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'''仕事'''(しごと、英:[[:en:Mechanical work|Mechanical work]]) とは、[[物理学]] ([[力学]], [[熱力学]] ) において 物体に加えた[[]]と、それによる物体の位置の[[変位]]の内積(スカラー積)によって定義される[[物理量]]である。[[]]と同様に[[エネルギー]]の移動形態の一つで、 [[MKS単位系]]での単位は N·m もしくは[[ジュール|J]]である。
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[[ファイル:運動の第二法則 (公式).png|300px|thumb|定義式]]
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[[物理学]]における'''仕事'''(しごと、{{lang-en|work}})とは、[[物体]]に加えた[[]]と、それによる物体の[[変位]][[内積]]によって定義される[[物理量]]である。特に、物体の運動方向と物体に加える力が同じ方向を向いているなら、その力が物体になす仕事は単に力の大きさと変位の大きさをかけたものになる。
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:<nowiki>[仕事] = [力の大きさ] &times; [変位の大きさ].</nowiki>
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また、運動方向と力の向きが逆である場合も、仕事は
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:<nowiki>[仕事] = &minus; [力の大きさ] &times; [変位の大きさ]</nowiki>
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と単純な積で表せる。
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逆に運動方向に[[直交]]する力は仕事をなさない。
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:[[ファイル:FD→W=0.png]]
  
==概要==
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仕事はまた、[[]]と同様に[[エネルギー]]の移動形態の一つであり、[[熱力学]]においては、仕事と[[内部エネルギー]]を通じて、熱力学的な意味での熱が定義される。
*記号=W
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*次元=[[長さ|L]] <sup>2</sup>[[質量|M]][[時間|T]] <sup>-2</sup>
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*SI=[[ジュール]] (J)
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*CGS=[[エルグ]] (erg)
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'''仕事'''は正負を持つ[[スカラー量]]であり、物体 A から物体 B に'''仕事'''によってエネルギーが移動した時、物体 A が物体 B に「'''仕事'''をする」、または物体 B が物体 A から「'''仕事'''をされた」、と表現する。正負の符号は混乱を招きやすいが、物体 A が正の'''仕事'''をした場合、物体 A のエネルギーは減り、逆に負の'''仕事'''をした場合、物体 A のエネルギーは増える。
+
仕事は正負を持つ[[スカラー量]]であり、仕事を通じて物体 A から物体 B にエネルギーが移動した時、物体 A が物体 B に「仕事をする」、または物体 B が物体 A から「仕事をされた」、と表現する。正負の符号は混乱を招きやすいが、物体 A が正の仕事をした場合、物体 A のエネルギーは減り、逆に負の仕事をした場合、物体 A のエネルギーは増える。
  
===力学での仕事の例===
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== 力学 ==
例えば、 野球投手の投げるボールを考えると、投手は力を加えながら腕を振り、ボールに速度を与えている。つまり、ボールは投手から正の'''仕事'''をされて、ボールのエネルギー (運動エネルギー) は増える
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例えば、 野球投手の投げるボールを考えると、投手は力を加えながら腕を振り、ボールに速度を与えている。つまり、ボールは投手から'''正の仕事をされて'''、ボールの[[運動エネルギー]]は増える。
  
