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2012年11月23日 (金) 09:24時点における版
ネットワークエンジニア (英語:network engineer、略称:NE)とは、コンピュータネットワークのシステムの構築(設計、初期設定、テスト)運用・保守、ネットワークプログラミングなどに従事する職を指す。
データ通信を媒介し、様々なサービスを提供するためのプラットフォーム(UNIXやLinux、Windowsなど)や、それらの環境で稼動するサービス(ファイアウォールやDNS、MTA、ルータ、スイッチなど)の特性を理解し、これらの連携を実現するためにネットワークケーブルや商用回線といった物理的な要素やプロトコルにも幅広く精通する。システムエンジニアの一種であり、主にデータ通信に特化した情報処理技術者のことを指す。
ただし名称独占の肩書きではないため、バズワードとして定義は曖昧である。
2012年現在の傾向として、システムインテグレーターの一員としてネットワークシステムの顧客提案や構築工事のスケジュール調整業務など、ゼネラリストとしての色合いが強い業務もネットワークエンジニアと称し、これが担当することがある。また求人の際の便宜上、システムインテグレーターやその下請け企業・人材派遣会社がルータまたはスイッチを取り扱う者を指してネットワークエンジニアと称することもある。
近年では通信技術の多様化もあいまって、ルーティングとレイヤー2・レイヤー3スイッチングの技術のみに精通していれば業務が成立する工程(初期設定・監視など)も少なくなく、こうしたことから「ネットワークエンジニア=ルータ・スイッチのスペシャリスト」という曲解も一部ではまかり通っている。
この風潮により、業界事情や技術に明るくない企業経営者や管理職が初心者を対象にネットワークエンジニアを育成するも、結果的にルーティングやレイヤー2・レイヤー3スイッチングの技術のみしか習得できず、対応範囲のきわめて狭い作業員が同じ工程を担当し続けることになり得るため、2012年現在も業界全体の人材不足の遠因となっている。
ネットワーク通信に特化したシステムインテグレートに関する人員確保は作業員・オペレータよりも、ネットワークエンジニアの方が上級技術者らしく聞こえて高い単価を要求できるためか、初心者でもそう名乗らせることが多い。
巨大メーカーや通信企業の1980年代における過剰雇用により、技術的に未成熟なままの中堅社員が大量に余ることを危惧した企業が、そうした社員への業務を確保するためにまずシステムインテグレーターという業態をスタンダードなものにし、またそうした中堅社員のモチベーションを維持するために、システムインテグレーターとしての仕事もエンジニアの一業務だとみなして過剰社員をこれにあてがっているのが実情である。そのため、ネットワークシステム構築の業務における指揮命令系統は脆弱になりやすく、しばしばデスマーチを招く結果となっている。
目次
ネットワークエンジニアの職域
本項目では主にシステムインテグレーター(SI企業)としてのネットワークエンジニアの業務について触れる。
日本の場合は提案・設計・初期設定・運用といった各種工程を完全に分担して行う傾向が強く、上流工程の任に当たる者が下流工程の任に当たる者のスキルを踏襲していないケースも極めて多い。このあたりの事情はソフトウェア開発の業界における「プログラミング(コーディング)は出来ないがアプリケーション設計は出来る」といったシステムエンジニアが多数存在することと類似しており、「上流工程ならば細かいところは知っている必要は無い」と組み立て、ネットワーク技術の概要理解(メールの配送の仕組みや、TCP/IPの基礎的な知識など)の欠如も問題視されないことがある。
こうしたことから、設定業務→設計業務→コンサルティング業務といった具合に各々の業務に優劣を印象付け、上流工程に移ることをキャリアの向上とみなし(あるいは誤解し)、賃金差を図る企業も少なくない。本来これはネットワークエンジニアの理想的なキャリアプランの一形態とされているものの、上述のように単価を上げる(もしくは賃金を下げる)という目的のみでこれらの工程を差別化しているのが実態であり、ネットワーク技術の基本的な知識が乏しくとも上流工程における業務に配属されるケースが後を絶たない。
SI企業におけるネットワークエンジニアの職域を分類すると、以下のようなものを挙げることができる。
- ネットワークシステムの運用・保守
