改名された。同月、厚生労働省が新名称の使用を認め全国に通知した。
疫学
思春期から青年期に発症することが多く、小児期の発症や老年期での発症もみられる。一般に破瓜型(解体型)に比べて妄想型は発症年齢が遅いとされ、30-40代での発病が多い。男性と比較して女性は平均発症年齢が遅く、閉経後にも小さな発症のピークがある。
罹患率・有病率など
- 研究対象となった地域・人種などにより罹患率の差があるが、診断基準にも左右され、その意味は明らかではない[3]。アイルランドでの地方間における罹患率の差も議論の対象となっている。
- 社会経済的地位の低い層に罹患率が高いが、これは患者が病気のために社会的に不利な立場にあるためと理解されている。
発病の危険因子
- 出生時の産科的合併症[4]や父親の高齢(父の年齢が10歳増すごとに統合失調症になるリスクは有意に1.47倍増加)[5]、冬生まれ[6]、妊娠中の大きなストレス[7]や飢餓[8]、毒素への曝露[9]、薬物乱用[10]、子供のときの家ネコへの曝露[11]やトキソプラズマ症[12]等は有意に統合失調症発症リスクを増加させるものとして知られている。
合併症の疫学
分類
分類はICD-10による。
妄想型 (ICD-10 F20.0)
(en:Paranoid schizophrenia) 妄想・幻覚が症状の中心である。解体した言動が乏しい。統合失調症の中で最も多いとされている。30歳代以降に発症することが多い。
破瓜型 (ICD-10 F20.1)
(en:Disorganized schizophrenia)思春期前半に発症することが多い。 解体した思考や行動(まとまりのない思考や行動)が主体である。激しい症状がない場合もある。未治療の場合、周囲に関心を持たず不活発になり、外部と接触しなくなる。予後は一般的に悪い。
緊張型 (ICD-10 F20.2)
(en:Catatonia schizophrenia)興奮・昏迷などの症状を呈する。同じ動作を繰り返す。上記2タイプに比べて稀である。
鑑別不能型 (ICD-10 F20.3)
(en:Undifferentiated schizophrenia)
統合失調症後抑うつ (ICD-10 F20.4)
急性期の後に訪れることが多い自殺などを招くことがあるので注意が必要である。治療法はうつ病にほぼ準じる。
残遺型 (ICD-10 F20.5)
陰性症状が1年以上持続したもの。陽性症状はないかあっても弱い。他の病型の後に見られる急性期症状が消失した後の安定した状態である。
単純型 (ICD-10 F20.6)
陰性症状が強く現れ、陽性症状はほとんど見られない。破瓜型に似ているが、自我意識の喪失がない点が異なっている。
その他の統合失調症 (ICD-10 F20.8)
特定不能の統合失調症 (ICD-10 F20.9)
原因
一卵性双生児研究において一致率が高い(30 - 50%)が100%ではないことなどから、遺伝的要因と環境要因両方が発症に関与していると考えられている。遺伝形式も不明で、信頼できる原因遺伝子の同定もされていないが、約60%が遺伝によるとの報告[15]がある。しかし明確な原因は未だに確定されておらず、いずれの報告も説の域を出ない。
- ドパミン仮説:中脳辺縁系におけるドパミンの過剰が、幻覚や妄想といった陽性症状に関与しているという仮説。実際にドパミンD2受容体遮断作用をもつ抗精神病薬が陽性症状に有効であること、死後脳研究、陽電子放出断層撮影(PET)などの脳機能画像を用いた研究からも支持されている。
- グルタミン酸仮説:麻酔薬として開発され、のちに精神異常の副作用の為使用が断念されたフェンサイクリジンを投与すると、統合失調症様の陽性症状及び陰性症状がみられたこと、フェンサイクリジンがグルタミン酸受容体(NMDA受容体)の遮断薬であることがのちに判明し、グルタミン酸受容体(NMDA受容体)の異常が統合失調症の発症に関与しているという仮説。実際に欧米を中心に従来の抗精神病薬とグルタミン酸受容体(NMDA受容体)作動薬であるグリシン、D-サイクロセリン、D-セリンを併用投与すると抗精神病薬単独投与より陰性症状や認知機能障害の改善度が高くなることが報告されている。将来的に、グルタミン酸受容体に作用する抗精神病薬の開発が期待されている。
- 発達障害仮説:統合失調症の初発患者において脳の容積が一部低下していたり、死後脳において脳の構造異常が見られたりする例があることから、脳の発達段階での何らかの障害が関与しているとする仮説。
- Two-hit theory:胎生期と思春期に、2回にわたる何らかの脳へのダメージを受けて発症するという仮説。
- その他、ウイルス説、前頭葉機能の低下仮説など様々な仮説が唱えられている。妊娠初期にインフルエンザに罹ると生まれてくる子供が統合失調症になる確率が3倍になるという研究がある。(出典)月刊日経サイエンス 2004年12月号■TOPICS● インフルエンザで神経疾患に?
