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+ | 鉱物の種は[[結晶構造]]と[[化学組成]]によって特徴付けられている。結晶構造が同じであっても化学組成が異なれば違う鉱物となり、化学組成が同じでも結晶構造が異なれば違う鉱物となる。たとえば、[[方解石]](CaCO<sub>3</sub>)と[[マグネサイト]](MgCO<sub>3</sub>)は結晶構造はほぼ同一だが、別種の鉱物である。[[グラファイト]](C)と[[ダイアモンド]](C)はともに炭素からなるが、結晶系が異なる別種の鉱物である。ただし、化学組成は[[固溶体]]などの場合、ある程度の幅を持つ。 | ||
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+ | 鉱物の和名について、[[日本鉱物学会]]では1955年以降、「石」と「鉱」以外は片仮名で書くことを取り決めている。その際、「石」は非金属光沢を持つ鉱物、「鉱」は金属光沢を持つ鉱物に用いる。 | ||
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+ | == 鉱物と岩石、鉱石 == | ||
+ | 鉱物と岩石はよく混同されてしまうが別物である。[[岩石]]は、鉱物または岩石破片の集合体であり、化学的に均質なものではない。鉱物は、化学的にほぼ均質で、分子レベルで結晶構造を持つ。 | ||
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+ | 具体的には、墓石などに使われる[[花崗岩]]は岩石であるが、花崗岩は[[石英]]、[[長石]]、[[雲母]]などの鉱物の集合からなっている。また、単一の鉱物からなっていても、複数の結晶が集合していて、単一の結晶ではない場合、1種類の鉱物からなる岩石ということになる。たとえば、[[結晶質石灰岩]](大理石)は[[方解石]]の結晶により構成されるが、単一の結晶ではなく複数の方解石結晶の集合体なので、岩石である。 | ||
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+ | この両者の関係は、よく「生物体」と「細胞」の関係にたとえられる。生物体を「岩石」とすると、それは様々な種類の細胞「鉱物」で構成されている、といった具合である。細胞の一つ一つは鉱物であるが、それが多く集まり固結していると岩石と呼ばれるようになる。 | ||
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+ | また、鉱物や岩石を資源として利用する場合、[[鉱石]]名で呼ぶことがある。[[鉄鉱石]]、[[硫化鉄鉱]]、[[ろう石]]、[[石灰石]]などは、鉱物名でも岩石名でもない。 | ||
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+ | == 博物学と鉱物 == | ||
+ | [[鉱物学]]は[[博物学]]より発生しており、鉱物を自然物の分類として使ったのは博物学者の[[カール・リンネ|リンネ]]である。リンネは自然界を[[動物]]、[[植物]]、鉱物の三界であるとした。当時の博物学は動物、植物が中心であったため、動物でもなく植物でもないもの、つまり、自然界の無機物は全て鉱物として扱われた。この影響が強く、鉱物の分類が確立された今でも「鉱物=自然界にある無生物」という意味を残している。 | ||
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+ | また、かつて博物学は上流階級の趣味の一つであり、現在の鉱物採集や蒐集といった趣味もこの当時から発生している。現在でも欧米では鉱物や岩石、化石の採集、蒐集は高尚な趣味として認められている。日本でも、隔週刊で、鉱物の原石を添付するコレクション雑誌が発売されていた(2001年7月~2005年10月)。 | ||
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+ | 鉱物の性質は次のような項目で表現される。[[Template:Infobox 鉱物]]参照。 | ||
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+ | * '''[[硬度]]''' - 鉱物の硬さを表すときには[[モース硬度]]が用いられる。硬度はゆっくりとこすり合わせたときの硬さであり、物理的な衝撃力に対する堅さではない。1~10の数字で表す。[[ビッカース硬度]]を用いる場合もある。 | ||
