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連続して起こる誘拐とも失踪とも知れない事件を警戒した人々は、気味悪がって田舎道のひとり歩きを避けた。犠牲者と犯人の捜査もされたが、ソニーたちの洞窟は誰にも発見されなかった。二日に一度は入り口が水没する洞窟で生活している夫婦がいて、人を殺して食べているなどと誰が想像出来ただろう? | 連続して起こる誘拐とも失踪とも知れない事件を警戒した人々は、気味悪がって田舎道のひとり歩きを避けた。犠牲者と犯人の捜査もされたが、ソニーたちの洞窟は誰にも発見されなかった。二日に一度は入り口が水没する洞窟で生活している夫婦がいて、人を殺して食べているなどと誰が想像出来ただろう? | ||
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=== 大家族の形成 === | === 大家族の形成 === | ||
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何ら教育を受けていなかったため、原始的な話し方しかできなかったというビーン一族の子供たちの知識といえば、殺人と食肉の解体、それを保存する加工技術だけだった。また子供たちは家族以外の人間が食糧として殺されても疑問に思ったことはなかった。 | 何ら教育を受けていなかったため、原始的な話し方しかできなかったというビーン一族の子供たちの知識といえば、殺人と食肉の解体、それを保存する加工技術だけだった。また子供たちは家族以外の人間が食糧として殺されても疑問に思ったことはなかった。 | ||
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=== 犯行 === | === 犯行 === | ||
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年を重ねた一族の犯行はさらに大胆さを増していた。時には6人以上の男女を、その倍以上の人数で待ち伏せして襲った。彼らに狙われた者は例外なく、あっという間に命を奪われた。「しかし中には、彼らから逃げることに成功して助かった者もいるんじゃないか?」という疑問の声が上がるのも当然だが、答えは「ノー」である。 | 年を重ねた一族の犯行はさらに大胆さを増していた。時には6人以上の男女を、その倍以上の人数で待ち伏せして襲った。彼らに狙われた者は例外なく、あっという間に命を奪われた。「しかし中には、彼らから逃げることに成功して助かった者もいるんじゃないか?」という疑問の声が上がるのも当然だが、答えは「ノー」である。 | ||
彼らの犯行の手口は通常の強盗とは程遠い、軍隊のような組織だったものだったのだ。彼らはつねに道の両脇に獲物を包囲する部隊を置き、攻撃をしかける中心部隊が獲物に切りかかる。急襲に驚いて逃げようとしても逃げ道は固められており、袋のネズミ同然だった。 | 彼らの犯行の手口は通常の強盗とは程遠い、軍隊のような組織だったものだったのだ。彼らはつねに道の両脇に獲物を包囲する部隊を置き、攻撃をしかける中心部隊が獲物に切りかかる。急襲に驚いて逃げようとしても逃げ道は固められており、袋のネズミ同然だった。 | ||
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=== 発覚と逮捕 === | === 発覚と逮捕 === | ||
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犬の反応にただならぬものを感じとった男は「ここだ」と確信した。犬を追って洞窟に入れば、たちまち犠牲者の仲間入りをすると察した男は、ただちに仲間を呼び集めた。洞窟の前に集められた捜索隊は、トーチの灯りを頼りに洞窟の狭く曲がりくねった通路を用心深く進んだ。そして彼らはとうとう食人一族ビーンの棲み家である洞窟の一番奥にたどり着いたのである。 | 犬の反応にただならぬものを感じとった男は「ここだ」と確信した。犬を追って洞窟に入れば、たちまち犠牲者の仲間入りをすると察した男は、ただちに仲間を呼び集めた。洞窟の前に集められた捜索隊は、トーチの灯りを頼りに洞窟の狭く曲がりくねった通路を用心深く進んだ。そして彼らはとうとう食人一族ビーンの棲み家である洞窟の一番奥にたどり着いたのである。 | ||