===熱力学での仕事の例===
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次に仕事が生じない例を挙げる。
さらに [[蒸気機関]] を考えると、水を加熱し、蒸気圧によって押し出されるピストンが、フライホイールを回転させる事で動力を生み出している。つまり、フライホイールは水蒸気から正の'''仕事'''をされて、フライホイールの回転エネルギー (及びそこから繋がる機関全体のエネルギー) は増える。別の表現で、[[熱エネルギー]]から'''仕事'''を取り出すなどとも言う。
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{| border="0" style=wikitable; |
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| width="10%" align="center" | &nbsp; || width="80%" align="center" | [[Image:Steam engine in action.gif|center|thumb|450px|蒸気機関(アニメーション)]] || width="10%" align="center" | &nbsp;
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|}
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===仕事とは呼ばない例===
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# 荷運び業者がある荷物を抱えて荷物の位置も含め、静止しているとする。荷運び業者が荷物を抱えている状況では、静止している荷物のエネルギーは変わらないため、荷物は荷運び業者から仕事をされていない事が分かる。実際には、荷運び業者の筋肉は荷物の重力と釣り合う上向きの力を発生するためにエネルギーを消費しているが、これは最終的には [[熱エネルギー]] に変わる。
以下に'''仕事'''とは呼ばない例をあげる。
+
# [[電動機]](電動モーター) を例に考える。電動機は電流を流すと回転するが、電流を流している状態で電動機を回転しないように軸を固定すると、電動機の[[電気抵抗]]によって発熱する ([[ジュール熱]] を発生する) 。この時、電動機には回転力がかかっているが、固定されて何も移動していないためこれも仕事とは呼ばない。
 +
# 野球の捕手が受け取るボールを考える。この時、捕手のミットが全く動かず、ボールは一瞬で静止するとしよう。この状況は[[弾性衝突|非弾性衝突]]の場合であり、ボールがミットにした仕事はゼロである。つまり、静止したミットのエネルギーは増えず、ボールの運動エネルギーは、失われてゼロになる。実際には、動いているボールが静止するまでの微小時間に、ボールの運動エネルギーはボールやミットを歪ませるためのエネルギーに変わる(ハイスピードカメラで撮影した映像をイメージしてほしい)。この種のエネルギーの移動は、ボールがミットにした仕事とは呼ばない。
  
; 例1 : A 君がある荷物を抱えて荷物の位置も含め、静止しているとする。A 君が荷物を抱えている状況では、静止している荷物のエネルギーは変わらないため、荷物は A 君から'''仕事'''をされていない事が分かる。実際には、A 君の筋肉は荷物の重力とつりあう上向きの力を発生するためにエネルギーを消費しているが、これは最終的には [[熱エネルギー]] に変わる。
+
=== 物体にする仕事の定式化 ===
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物体に力 {{math|{{vec|''F''}}}}<ref group="注" name="vector">{{math|{{vec}}}} などのように上に矢印(&rarr;)がついた量は[[ベクトル量]]である。ベクトル量を明示する記法はこの他に {{mvar|'''A'''}} のように[[ボールド体]]を使って表すものがある。一般にはこれらの方法でベクトルを書き表すが、特に記号的に区別しない文献も少なくない。</ref>が作用し、その位置が {{math|&Delta;{{vec|''x''}}}} だけ変化したとき、力 {{math|{{vec|''F''}}}} がこの物体に対してした仕事 {{mvar|W}} は {{math|{{vec|''F''}}}} と {{math|&Delta;{{vec|''x''}}}} の[[内積]]<ref group="注">このベクトルの内積は[[ドット積]]とも呼ばれる。</ref>
  
; 例2 : [[電動機]](電動モーター) を例に考える。電動機は電流を流すと回転するが、電流を流している状態で電動機を回転しないように軸を固定すると、電動機の[[電気抵抗]]によって発熱する ([[ジュール熱]] を発生する) 。この時、電動機には回転力がかかっているが、固定されて何も移動していないためこれも仕事とは呼ばない。
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[[ファイル:仕事 (物理学) 1.png]]
  
; 例3 : また、野球の捕手が受け取るボールを考える。この時、捕手のミットが全く動かず、ボールは一瞬で静止するとしよう。この状況は[[完全非弾性衝突]]の場合であり、ボールがミットにした'''仕事'''はゼロである。つまり、静止したミットのエネルギーは増えず、ボールの運動エネルギーは、失われてゼロになる。実際には、動いているボールが静止するまでの微小時間に、ボールの運動エネルギーはボールやミットを歪ませるためのエネルギーに変わる (ハイスピードカメラで撮影した映像をイメージしてほしい) 。この種のエネルギーの移動は、ボールがミットにした'''仕事'''とは呼ばない。
+
によって定義される。内積の幾何学的な意味は、物体の運動方向に対する加えた力の寄与を取り出すことである。変位ベクトル {{math|&Delta;{{vec|''x''}}}} に平行な力の成分を {{math|''F''<sub>&#x2225;</sub>}} と表せば、上述の仕事は次のように表すことができる。
  