+ | * '''[[比重]]''' - 水の重さを1としたときの重さ。<!-- 通常 g/cm<small>3</small>。;←これは密度の単位--> | ||
+ | * '''[[結晶系]]''' - 晶系とも言う。[[結晶構造]]を参照。 | ||
+ | * '''[[光沢]]''' - 結晶表面の質感。結晶表面の屈折率、反射率の影響でこの質感が決まる。光沢の表現は、金属光沢、ダイヤモンド光沢、ガラス光沢、樹脂光沢、脂肪光沢、真珠光沢、絹光沢など。 | ||
+ | * '''[[条痕色]]''' - 硬く、表面の粗い板に擦り付けたときにできる線を[[条痕]](じょうこん)といい、この色を条痕色という。条痕色は鉱物を粉末にしたときの色と等しい。条痕色は必ずしも鉱物結晶の色と同じではない。 | ||
+ | * '''[[劈開]]''' - 結晶構造によっては特定方向に割れやすい性質があり、これを[[へき開|劈開面]]という。等軸晶系など結晶系によっては劈開を持たないものもある。劈開の表現は、きわめて完全、完全、不完全、きわめて明瞭、明瞭、不明瞭、無し。 | ||
+ | * '''[[蛍光]]''' - 熱や紫外線により蛍光を示すことがある。 | ||
+ | * '''[[断口]]''' - 割れ口のことで、鉱物種によっては特徴的な割れ口を示すものがある。貝殻状断口、亜貝殻状断口など。 | ||
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+ | 結晶の原子配置パターンはいくつかに決まっており、これを[[晶系]]という。結晶構造は何らかの晶系に属している。結晶構造により、特定の方向に原子間の結合力に強弱が出るため、巨視的な結晶の外形(結晶形)や割れ方([[へき開]])にも結晶構造が大きな影響を与える。鉱物がどの晶系に属しているかによって、結晶の形、光学的な性質、へき開の方向などが大まかなに把握することができる。 | ||
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+ | 通常、七晶系で表現されることが多いが、七晶系のうち、三方晶系と六方晶系は、[[行列]]により座標の変換を行うと等価となるため、六晶系とする場合もある。 | ||
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+ | ; 等軸晶系 : [[柘榴石]]、[[スピネル]]、[[蛍石]]、[[磁鉄鉱]]、[[黄鉄鉱]]、[[ダイヤモンド]]など。 | ||
+ | ; 正方晶系 : [[ジルコン]]、[[ベスブ石]]など。 | ||
+ | ; 六方晶系(三方晶系を含む) : [[石英]]、[[方解石]]、[[燐灰石]]、[[コランダム]]、[[石墨]]など。 | ||
+ | ; 斜方晶系 : [[カンラン石]]、[[斜方輝石]]など。 | ||
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+ | ; 三斜晶系 : [[斜長石]]など。 | ||
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+ | [[多形]]の項参照。 | ||
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+ | ;元素鉱物 | ||
+ | :単独の[[元素]]からなる鉱物。[[自然金]](Au)、[[自然銀]](Ag)、[[自然銅]](Cu)、[[自然蒼鉛]](Bi)、[[自然テルル]](Te)、[[自然硫黄]](S)、[[石墨]]・[[ダイヤモンド]](C)など。 | ||
+ | ;硫化鉱物 | ||
+ | :金属元素と[[硫黄]]とが結合している鉱物。[[熱水鉱床]]などでよく見られる。[[黄鉄鉱]](FeS<sub>2</sub>)、[[黄銅鉱]](CuFeS<sub>2</sub>)、[[方鉛鉱]](PbS)など。 | ||
+ | ;酸化鉱物 | ||
+ | :金属元素と[[酸素]]とが結合している鉱物。[[石英]](SiO<sub>2</sub>)、[[磁鉄鉱]](Fe<sup>2+</sup>Fe<sup>3+</sup><sub>2</sub>O<sub>4</sub>)、[[チタン鉄鉱]](FeTiO<sub>3</sub>)、[[スピネル]](MgAl<sub>2</sub>O<sub>4</sub>)、[[コランダム]](Al<sub>2</sub>O<sub>3</sub>)など。 | ||
