「子ども手当法」の版間の差分
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日本では[[少子高齢化]]が進行し、2010年現在は、3人の現役世代で1人の高齢者を支える形になっているが、2055年には1人の現役世代で1人の高齢者を支える状況となることが見込まれている。一方、日本における子どもの[[貧困率]]は14.2%と、[[OECD]]諸国平均の12.4%より悪くなっており、片親の子どもの貧困率は54.3%とOECD諸国(平均30.8%)中最低となっている。日本政府が子育ての支援にかけている予算は、[[GDP]]比で[[スウェーデン]]3.21%、[[フランス]]3.00%、[[ドイツ]]2.22%に対し、日本は0.81%と先進国中最も少ない国の一つとなっている。特に6歳以下の子どもへの支援額がOECD諸国平均と比べ非常に低いとOECDに指摘されている。また子育て世代は等価可処分所得[[中央値]]が1998年から2007年の10年で10%以上落ちるなど収入に余裕がなく、子どもが学校に通うようになると教育費も大きく増加して経済的負担が大きくなる面もあるため、[[民主党]]は子どもの幼少から就学までのトータルでの支援が必要だとしている。 | 日本では[[少子高齢化]]が進行し、2010年現在は、3人の現役世代で1人の高齢者を支える形になっているが、2055年には1人の現役世代で1人の高齢者を支える状況となることが見込まれている。一方、日本における子どもの[[貧困率]]は14.2%と、[[OECD]]諸国平均の12.4%より悪くなっており、片親の子どもの貧困率は54.3%とOECD諸国(平均30.8%)中最低となっている。日本政府が子育ての支援にかけている予算は、[[GDP]]比で[[スウェーデン]]3.21%、[[フランス]]3.00%、[[ドイツ]]2.22%に対し、日本は0.81%と先進国中最も少ない国の一つとなっている。特に6歳以下の子どもへの支援額がOECD諸国平均と比べ非常に低いとOECDに指摘されている。また子育て世代は等価可処分所得[[中央値]]が1998年から2007年の10年で10%以上落ちるなど収入に余裕がなく、子どもが学校に通うようになると教育費も大きく増加して経済的負担が大きくなる面もあるため、[[民主党]]は子どもの幼少から就学までのトータルでの支援が必要だとしている。 | ||
− | + | こうした状況を踏まえ、子ども手当法は、「次代の社会を担う子ども1人ひとりの育ちを社会全体で応援する」こと及び「子育ての経済的負担を軽減し、安心して出産し、子どもが育てられる社会をつくる」ことを政策目的としている。なお、子ども手当法第2条にて、「子ども手当の支給を受けた者は、前条の支給の趣旨にかんがみ、これをその趣旨に従って用いなければならない。」と記述されており、給付金を子どもの成長及び発達のために使用する責務がある。 | |
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+ | == 問題点 == | ||
+ | 成立以前より、財源の確保が問題視されており、対応に苦慮した国と地方との間で負担割合についての対立もみられた。現在、財源には[[扶養控除]]や[[配偶者控除]]などを廃止、景気、雇用対策費などが削減され充てられる方針となっているが批判もあり、国際経済機関にも見直しを求める意見がある。また法制度も整備されているとはいえず、枝野行政刷新相は「対応を間違った。まずは運用で悪用をはじくと同時に、来年度からは制度を変える準備作業に入っている」と見直しを急ぐと表明した。不審な申請と疑われる事案なども発生している。 | ||
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+ | === 財源の問題 === | ||
+ | 民主党が野党時代から主張してきた政策であるが、財源の確保が明示されていないことが問題点として指摘されている。財源は初年度で2兆2500億円、翌年からは倍の4兆5000億円ほど必要になる予定。財源不足に対し、民主党は[[扶養控除]]と[[配偶者控除]]の廃止を充てるとされる。これによって得られる税収増は扶養控除8000億円、配偶者控除6000億円であり、子ども手当の必要経費には及ばない。他にも、補正予算の[[子育て応援特別手当]]を停止することで1100億円積み増すなど財源の確保に努めている。子ども手当の負担について国側で負担するのか、[[地方公共団体]]に負担をさせるのかで意見が割れるなど。全国市長会では子ども手当を全額国費負担を求める決議を採択した。 | ||