- 心因説:かつて、二重拘束説(Double bind theory:親から2つの互いに矛盾するメッセージを受け取った子供が、それをうまく処理することができず、しかしそれに応えようとして発病するという仮説)や、high EE説(Expressed Emotion:否定的なメッセージを送りやすい家庭で育つことと再発率が関係しているとする仮説)などの心因説が、統合失調症の原因として唱えられ、患者の家族が不当に苦しんだ時代があったが、その後の研究でそれらの心因説は否定され、発病後の症状悪化要因ではあっても決して原因ではない、とされる。
症状
思考、知覚、自我意識、意志・欲望、感情など、多彩な精神機能の障害が見られる。大きく陽性症状と陰性症状の二つがあげられ、その他の症状に分けられる。
陽性症状
思考の障害
思考過程の障害と思考内容の障害に分けられる。
- 思考過程の障害
- 連合弛緩、滅裂思考(話の脈絡がなくなる)。顕著になると言葉のサラダ(意味のない単語の羅列を発する)といわれる状態になる。
- 的外れな応答(他人の質問に対し、的外れな答えを返す)
- 思考内容の障害(妄想)
- 他人にとってはありえないと思えることを事実だと信じること。妄想には以下のように分類される。一人の統合失調症患者において以下の全てが見られることは稀で、1種類から数種類の妄想が見られることが多い。また統合失調症以外の疾患に伴って妄想がみられることもある。関連語に妄想着想(妄想を思いつくこと)、妄想気分(世界が全体的に不吉であったり悪意に満ちているなどと感じること)、妄想知覚(知覚入力を、自らの妄想に合わせた文脈で認知すること)がある。
- 被害妄想(他人が自分を害しようとしていると考える。「近所の住民に嫌がらせをされる」)
- 関係妄想(周囲の出来事を全て自分に関係付けて考える。「○○は悪意の仄めかしだ」)
- 注察妄想(常に誰かに見張られていると感じる。「近隣住民が常に自分を見張っている」)
- 追跡妄想(誰かに追われていると感じる。「ストーカーの集団に追われている」)
- 心気妄想(重い体の病気にかかっていると思い込む)
- 誇大妄想(患者の実際の状態よりも、遥かに偉大、金持ちだ等と思い込む)
- 宗教妄想(自分は神だ、などと思い込む)
- 嫉妬妄想(配偶者や恋人が不貞を行っている等と思い込む)
- 被毒妄想(飲食物に毒が入っていると思い込む)
- 血統妄想(自分は天皇の隠し子だ、などと思い込む)
- 家族否認妄想(自分の家族は本当の家族ではないと思い込む)
- 他人にとってはありえないと思えることを事実だと信じること。妄想には以下のように分類される。一人の統合失調症患者において以下の全てが見られることは稀で、1種類から数種類の妄想が見られることが多い。また統合失調症以外の疾患に伴って妄想がみられることもある。関連語に妄想着想(妄想を思いつくこと)、妄想気分(世界が全体的に不吉であったり悪意に満ちているなどと感じること)、妄想知覚(知覚入力を、自らの妄想に合わせた文脈で認知すること)がある。
- また、上記の妄想に質的に似ているが、程度が軽く患者自身もその非合理性にわずかに気づいているものを~~念慮(被害念慮、注察念慮)という。
知覚の障害と代表的な表出
実在しない知覚情報を体験する症状を、幻覚(hallucination)という。幻覚には以下のものがあるが、統合失調症では幻聴が多くみられる。また、統合失調症以外の疾患(せん妄、てんかん、気分障害、痴呆性疾患など)、あるいは特殊な状況(断眠、感覚遮断など)におかれた健常者でも幻覚がみられることがある。
- 幻聴(auditory hallucination):聴覚の幻覚