+ | ;ハロゲン化鉱物 | ||
+ | :金属元素と[[ハロゲン元素]]とが結合している鉱物。[[岩塩]](NaCl)、[[蛍石]](CaF<sub>2</sub>)など。 | ||
+ | ;炭酸塩鉱物 | ||
+ | :[[炭酸塩]]からなる鉱物。[[方解石]](CaCO<sub>3</sub>)、[[苦灰石]](CaMg(CO<sub>3</sub>)<sub>2</sub>)など。 | ||
+ | ;ホウ酸塩鉱物 | ||
+ | :[[ホウ酸塩]]からなる鉱物。[[硼砂]](Na<sub>2</sub>B<sub>4</sub>O<sub>5</sub>(OH)<sub>4</sub>・8H<sub>2</sub>O)など。 | ||
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+ | :[[硫酸塩]]からなる鉱物。[[明礬石]](KAl<sub>3</sub>(SO<sub>4</sub>)<sub>2</sub>(OH)<sub>6</sub>)、[[石膏]](CaSO<sub>4</sub>・2H<sub>2</sub>O)、[[天青石]](SrSO<sub>4</sub>)、[[重晶石]](BaSO<sub>4</sub>)など。 | ||
+ | ;リン酸塩鉱物 | ||
+ | :[[リン酸塩]]からなる鉱物。[[燐灰石]](Ca<sub>5</sub>(PO<sub>4</sub>)<sub>3</sub>(F,Cl,OH))など。 | ||
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+ | :[[タングステン酸塩]]からなる鉱物。[[灰重石]](CaWO<sub>4</sub>)など。 | ||
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+ | [[水]]を成分として含む鉱物を'''含水鉱物'''としてまとめることもある(雲母、角閃石など)。 | ||
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+ | 化学組成は必ずしも一定である必要はない。天然の[[結晶]]では一つの結晶中でさえ化学組成が微妙に異なっていることが知られている。また、一つの鉱物種として扱われるものでも化学組成はかなり幅を持つものもある([[固溶体]])。 | ||
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+ | == 産出状態による鉱物の分類 == | ||
+ | 鉱物を産出状態や用途によってまとめることがある。 | ||
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+ | * [[造岩鉱物]] - [[岩石]]を構成している鉱物。[[石英]]、[[長石]]、[[雲母]]、[[角閃石]]、[[輝石]]、[[カンラン石]]など。 | ||
+ | ** [[ペグマタイト鉱物]] - [[ペグマタイト]]を構成している鉱物。石英、長石、雲母のほか、[[電気石]]、[[緑柱石]]、[[蛍石]]など。 | ||
+ | * [[接触鉱物]] - [[火成岩]]([[マグマ]])の熱によって生成された鉱物。 | ||
+ | ** [[スカルン鉱物]] - [[炭酸塩岩]]と火成岩との接触部にできる鉱物。[[柘榴石]]、[[輝石]]、[[ベスブ石]]、[[珪灰石]]など。 | ||
+ | * [[鉱石鉱物]] - [[鉱石]]として採掘される有用な鉱物。[[黄銅鉱]]、[[方鉛鉱]]、[[閃亜鉛鉱]]など。なお、[[鉱床]]内で不要なものは[[脈石鉱物]]という。 | ||
+ | ** [[ろう石鉱物]] - [[ろう石]]鉱床に産するロウ感のある鉱物。[[葉ろう石]]、[[ダイアスポア]]、[[絹雲母]]、[[コランダム]]、[[カオリナイト]]など。 | ||
+ | * [[粘土鉱物]] - 岩石が分解してできた[[粘土]]を構成する鉱物。[[モンモリロン石]]、[[緑泥石]]、[[カオリナイト]]など。 | ||
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+ | [[マグマ]]や[[熱水]]から最初にできた鉱物を'''一次鉱物'''(初生鉱物、primary mineral)、既存の鉱物が水や空気と反応して別種に変わったものを'''二次鉱物'''(secondary mineral)ということもある。ただし、その境界はあいまいである。 | ||