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捜索隊が洞窟に乗り込んだ時、ビーン一族は誰一人欠けることなく、全員洞窟内にいた。驚くべきことに、この25年間で一族の人数は50人にまで膨れ上がっていた。 | 捜索隊が洞窟に乗り込んだ時、ビーン一族は誰一人欠けることなく、全員洞窟内にいた。驚くべきことに、この25年間で一族の人数は50人にまで膨れ上がっていた。 | ||
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2014年6月8日 (日) 19:32時点における最新版
ソニー・ビーン(Alexander "Sawney" Bean(e))は、14世紀から15世紀のイギリス、スコットランドにいた山賊の長で、一族を率いて多数の人間を殺して食べたとして処刑された人物である。1400年代のスコットランドで実際に起きた、未だ歴史上類を見ないほど異常な事件である。
事件の経過[編集]
発端[編集]
ソニー・ビーンはスコットランドの田舎で生まれた。もともと乱暴な性格で怠け者だったソニーは、働ける年頃になると退屈な仕事に就くのを嫌って、さっさと家を出てしまったという。しばらくしてソニーは自分と気性の良く似た彼女を見つけた。そして彼女を生涯の伴侶と決め、一緒に暮らし始めた。しかし二人が新居に選んだのは普通の“家”ではなく、奥行きが1マイル(1.6km)以上もある巨大な洞窟だった。 その洞窟の入り口はギャロウェイ海岸に面しており、干潮時には細長い砂浜が現われて前庭になった。二日に一度の高潮の日には、洞窟入り口から数百ヤード(百ヤード=約91.44m)に渡って水没するが、おかげで侵入者を防ぐこともできた。あちこちに曲がりくねった暗い横道がある不気味に広い洞窟内は真っ暗で、空気はいつも湿っていたが、二人にとっては居心地の良いねぐらだった。そうして所帯を持ったものの働く気などないソニーは、旅人を襲って強盗した金で生活しようと考えた。近くの村を繋ぐ人通りが少ない狭い道で旅人を待ち伏せして襲うのだ。ひょっとすると、もうずっと以前からそのようにして生活していたのかもしれないソニーは、難なく旅人を襲い、足がつかないように必ず犠牲者を殺した。旅人の所持品は全て洞窟に持ち帰ったが、ソニーが利用できると考えたのは現金だけだった。宝石・時計・衣類などを売ればいい金になるのは分かっていたが、そこから足がつく危険を考えて手をつけなかったのだ。旅人たちの所持品は洞窟の奥にただただ積みあげられていった。
そのような金に換えられない在庫が増える一方、旅人から奪った現金だけでは満足な生活費は得られず、食糧を買う金にも事欠き、飢える日もあった。ソニーと妻の目下の悩みは、この食糧問題だったが、ある日、ソニーが食糧問題を解決する良策を思いついた。
「なぜ殺した人間の身体を食べない?せっかくの肉を無駄にすることはないじゃないか」
ソニーと妻はそのアイデアをすぐ実行に移した。いつものように旅人を襲って殺し、自分たちの洞窟まで死体をひきずっていき、犠牲者の内臓を取り去り、バラバラに切断した四肢を干して塩漬けにした。そして洞窟の壁に備え付けたフックにかけて保存し、骨は洞窟の別の場所に積んでいった。彼らは以後、20年間にわたってこの方法を続けることになる。
連続して起こる誘拐とも失踪とも知れない事件を警戒した人々は、気味悪がって田舎道のひとり歩きを避けた。犠牲者と犯人の捜査もされたが、ソニーたちの洞窟は誰にも発見されなかった。二日に一度は入り口が水没する洞窟で生活している夫婦がいて、人を殺して食べているなどと誰が想像出来ただろう?