- 幻視(visual hallucination):視覚性の幻覚
- 幻嗅(olfactory hallucination):嗅覚の幻覚
- 幻味(gustatory hallucination):味覚の幻覚
- 体感幻覚(cenesthopathy):体性感覚の幻覚
幻覚を体験する本人は外部から知覚情報が入ってくるように感じるため、実際に知覚を発生する人物や発生源が存在すると考えやすい。そのため、「悪魔が憑いた」、「狐がついた」、「霊が話しかけてくる」「宇宙人が交信してくる」「電磁波が聴こえる」、「頭に電波が入ってくる」、「脳の中に装置を埋め込まれた」などと妄想的に解釈する患者も多い。
幻聴はしばしば悪言の内容を持ち、患者が「通りすがりに人に悪口を言われる」、「家の壁越しに悪口を言われる」、「周囲の人が組織的に自分を追い詰めようとしている」などと訴える例は典型的である。
また、幻味、幻嗅などは被毒妄想(他人に毒を盛られているという妄想)に結びつくことがある。
自我意識の障害
自己と他者を区別することの障害。自己モニタリング機能の障害と言われている。すなわち、自己モニタリング機能が正常に作動している人であれば、空想時などに自己の脳の中で生じる内的な発声を外部からの音声だと知覚することはないが、この機能が障害されている場合、外部からの音声だと知覚して幻聴が生じることになる。音声に限らず、内的な思考を他者の考えと捉えると考想伝播につながり、ひいては「考えが盗聴される」などという被害関係妄想につながることになる。
- 考想吹入(他人の考えが入ってくると感じる)
- 考想奪取(自分の考えが他人に奪われていると感じる)
- 考想伝播(自分の考えが他人に伝わっていると感じる)
- 考想察知(自分の考えは他人に知られていると感じる)
意志・欲望の障害
- 興奮
- 昏迷
- 拒食
陰性症状
感情の障害
- 感情鈍麻(感情が平板化し、外部に現れない)
- 疎通性の障害(他人との心の通じあいが無い)
思考の障害
- 常同的思考
- 抽象的思考の困難
意志・欲望の障害
- 自発性の低下
- 意欲低下
- 無関心
その他の症状
現実検討力の障害
自分が病気であるという自覚(いわゆる「病識」)がない、あるいは不足している患者が多い。(アメリカでの400人以上の精神障害者を対象にした調査では統合失調症患者の60%、統合失調情動障害患者の約25%に病識がなかった。つまり、「病気で無いけれど強制されて治療を受けている」、「本当はどこも悪くない」、といった症状が見られるという事である。[16])
また、遂行能力(複雑な仕事や課題を順序だてて行ったり、同時に二つの課題を行うことなど)、社会的な状況の判断能力、将来に対する計画性など、現実検討力が低下している患者も多い。
感情の障害
抑うつ・不安を伴うこともある。
検査所見
CT・MRI
- 側頭葉・頭頂葉の灰白質の体積の減少を認める。白質の体積は減少していない。
SPECT
- 課題遂行中や会話時に通常見られる前頭前野の血流増加が少ないという報告がある。
診断
統合失調症で一番目立つ症状は被害妄想と幻聴。
治療
外来治療と入院治療に分けられる。薬物療法が大きな柱となるが、その他の治療法も病相の時期(急性期、慢性期など)に応じて適宜選択される。いずれにせよ、専門医(精神科医など)に受診、相談することが望ましい。
統合失調症のみならず精神障害の治療や保護、社会復帰などは、一般に精神保健福祉法にのっとって行われなければならない。
- 薬物療法