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+ | == 変わった鉱物 == | ||
+ | * [[金緑石]](アレキサンドライト) - 太陽下では緑、灯下では紫に見える(原因:特定波長の吸収)。 | ||
+ | * [[菫青石]] - ある方向からは青く、ある方向からは無色透明に見える(原因:光学的異方性)。 | ||
+ | * [[方解石]] - 結晶を通してみると物が二重に見える(原因:[[複屈折]])。 | ||
+ | * [[藍晶石]] - 結晶面によって硬さが異なる(原因:物理的異方性)。 | ||
+ | * [[蛍石]] - 熱や紫外線をあてると光る(原因:[[ルミネセンス]])。 | ||
+ | * [[岩塩]] - 天然で産出する、食べられる鉱物である。 | ||
+ | * [[滑石]](タルク) - 食品添加物としての用途を持つ。 | ||
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+ | ==関連項目== | ||
+ | {{Commonscat|Minerals}} | ||
+ | {{Wiktionary|鉱物}} | ||
+ | * [[鉱物学]] | ||
+ | * [[新鉱物]] | ||
+ | * [[鉱物の一覧]] | ||
+ | * [[無色鉱物]]、[[有色鉱物]] | ||
+ | * [[多形]] | ||
+ | * [[固溶体]] | ||
+ | * [[宝石]] | ||
+ | * [[結晶学]]、[[結晶]] | ||
+ | * [[鉱床学]]、[[鉱床]]、[[鉱石]] | ||
+ | * [[岩石学]]、[[岩石]] | ||
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+ | == 参考文献 == | ||
+ | * [[原田準平]] 『鉱物概論 第2版』 [[岩波書店]]〈岩波全書〉、1973、ISBN 4-00-021191-9。 | ||
+ | * [[黒田吉益]]・[[諏訪兼位]] 『偏光顕微鏡と岩石鉱物 第2版』 [[共立出版]]、1983、ISBN 4-320-04578-5。 | ||
+ | * [[堀秀道]] 『楽しい鉱物学 - 基礎知識から鑑定まで』 [[草思社]]、1990、ISBN 4-7942-0379-9。 | ||
+ | * 文部科学省[[国立天文台]]編 『[[理科年表]] 平成15年』 [[丸善]]、2002、ISBN 4-621-07112-2。 | ||
+ | * [[松原聰]] 『フィールドベスト図鑑15 日本の鉱物』 [[学習研究社]]、2003、ISBN 4-05-402013-5。 | ||
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+ | ==外部リンク== | ||
+ | * [http://www.ima-mineralogy.org/ International Mineralogical Association (IMA) ] | ||
+ | * [http://wwwsoc.nii.ac.jp/msj3/ 日本鉱物学会] | ||
+ | * 『[http://202.69.231.193/company/product/trs.htm 隔週刊トレジャー・ストーン]』(DeAGOSTINI) | ||
+ | * [http://www.jogmec.go.jp 石油天然ガス・金属鉱物資源機構] | ||
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+ | [[Category:鉱物|*]] | ||
+ | [[Category:鉱物学|こうふつ]] | ||
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2007年8月24日 (金) 20:58時点における版
鉱物(こうぶつ、mineral、ミネラル)とは、一般的には、地質学的作用により形成される、天然に産する無機質の結晶質物質のことを指すが、有機質の結晶や人工結晶も含まれる。生物起源である鉱物も存在する(生体鉱物)。また非晶質物質でも鉱物と呼ばれる例外もある(オパール)。また、広義には、動物、植物以外の自然物のことをさし、石油、地下水までも鉱物に含められる場合がある。しかし、鉱物学では天然に産出する無機質の結晶構造をもつ物質のことを鉱物と定義している。
目次
鉱物種とは