; 例4 : 熱伝導も、物体間で微視的な原子衝突により原子の振動エネルギー (熱エネルギー) が移動するが、巨視的に観測できる力ではないため、'''仕事'''の定義には含まれない。
+
[[ファイル:仕事 (物理学) 2.png]]
  
==物体がする仕事の計算==
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ここで {{math|{{mabs|&Delta;{{vec|''x''}}}}}} は変位ベクトル {{math|&Delta;{{vec|''x''}}}} の大きさを表す。
  
===加えられる力が一定であり力の方向が物体の運動の方向と一致している場合===
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ある曲線に沿って物体が運動する場合、その間に力 {{math|{{vec|''F''}}}} が物体になす仕事を求めるには、曲線を適当な変位 {{math|&Delta;{{vec|''x''}}}} の和に分割すればよい。この分割の[[極限]]が[[収束]]すれば、それが仕事 {{mvar|W}} として与えられる。
  
加えられる力と同じ方向に物体が運動するとき、'''仕事''' ''W'' は力の大きさを''F''、物体の移動距離を ''s'' とすると
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[[ファイル:仕事 (物理学) 3.png]]
  
:<math>W=Fs</math>
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これはすなわち仕事が力 {{math|{{vec|''F''}}}} の[[線積分]]として定まることを意味する。離散的なパラメータ {{mvar|i}} を連続的なパラメータ {{mvar|t}}、和 {{math|&sum;}} を積分 {{math|&int;}} に読み替えれば、
  
で表される。この式からわかるように、物体が移動しない場合(<math>s=0</math>) には'''仕事'''はゼロである。また、'''仕事'''の[[MKS単位系]]での単位が N&middot;m であることもわかる。
+
[[ファイル:仕事 (物理学) 4.png]]
  
例としてあなたが質量 ''m'' の物体を上に ''h'' 持ち上げる場合、''W= m g h'' だけの'''仕事'''をしたことになる。逆に、物体は ''m g h'' だけの'''仕事'''をされて、物体の[[位置エネルギー]]は増える。
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と書くことができる。この式の意味するところはすなわち、
  
===加えられる力が一定であるが運動の方向と異なる場合===
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[[ファイル:仕事 (物理学) 5.png]]
  
[[Image:Mehaaniline t&#246;&#246;.png|center|300px|仕事と力]]
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である。ここで線積分のパラメータ {{mvar|t}} として[[時間|時刻]]を用いれば、{{math|{{vec|''x''}}}} の一階微分は物体の[[速度]]を与える。
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この定義から明らかなように、仕事は力のような時刻 {{mvar|t}} の瞬間において定まる量ではなく、ある時間の間に定まる量である。
  
上図のように、加えられる力が一定であるが運動の方向が角度 ''&#945;''[rad] だけ傾いているとき、'''仕事''' ''W'' は以下のように表される。
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===例===
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====ばねの変形====
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[[ばね]]を伸び縮みさせる際に生じる仕事を考える<ref group="注">ここでは、[[フックの法則]]が成り立つような理想的なばね、すなわち[[調和振動子]]を取り扱う。'''現実的な'''ばねであっても、加える力や変位の大きさによってはフックの法則が成り立っている。</ref>。ばねの伸び縮みを {{mvar|s}} とする。[[フックの法則]]より、ばねの復元力はばねの伸び縮み {{mvar|s}} に[[比例]]するので、ばねを変形させるのに'''必要な力''' {{math|{{vec|''F''}}}} もまたばねの伸び縮みに比例する。このとき現れる[[比例定数]] {{mvar|k}} は[[ばね定数]]と呼ばれる。
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:[[ファイル:仕事 (物理学) 6.png]]
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このばねを {{math|''s'' {{=}} 0}} から {{math|''s'' {{=}} ''x''}} まで変形させるとき({{mvar|x}} が正ならばねは伸ばされ、{{mvar|x}} が負ならばねは縮められている)、ばねを変形させるのに必要な仕事 {{mvar|W}} は、
  