大家族の形成[編集]
ソニーたちの生活は順調で、妻は洞窟の中で次々に子供を産んだ。ソニー・ビーンと「妻」は共に性欲が旺盛であったとされ、男8人、女6人の子供をもうけ、更にその子供たちは、近親相姦をして男18人、女14人を生んだという。最終的にビーン一族は48人の大家族となった(50人とする意見もあり)。子供たちは通常の教育は全く受けず、言葉もたどたどしかったが、旅人を襲って取り逃がす事なく殺害し、解体して食糧に加工する技術を学び、強力な殺人集団を形成した。彼らはもっぱら人肉を食物としたという。
食糧問題が解決されたので、次は盗品をなんとか売りさばく方法を試してみた。買い物で町に行った時、用心しながら売ったり交換したりしたが、それらはこれといって特別目立つことのない、ありふれた品物だったため、不信に思われたり疑われたりすることはなかったという。
ソニーの子供たちは、洞窟の生活に何一つ疑問を抱かず、元気にすくすくと育っていった。ビーン家では、強盗・殺人・食人は生活習慣であり、生きるために必要な仕事という認識だった。ビーン一族は大所帯になっていたが、一族同士で共食いすることは決してなかった。
何ら教育を受けていなかったため、原始的な話し方しかできなかったというビーン一族の子供たちの知識といえば、殺人と食肉の解体、それを保存する加工技術だけだった。また子供たちは家族以外の人間が食糧として殺されても疑問に思ったことはなかった。
犯行[編集]
大きくなった子供たちは誘拐と殺人の仕事を手伝うことになっており、代を重ねるごとにビーン一族の家業の規模は拡大していった。 殺人や誘拐の技術は長年の経験の中で洗練され、素早くスムーズに実行する術を次々に体得していった。
おかげで、40人もの食いぶちがいるにも関わらず、一族が飢えることはなかった。それどころか塩漬けにして保存した人肉が食べ切れずに腐らせてしまうこともあったため、腐った部分を捨てることもあった。
これだけ多くの子供や若者が洞窟のまわりをウロついていたのに、誰もこの奇妙な一家を不審に思ったり、調べようとしなかったのかというと、実際はそうでもないらしい。何人かは彼らの存在を不審に思う者もいたようだ。しかし彼らは無防備に洞窟に近づいた結果、殺されて食べられた。塩漬けにされた人間の肉に、誰もが常識では計り知れない不吉なものを感じていた。
そんな中、犯人逮捕を焦る風潮もあったかもしれない。行方不明者の足取りを追うといった捜査方法は、最後に犠牲者たちに会っただけの無実の人々の逮捕や死刑という別の悲劇を生む結果になった。
そのあいだビーン一家は誰にも疑われることなく、洞窟の中で安全に暮らしていた。何度も大掛かりな捜索が行われたものの、誰も洞窟を探索しようとは思わず、ビーン一族の犯行は見過ごされ続けた。そして手がかりがないまま、さらに数年が経過した。
年を重ねた一族の犯行はさらに大胆さを増していた。時には6人以上の男女を、その倍以上の人数で待ち伏せして襲った。彼らに狙われた者は例外なく、あっという間に命を奪われた。「しかし中には、彼らから逃げることに成功して助かった者もいるんじゃないか?」という疑問の声が上がるのも当然だが、答えは「ノー」である。 彼らの犯行の手口は通常の強盗とは程遠い、軍隊のような組織だったものだったのだ。彼らはつねに道の両脇に獲物を包囲する部隊を置き、攻撃をしかける中心部隊が獲物に切りかかる。急襲に驚いて逃げようとしても逃げ道は固められており、袋のネズミ同然だった。
発覚と逮捕[編集]
このように誰にも怪しまれることなく犯行を重ねてきたビーン一族だったが、たった一度の失敗が命取りになった。それは、タイミングの悪さと判断ミスによって引き起こされた失敗だが、驚くべきは、それが今まで一度も起こらなかったということだ。
それは実に単純な失敗だった。
ソニーと妻が洞窟で暮らし始めて25年目のある晩、ビーンらは、近隣の町フェアから馬で帰ろうとしていた夫婦を襲った。攻撃部隊が最初に女を捕らえ、次に男を馬から引きずり下ろそうともみ合っている間に、別の部隊が先に捕らえた女を裸にし、その場で内臓を引きずり出し、洞窟へ持ち帰る準備を整えた。それらの残虐行為を目の当たりにした夫はパニックに襲われ、半狂乱になって無我夢中で暴れた。
火事場のなんとかというが、彼のすさまじい抵抗でビーンらの何人かは転倒した。ちょうどその時、同じフェアから帰る20人以上の集団が偶然に通りかかったのだ。 不意に大人数の集団に出会ったビーンらは、自分たちが不利なのを悟ると攻撃を中断し、切断した女の死体をその場に残したまま、慌てて洞窟に戻った。これがビーン一族にとって、最初で最後の、そして最大の失敗になった。ビーン一族から逃れることに成功したのは、記録上、この男性ただ一人である。