鉱物の種は結晶構造と化学組成によって特徴付けられている。結晶構造が同じであっても化学組成が異なれば違う鉱物となり、化学組成が同じでも結晶構造が異なれば違う鉱物となる。たとえば、方解石(CaCO3)とマグネサイト(MgCO3)は結晶構造はほぼ同一だが、別種の鉱物である。グラファイト(C)とダイアモンド(C)はともに炭素からなるが、結晶系が異なる別種の鉱物である。ただし、化学組成は固溶体などの場合、ある程度の幅を持つ。
新鉱物は、国際鉱物学連合(IMA)の「新鉱物・命名・分類委員会(CNMNC)」に申請して承認される必要がある。
鉱物の和名について、日本鉱物学会では1955年以降、「石」と「鉱」以外は片仮名で書くことを取り決めている。その際、「石」は非金属光沢を持つ鉱物、「鉱」は金属光沢を持つ鉱物に用いる。
鉱物と岩石、鉱石
鉱物と岩石はよく混同されてしまうが別物である。岩石は、鉱物または岩石破片の集合体であり、化学的に均質なものではない。鉱物は、化学的にほぼ均質で、分子レベルで結晶構造を持つ。
具体的には、墓石などに使われる花崗岩は岩石であるが、花崗岩は石英、長石、雲母などの鉱物の集合からなっている。また、単一の鉱物からなっていても、複数の結晶が集合していて、単一の結晶ではない場合、1種類の鉱物からなる岩石ということになる。たとえば、結晶質石灰岩(大理石)は方解石の結晶により構成されるが、単一の結晶ではなく複数の方解石結晶の集合体なので、岩石である。
この両者の関係は、よく「生物体」と「細胞」の関係にたとえられる。生物体を「岩石」とすると、それは様々な種類の細胞「鉱物」で構成されている、といった具合である。細胞の一つ一つは鉱物であるが、それが多く集まり固結していると岩石と呼ばれるようになる。
また、鉱物や岩石を資源として利用する場合、鉱石名で呼ぶことがある。鉄鉱石、硫化鉄鉱、ろう石、石灰石などは、鉱物名でも岩石名でもない。
博物学と鉱物
鉱物学は博物学より発生しており、鉱物を自然物の分類として使ったのは博物学者のリンネである。リンネは自然界を動物、植物、鉱物の三界であるとした。当時の博物学は動物、植物が中心であったため、動物でもなく植物でもないもの、つまり、自然界の無機物は全て鉱物として扱われた。この影響が強く、鉱物の分類が確立された今でも「鉱物=自然界にある無生物」という意味を残している。
また、かつて博物学は上流階級の趣味の一つであり、現在の鉱物採集や蒐集といった趣味もこの当時から発生している。現在でも欧米では鉱物や岩石、化石の採集、蒐集は高尚な趣味として認められている。日本でも、隔週刊で、鉱物の原石を添付するコレクション雑誌が発売されていた(2001年7月~2005年10月)。
鉱物の性質
鉱物の性質は次のような項目で表現される。Template:Infobox 鉱物参照。
- 色
- 化学組成
- 硬度 - 鉱物の硬さを表すときにはモース硬度が用いられる。硬度はゆっくりとこすり合わせたときの硬さであり、物理的な衝撃力に対する堅さではない。1~10の数字で表す。ビッカース硬度を用いる場合もある。
- 比重 - 水の重さを1としたときの重さ。
- 結晶系 - 晶系とも言う。結晶構造を参照。
- 光沢 - 結晶表面の質感。結晶表面の屈折率、反射率の影響でこの質感が決まる。光沢の表現は、金属光沢、ダイヤモンド光沢、ガラス光沢、樹脂光沢、脂肪光沢、真珠光沢、絹光沢など。
- 条痕色 - 硬く、表面の粗い板に擦り付けたときにできる線を条痕(じょうこん)といい、この色を条痕色という。条痕色は鉱物を粉末にしたときの色と等しい。条痕色は必ずしも鉱物結晶の色と同じではない。
- 劈開 - 結晶構造によっては特定方向に割れやすい性質があり、これを劈開面という。等軸晶系など結晶系によっては劈開を持たないものもある。劈開の表現は、きわめて完全、完全、不完全、きわめて明瞭、明瞭、不明瞭、無し。
- 蛍光 - 熱や紫外線により蛍光を示すことがある。
- 断口 - 割れ口のことで、鉱物種によっては特徴的な割れ口を示すものがある。貝殻状断口、亜貝殻状断口など。
結晶構造による鉱物の分類
結晶の原子配置パターンはいくつかに決まっており、これを晶系という。結晶構造は何らかの晶系に属している。結晶構造により、特定の方向に原子間の結合力に強弱が出るため、巨視的な結晶の外形(結晶形)や割れ方(へき開)にも結晶構造が大きな影響を与える。鉱物がどの晶系に属しているかによって、結晶の形、光学的な性質、へき開の方向などが大まかなに把握することができる。
通常、七晶系で表現されることが多いが、七晶系のうち、三方晶系と六方晶系は、行列により座標の変換を行うと等価となるため、六晶系とする場合もある。
- 等軸晶系