:<math>W=Fs \cos\alpha</math>
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:[[ファイル:仕事 (物理学) 7.png]]
  
である。特に、この式において<math>\alpha=0</math>(すなわち<math>\cos\alpha=1</math>)となるのが上記の「加えられる力が一定であり力の方向が運動の方向と一致している場合」である。
+
となる。すなわち、ばねを変形するために生じた仕事 {{mvar|W}} はばねの[[弾性エネルギー]] {{math|{{sfrac|1|2}}''kx''<sup>2</sup>}} として蓄えられる。
  
また、[[力]]を[[ベクトル]] <math>\vec{F}</math>、物体の[[変位]]を[[ベクトル]] <math>\vec{s}</math> とした場合は以下のように一般的な[[ベクトル]]式になる。
+
==== 加えられる力が一定であり力の方向が物体の運動の方向と一致している場合 ====
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特別な場合として、加えられる力と同じ方向に物体が運動するとき、'''仕事''' {{mvar|W}} は力 {{mvar|F}} と物体の移動距離 {{mvar|s}} の積に等しい。
  
:<math>W=\vec{F}\cdot\vec{s}</math>
+
:[[ファイル:仕事 定義.png]]
  
ここで、 &#12539; は[[内積]]の演算子である。よってこの場合も'''仕事''' ''W'' [[スカラー量]]となる。
+
例としてあなたが質量 {{mvar|m}} の物体を上に {{mvar|h}} 持ち上げる場合、{{math|''W'' {{=}} ''mgh''}} だけの'''仕事をした'''ことになる。逆に、物体は {{mvar|mgh}} だけの'''仕事をされて'''[[位置エネルギー]]を増やす。
  
===加えられる力が一定ではない場合===
+
==== 加えられる力が一定であるが運動の方向と異なる場合 ====
  
[[]]が一定でない場合は、以下のように経路''C''上の微小[[変位]]における[[仕事率]]の[[積分]]となる。
+
[[File:Mehaaniline t&#246;&#246;.png|center|300px|仕事と力]]
  
:<math>W=\int_C \vec{F}(\vec{s})\cdot d\vec{s}</math>
+
上図のように、加えられる力が一定であるが運動の方向が力の向きに対して角度 {{mvar|&alpha;}} だけ傾いているとき、仕事 {{mvar|W}} は以下のように表される。
  
ここで、<math>\vec{F}(\vec{s})</math>は物体の[[変位]] <math>\vec{s}</math> における[[力]]を表す。この場合も'''仕事''' ''W'' は[[スカラー量]]となる。
+
:[[ファイル:仕事 定義 1.png]]
  
例として、あなたが、[[バネ]]を伸ばす時の'''仕事'''を考える。バネの伸び ''s'' は 0 から ''x'' まで変化し、その時のあなたがバネに加える力は[[フックの法則]]より <math>F(s)=k s</math> となる。(ここでバネを伸ばす方向を正とした。あなたがバネに加える力はバネを伸ばす方向に一致していることに注意する。)
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特に、この式において {{math|''&alpha;'' {{=}} 0}}(すなわち {{math|cos&thinsp;''&alpha;'' {{=}} 1}})とすると[[#加えられる力が一定であり力の方向が物体の運動の方向と一致している場合|加えられる力が一定であり力の方向が運動の方向と一致している場合]]の例に帰着する。
そのときあなたがバネにした'''仕事'''は、
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:<math>W=\int_0^x F(s) ds= \int_0^x k s  ds={1\over 2} k x^2</math>
+
また、{{math|''&alpha;'' {{=}} &pi;/2 (cos&thinsp;''&alpha;'' {{=}} 0)}} のとき {{math|''W'' {{=}} 0}} となる。すなわち、力が運動の方向に対し垂直方向に働いている場合、その力は仕事をしない。
  