- 主にドパミンD2受容体拮抗作用を持つ抗精神病薬(日本では20数種類が使用できる)の投与が、陽性症状を中心とした症状の軽減に有効である。近年、従来の抗精神病薬よりも、副作用が少なく陰性症状にも有効性が高いなどの特徴をもった非定型抗精神病薬と呼ばれる新しいタイプの薬剤(リスペリドン、ペロスピロン、オランザピン、クエチアピン)が開発され、治療の主流になりつつある。さらに、最近アリピプラゾールが加わり、わが国では現在5種類の非定型抗精神病薬が使用可能となっている。ただ、非定型抗精神病薬が治療の質を向上させたのは事実であるが、新たな問題もある。副作用面では、オランザピン、クエチアピンが稀に高血糖・糖尿病を誘発することがあるなどの新たな副作用にも注意が必要である。また、医療経済的に見るとオランザピン、クエチアピン、アリピプラゾールなどの薬価が非常に高く設定されていることにも批判的な意見もある。
- 精神病薬の一般的な副作用として、黒質線条体系のドパミン拮抗作用によるパーキンソン症候群、錐体外路症状、アカシジア、ムスカリン拮抗作用による便秘、口渇、眼のかすみ、抗ヒスタミン作用などによる眠気、体重増加など、抗アドレナリンα1拮抗作用による低血圧が生じることがある。また、統合失調症に抑うつ症状や強迫症状を伴う場合などに抗うつ薬を、不安症状が強い場合に抗不安薬を、不眠が強い場合に睡眠薬を併用することもある。
- 心理教育
- 薬物療法によって陽性症状が軽減しても、自らが精神疾患に罹患しているという自覚(いわゆる「病識」)を持つことは容易ではない。病識の不足は、服薬の自己中断から再発率を上昇させることが知られている。病識をもつことを援助し、疾患との折り合いの付け方を学び、治療意欲を向上させるために心理教育を行うことが望ましい。また、患者本人のみならず、家族の援助(家族教育)も行うこともある。
- ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)
- 作業療法
- 絵画、折り紙、手芸、園芸、陶芸、スポーツなどの作業活動を主体として行う治療。非言語的な交流がストレス解消につながったり自己価値観を高めたりする効果がある。デイケアプログラムの一環として行われることが多い。
- 心理療法
- 薬物療法と並行して、疾患の心理的な受容、疾患や治療に伴い経験した喪失体験の受容などを援助するために個人精神療法を行うこともある。
- 社会的援助
- その他の治療法
- 動物セラピー
- イルカなどと戯れることによって治療する方法。
経過
例えば、重度の骨折をした場合、一般的に診断、治療、回復、リハビリ、寛解という段階を経る。この中でもリハビリは困難を伴う一方大変重要な段階であるが、この疾患にもこれと同じことが当てはまる。
陽性症状は時間の経過により改善することも多く、それとともに陰性症状が目立ってくる。
経過中に自殺を図る患者もいる。特に患者が喫煙者の場合、自殺企図の危険は有意に高くなる[17]。陽性症状が強い時期に、幻聴から逃れたり妄想のために自殺をする患者もいるが、陰性症状しか見られない段階でも思考の短絡化によって少しの不安でも耐えられずに自殺してしまうこともある。
予後
統合失調症の予後については、「進行性経過を取り、ほとんどが人格の荒廃状態に至る」というイメージないし偏見が今日もなお残っている。これは事実に反している。
科学的な長期予後調査によれば、統合失調症の長期予後は極めて多様であることが明らかとなっている。おおむね、約3割の患者が元の生活能力を回復し、約5割の患者が軽度の残遺症状持ちつつも生活能力が若干低下する程度に安定し、約2割の患者は中等度から重度の残遺症状を残し生活に支障をきたすとされている。過去(特に薬物療法がなかった時代)に比べ、全体的に予後はかなり向上しているといわれている。