+ | また、[[松沢成文]][[神奈川県知事]]は地方負担なら子ども手当を[[ボイコット]]すると宣言、[[群馬県]]・[[静岡県]]・[[大阪府]]・[[和歌山県]]・[[岡山県]]・[[宮崎県]]の7人の[[知事]]連名の要望書を国に提出した。 | ||
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+ | 自民党政権時において作られた2009年度[[補正予算]]の削減を行い、それを子ども手当の財源に回すとしているが、補正予算の中には、緊急の景気・雇用対策、[[新型インフルエンザ]]対策などが削られることになり、[[竹中平蔵]]元[[総務大臣]]は、「小さな無駄を減らし、大きな無駄を作ることになる」と批判している。 | ||
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+ | 子ども手当の財源が不足しているという指摘に関し、『[[産経新聞]]』がおこなった[[世論調査]]によれば、回答者の6割以上が「所得制限を行うべき」とし、[[小沢一郎]]元民主党幹事長も「所得制限をすべき」という陳情書を政府に要請した。これに対し、[[菅直人]][[総理]]は所得制限について所得の把握を知るための費用のほうが所得制限以上の負担になるとして否定し、所得制限は行わないことが決定した。 | ||
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+ | [[国際通貨基金]]や[[経済協力開発機構]]などの国際経済機関からも見直しを求められている。国際通貨基金(IMF)は日本の財政赤字が[[国内総生産]](GDP)に対して10.5%に達する見通しであると発表し、子ども手当など[[国債]]増発により[[イギリス]]や[[アイルランド]]のように大規模な財政調整が必要になると指摘した。経済協力開発機構(OECD)は、子ども手当を実行するよりも、OECD加盟国中最低の母親の就労率を上げるために保育施設の充実などといった[[少子化]]対策を行うべきだと指摘。また、税制改革として「[[負の所得税|給付付き税額控除]]」を導入し、所得格差を是正することを提言した。 | ||
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+ | 2010年度予算の暫定措置として、[[地方公共団体|地方自治体]]や企業などが反発するなか、支給額2兆2554億円から国の予算から差し引いた5089億円分を[[児童手当]]と同じく地方自治体や企業に負担させることを、菅直人副総理、[[原口一博]][[総務大臣|総務相]]、[[藤井裕久]][[財務大臣|財務相]]、[[長妻昭]][[厚生労働大臣|厚生労働相]]が同意した。 |
2010年10月10日 (日) 15:52時点における版
子ども手当法(こどもてあてほう)は、15歳以下の子どもの保護者に対し手当(金銭)を支給することを主な内容とする法律。第45回衆議院議員総選挙で民主党のマニフェストとして提示された。2010年3月31日に成立、4月1日より施行となった。巨額の財源確保など未解決の問題が残っており、国内外に批判的な意見もみられる(後述)。
概要
法律の正式名称は「平成二十二年度における子ども手当の支給に関する法律」。法律は2010年3月16日に衆院、同26日に参院可決され同4月1日より施行された。2010年度のみの時限立法である。
15歳の4月1日の前日までの子どもの保護者に対し、子ども手当を支給する制度である。なお、政府や民主党、マスメディアの発表では、よく「中学3年生まで支給」と表現されているが、これは正しくない(後述)。中学生であれば全員が対象となるわけではない。
支給額は、初年度のみ毎月1万3千円、次年度以降は毎月2万6千円を支給する予定であった。しかし、2010年6月、財源問題により満額支給を断念するとの政府発表があり、支給額は今後も月1万3千円(またはこれ以上)となる見込みである。なお、実務上は毎月支給されるわけではなく、複数月をまとめて支給している。
支給に際し、所得制限や国籍制限はなく、保護者が日本に住民登録または外国人登録をしていれば、受給権がある。子が、海外にいても構わない。
児童養護施設の入居児童の場合には、この制度の直接の対象にならない場合もあるが、公平性のため、政府は同等の措置を実施している。
類似制度には子ども手当施行以前に行なわれていた児童手当(児童手当法による)がある。児童手当には所得制限があるが、子ども手当にはない。子ども手当施行に伴い、従前の児童手当は廃止となる。ただし初年度のみ、行政内部的には児童手当制度を部分的に継続しており、条文にもそれに関する部分がある。
この法律は、高校無償化法とセットで提出され、実施されている。