となる。逆に、バネは <math>{1\over 2} k x^2</math>だけの'''仕事'''をされて、バネの[[弾性エネルギー]]は増える。
+
== 熱力学 ==
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[[File:Steam engine in action.gif|right|thumb|315px|蒸気機関(アニメーション)]]
 +
[[蒸気機関]]を考えると、水を加熱し、蒸気圧によって押し出されるピストンが、フライホイールを回転させる事で動力を生み出している。つまり、フライホイールは水蒸気から正の仕事をされて、[[フライホイール]]の回転エネルギー (及びそこから繋がる機関全体のエネルギー) は増える。別の表現で、[[熱エネルギー]]から仕事を取り出すなどとも言う。
  
==気体がする仕事の計算==
+
仕事が生じない例を以下に挙げる。
[[熱力学]] での'''圧力''' ''P''の[[気体]]([[理想気体]])が'''体積'''を <math>V_i</math> から <math>V_f</math> に変化させる時の'''仕事''' ''W'' は以下のように表される。
+
* 熱伝導も、物体間で微視的な原子衝突により原子の運動エネルギーが移動するが、巨視的に観測できる力ではないため、仕事の定義には含まれない(熱力学における力学的仕事とは、あくまで巨視的なものに限られる)。
  
:<math>W=-\int_{V_i}^{V_f} P\,\mathrm{d}V</math>
+
=== 系がする仕事 ===
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[[熱力学]]で[[圧力]] {{mvar|P}} の[[気体]](一般に物体)の[[体積]]が {{math|''V''<sub>i</sub>}} から {{math|''V''<sub>f</sub>}} に変化する時に気体がする仕事('''[[仕事 (熱力学)|絶対仕事]]'''){{mvar|W}} は次式のように表される。
  
この場合も'''仕事''' ''W'' は[[スカラー量]]となる。
+
:[[ファイル:仕事 (物理学) 8.png]]
  
==関連項目==
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絶対仕事は気体の体積が変化することによって、その気体が外に対してする仕事ととらえることができる。
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一定量の物質を閉じ込めて対象として扱う系(閉じた系)では、系が外部へ行う仕事は絶対仕事となる。
  
 +
一方、実際の多くの機器では、一方から気体や液体が入って他方から出ていく。
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物質の出入りを伴う系(開いた系)では、系に物質を出し入れする仕事 {{mvar|-d(PV)}} が加わり、
 +
系が外部へ行う仕事は次式となる。
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:[[ファイル:仕事 (物理学) 9.png]]
 +
つまり、開いた系では気体等の圧力が低下することにより仕事を得ることができ、
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この場合の仕事 {{mvar|W<sup>&lowast;</sup>}} を絶対仕事と区別して
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'''[[仕事 (熱力学)|工業仕事]]'''という{{sfn|佐藤|国友|1984|pp=11&ndash;14}}。
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== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
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<references group="注" />
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=== 引用 ===
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<references/>
 +
== 参考文献 ==
 +
* 佐藤, 俊、国友, 孟 『熱力学』 丸善、1984年。ISBN 4-621-02917-7。
 +
 +
== 関連項目 ==
 
*[[物理単位一覧]]
 
*[[物理単位一覧]]
 
*[[仕事率]]
 
*[[仕事率]]
86行目: 113行目:
 
*[[運動量]]
 
*[[運動量]]
 
*[[力積]]
 
*[[力積]]
 
+
*[[仕事 (熱力学)]]
[[Category:物理学|しこと]]
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[[Category:物理量|しこと]]
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{{Wikipedia/Ja}}
 
{{Wikipedia/Ja}}
 +
{{DEFAULTSORT:しこと}}
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[[Category:物理学]]
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[[Category:物理量]]

2018年8月31日 (金) 02:02時点における最新版

定義式

物理学における仕事(しごと、英語work)とは、物体に加えたと、それによる物体の変位内積によって定義される物理量である。特に、物体の運動方向と物体に加える力が同じ方向を向いているなら、その力が物体になす仕事は単に力の大きさと変位の大きさをかけたものになる。

[仕事] = [力の大きさ] × [変位の大きさ].

