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2007年5月17日 (木) 03:33時点における版
多元環(たげんかん、algebra)とは可換環上の加群としての構造を持ち、その構造と両立しているような積を持つ代数的構造のことである。algebra を直訳して代数(だいすう)と呼ぶことも多い。また、ブルバキでは(結合的なものを)線型環(せんけいかん)と呼んでいる。
定義
A が可換環 R 上の分配多元環(あるいは分配的多元環)もしくは R 代数であるとは
- A には 3 つの演算:和 +, 積 ×, R の元のスカラー積 · が定義される。
- 和の交換法則:x + y = y + x が、任意の x, y ∈ A に対して成り立つ。
- 和の結合法則: x + (y + z) = (x + y) + z が、任意の x, y, z ∈ A に対して成り立つ。
- 零元の存在: x + 0A = x が任意の x ∈ A に対して成り立つような 0A が A に存在する。
- マイナス元の存在: 任意の x ∈ A に対し、x + (-x) = 0A を満たすような A の元 -x が存在する。
- 分配法則: (x + y)× z = (x × z) + (y × z), x ×(y + z) = (x × y) + (x × z) が、任意の x, y, z ∈ A に対して成り立つ。
- α(x + y) = αx + αy が、任意の α ∈ R, x, y ∈ A に対して成り立つ。
- (α + β)x = αx + βx が、任意の α, β ∈ R, x ∈ A に対して成り立つ。
- (αβ)x = α(βx) が、任意の α, β ∈ R, x ∈ A に対して成り立つ。
- α(a × b) = (αa)× b = a ×(αb) が任意の α ∈ R と a, b ∈ A に対して成り立つ。
さらに、積 × が結合法則を満たすなら A は結合多元環(あるいは結合的多元環)であるという。ただし、文脈により紛れのないと思われる場合においては、分配多元環あるいは結合多元環を単に多元環とよぶことがある。
積が結合的ではない多元環で重要なものにリー環やジョルダン環がある。
諸定義
上記の条件に加えて
- 単位元の存在: x × 1A = 1A × x = x が任意の x ∈ A に対して成り立つような 1A が A に存在する。
- 逆元の存在:0A でない任意の x ∈ A に対し、x × x-1 = x-1 × x = 1A を満たすような A の元 x-1 が存在する。
を満たすならば、A は R 上の斜体 (division algebra) であるという。
また、R が単位元 1R を持つならば、
- 1R x = x が任意の x ∈ A に対して成り立つ。
も仮定に加えることが多い。
さらに R が体で A が積 × に関する単位元 1A をもつならば、写像
- R → A; α → α1A
は多元環の埋め込み、すなわち単射な多元環の準同型(R-線型かつ環の準同型)になるので、R とその像を同一視することができる。この同一視を行うとき、R のスカラー倍は A の元としての積と一致する。同時に R は A の中心 C(A) に含まれる。R = C(A) となるなら A は R 上中心的 (central) であるという。
R-加群の列 {An}n∈N の直和 A に対し、積 × が定義されて A が多元環となり、さらに任意の r, s ∈ N に対し、Ar × As ⊂ Ar+s をみたすならば、A は次数つき多元環 (graded algebra) であるという。
例
- 任意のベクトル空間 V に積を、任意の a, b ∈ V に対し ab = 0 と定めると多元環になる。(これはリー環にもなっている。)
- 体 K の任意の拡大体 L は K 上の多元環。
- 環 R 上の n 次全行列環 Mn(R) は R 上の多元環。体 F 上の中心的単純環は、ある F 上の斜体 D 上の全行列環 Mr(D) に同型である(Wedderburn の定理)。
- 可換環 R 上の多項式環 R[x] は、高々 n 次の多項式の全体を An とおくことにより、次数つき多元環になる。
関連項目
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