病型別に予後を見ると、緊張型や妄想型では、幻覚妄想などの症状の方が抗精神病薬に反応しやすく、予後がよく、破瓜型や単純型などの陰性症状には、治療の効果が得られにくいため予後が悪いと一般的に言われている。ただし、こうした傾向はあるが、妄想型などでも治療に反応しない例も稀ではなく、病型により機械的に予後が予測できるようなものではない。
診療科
精神科・精神神経科等。神経科や心療内科を標榜している病院でも精神科等と同じ診察内容になっている施設もある。
統合失調症と文化
印象派の巨匠フィンセント・ファン・ゴッホはその画調が統合失調症の影響と関連づけられ語られることがある。しかし彼の診断については当時も今も多くの議論があり、統合失調症との相関ははっきり分かっていない。
画家、イラストレイターのルイス・ウェインの場合は57歳で統合失調症を発したが、その後も絵を描き続け特徴的な作品を数多く残している。発症以前のウェインの絵は比較的おとなしい色彩と具象的な画調であったが、発症後には原色を帯びた色彩と抽象的な画調の作品が見られる。しかし統合失調症の患者が必ずしもこのような画調の変化を起こすわけではない。例えば晩年に統合失調症を患った高村智恵子が療養当時制作したとされる紙絵は、比較的素朴なものが多い。
ジョン・ナッシュは統合失調症の発症により自らの研究を中断したが後に克服、ノーベル経済学賞を受賞するに至っている。
草間彌生は少女時代より統合失調症を病み、繰り返し襲う幻覚や幻聴から逃れるために、それら幻覚や幻聴を描きとめる絵を描き始めた。その後現代アートの旗手との高い評価を得て、2006年には日本人女性としては初めて高松宮殿下記念世界文化賞を受賞した。
詩人にして思想家のフリードリヒ・ヘルダーリンは統合失調症を発病し、その生涯の終わりを塔に幽閉されて過ごした。 この為彼の病気の彼の詩への影響が指摘されている。
近縁疾患
- 統合失調型人格障害(旧称:分裂病型人格障害)
- 統合失調症患者の親族に多く、統合失調症の陽性症状に似た状態を示す
- 統合失調感情障害(旧称:分裂感情障害)
- 統合失調症と気分障害(感情障害)の症状を併せ持つ
- 非定型精神病
- 錯乱を示し、意識変容も見られる。症状は激しいが予後はいい。
- 類破瓜病
- 異常体験や人格崩壊は目立たない。単純型に類似する。
- 接枝統合失調症
- 知的障害者に統合失調症が発病したもの。
- 妄想性障害
- パラフレニー
- 人格崩壊が少ない妄想型。
- パラノイア
- 妄想型に類似するが、妄想の内容が異なる。
- 敏感関係妄想
- パラフレニー
関連
関連文献
- 2002年『統合失調症』森山公夫 ちくま新書
- 2002年『統合失調症/分裂病とつき合う』伊藤順一郎 保健同人社
- 1999年『分裂した世界ー精神鑑定書は語る』岡本輝夫 毎日新聞社
- 1998年『精神病』笠原 嘉 岩波新書
- 1997年『分裂病がわかる本―私たちはなにができるか』 E.フラー トーリー 日本評論社
- 1982年『分裂病は治るか』 林 宗義 弘文堂
外部リンク
- べてるの家の情報サイト べてるねっと
- 日本統合失調症学会ホームページ
- 統合失調症コミュニティ
- 統合失調症情報局 すまいるナビゲーター
- やさしい統合失調症ハンドブック
- 統合失調症FAQ(精神科医YASU-Q)
- 統合失調症-その扉を開く-「統合失調症に対するスティグマと闘う世界的プログラム」世界精神医学会
有名な患者
出典
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