また、運動方向と力の向きが逆である場合も、仕事は

[仕事] = − [力の大きさ] × [変位の大きさ]

と単純な積で表せる。 逆に運動方向に直交する力は仕事をなさない。

FD→W=0.png

仕事はまた、と同様にエネルギーの移動形態の一つであり、熱力学においては、仕事と内部エネルギーを通じて、熱力学的な意味での熱が定義される。

仕事は正負を持つスカラー量であり、仕事を通じて物体 A から物体 B にエネルギーが移動した時、物体 A が物体 B に「仕事をする」、または物体 B が物体 A から「仕事をされた」、と表現する。正負の符号は混乱を招きやすいが、物体 A が正の仕事をした場合、物体 A のエネルギーは減り、逆に負の仕事をした場合、物体 A のエネルギーは増える。

力学[編集]

例えば、 野球投手の投げるボールを考えると、投手は力を加えながら腕を振り、ボールに速度を与えている。つまり、ボールは投手から正の仕事をされて、ボールの運動エネルギーは増える。

次に仕事が生じない例を挙げる。

  1. 荷運び業者がある荷物を抱えて荷物の位置も含め、静止しているとする。荷運び業者が荷物を抱えている状況では、静止している荷物のエネルギーは変わらないため、荷物は荷運び業者から仕事をされていない事が分かる。実際には、荷運び業者の筋肉は荷物の重力と釣り合う上向きの力を発生するためにエネルギーを消費しているが、これは最終的には 熱エネルギー に変わる。
  2. 電動機(電動モーター) を例に考える。電動機は電流を流すと回転するが、電流を流している状態で電動機を回転しないように軸を固定すると、電動機の電気抵抗によって発熱する (ジュール熱 を発生する) 。この時、電動機には回転力がかかっているが、固定されて何も移動していないためこれも仕事とは呼ばない。
  3. 野球の捕手が受け取るボールを考える。この時、捕手のミットが全く動かず、ボールは一瞬で静止するとしよう。この状況は非弾性衝突の場合であり、ボールがミットにした仕事はゼロである。つまり、静止したミットのエネルギーは増えず、ボールの運動エネルギーは、失われてゼロになる。実際には、動いているボールが静止するまでの微小時間に、ボールの運動エネルギーはボールやミットを歪ませるためのエネルギーに変わる(ハイスピードカメラで撮影した映像をイメージしてほしい)。この種のエネルギーの移動は、ボールがミットにした仕事とは呼ばない。

物体にする仕事の定式化[編集]

物体に力 F [注 1]が作用し、その位置が Δx だけ変化したとき、力 F がこの物体に対してした仕事 WF Δx 内積[注 2]

仕事 (物理学) 1.png

によって定義される。内積の幾何学的な意味は、物体の運動方向に対する加えた力の寄与を取り出すことである。変位ベクトル Δx に平行な力の成分を F と表せば、上述の仕事は次のように表すことができる。

仕事 (物理学) 2.png

ここで x | は変位ベクトル Δx の大きさを表す。

ある曲線に沿って物体が運動する場合、その間に力 F が物体になす仕事を求めるには、曲線を適当な変位 Δx の和に分割すればよい。この分割の極限収束すれば、それが仕事 W として与えられる。

仕事 (物理学) 3.png

これはすなわち仕事が力 F 線積分として定まることを意味する。離散的なパラメータ i を連続的なパラメータ t、和 を積分 に読み替えれば、

仕事 (物理学) 4.png

と書くことができる。この式の意味するところはすなわち、

仕事 (物理学) 5.png

である。ここで線積分のパラメータ t として時刻を用いれば、x の一階微分は物体の速度を与える。 この定義から明らかなように、仕事は力のような時刻 t の瞬間において定まる量ではなく、ある時間の間に定まる量である。