彼はグラスゴーの最高行政官に連れて行かれ、自らが体験した事件について記述した。
その記述に長官は衝撃をおぼえた。自分たちが長年追っていた犯人は、おそらくギャロウェイ地区近辺に集団で暮らしており、被害者の妻の内臓を抜いた後で持ち帰ろうとした事実は、犯人らが明らかに人食い集団であることを示していた。きわめて異常な事態に、最高行政官はスコットランド王に直接報告した。
報告を受けたスコットランド王は事の重大さを認識し、400人の武装軍隊と多数の追跡犬を伴いギャロウェイへ向かった。そうしてスコットランド王、将校、随行員一同と地域の民間人による歴史上類を見ないスケールの大捜索が開始された。彼らは初め、ギャロウェイ地方や海岸全体を調査したが、なにも発見できずにいた。
しかし犬を連れて海岸を捜索していた男が入り口の浸水した洞窟近くを過ぎようとした時、犬が何かの匂いを嗅ぎつけ、うなり声をあげはじめた。やがて犬は激しく吠えながら、浸水した暗い洞窟の中へ走っていった。
犬の反応にただならぬものを感じとった男は「ここだ」と確信した。犬を追って洞窟に入れば、たちまち犠牲者の仲間入りをすると察した男は、ただちに仲間を呼び集めた。洞窟の前に集められた捜索隊は、トーチの灯りを頼りに洞窟の狭く曲がりくねった通路を用心深く進んだ。そして彼らはとうとう食人一族ビーンの棲み家である洞窟の一番奥にたどり着いたのである。
そこには想像を絶する恐ろしい光景が広がっていた。洞窟の壁には、切断された人間の手足や胴体、男性や女性の肉片が、肉屋のように掛けられており、少し離れた別の場所には、時計や指輪、宝石などの貴金属と一緒に衣類などが無造作に積んであった。そしてすぐ脇の穴の中には、25年にわたって溜め込まれた無数の人骨が散らばっていた。
捜索隊が洞窟に乗り込んだ時、ビーン一族は誰一人欠けることなく、全員洞窟内にいた。驚くべきことに、この25年間で一族の人数は50人にまで膨れ上がっていた。
はじめビーンらは逃げるスキを伺って抵抗し、戦う姿勢すら見せていたが、いかに彼らであっても400人の軍勢が相手では勝てるはずもなく、洞窟の入り口を武装した人々に閉鎖されて逃げ道を失った彼らは一網打尽となった。 長年にわたる殺人と食人の証拠がうず高く積まれた洞窟に暮らしていたソニー・ビーン一族に対し、人々は憎悪に燃えて報復を叫んだ。
元々の親であるソニーと妻の二人をのぞく27人の男と21人の女は、すべて洞窟で生まれ育っており、生まれた時から人肉を食べ、また近親相姦を繰り返して子を産み、強盗と殺人を生活習慣として育ってきたのだ。彼らは許しを乞うどころか、罪を認識している様子もなかった。
呪われた人食い一族に慈悲を唱える者は1人としてなく、ビーン一族の犯した罪は、法と証拠と司法によって排除されるべき不快極まりない悪魔の所業であり、よって裁判の必要もなしとみなされた。独断的な判決により、ビーン一族は幼児であれ赤ん坊であれ、すべて根絶やしにするべしとされ、全員に死刑が宣告された。
翌日、全員の刑が執行された。彼らが犠牲者を切り刻んだように、男たちは生きたまま腕と足を切断され、切り刻まれた。女たちは彼らが死んでいく姿を見せられた後、火あぶりの刑に処せられた。しかし死の間際にあっても、ビーン一族は誰一人として罪を後悔する色を示さなかったという。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
「世界妖怪妖獣妖人図鑑」 新人物往来社 1996年
外部リンク[編集]
- Photos and information
- The Legend of Sawney Bean
- Sawney Bean - A Famous Scottish Cannibal/Mass Murderer
- The Complete Newgate Calendar (Sawney Bean(e))
- Sawney Bean: Scotland's Hannibal Lecter
- The Sawney Beane legend, from post to soc.culture.celtic
- Sawney Bean: Myth or Myth by R.H.J. Urquhart
- The Lords of Darkness
- Debate on the existence of the Hairy Tree in Girvan
- Sawney Bean from MurderUK