- 構築後の維持管理、メンテナンスなどを行う。特定企業の情報システム部門に所属する業務形態も存在し、社内のネットワーク通信に関連するあらゆるデバイスの運用維持に対応できることが要求される。これらの業務を円滑に行うべくソフトウェアの開発や緊急時のハードウェア交換、エンドユーザ対応など、業務は流動的に変化しうる。また、SI企業が顧客内での運用業務全般を請け負っている場合でネットワークシステムの新規構築・更改作業が発生した際には、提案~設計~初期設定~運用までの工程を1人称で行う場合も少なくない。なお、上述のように上流工程という言葉の意味を取り違えた企業の場合、運用・保守の業務は下流工程(レベルが低いという解釈)に位置づけられる。
- ネットワークシステムの監視
- 運用・保守業務のひとつであるが、ミッションクリティカルな基幹デバイスを連続的に監視するため、専任者(有償の監視サービスによって提供されるケースが一般的である)を用立てるケースが通常である。遠隔地から24時間体制(利用サービスによる)にて、主にSNMPを用いた監視ツールを使用し、定型的作業によって監視対象機器の生死を確認するのが一般的である。一部の零細請負企業ではネットワークエンジニアへの登竜門的業務と位置づけている場合があるが、現実にはルーチンワーク化によってネットワーク技術に一切精通していなくとも勤まる現場も少なくなく、深夜勤務労働者の確保のために便宜上、ネットワークエンジニアという名称を用いているのが実情である。
- ネットワークシステムの提案
- 顧客への提案を行う。概要設計も含まれる。ネットワークエンジニアではなく営業やコンサルタントなどがこれを行うこともある。
- プロジェクトマネージャ
- 上記の基本設計から運用・保守体制の確立までの工程に関する予算管理・要員調達・進捗管理などを行う。ネットワークシステムの提案担当者や設計担当者がこの業務を兼務する場合も。
- ネットワークシステムの設計
- 詳細設計を行う。手順や試験項目立案、運用設計なども含まれる。セキュリティ面での考慮も必要。
- ネットワークシステムの初期設定
- 設計書に沿ってネットワークデバイスを設定し、ネットワーク回線を使ってシステム同士を接続する。構築後の試験も含まれる。
- ネットワークサービス・機器の開発
- ネットワークプロトコルやネットワークデバイスの開発を行う。ソケットプログラミングを行うことも含まれる。主にハードウェアベンダーのエンジニアがこれに当たる。
問題点
人材不足とスキル問題
1990年代後半にインターネットが爆発的に普及した事による慢性的な人材不足のため、技術職にも関わらず文系出身者も少なくない。 これは多くの一般企業において、"ネットワークエンジニアと称されたポジション"が、コンピュータ・アーキテクチャやソフトウェア工学を修得せずとも携わることができるという、各国では類を見ない日本特有の慣例があるためと考えられる。
いわゆる理系コンプレックスを持つ者が、IT業界におけるエンジニアを目指す上で、本人にとってソフトウェア工学などが一種の鬼門として存在していた場合、これを回避しつつも「ITエンジニア」というステレオタイプな理系像を身にまとうための格好の職業として、"ネットワークエンジニアと称されたポジション"を目指す傾向があるためと考えられる。 一般的にパソコンを使用する業務が多く、パソコンをある程度使いこなせれば、未経験でもネットワークエンジニアと称して社内教育を行う企業が多い。こうした企業においては、未経験者に対して情報処理技術者スキル標準に沿ったカリキュラムで教育を行うことは稀であり、基本情報技術者および応用情報技術者の取得、またはこれらの出題範囲に相当する教育を行わず、序盤からルーティングなどの高度な情報処理技術を詰め込む傾向が強い。 前述の基本資格を踏まえず、シスコシステムズの認定試験のひとつであるCCNAを入門者の技術指標として位置付けている企業がきわめて多い。 但しCCNAはネットワーク技術の基礎知識を問う試験ではなく、とりわけルーティング技術やスイッチング技術に偏重しており、その他各社固有のUIに関するオペレーションの知識量を問うなど、一種のセールスの側面も持ち合わせた試験である。 また、情報系の学部を卒業していない、もしくは基本情報技術者や応用情報技術者の試験を通過していない者が以上のようなベンダー試験資格のみを所持していた場合は、あらゆる分野における情報処理技術者が共通して踏まえるべき最低限のリテラシー(プログラミングの基礎やコンピュータ工学の基礎) を持ち合わせていない可能性があるため、求職者・企業双方において注意が必要である。
シスコシステムズを始めとした営利企業による認定試験やこれらに対応するパソコンスクールも数多く存在し、とりわけ若年層への就職意欲を刺激した資格商法が成功を収めている業界である(スクールと中小企業が結託し、受講後に就職支援と称してCCNA保持者を欲する企業に斡旋する、等)。