[編集]

ばねの変形[編集]

ばねを伸び縮みさせる際に生じる仕事を考える[注 3]。ばねの伸び縮みを s とする。フックの法則より、ばねの復元力はばねの伸び縮み s比例するので、ばねを変形させるのに必要な力 F もまたばねの伸び縮みに比例する。このとき現れる比例定数 kばね定数と呼ばれる。

仕事 (物理学) 6.png

このばねを s = 0 から s = x まで変形させるとき(x が正ならばねは伸ばされ、x が負ならばねは縮められている)、ばねを変形させるのに必要な仕事 W は、

仕事 (物理学) 7.png

となる。すなわち、ばねを変形するために生じた仕事 W はばねの弾性エネルギー 1/2kx2 として蓄えられる。

加えられる力が一定であり力の方向が物体の運動の方向と一致している場合[編集]

特別な場合として、加えられる力と同じ方向に物体が運動するとき、仕事 W は力 F と物体の移動距離 s の積に等しい。

仕事 定義.png

例としてあなたが質量 m の物体を上に h 持ち上げる場合、W = mgh だけの仕事をしたことになる。逆に、物体は mgh だけの仕事をされて位置エネルギーを増やす。

加えられる力が一定であるが運動の方向と異なる場合[編集]

仕事と力

上図のように、加えられる力が一定であるが運動の方向が力の向きに対して角度 α だけ傾いているとき、仕事 W は以下のように表される。

仕事 定義 1.png

特に、この式において α = 0(すなわち cos α = 1)とすると加えられる力が一定であり力の方向が運動の方向と一致している場合の例に帰着する。

また、α = π/2 (cos α = 0) のとき W = 0 となる。すなわち、力が運動の方向に対し垂直方向に働いている場合、その力は仕事をしない。

熱力学[編集]

蒸気機関(アニメーション)

蒸気機関を考えると、水を加熱し、蒸気圧によって押し出されるピストンが、フライホイールを回転させる事で動力を生み出している。つまり、フライホイールは水蒸気から正の仕事をされて、フライホイールの回転エネルギー (及びそこから繋がる機関全体のエネルギー) は増える。別の表現で、熱エネルギーから仕事を取り出すなどとも言う。

仕事が生じない例を以下に挙げる。

  • 熱伝導も、物体間で微視的な原子衝突により原子の運動エネルギーが移動するが、巨視的に観測できる力ではないため、仕事の定義には含まれない(熱力学における力学的仕事とは、あくまで巨視的なものに限られる)。

系がする仕事[編集]

熱力学圧力 P気体(一般に物体)の体積Vi から Vf に変化する時に気体がする仕事(絶対仕事W は次式のように表される。

仕事 (物理学) 8.png

絶対仕事は気体の体積が変化することによって、その気体が外に対してする仕事ととらえることができる。 一定量の物質を閉じ込めて対象として扱う系(閉じた系)では、系が外部へ行う仕事は絶対仕事となる。

一方、実際の多くの機器では、一方から気体や液体が入って他方から出ていく。 物質の出入りを伴う系(開いた系)では、系に物質を出し入れする仕事 -d(PV) が加わり、 系が外部へ行う仕事は次式となる。

仕事 (物理学) 9.png

つまり、開いた系では気体等の圧力が低下することにより仕事を得ることができ、 この場合の仕事 W を絶対仕事と区別して 工業仕事という[1]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. A などのように上に矢印(→)がついた量はベクトル量である。ベクトル量を明示する記法はこの他に A のようにボールド体を使って表すものがある。一般にはこれらの方法でベクトルを書き表すが、特に記号的に区別しない文献も少なくない。
  2. このベクトルの内積はドット積とも呼ばれる。
  3. ここでは、フックの法則が成り立つような理想的なばね、すなわち調和振動子を取り扱う。現実的なばねであっても、加える力や変位の大きさによってはフックの法則が成り立っている。

引用[編集]

  1. 佐藤 国友 1984 11–14

参考文献[編集]

関連項目[編集]

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