目的・背景
日本では少子高齢化が進行し、2010年現在は、3人の現役世代で1人の高齢者を支える形になっているが、2055年には1人の現役世代で1人の高齢者を支える状況となることが見込まれている。一方、日本における子どもの貧困率は14.2%と、OECD諸国平均の12.4%より悪くなっており、片親の子どもの貧困率は54.3%とOECD諸国(平均30.8%)中最低となっている。日本政府が子育ての支援にかけている予算は、GDP比でスウェーデン3.21%、フランス3.00%、ドイツ2.22%に対し、日本は0.81%と先進国中最も少ない国の一つとなっている。特に6歳以下の子どもへの支援額がOECD諸国平均と比べ非常に低いとOECDに指摘されている。また子育て世代は等価可処分所得中央値が1998年から2007年の10年で10%以上落ちるなど収入に余裕がなく、子どもが学校に通うようになると教育費も大きく増加して経済的負担が大きくなる面もあるため、民主党は子どもの幼少から就学までのトータルでの支援が必要だとしている。
こうした状況を踏まえ、子ども手当法は、「次代の社会を担う子ども1人ひとりの育ちを社会全体で応援する」こと及び「子育ての経済的負担を軽減し、安心して出産し、子どもが育てられる社会をつくる」ことを政策目的としている。なお、子ども手当法第2条にて、「子ども手当の支給を受けた者は、前条の支給の趣旨にかんがみ、これをその趣旨に従って用いなければならない。」と記述されており、給付金を子どもの成長及び発達のために使用する責務がある。
問題点
成立以前より、財源の確保が問題視されており、対応に苦慮した国と地方との間で負担割合についての対立もみられた。現在、財源には扶養控除や配偶者控除などを廃止、景気、雇用対策費などが削減され充てられる方針となっているが批判もあり、国際経済機関にも見直しを求める意見がある。また法制度も整備されているとはいえず、枝野行政刷新相は「対応を間違った。まずは運用で悪用をはじくと同時に、来年度からは制度を変える準備作業に入っている」と見直しを急ぐと表明した。不審な申請と疑われる事案なども発生している。
財源の問題
民主党が野党時代から主張してきた政策であるが、財源の確保が明示されていないことが問題点として指摘されている。財源は初年度で2兆2500億円、翌年からは倍の4兆5000億円ほど必要になる予定。財源不足に対し、民主党は扶養控除と配偶者控除の廃止を充てるとされる。これによって得られる税収増は扶養控除8000億円、配偶者控除6000億円であり、子ども手当の必要経費には及ばない。他にも、補正予算の子育て応援特別手当を停止することで1100億円積み増すなど財源の確保に努めている。子ども手当の負担について国側で負担するのか、地方公共団体に負担をさせるのかで意見が割れるなど。全国市長会では子ども手当を全額国費負担を求める決議を採択した。 また、松沢成文神奈川県知事は地方負担なら子ども手当をボイコットすると宣言、群馬県・静岡県・大阪府・和歌山県・岡山県・宮崎県の7人の知事連名の要望書を国に提出した。
自民党政権時において作られた2009年度補正予算の削減を行い、それを子ども手当の財源に回すとしているが、補正予算の中には、緊急の景気・雇用対策、新型インフルエンザ対策などが削られることになり、竹中平蔵元総務大臣は、「小さな無駄を減らし、大きな無駄を作ることになる」と批判している。
子ども手当の財源が不足しているという指摘に関し、『産経新聞』がおこなった世論調査によれば、回答者の6割以上が「所得制限を行うべき」とし、小沢一郎元民主党幹事長も「所得制限をすべき」という陳情書を政府に要請した。これに対し、菅直人総理は所得制限について所得の把握を知るための費用のほうが所得制限以上の負担になるとして否定し、所得制限は行わないことが決定した。
国際通貨基金や経済協力開発機構などの国際経済機関からも見直しを求められている。国際通貨基金(IMF)は日本の財政赤字が国内総生産(GDP)に対して10.5%に達する見通しであると発表し、子ども手当など国債増発によりイギリスやアイルランドのように大規模な財政調整が必要になると指摘した。経済協力開発機構(OECD)は、子ども手当を実行するよりも、OECD加盟国中最低の母親の就労率を上げるために保育施設の充実などといった少子化対策を行うべきだと指摘。また、税制改革として「給付付き税額控除」を導入し、所得格差を是正することを提言した。
2010年度予算の暫定措置として、地方自治体や企業などが反発するなか、支給額2兆2554億円から国の予算から差し引いた5089億円分を児童手当と同じく地方自治体や企業に負担させることを、菅直人副総理、原口一博総務相、藤井裕久財務相、長妻昭厚生労働相が同意した。