南関東ガス田のソースを表示

'''南関東ガス田'''（みなみかんとうガスでん）は、[[千葉県]]を中心とした[[南関東]]一帯に分布する[[日本]]最大の水溶性[[ガス田|天然ガス田]]<ref name="ref1">[http://www.gasukai.co.jp/gas/index4.html 600年分の埋蔵量]、関東天然瓦斯開発株式会社</ref>。

水溶性[[天然ガス]]とは[[地下]]（[[地層]]）で[[地下水]]に溶解しているが、[[圧力]]が解放された地表では[[水]]から分離して[[気体]]になるガスのことで、主成分は[[都市ガス]]と同じ[[火山ガス]]の[[メタン]]（水素炭素）であり、一部は地層中で[[微生物]]により生成されていると見られる。性質はメタンガスと同じで差異が無いため、メタンガスと同様に扱われる。

[[第二次世界大戦]]中の日本は、[[帝国石油]]や[[日本天然ガス]]などの企業が南関東ガス田から採掘したメタンガスから[[ガソリン]]や[[航空燃料]]を生成し、軍や民間に供給していた。

== 概要 ==
[[File:Gas Fields of Minami-Kanto.png|thumb|南関東ガス田の範囲]]
[[千葉県]]を中心に[[茨城県]]・[[埼玉県]]・[[東京都]]・[[神奈川県]]の一都四県に及び、[[鉱床]]面積は 約4,300 [[平方キロメートル|km&sup2;]]<ref>[http://mytown.asahi.com/chiba/news.php?k_id=12000941202280001 ヨウ素が近くで採れるんだって-マイタウン千葉]、[[朝日新聞デジタル]]、2012年2月28日</ref>、埋蔵量は7,360億[[立方メートル|m&sup3;]]<ref name="guidebook">施設整備・管理のための天然ガス対策ガイドブック、91頁</ref>、[[可採埋蔵量]]は 3,685億 m&sup3;と推定され<ref name="guidebook" /><ref name="ref1"/>、日本国内で確認済みの天然ガス埋蔵量の9割を占める<ref>[http://www.gsj.jp/hazards/geologic-hazard/gas.html 関東平野南部の地下に埋蔵される天然ガス]、[[独立行政法人]][[産業技術総合研究所]][[地質調査総合センター]]、2007年6月</ref>。東京での生産も行われていたが、ガス採掘に伴う[[地下水]]汲み上げ（揚水）が[[地盤沈下]]を招いたことから採掘は規制され、現在は千葉県の[[茂原市|茂原]]地区を中心とする[[九十九里浜]]沿岸部が最大の供給地区。地元では「上（うわ）ガス」<ref>[http://www.yomiuri.co.jp/zoomup/zo_090114_01.htm 房総半島 ガスの里]、読売新聞、2009年1月14日</ref>「野ガス」と呼ばれている<ref name="yamato">[http://www.yamatopress.com/c/1/1/2346 交番トイレ爆発! 音もなく忍び寄る「野ガス」の恐怖] - [[やまと新聞社]] [[2010年]][[3月15日]]</ref>。[[関東天然瓦斯開発]]は茂原地区を鉱区として持ち、その埋蔵量は 1,000億 m&sup3; と推定される<ref name="ref1" />。

ガスは[[鹹水]]（かん水）と呼ばれる地下水に含まれている。鹹水は[[化石海水]]が起源とされており、[[海水]]に似た成分だが、海水の2,000倍もの[[ヨウ素]]を含んでいる。これだけ高濃度の濃縮ヨウ素が存在する場所は世界的にも珍しく、日本は[[チリ]]に次いで世界第2位のヨウ素産出国となっている<ref>[http://www.tohoearthtech.co.jp/business/iodine-exp/ ヨウ素とは]、株式会社東邦アーステック</ref>。

地下において高い圧力下にある場合はメタンは地下水に溶けているが、[[気圧|大気圧]]のもとでは水にほとんど溶けないことから、地下水の汲み上げを行うとメタンガスが自ら分離して発生することとなる。南関東ガス田は他の水溶性ガス田に比べて鹹水に溶けているメタンガス濃度が99%と非常に高いのが特徴で、単なる化石海水ではなく[[メタンハイドレート]]を起源とするなどの説もある<ref>名取博夫「[http://www.gsj.jp/data/chishitsunews/97_02_08.pdf 茂原型天然ガス鉱床はメタンハイドレート起源か]」『[[地質ニュース]]』510号、1997年2月、59-66頁</ref>。