2012年現在、CCNAやCCNPなどのベンダー資格を所持した即席の作業員は業界において飽和状態であるが、このように情報処理技術者として国際水準のリテラシーを備えた、「つぶしのきく」ネットワークエンジニアは依然として人材不足とされている。
偽装請負
2012年現在、ソフトウェア開発の業界以上に偽装請負の傾向が顕著な業界である。
JIET会員企業のみならず、中小・大企業など規模を問わず幅広く行われているのが実態である。業務の性格上、プログラマーやWEBデザイナーのように在宅業務を行うことは稀であり、ネットワークエンジニアは特定企業の社員または派遣社員、協力会社の要員としてその企業を業務拠点とするケースが多い。協力会社の社員が実質、派遣社員としての身分で業務を行うことが常態化しており、多重派遣と併せて業界全体の問題点とされており、求職者やシステムインテグレーター利用者は注意が必要である。
よくある誤解
サーバエンジニアとの違い
差異は無く、ネットワークエンジニアの別称として用いられることが多い。人材派遣会社においては「サーバエンジニア」という言葉が存在する場合がある。これはWindowsやUNIXというOSが稼動する環境に限定された設計・運用・初期設定担当者のことを指すための造語と考えられる。この呼称は企業にとって都合の良い、一時的な労働力を短期間で育成・確保するためにあたかも専門職かのように装い、未経験者の就職意欲を刺激するために用いられる傾向が強い。
実際はOSのカーネルハック等までをも行うプラットフォームエンジニアとは性質が異なるため、ネットワークエンジニアの一業務と考えるのが適当である。
呼称をあえて分割することにより、従業員が即戦力に至るまでの教育にかかる時間と費用を削減しつつも、OSやミドルウェアの理解が乏しい者がネットワークエンジニアと名乗ることを正当化させる事が狙いとみられる。
この種の業界における「ルータの構築」とは組み込み機器として独自の筐体にシステムを格納した状態で販売されたルータ(CiscoやJuniperなどの製品)の、要件に沿った設定作業のことであり、「Linux上でQuaggaやiptablesを要件通りに設定する」といった作業は概ねサーバエンジニアの職域として分類される。 言い換えれば、CiscoのIOSのようにOSのバックエンドを極力ブラックボックス化し、高度に抽象化された独自のシェルを実装してユーザーに機能の全てを提供する事で、情報処理技術のリテラシが乏しくとも取り扱いが比較的容易なシステムと、そうでないシステムが境界区分として扱われがちということである。
よって、日本では一般的なIAサーバ等にて稼動するOSおよびサービスについてはネットワークエンジニアの守備範囲外として扱い、設定のすべてを独自のUIで完結できる性質の装置はネットワーク機器として分類して業務が分担されるという、歪な労働実態が存在する。
余禄
ジュニパーネットワークスやアラクサラネットワークス、IIJなどのベンダーのルータやスイッチは、UNIX派生のOSをベースにしたシステムで稼動しているが、固有のシェルを実装する事でバックエンドを見えにくくさせている。このため、歪な労働体制を敷いている企業の現場においてはこれらの機器を取り扱うのは「ネットワークエンジニア」だと判断される傾向にある。しかし2000年代後半から急速に普及したシステムの仮想化の流れは、こうしたルーターやスイッチの分野にも波及しており、WAFやサーバロードバランサをも巻き取った統合型セキュリティアプライアンスの普及や、スイッチドファブリックの到来によって、情報処理技術の基礎を割愛しL2・L3ネットワークのみの偏った教育を受けてきた「ネットワークエンジニア」は大きな問題に直面している。
ネットワークエンジニアの資格
下記はネットワークエンジニアに関係する認定資格である。
国家資格
- 技術士
- 情報処理技術者
- ネットワークスペシャリスト
- 情報セキュリティスペシャリスト
※上記2科目は、基本情報技術者および応用情報技術者合格相当のリテラシーを身につけていることを前提としているため、これらを順序立てて取得していくことが望ましい。 - 情報セキュリティアドミニストレータ(2008年度以降は情報セキュリティスペシャリスト試験に統合)
民間資格(ベンダー資格)
- Linux技術者認定(LPIC等)
- サン・マイクロシステムズ(SCNA等)
- Cisco技術者認定(CCNA等)
- マイクロソフト技術者認定(MCP・MCSE等)
- プロジェクトマネジメントプロフェッショナル(PMP)