- 柘榴石、スピネル、蛍石、磁鉄鉱、黄鉄鉱、ダイヤモンドなど。
- 正方晶系
- ジルコン、ベスブ石など。
- 六方晶系(三方晶系を含む)
- 石英、方解石、燐灰石、コランダム、石墨など。
- 斜方晶系
- カンラン石、斜方輝石など。
- 単斜晶系
- 正長石、普通輝石、普通角閃石、黒雲母など。
- 三斜晶系
- 斜長石など。
同質異像(多形)
多形の項参照。
化学組成による鉱物の分類
詳しくは鉱物の一覧参照。
- 元素鉱物
- 単独の元素からなる鉱物。自然金(Au)、自然銀(Ag)、自然銅(Cu)、自然蒼鉛(Bi)、自然テルル(Te)、自然硫黄(S)、石墨・ダイヤモンド(C)など。
- 硫化鉱物
- 金属元素と硫黄とが結合している鉱物。熱水鉱床などでよく見られる。黄鉄鉱(FeS2)、黄銅鉱(CuFeS2)、方鉛鉱(PbS)など。
- 酸化鉱物
- 金属元素と酸素とが結合している鉱物。石英(SiO2)、磁鉄鉱(Fe2+Fe3+2O4)、チタン鉄鉱(FeTiO3)、スピネル(MgAl2O4)、コランダム(Al2O3)など。
- ハロゲン化鉱物
- 金属元素とハロゲン元素とが結合している鉱物。岩塩(NaCl)、蛍石(CaF2)など。
- 炭酸塩鉱物
- 炭酸塩からなる鉱物。方解石(CaCO3)、苦灰石(CaMg(CO3)2)など。
- ホウ酸塩鉱物
- ホウ酸塩からなる鉱物。硼砂(Na2B4O5(OH)4・8H2O)など。
- 硫酸塩鉱物
- 硫酸塩からなる鉱物。明礬石(KAl3(SO4)2(OH)6)、石膏(CaSO4・2H2O)、天青石(SrSO4)、重晶石(BaSO4)など。
- リン酸塩鉱物
- リン酸塩からなる鉱物。燐灰石(Ca5(PO4)3(F,Cl,OH))など。
- タングステン酸塩鉱物
- タングステン酸塩からなる鉱物。灰重石(CaWO4)など。
- ケイ酸塩鉱物
- ケイ酸塩からなる鉱物。カンラン石、輝石、角閃石、雲母、長石、沸石など。
水を成分として含む鉱物を含水鉱物としてまとめることもある(雲母、角閃石など)。
固溶体
化学組成は必ずしも一定である必要はない。天然の結晶では一つの結晶中でさえ化学組成が微妙に異なっていることが知られている。また、一つの鉱物種として扱われるものでも化学組成はかなり幅を持つものもある(固溶体)。
産出状態による鉱物の分類
鉱物を産出状態や用途によってまとめることがある。
- 造岩鉱物 - 岩石を構成している鉱物。石英、長石、雲母、角閃石、輝石、カンラン石など。
- 接触鉱物 - 火成岩(マグマ)の熱によって生成された鉱物。
- 鉱石鉱物 - 鉱石として採掘される有用な鉱物。黄銅鉱、方鉛鉱、閃亜鉛鉱など。なお、鉱床内で不要なものは脈石鉱物という。
- 粘土鉱物 - 岩石が分解してできた粘土を構成する鉱物。モンモリロン石、緑泥石、カオリナイトなど。
マグマや熱水から最初にできた鉱物を一次鉱物(初生鉱物、primary mineral)、既存の鉱物が水や空気と反応して別種に変わったものを二次鉱物(secondary mineral)ということもある。ただし、その境界はあいまいである。
変わった鉱物
- 金緑石(アレキサンドライト) - 太陽下では緑、灯下では紫に見える(原因:特定波長の吸収)。
- 菫青石 - ある方向からは青く、ある方向からは無色透明に見える(原因:光学的異方性)。
- 方解石 - 結晶を通してみると物が二重に見える(原因:複屈折)。
- 藍晶石 - 結晶面によって硬さが異なる(原因:物理的異方性)。
- 蛍石 - 熱や紫外線をあてると光る(原因:ルミネセンス)。
- 岩塩 - 天然で産出する、食べられる鉱物である。
- 滑石(タルク) - 食品添加物としての用途を持つ。
関連項目
参考文献
- 原田準平 『鉱物概論 第2版』 岩波書店〈岩波全書〉、1973、ISBN 4-00-021191-9。
- 黒田吉益・諏訪兼位 『偏光顕微鏡と岩石鉱物 第2版』 共立出版、1983、ISBN 4-320-04578-5。
- 堀秀道 『楽しい鉱物学 - 基礎知識から鑑定まで』 草思社、1990、ISBN 4-7942-0379-9。
- 文部科学省国立天文台編 『理科年表 平成15年』 丸善、2002、ISBN 4-621-07112-2。
- 松原聰 『フィールドベスト図鑑15 日本の鉱物』 学習研究社、2003、ISBN 4-05-402013-5。
外部リンク
- International Mineralogical Association (IMA)
- 日本鉱物学会
- 『隔週刊トレジャー・ストーン』(DeAGOSTINI)
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