近隣の多くの自治体が条例などで無許可でのガス利用を禁じているため、個人が勝手に燃料として利用できず、地元の都市ガス会社が精製した天然ガスを各家庭が利用している。ただし、千葉県内を中心に旧家等で条例制定以前から天然ガスを利用している家庭（約300世帯）は例外的にガス利用が認められている場合がある<ref name="yamato" /><ref name="daily">[http://portal.nifty.com/kiji/131126162477_1.htm 自宅の庭にガス田がある生活] デイリーポータルZ 2013年11月27日</ref>。しかし、[[茂原市]]周辺では、2011年の[[東日本大震災]]の前からガスが出にくくなったことに加え、メンテナンスの手間も相まって、現在では利用を止める家庭が増えている<ref name="daily"/>。

== 歴史 ==
[[1891年]]（明治24年）に、大多喜町において醤油醸造業者である山崎屋太田卯八郎が水井戸を掘ったところ、真水は出ず「泡を含んだ茶褐色を呈する塩水」ばかり湧出するため、落胆して吸っていた[[煙草]]をこの泡へ投げ込んだところ、泡が青白い炎を上げて燃えあがり、居合わせた人たちが一堂に驚いた、との記録が残されている<ref>[http://www.gasukai.co.jp/gas/index2.html 天然ガスの歴史] - [[関東天然瓦斯開発|関東天然瓦斯開発株式会社]]</ref>。

他の地区においても、ガス田地域での天然ガスや塩水などを含む水の湧出と田畑の作物への悪影響は古くから認知され、湧出する天然ガスは「燃ゆる気」（[[石油]]は「燃ゆる水」）、湧出する気配のある土地は「土気」と呼ばれていた<ref>[http://www.gasukai.co.jp/corporate/history/index2.html 写真で見る歴史] - 関東天然瓦斯開発株式会社</ref>。

== 構造 ==
[[関東平野]]の基盤を構成する[[上総層群]]といわれる地層のうち、上総層群中部と呼ばれる国本層、梅ヶ瀬層、大田代層、黄和田層の地下水に天然ガスが溶け込んだ状態で存在してガス層を形成する。特に梅ヶ瀬層と大田代層でガス胚胎が大きいとされている。

上総層群は[[第三紀]][[鮮新世]]〜[[第四紀]][[更新世]]古期（約300万年前〜約40万年前）に海底で堆積した地層で、[[砂岩]]、[[泥岩]]および凝灰質砂礫などからなり、おおむね深度100mから2,000mに亘る広い範囲に堆積している。

== 地盤沈下公害 ==
天然ガスの採掘は[[1930年代]]から始まり、[[第二次世界大戦]]後は日本各地で行われた。南関東地域では、千葉県[[茂原市]]などのほか、[[江戸川区]]・[[江東区]]を中心とする東京都内の「東京ガス田」でも行われていた。東京都下町[[低地]]地域で発生していた大規模な[[地盤沈下]]（[[海抜ゼロメートル地帯]]発生など）の主要原因として、この東京ガス田による生産（地下鹹水の揚水）があった。このことから地盤沈下を抑止するため、東京都は[[1972年]]に民間企業から江東区、江戸川区の天然ガス[[鉱業権]]を買収し、地下水の揚水を全面停止している<ref>[http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/water/groundwater/attachement/%E5%B9%B3%E6%88%9021%E5%B9%B4%E9%83%BD%E5%86%85%E3%81%AE%E5%9C%B0%E4%B8%8B%E6%B0%B4%E6%8F%9A%E6%B0%B4%E3%81%AE%E5%AE%9F%E6%85%8B.pdf 平成21年 都内の地下水揚水の実態（地下水揚水量調査報告書）]、[[東京都環境局]]、2011年5月、9頁</ref>。

== 事故 ==
=== 千葉県 ===
千葉県では地表から天然ガスが湧出する地域があり、このガスによる事故が発生している。事故を防ぐため、家屋の床下の基礎部分にガスを逃がす仕組みを設置している地域もある。鹹水のメタン発酵に伴い生成されるガスが地下水中で過飽和になることで遊離ガスとして発生し、これが地上まで上昇してくることによる。
* [[1988年]]4月8日、茂原市立茂原中学校で爆発事故。けが人はなかった<ref name="yamato" />。
* [[1991年]]11月25日、茂原市内の[[東京電力]][[寮#社員寮|社員寮]]で爆発事故。1人が火傷<ref name="yamato" />。
* [[2004年]][[7月30日]]、[[九十九里いわし博物館]]で爆発事故。職員2人死傷<ref>[http://www.tokyo-np.co.jp/hold/2010/sonogo/news/200908/CK2009081802000141.html いわし博物館爆発（千葉県九十九里町） 再建いまだめど立たず]、東京新聞、2009年8月18日</ref>。
* [[2010年]][[3月5日]]、[[千葉県]][[大多喜町]]の[[勝浦警察署]]大多喜[[警部交番|幹部交番]]で爆発事故。[[警部補]]が火傷<ref>[http://www.47news.jp/CN/201003/CN2010030501000030.html 千葉の交番で爆発、警官やけど 天然ガスに引火か]、[[47NEWS]]、2010年3月5日</ref>。

=== 東京都 ===
[[首都圏 (日本)|首都圏]]では鹹水を胚胎する[[帯水層]]の分布と重なる地域が多いことから、東京でも地下開発に伴う事故が発生している。
* [[1993年]][[2月1日]]、東京都江東区[[越中島]]において、[[シールドトンネル]]掘進中にメタンガスによる爆発が発生し、作業員4名が死亡し1名が負傷した<ref>[http://www.sozogaku.com/fkd/cf/CD0000098.html 泥土圧シールドトンネルのメタンガス爆発災害]、畑村創造工学研究所（失敗知識データベース）</ref>。
* [[1990年代]]以降、東京都内で盛んになった[[温泉]]の大深度掘削に伴い、天然ガスが噴出する事故が発生した。
* [[2005年]][[2月10日]]の[[北区 (東京都)|北区]][[浮間]]での温泉井戸掘削中のガス炎上事故は、パイプ洗浄中に噴出した天然ガスに引火したものである<ref>[http://www.47news.jp/CN/200502/CN2005021001003172.html 東京の温泉掘削現場で火災 天然ガスか]、47NEWS、2005年2月10日</ref>。
* [[2007年]][[6月19日]]に[[渋谷区]][[松濤]]の[[松濤温泉シエスパ]]で3人の死者を出した[[渋谷温泉施設爆発事故]]も、施設内に滞留・充満した天然ガスに引火して爆発したとされる。

このほかの事例は、[[経済産業省]]関東東北産業保安監督部が作成した[http://www.safety-kanto.meti.go.jp/kouzan/1siryo3jiko.pdf 平成における可燃性天然ガスが原因と考えられる主な爆発・火災等事故事例]を参照のこと。

== 脚注・出典 ==
{{脚注ヘルプ}}{{Reflist}}

== 参考文献 ==
* {{PDFlink|[http://www.ktr.mlit.go.jp/tokyo2ez/naturalgas/guidebook/guidebook.pdf 施設整備・管理のための天然ガス対策ガイドブック]|41.45MB}}、[[国土交通省]]関東地方整備局東京第二営繕事務所、2007年3月1日発行

== 関連項目 ==
* [[天然ガス]]
* [[ガス田]]
* [[渋谷温泉施設爆発事故]]
* [[九十九里いわし博物館]]
* [[船橋ヘルスセンター]]

== 外部リンク ==
* [http://www.gasukai.co.jp/ 関東天然瓦斯開発]
* [http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/286890/www.meti.go.jp/press/20071226003/20071226003.html 「南関東天然ガス田（水溶性ガス田）」に関する調査結果について【工業用に地下水を採取する事業者の方々等に対しての情報提供及び注意喚起】] [[経済産業省]]
* [http://www.ktr.mlit.go.jp/tokyo2ez/naturalgas/guidebook/guidebook.html 施設整備・管理のための天然ガス対策ガイドブック] [[国土交通省]]関東地方整備局
* [http://staff.aist.go.jp/okuda.gsj/gasden.htm 南関東ガス田と温泉の安全性について] [[独立行政法人]][[産業技術総合研究所]]
* [http://nana-77.sakura.ne.jp/dora/natural-gas.html 近隣の自家用天然ガスの使われ方] - 千葉県茂原市で使用されている自家用天然ガスの事例

{{Wikipedia/Ja}}
{{DEFAULTSORT:みなみかんとうかすてん}}
[[Category:日本のガス田]]
[[Category:関東地方の経済]]
[[Category:関東地方の地理]]